CLN6型神経セロイドリポフスチン症【CLN6】

やさしいまとめ

CLN6型神経セロイドリポフスチン症(CLN6型NCL)は、ごくまれにみられる遺伝性の神経の病気で、主に小児期に発症します。
この病気では、細胞の中の「不要なものを分解する仕組み」がうまく働かず、脳や神経に影響が出てきます。
歩くことや話すことがだんだん難しくなったり、けいれん(てんかん)や視力の低下などが現れるのが特徴です。
本記事では、CLN6型NCLの原因・症状・検査・治療・将来の見通しについて、医療従事者向けの最新情報とともに、
ご家族の方にも理解しやすい形で丁寧にご説明します。
お子さまのことで不安を感じておられる方にも、少しでも安心や参考になる情報をお届けできれば幸いです。

遺伝子領域 | Implicated Genomic Region

CLN6

CLN6

CLN6型神経セロイドリポフスチン症(CLN6型NCL)は、CLN6遺伝子(CLN6 gene)の変異によって起こります。この遺伝子は第15染色体の15q23領域に存在し、311個のアミノ酸からなる膜貫通型のタンパク質をコードしています。

このCLN6タンパク質は小胞体(endoplasmic reticulum: ER)という細胞内の構造に局在し、細胞の不要物を分解する酵素をゴルジ体(Golgi apparatus)に運ぶ働きを担っています。特に、CLN6はCLN8タンパク質と一緒に機能しており、正常なリソソーム酵素(lysosomal enzyme)の輸送に必要です。

現在、CLN6遺伝子には100種類以上の病的変異(ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライス部位、挿入・欠失など)が報告されています。これらの変異は、遺伝子の働きが失われる機能喪失型(loss-of-function)であることが多く、常染色体劣性遺伝(autosomal recessive inheritance)という遺伝形式をとります。

疾患名 | Disorder

CLN6遺伝子の変異によって生じる疾患は、神経セロイドリポフスチン症6型(CLN6型NCL)と呼ばれます。過去には「変異型遅発性乳児型神経セロイドリポフスチン症(variant late-infantile NCL: vLINCL)」という名称も使われていました。

この病気は以下の2つの表現型(病型)を含みますが、同じ遺伝的原因であるため、現在では1つの疾患単位として扱われています。

  • 小児発症型:Neuronal Ceroid Lipofuscinosis Type 6
  • 成人発症型:Kufs病タイプA(Kufs disease type A)

概要 | Overview

神経セロイドリポフスチン症(Neuronal Ceroid Lipofuscinosis: NCL)は、バッテン病(Batten disease)とも呼ばれる遺伝性の進行性神経変性疾患です。リソソーム(細胞内で老廃物を処理する小器官)の機能障害により、リポフスチン(lipofuscin)という自家蛍光性の脂質・タンパク質の混合物が神経細胞内にたまっていくことが特徴です。

CLN6型NCLは、その中でもまれで重篤なタイプで、主に小児期に発症し、運動機能や言語、視力、知的機能が徐々に失われていきます。場合によっては成人期(通常30歳以降)に発症することもあります。

顕微鏡で病変組織を観察すると、指紋状(fingerprint)、湾曲状(curvilinear)、粒状(granular)といった特有の模様をもった蓄積物が見られます。

疫学 | Epidemiology

CLN6型NCLは非常にまれ(超希少疾患)な病気です。NCL全体では、生まれてくる赤ちゃん10万人に1〜8人程度の割合で見られるとされていますが、CLN6型に限るとさらにまれです。

一部の地域では、特定の遺伝子変異(いわゆる創始者変異)が多く見られることがあります。たとえば、コスタリカでは、CLN6遺伝子のc.214G>T(p.E72X)という変異が小児患者に高頻度で見られます。また、ポルトガル、インド、パキスタン、チェコなどでも報告例があります。

病因 | Etiology

CLN6型NCLの原因は、CLN6遺伝子における両方の対立遺伝子(アレル)に病的な変異があることです。このような遺伝形式を常染色体劣性遺伝と呼びます。

CLN6タンパク質は、リソソーム酵素を小胞体からゴルジ体に送るための選別に重要な働きを持っています。この働きが失われると、不要な物質が分解されずに蓄積し、神経細胞が徐々に壊れていきます。

また、CLN6はCRMP2という軸索(神経の突起)の成長に関与するタンパク質とも相互作用しており、これが障害されることで神経回路の形成異常にもつながると考えられています。

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症状 | Symptoms

小児発症型(典型的なCLN6)

  • 発症年齢:通常2〜5歳
  • 初期症状:言語の発達の遅れ、歩行のふらつき
  • 進行症状
    • 発達の後退(できていたことができなくなる)
    • てんかん(Epilepsy):薬が効きにくい場合が多い
    • 視力の低下:網膜の変性による
    • 運動失調(Ataxia)、筋肉のつっぱり、歩行困難
    • 認知症(Dementia)
    • 最終的には寝たきり、言葉も話せなくなる
    • 平均寿命:およそ12〜15歳

成人発症型(クフス病タイプA)

  • 発症年齢:15歳以上(平均28歳)
  • 症状
    • ミオクローヌスてんかん(Myoclonic epilepsy)
    • 失調(Ataxia)
    • 構音障害(Dysarthria)
    • 認知機能の低下
    • 視力障害は通常みられません
    • 発症から約10年以内に生命を終えるケースが多い

検査・診断 | Testing & Diagnosis

疑うべき症状

  • 発達の遅れや退行
  • 言葉が出にくくなる
  • 進行性の視力低下
  • 難治性のてんかん
  • 歩行が不安定になる
  • これらが家族歴とともにみられるとき

診断のための検査

  1. 脳画像検査(MRI・CT):大脳皮質や小脳の萎縮がみられる
  2. 眼科検査:視神経の萎縮、網膜の変性、血管の細化
  3. 視覚誘発電位(VEP)や網膜電図(ERG):異常または消失
  4. 脳波(EEG):てんかん性異常放電
  5. 組織検査:皮膚や結膜の生検で蓄積物が確認されることがある
  6. 遺伝子検査
    • 次世代シーケンシング(NGS)などでCLN6の変異を特定
    • 特定地域では創始者変異のスクリーニングも有効(例:コスタリカのc.214G>T)

治療法と管理 | Treatment & Management

現在のところ、CLN6型NCLに対する根本的な治療法は存在していません。しかし、症状を緩和し、生活の質を保つための対症療法や研究段階の治療法が進められています。

1. てんかんの管理

  • バルプロ酸、クロナゼパム、レベチラセタムなどの広域抗てんかん薬が使用されます
  • ナトリウムチャネル遮断薬(カルバマゼピンなど)はミオクローヌスを悪化させる可能性があり注意が必要
  • ケトン食療法や神経刺激装置(VNS)が有効な場合もあります

2. 運動症状の対応

  • 痙縮:バクロフェン、チザニジン、ジアゼパムなど
  • ジストニア(不随意運動):トリヘキシフェニジル、Lドーパなど
  • 局所の症状にはボツリヌス毒素注射も検討されます

3. 視力障害

  • 脳に対する治療では視力を守る効果が限られているため、眼に特化した治療の併用が必要です

研究段階の治療法

遺伝子治療(Gene Therapy)

  • AAV9ウイルスベクターを使った遺伝子導入(例:scAAV9.CB.CLN6)
  • 動物実験では寿命の延長、運動機能や視力の保持が報告されています
  • 小児への早期投与が最も効果的とされています
  • 現在、第I/II相臨床試験(NCT02725580)が進行中

補助的な薬物療法(研究中)

  • フルピルチン、レチガビン:神経保護作用が期待されるが効果は限定的
  • ミノサイクリン:CLN6羊モデルでは効果なし
  • クルクミン、DHA(ドコサヘキサエン酸):視機能への保護効果あり

幹細胞移植・マイクログリア置換療法

  • 他のNCL型では研究中ですが、CLN6では未確立です
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予後 | Prognosis

CLN6型NCLは進行性で致死的な疾患です。発症年齢により経過は異なりますが、いずれも日常生活が困難になり、早期の生命予後不良が避けられないことが多いです。

  • 小児発症型:平均で10〜15歳までに亡くなることが多い
  • 成人発症型:診断から約10年以内に進行し死亡することが一般的

ある研究では、運動と言語機能の喪失までの期間は平均88.1ヶ月(約7年)と報告されています。早期診断と、できるだけ早期の介入が、病気の進行を遅らせるために重要です。

やさしい言葉の説明|Helpful Terms

遺伝子(Gene)
体の設計図のようなもので、私たちの体の働きを決める情報が入っています。親から子へと受け継がれます。

CLN6遺伝子(CLN6 gene)
CLN6遺伝子に起こる異常(変異)が、CLN6型NCLの原因となります。

常染色体劣性遺伝(Autosomal Recessive Inheritance)
両親からそれぞれ1つずつ「異常な遺伝子」を受け取ったときに病気があらわれる遺伝のしかたです。両親は病気でなくても、子どもが発症することがあります。

リソソーム(Lysosome)
細胞の中でゴミを分解してくれる「お掃除係」のような小さな器官です。うまく働かないと、細胞に不要な物質がたまり、病気になります。

リポフスチン(Lipofuscin)
本来は体にたまらないはずの、黄色っぽい不要な物質です。CLN6型NCLでは、この物質が神経細胞にたまってしまいます。

神経セロイドリポフスチン症(Neuronal Ceroid Lipofuscinosis / NCL)
脳や目の神経がだんだんと弱っていく遺伝性の病気のグループです。CLN6型はそのひとつで、小児に多く見られます。

発達退行(Developmental Regression)
できていたこと(話す、歩くなど)がだんだんできなくなる状態です。CLN6型では、病気の進行とともに見られます。

視力低下(Vision Loss)
目の働きが弱くなり、物が見えにくくなる症状です。CLN6型では、網膜が傷んで視力が悪くなります。

てんかん(Epilepsy)
脳の電気信号の異常により、けいれんや意識を失う発作がくり返される病気です。CLN6型では治療が難しいこともあります。

ミオクローヌス(Myoclonus)
体がピクッと急に動いてしまう症状で、てんかんの一種です。CLN6型ではよく見られます。

運動失調(Ataxia)
体のバランスがとれず、ふらついたり、うまく動けなくなる状態です。

認知機能の低下(Cognitive Decline)
考える力や記憶力が弱くなっていくことです。CLN6型では進行とともに見られます。

脳波検査(Electroencephalogram / EEG)
脳の電気的な活動を調べる検査です。てんかんの有無や脳の状態がわかります。

視覚誘発電位(Visual Evoked Potential / VEP)
目からの情報が脳に届いているかを調べる検査です。視力の問題を見つけるのに役立ちます。

網膜電図(Electroretinogram / ERG)
網膜(目の奥の光を感じる部分)の働きを調べる検査です。

遺伝子検査(Genetic Testing)
病気の原因となる遺伝子の変化があるかどうかを調べる検査です。CLN6型の診断には欠かせません。

創始者変異(Founder Mutation)
ある地域や家系で多く見られる、共通の遺伝子の異常のことです。コスタリカではCLN6遺伝子の特定の変異が多く報告されています。

AAV9遺伝子治療(AAV9 Gene Therapy)
治療用の遺伝子をウイルスの力で脳に届ける最新の治療法です。現在は研究段階ですが、将来の治療法として期待されています。

対症療法(Symptomatic Treatment)
病気そのものを治すのではなく、出てくる症状(てんかんなど)を和らげるための治療です。

予後(Prognosis)
病気が今後どう進んでいくかの見通しです。CLN6型では、進行が速く、将来的な支援が必要になることが多いです。

小胞体(Endoplasmic Reticulum / ER)
細胞の中でタンパク質をつくったり、運んだりする場所です。CLN6タンパク質はここにあります。

ゴルジ体(Golgi Apparatus)
細胞の中でタンパク質を加工して送り出す施設のようなところです。リソソーム酵素もここを通って働くようになります。

引用文献|References

キーワード|Keywords

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