若年性骨髄単球性白血病を伴う、あるいは伴わないヌーナン症候群様疾患 

ハート

「若年性骨髄単球性白血病を伴う、あるいは伴わないヌーナン症候群様疾患」という、非常に長く、そして「白血病」という言葉が含まれる診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「ヌーナン症候群に似ていますが、少しタイプが違います」や「白血病の所見がありますが、治療せずに様子を見ます」といった説明を受け、大きな驚きと戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。特に、「白血病なのに治療しない」という言葉は、直感的には理解しがたく、不安を募らせる要因になっていることでしょう。

この病気は、遺伝子の変化によって起こる生まれつきの体質であり、ヌーナン症候群と非常によく似た顔立ちや身体の特徴を持ちます。

最大の特徴は、CBLという特定の遺伝子に変異があり、それによって「若年性骨髄単球性白血病」に似た血液の異常を来すことがある点です。

しかし、ここが最も重要でお伝えしたい希望の光なのですが、この病気に伴う白血病は、一般的な白血病とは異なり、多くの場合、成長とともに「自然に消えてなくなる」という経過をたどります。これを自然軽快と呼びます。

まず最初にお伝えしたいのは、正しい診断がつくことが、お子さんにとって不必要な抗がん剤治療や移植手術を避けるための最大の守りになるということです。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この長く複雑な病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。

病名の意味

この病名は、大きく2つの要素から成り立っています。

ヌーナン症候群様疾患

ヌーナン症候群に非常によく似た特徴を持っているという意味です。

ヌーナン症候群は、特徴的なお顔立ち、低身長、心臓の病気などを特徴とする疾患ですが、この病気もそれらと共通する多くの症状を持っています。医学的には、原因となる遺伝子の場所が異なるため、「様(よう)」という言葉をつけて区別しています。

若年性骨髄単球性白血病を伴う、あるいは伴わない

この病気の患者さんは、乳幼児期に血液の異常、具体的には若年性骨髄単球性白血病、略してJMMLと呼ばれる状態を発症することがあります。

しかし、全ての患者さんに発症するわけではないため、「伴う、あるいは伴わない」という表現になっています。

CBL症候群という呼び方

この病気は、第11番染色体にあるCBLという遺伝子の変異によって引き起こされます。

そのため、最近ではよりシンプルに「CBL症候群」や「CBL変異関連ヌーナン症候群様疾患」と呼ばれることも増えてきています。この記事でも、わかりやすくCBL症候群と呼ぶことにします。

RASオパチーというグループ

この病気は、医学的にはRASオパチー(ラスオパチー)という大きなグループに含まれます。

私たちの体の中には、細胞の増殖や成長をコントロールするRAS/MAPK経路という情報の通り道があります。

この通り道に関わる遺伝子に変化が起きると、細胞の成長スイッチの調節がうまくいかなくなり、体の様々な場所に特徴が現れます。

ヌーナン症候群、コステロ症候群、CFC症候群なども、すべてこのRASオパチーの仲間であり、CBL症候群もその一員です。

一般的なJMMLとの決定的な違い

ここが最も重要なポイントです。

通常、遺伝子の生まれつきの変化がないお子さんに発症する「一般的なJMML」は、非常に進行が早く、造血幹細胞移植(骨髄移植など)を行わないと命に関わる重篤な病気です。

一方で、このCBL症候群に伴って発症する「CBL関連のJMML」は、一見すると血液データは同じように悪く見えますが、その挙動は全く異なります。

多くの場合、数ヶ月から数年かけて自然に良くなっていきます。

そのため、この病気であると正しく診断されることが、過酷な移植治療を回避するために極めて重要なのです。

主な症状

CBL症候群の症状は、ヌーナン症候群と共通する身体的な特徴と、この病気特有の血液の特徴に分けられます。

症状の程度には個人差が非常に大きく、血液の異常だけで身体的な特徴がほとんどない方もいれば、その逆の方もいます。

1. 血液・腫瘍の症状(JMML)

診断のきっかけとなることが多い症状です。

新生児期から乳児期にかけて、以下のような症状が現れることがあります。

白血球の増加

血液検査で、白血球の数、特に単球と呼ばれる種類の細胞が異常に増えていることがわかります。

肝脾腫(かんひしゅ)

肝臓や脾臓が腫れて大きくなり、お腹がぽっこりと膨らんで見えることがあります。

これは、血液細胞が骨髄だけでなく、肝臓や脾臓でも作られるようになるためです。

その他の血液異常

血小板が減って血が止まりにくくなったり、貧血になったりすることがあります。

これらの症状は、一般的な白血病と同じように見えますが、CBL症候群の場合は、多くのケースで数年以内に自然に落ち着いていきます。

2. お顔立ちの特徴(顔貌)

ヌーナン症候群と非常によく似た、愛らしい特徴的なお顔立ちが見られます。

両目の間隔が広く離れている眼間開離や、まぶたが下がっている眼瞼下垂が見られることがあります。

耳の位置が少し低く、後ろに傾いていたり、耳のふちが厚かったりすることがあります。

鼻の根元が低く、鼻先が上を向いていることもあります。

首が短く、首の横の皮膚が余ってヒダのようになっている翼状頸が見られることもあります。

3. 心臓の症状

RASオパチーの共通点として、先天性の心疾患を合併することがあります。

肺動脈弁狭窄症

心臓から肺へ血液を送る血管の出口にある弁が狭くなる病気です。

心房中隔欠損症

心臓の右心房と左心房の間の壁に穴が開いている病気です。

肥大型心筋症

心臓の筋肉が分厚くなる病気で、CBL症候群でも見られることがありますが、他のRASオパチーに比べると頻度は低いと言われています。

4. 成長と発達

低身長

生まれた時の身長や体重は正常範囲であることが多いですが、乳幼児期から成長のペースが緩やかになり、低身長となることがあります。

発達の遅れ

首すわりや歩行などの運動発達や、言葉の発達がゆっくりになることがあります。

知的障害の程度は軽度から中等度であることが多いですが、正常範囲の方もたくさんいらっしゃいます。

学習障害や、注意欠陥・多動性障害のような特性が見られることもあります。

5. その他の症状

皮膚の色素斑

カフェオレ斑と呼ばれる、薄い茶色のあざが見られることがあります。

血管の炎症

稀ですが、成人してから血管炎を起こすことがあるという報告があります。

停留精巣

男の子の場合、精巣が陰嚢の中に降りてこないことがあります。

原因

なぜ、白血病のような症状が出たり、自然に治ったりするのでしょうか。その原因は、細胞のブレーキ役である遺伝子の変化にあります。

CBL遺伝子の変異

この病気の原因は、CBL遺伝子の変異です。

CBL遺伝子は、細胞の中で情報を伝えるRAS/MAPK経路において、細胞の増殖スイッチを「オフ」にする、つまりブレーキをかける役割を担っています。

専門的には、ユビキチンリガーゼという酵素として働き、活性化したタンパク質を分解して信号を止めます。

なぜ白血病のような状態になるのか

生まれつき、全身の細胞(生殖細胞系列)のCBL遺伝子の片方に変異があります。

通常、遺伝子は父由来と母由来の2本セットで持っています。片方が変異していても、もう片方の正常なCBL遺伝子が働いているため、ブレーキは完全には壊れていません。

しかし、血液を作る細胞(造血細胞)の中で、たまたま正常だったほうのCBL遺伝子が失われてしまうという現象が起こることがあります。これを片親性ダイソミー、あるいはヘテロ接合性の消失と呼びます。

すると、その細胞の中には「変異したCBL遺伝子」しかなくなってしまいます。

こうなると、細胞増殖のブレーキが全く効かなくなり、血液細胞が勝手にどんどん増え始めます。これが、CBL関連のJMMLが発症するメカニズムです。

なぜ自然に治るのか

ここが非常に興味深く、まだ完全に解明されていない部分でもありますが、CBL変異だけを持つ血液細胞は、増殖する力はあっても、長生きする力や悪性化する力が弱いのではないかと考えられています。

そのため、時間の経過とともに、正常なブレーキ機能を持った他の血液細胞との競争に負けて消えていったり、成長に伴う環境の変化で増殖が止まったりすると推測されています。

一方、一般的なJMMLでは、PTPN11やNF1といった別の遺伝子の変異が原因であることが多く、これらは非常に強い増殖力を持つため、自然には治りません。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝という形式をとります。以前は優性遺伝と呼ばれていました。

ご両親のどちらかがこの病気である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。

しかし、患者さんの多くは、ご両親はこの病気ではなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異のケースです。

これは、受精卵ができる過程で偶然に起きた変化であり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活やストレスが原因ではありません。

医者

診断と検査

診断は、症状の観察、血液検査、そして何より遺伝学的検査が決定的な役割を果たします。

1. 血液検査と臨床症状

白血球の増加や、肝臓・脾臓の腫れがあり、さらにヌーナン症候群のような顔立ちの特徴がある場合、この病気を疑います。

一般的なJMMLの診断基準(単球の増加、芽球の出現など)を満たすかどうかを確認します。

2. 遺伝学的検査(最も重要)

CBL症候群の診断を確定し、移植が必要な一般的なJMMLと区別するために必須の検査です。

血液を採取し、DNAを解析してCBL遺伝子に変異があるかを調べます。

このとき、重要なポイントがあります。

血液中の細胞だけでなく、口腔粘膜(頬の内側をこすって採取)や、爪、毛根などの「血液以外の細胞」も調べて、そこにも同じCBL変異があるかを確認する必要があります。

もし血液だけにしか変異がなければ、それは「生まれつきの体質(CBL症候群)」ではなく、後天的に起きた「一般的なJMML(身体の一部だけの変異)」である可能性が高くなるからです。

全身の細胞に変異があることを確認して初めて、この病気(生殖細胞系列のCBL変異)であると診断されます。

3. 心エコー検査

心臓の合併症がないかを確認します。

4. 発達検査

発達の程度を評価し、必要な療育につなげるために行います。

治療と管理

CBL症候群の治療方針は、一般的なJMMLとは全く異なります。「待つこと」が治療の柱になる特殊な病気です。

1. 血液・腫瘍(JMML)に対する治療

基本方針は「経過観察」です。

一般的なJMMLであれば、診断後速やかに強力な抗がん剤治療や造血幹細胞移植の準備に入りますが、CBL症候群の場合は、多くのケースで自然軽快が期待できるため、積極的な治療は行わずに慎重に様子を見ます。

定期的な血液検査を行い、白血球の数や血小板の数、肝臓や脾臓の大きさをチェックします。

数ヶ月から数年かけて、数値は徐々に正常化していきます。

ただし、稀に症状が進行してしまったり、貧血や血小板減少が重度で命に関わったりする場合には、輸血を行ったり、低用量の抗がん剤を使ったり、場合によっては移植を検討したりすることもあります。しかし、これは例外的なケースです。

2. 心臓の治療

心疾患がある場合は、循環器科での定期的なフォローアップを行います。

弁の狭窄や穴の状態によっては、手術やカテーテル治療が必要になることもありますが、多くは経過観察で済みます。

3. 成長と発達のサポート

低身長

著しい低身長があり、成長ホルモンの分泌不足が確認された場合は、成長ホルモン療法が検討されることがあります。

発達支援

運動や言葉の遅れがある場合は、早期から療育(理学療法、作業療法、言語聴覚療法)を開始します。

お子さんの得意なこと、苦手なことを把握し、楽しみながら発達を促す環境を整えます。

4. 長期的な健康管理

CBL症候群の方は、大人になってからも定期的な健康診断を受けることが大切です。

稀ですが、血管の炎症(動脈炎など)を起こすことがあるため、原因不明の発熱や痛みがある場合は、主治医にこの病気であることを伝える必要があります。

まとめ

若年性骨髄単球性白血病を伴う、あるいは伴わないヌーナン症候群様疾患(CBL症候群)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: CBL遺伝子の変異により、細胞増殖のブレーキが緩みやすくなるRASオパチーの一つです。
  • 主な特徴: ヌーナン症候群に似た顔立ちや低身長に加え、乳幼児期に白血病のような血液異常(JMML)を呈することがあります。
  • 最大のポイント: この病気に伴うJMMLは、多くの場合、治療をしなくても自然に治る(自然軽快する)という特殊な経過をたどります。
  • 診断の重要性: 遺伝子検査でCBL変異を確認することで、不必要な移植手術を避けることができます。
  • 管理: 血液の慎重な経過観察と、心臓や発達のサポートが中心となります。

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