「言葉を失っていく女の子の病気」レット症候群の真実。なぜ女児だけに起こるのか?【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

「うちの子、最近おしゃべりが減った気がする……」

「前までできていたことが、できなくなってきた?」

もし、順調に育っていたはずのお子さんに、ある日突然、発達の「後退」が見られたとしたら。

親御さんの不安は計り知れません。

先天的な病気の多くは、生まれた時から症状が見られるものですが、中には「ある時期までは普通に育つ」という特徴を持つ疾患もあります。

その代表例が、今回取り上げる**「レット症候群」**です。

これは主に**「女の子」だけに発症する神経の病気**です。

なぜ、ある時期から急に症状が出るのか?

なぜ女の子だけなのか?

そして、親の責任ではないのか?

今日は、このレット症候群について、医学的なメカニズムから出生前診断の可能性まで、専門医の視点で分かりやすく解説していきます。


1. 1歳前後から始まる「後退」。レット症候群の7つのサイン

まず、レット症候群の最大の特徴は、**「最初は普通に育っているように見える」**という点です。

生まれてから生後6ヶ月、あるいは1歳過ぎくらいまでは、目立った異常は見られません。

しかし、そこから静かに、そして確実に変化が始まります。

代表的な7つの症状

親御さんが「何かおかしい」と気づくきっかけとなる、主な症状を見ていきましょう。

  1. 言葉とコミュニケーションの消失
    一度覚えた「ママ」「ワンワン」などの言葉が出なくなったり、目が合いにくくなったりします。笑顔が減り、まるで自分の殻に閉じこもってしまったかのように見えるため、自閉症と間違われることもあります。
  2. 手の機能の喪失と「常同運動」
    おもちゃを握ったり、指をさしたりすることができなくなります。その代わりに見られるのが、レット症候群に非常に特徴的な「手もみ動作」です。手を洗うように擦り合わせたり、口に入れたり、拍手をしたりといった同じ動きを繰り返します。
  3. 歩行の異常
    歩き始めが遅かったり、歩けるようになっても足を開いてフラフラと不安定に歩いたり(失調性歩行)します。
  4. 頭囲の成長停止
    出生時の頭の大きさは正常ですが、生後数ヶ月〜数年で頭の成長スピードが落ち、体が大きくなっても頭囲があまり増えない「後天的な小頭症」が見られます。
  5. 呼吸の異常
    起きている時に、急に息を止めたり、逆にハアハアと激しく呼吸したり(過呼吸)するリズムの乱れが見られます。睡眠中は正常に戻ることが多いです。
  6. 知的障害
    重度の知的障害を伴うことが多く、理解力や判断力の発達に遅れが見られます。
  7. けいれん(てんかん)
    突然意識を失ったり、体がこわばったりするてんかん発作を合併することが多いです。

「失う」ことへの絶望と希望

一度獲得した機能を失っていく様子を見るのは、親として非常に辛いことです。

しかし、この後退はずっと続くわけではありません。

多くの場合、数年で進行は落ち着き(安定期)、学童期以降にはアイコンタクトが増えたり、表情が豊かになったりと、再びコミュニケーションが改善するケースも多く見られます。

完全な回復は難しいですが、彼女たちなりの成長と、心の交流は続いていくのです。


2. 原因は「遺伝子」。親のせいではありません

「私が妊娠中に風邪をひいたから?」

「あの時のストレスのせい?」

お子さんに病気が見つかった時、多くのお母さんが自分を責めてしまいます。

しかし、レット症候群に関しては、はっきりとお伝えできます。

親の生活習慣や育て方は、一切関係ありません。

原因遺伝子「MECP2」の発見

長い間原因不明とされてきましたが、2000年にベイラー医科大学のフーダ・ゾーグビ博士らのチームにより、**「MECP2(メックピー・ツー)」**という遺伝子の変異が原因であることが突き止められました。

この遺伝子は、脳の神経細胞が正しく働くための「指揮者」のような役割をしています。

特に、神経の興奮を抑えるブレーキ役として重要です。

このMECP2に変異が起きると、ブレーキが壊れて脳内の神経回路が暴走したり、うまくつながらなかったりして、様々な症状が引き起こされるのです。

99%は「突然変異」

この遺伝子の変異は、ほとんどの場合、受精卵ができる時やその直後に偶然起こる**「突然変異」**です。

両親から遺伝したものではなく、誰にでも起こりうる確率的な現象です。

そのため、次のお子さんが同じ病気になる確率は、1%未満と非常に低いことが分かっています。


3. なぜ「女の子」だけに起こるのか?染色体の秘密

レット症候群のもう一つの大きな謎は、「なぜ女の子ばかりなのか」という点です。

その答えは、性別を決める**「X染色体」**の中にあります。

男性を守れないX染色体

MECP2遺伝子は、性染色体の一つである「X染色体」の上に存在しています。

  • 女性(XX):X染色体を2本持っています。
  • 男性(XY):X染色体を1本しか持っていません。

もし、X染色体上のMECP2遺伝子に変異があった場合、どうなるでしょうか。

男の子(XY)はXが1本しかないため、その唯一のXが壊れてしまうと、正常なMECP2を作ることが全くできません。これは生命維持にとって致命的であり、多くの場合、生まれてくる前の非常に早い段階(流産や死産)で亡くなってしまいます。

そのため、レット症候群として生まれてくる男の子は極めて稀なのです。

女性を救う「2本目のX」

一方、女の子(XX)はX染色体を2本持っています。

片方のXに変異があっても、もう片方の正常なXがバックアップとして機能するため、致命的な状態は免れ、生まれてくることができます。

「モザイク」が症状の差を生む

さらに興味深いのは、女性の体には**「X染色体のランダム不活性化」**という仕組みがあることです。

女性の細胞の一つ一つでは、2本あるXのうち、どちらか1本だけが働き、もう1本は眠っています(不活性化)。どちらが働くかはランダムです。

  • 正常なXが働いている細胞
  • 変異したXが働いている細胞

女の子の脳内は、この2種類の細胞がモザイク状に入り混じった状態になります。

「正常なXが働く細胞」の割合が多ければ症状は軽くなり、逆に少なければ重くなる。

これが、同じレット症候群でも症状に個人差が大きい理由なのです。


4. 生まれる前に分かる?NIPTと出生前診断の限界

「妊娠中にこの病気を知ることはできないの?」

そう考えるのは自然なことです。しかし、レット症候群の診断には高いハードルがあります。

NIPT(新型出生前診断)では分からない

採血だけでできるNIPTは非常に優れた検査ですが、主に見ているのは**「染色体の数(トリソミーなど)」**です。

レット症候群の原因であるMECP2の変異は、染色体の中にある遺伝子の、さらにその中の「たった一文字(塩基)」が書き換わっているような、ミクロレベルの変化です。

本の冊数を数えるNIPTでは、本の中の誤字脱字までは見つけられないのです。

確実なのは「羊水検査・絨毛検査」だが……

診断するためには、赤ちゃんの細胞を直接採取し、DNAを詳しく解析する必要があります。

これらの検査で採取した細胞からDNAを取り出し、MECP2遺伝子の配列を解読(シーケンシング)すれば、理論上は診断可能です。

しかし、これらの検査にはわずかながら流産のリスク(1/300〜1/1000程度)が伴います。

また、レット症候群はほとんどが突然変異であり、事前に予測することが難しいため、**「上の子がレット症候群である」**などの特別な理由がない限り、通常のスクリーニングとして行われることは一般的ではありません。

最新技術「全エクソーム解析」の可能性

近年は、遺伝子の重要な部分(エクソン)を網羅的に調べる**「全エクソーム解析(WES)」**という技術も進歩しています。

これにより、MECP2だけでなく、似たような症状を引き起こす他の遺伝子(CDKL5など)もまとめて調べることが可能です。

ただ、これも現時点では、発症後の診断確定や、特別なリスクがある場合の二次的な検査として用いられるのが主流です。


本日のまとめ

今日は、女の子特有の神経疾患「レット症候群」について解説しました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 「普通」からの変化に注意

生後半年〜1歳過ぎまでは順調に育ちますが、その後、言葉や手の機能が失われていきます。手もみ動作や視線の消失がサインです。

2. 原因は遺伝子の突然変異

MECP2遺伝子の変異が原因ですが、親からの遺伝ではなく、ほとんどが偶発的なものです。ご自身を責める必要はありません。

3. 女の子に多い理由

X染色体にある遺伝子の病気であるため、Xを1本しか持たない男児は生存が難しく、Xを2本持つ女児だけが発症して生まれてくる傾向があります。

4. 出生前診断の難しさ

NIPTでは検出できません。羊水検査などで調べることは可能ですが、リスクや倫理的な側面も含め、専門医との慎重な相談が必要です。

レット症候群は、進行性の病気ですが、近年は遺伝子治療の研究も進んでおり、希望の光が見え始めています。

また、失われた機能のすべてが戻らなくても、彼女たちは豊かな感情を持ち、目で会話をし、家族を愛する力を持っています。

もし、お子様の発達に不安を感じたら、一人で悩まず、小児神経科などの専門医にご相談ください。

早期の療育やサポートが、お子さんとご家族の笑顔を守る力になります。

未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするために、私たちはこれからも正しい医療情報をお届けしていきます。