遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 21(MRD21)」という長い英語の診断名、あるいは「CTBP1遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「運動の発達がゆっくりになります」や「歯の質に特徴があります」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。
特に、「21型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
まず最初に、言葉の整理をさせてください。
この「常染色体顕性知的発達障害21型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってCTBP1関連障害、あるいはその特徴的な症状の頭文字をとってHADDTS(ハッツ)症候群という名前で呼ばれることが一般的になってきています。
これは、第4番染色体にあるCTBP1(シーティービーピーワン)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。
全体的な発達の遅れや、体のふらつき(運動失調)、筋肉の張りの弱さ、そして歯のエナメル質が弱いというユニークな特徴を併せ持ちます。
非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特に全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が含まれていることがわかってきました。そのため、診断される患者さんの数は世界中で少しずつ増えています。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病名の意味と「優生(優性)」について
検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。
現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。
したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害21型」となります。
ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。
つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、21番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。
別名:HADDTS症候群について
この病気は、以下の4つの主要な症状の英語の頭文字をとって、HADDTS(ハッツ)症候群と呼ばれることがあります。この名前の方が、症状のイメージが湧きやすいかもしれません。
H: Hypotonia(筋緊張低下)
A: Ataxia(運動失調・ふらつき)
D: Delayed Development(発達遅滞)
TS: Tooth Enamel Defects(歯のエナメル質欠損)
全体的な特徴
MRD21の原因遺伝子はCTBP1です。
この遺伝子は、脳の発達や機能を調整する重要な役割を持っています。
主な特徴は、重度の運動発達の遅れと、言葉の遅れです。
また、体が柔らかいこと(筋緊張低下)や、動作が不安定で震えたりふらついたりすること(運動失調)が特徴的です。
さらに、診断の重要な手がかりとなるのが「歯」です。歯の表面を覆うエナメル質が薄かったり弱かったりするため、歯が黄色く見えたり、虫歯になりやすかったりすることがあります。
主な症状
知的発達障害21型(MRD21/CTBP1関連障害)の症状は、運動機能の特徴、発達の特徴、そして身体的(特に歯科的)特徴の3つに大きく分けられます。
すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。
1. 運動機能の特徴(HとA)
ご家族が赤ちゃんの頃に最初に気づくことが多いのが、この運動面の特徴です。
筋緊張低下(Hypotonia)
赤ちゃんの頃は体が非常に柔らかく、抱っこした時にフニャッとした感じがする筋緊張低下が見られます。
首がすわるのが遅かったり、寝返りやお座りがなかなかできなかったりします。
この体の柔らかさは、成長しても続くことがあり、姿勢を保つのが苦手な原因となります。
運動失調(Ataxia)
この病気の大きな特徴の一つです。
小脳という脳の部位の機能に関連して、体のバランスをとったり、スムーズに動かしたりすることが苦手な状態です。
お座りができるようになってもグラグラしたり、物をつかもうとした時に手が震えたりすることがあります。
歩行を獲得した場合でも、足を広げてバランスをとりながら歩く、よちよちとした歩き方(失調性歩行)になることが多いです。
重度の場合、独歩(一人歩き)の獲得が難しいこともあり、車椅子や歩行器などの移動支援が必要になることがあります。
2. 神経発達と知的な特徴(D)
全般的な精神運動発達遅滞
運動機能だけでなく、知的な発達もゆっくりです。
新しいことを学習するのに時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが苦手だったりします。
知的障害の程度は、中等度から重度まで様々です。
言語発達の遅れ
言葉の発達は非常にゆっくりで、発語(おしゃべり)が出始めるのが遅い、あるいは発語が見られないこともあります。
これは、知的な問題だけでなく、口の周りの筋肉のコントロールが難しい(構音障害)ことも関係しています。
しかし、こちらの言っていることを理解する力は、話す力よりも比較的良好である場合が多く、笑顔や身振りでコミュニケーションをとることができます。
3. 歯科的な特徴(TS)
エナメル質形成不全
これはMRD21を診断する上で、非常に重要な手がかりとなる特徴です。
歯の表面を覆っている硬い層であるエナメル質が、生まれつき薄かったり、うまく作られていなかったりします。
そのため、歯の色が白ではなく、黄色や茶色っぽく見えることがあります。
また、歯の表面がザラザラしていたり、窪んでいたりすることもあります。
エナメル質が弱いため、非常に虫歯になりやすく、歯が欠けたりすり減ったりしやすい傾向があります。
乳歯だけでなく、永久歯にも影響が出ることがあります。
4. その他の身体的特徴・合併症
小頭症
頭囲すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて小さい小頭症が見られることがあります。
成長障害
身長や体重の伸びが緩やかで、小柄な体格であることが多いです(成長不全)。
顔貌の特徴
目立った特徴はありませんが、あごが小さい、鼻が幅広いなどの軽微な特徴が見られることがあります。
MRI検査での所見
脳のMRI検査を行うと、小脳が小さい(小脳萎縮)という所見が見られることがよくあります。
これは、運動失調(ふらつき)の原因と関連しています。

原因
なぜ、体がふらついたり、歯が弱くなったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する「抑制役」タンパク質の不具合にあります。
CTBP1遺伝子の役割
この病気の原因は、第4番染色体にあるCTBP1(C-terminal binding protein 1)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、転写共抑制因子(てんしゃきょうよくせいいんし)と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。
遺伝子のスイッチを「オフ」にする役割
私たちの体には約2万個の遺伝子がありますが、それらが全て常に働いているわけではありません。必要な時に、必要な遺伝子だけが働くようにスイッチが調節されています。
CTBP1が作るタンパク質は、他の遺伝子のスイッチを「オフ」にする(抑制する)役割を持っています。
特に、脳の発達や細胞の分化に関わる遺伝子たちが、勝手に働きすぎないようにブレーキをかけて調節しています。
何が起きているのか
MRD21で見られるCTBP1遺伝子の変異の多くは、ミスセンス変異と呼ばれるタイプです。
これは、遺伝子の文字が1文字だけ書き換わってしまう変異です。
この変異によって、作られるCTBP1タンパク質の形が変わり、本来結合すべきではない相手と結合してしまったり、ブレーキとしての働きが強すぎたり弱すぎたりするなど、機能が変化してしまうと考えられています(機能獲得型変異の可能性などが研究されています)。
その結果、脳の神経細胞の発達バランスが崩れたり、小脳の形成不全が起きたりして、運動失調や発達遅滞が生じます。
また、CTBP1は歯のエナメル質を作る細胞の働きにも関わっているため、ここがうまく働かないとエナメル質形成不全が起こると考えられています。
遺伝について(顕性遺伝と突然変異)
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のCTBP1遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。
1. 臨床診断の手がかり
発達の遅れや筋緊張低下は、他の多くの病気でも見られる症状です。
しかし、「運動失調(ふらつき)」と「歯のエナメル質形成不全」という組み合わせは非常に特徴的です。
医師が診察で歯の状態を見て、「もしかしたら?」と疑うきっかけになることがあります。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してCTBP1遺伝子に変異があるかを調べます。
特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。
これにより、偶然CTBP1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。
3. 画像検査(脳MRI)
運動失調の原因を調べるために、脳のMRI検査が行われることがあります。
MRD21の患者さんでは、小脳が小さい(小脳萎縮)あるいは小脳虫部の低形成といった所見が見られることが多く、これが診断の補助となります。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の機能を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。
1. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。
理学療法(PT)
筋緊張低下や運動失調に対して、最も重要なアプローチです。
体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。
お座り、立ち上がり、歩行などの基本動作の獲得を目指します。
ふらつきが強い場合は、歩行器や装具、車椅子などの補助具を適切に使用することで、移動の自由度を広げ、探索意欲を高めることができます。
作業療法(OT)
手先の震え(企図振戦)がある場合、微細な動作が難しいことがあります。
遊びを通じて、物をつかむ、操作するといった手の機能を高める支援を行います。
食事の際に使いやすいスプーンや食器の提案など、日常生活をスムーズにするための工夫も行います。
言語聴覚療法(ST)
言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。
言葉の理解を深めるだけでなく、ジェスチャー、絵カード、写真、タブレット端末など、その子に合った代替コミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。
また、飲み込み(嚥下)に問題がある場合は、食事の形態や介助方法の指導も行います。
2. 歯科的な管理(非常に重要)
エナメル質形成不全があるため、通常のお子さん以上に厳重な歯科管理が必要です。
定期検診と予防
3ヶ月に1回など、頻繁に歯科検診を受け、フッ素塗布やシーラントなどの予防処置を行います。
歯磨き指導を受け、家庭でのケアを徹底します。
早期治療
エナメル質が弱いため、虫歯の進行が早いです。小さな虫歯でも早めに発見し、治療する必要があります。
歯が欠けたりすり減ったりしている場合は、被せ物(クラウン)などで歯を保護する治療を行うこともあります。
痛みが出ると食事や睡眠に影響し、全身の状態も悪化してしまうため、歯の健康を守ることは生活の質を維持するために極めて重要です。
3. 教育と生活のサポート
環境調整
転倒のリスクがあるため、生活環境の安全対策が重要です。
床にクッション性のあるマットを敷く、家具の角を保護する、手すりを設置するなどの工夫が役立ちます。
学校選び
就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。
個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。
移動の際の介助や、給食時の配慮(刻み食など)が必要になることもあります。
まとめ
知的発達障害21型(MRD21/CTBP1関連障害/HADDTS)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: CTBP1遺伝子の変異により、脳(特に小脳)の発達や歯の形成に影響が出る先天性の疾患です。
- 主な特徴: 筋緊張低下(体の柔らかさ)、運動失調(ふらつき)、重度の発達遅滞、歯のエナメル質形成不全が4大特徴です。
- 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
- 治療: 根本治療はありませんが、理学療法(PT)による運動支援、厳重な歯科管理、コミュニケーション支援によって、生活の質を向上させることができます。
- 予後: ゆっくりですが確実に成長します。移動手段の確保やコミュニケーションツールの活用が自立への鍵となります。
