脳クレアチン欠乏症候群

脳クレアチン欠乏症候群脳クレアチン欠乏症候群

概要

脳クレアチン欠乏症候群(cerebral creatine deficiency syndromes: CCDSs;ICD10 コード E728)は、脳内クレアチン欠乏により、知的障害、言語発達遅滞、てんかんなどを発症する疾患群です。クレアチン生合成の異常によるグアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)欠損症及びアルギニン・グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)欠損症並びにクレアチン輸送障害による クレアチントランスポーター (SLC6A8)欠損症の 3 疾患が含まれ、それぞれ、GAMT 遺伝子(19p13.3)、GATM 遺伝子(15q21.1)及び SLC6A8 遺伝子(Xq28)の変異により発症します。GAMT 欠損症及び AGAT 欠損症は常染色体劣性遺伝型式、SLC6A8 欠損症は X連鎖性劣性遺伝形式です。特に、SLC6A8 欠損症は、遺伝性知的障害症候群の中で最も頻度が高い疾患の一つと推定されています。予後は、合併症の程度によります。

AGAT欠損症は世界で16例、GAMT欠損症は世界で110例(日本では、1例の報告のみ)が報告されている稀な疾患です。クレアチントランスポーター欠損症は、欧米では遺伝学的要因による知的障害の中でもっとも頻度の高い疾患の一つであり、知的障害を呈する男性患者の0.3~3.5%(米国では42,000人、世界では100万人)と推定されていますが、現在までにわが国で診断されているのは8家系のみであり、未診断例が多数存在すると推測されます。

原因

GAMT 欠損症は GAMT 遺伝子(19p13.3)、AGAT 欠損症は GATM 遺伝子(15q21.1)、SLC6A8 欠損症はSLC6A8 遺伝子(Xq28)変異の遺伝子変異により発症します。GAMT 欠損症及び AGAT 欠損症は 常染色体劣性疾患 、SLC6A8 欠損症は X連鎖性疾患です。いずれも、神経細胞内のクレアチン欠乏をきたします。

SLC6A8遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状

SLC6A8 欠損症では、軽度〜重度の知的障害(18 才以上患者の 75%は重度知的障害を呈する)、言語発達遅滞(10 才以上の患者では 14%が発語の獲得なし、55%が単語のみの発語)、けいれん(59%)、運動異常(失調歩行 29%、ジストニア 11%)、行動異常(注意欠如・多動症 55%、自閉症スペクトラム症 41%など)、その他の神経症状(筋緊張低下 40%)を認めます。療育や生涯にわたる生活支援を必要とします。[vande Kamp JM, et al. Phenotype and genotype in 101 males with X-linked creatine transporter deficiency. JMed Genet, 2013] GAMT 欠損症では、重度知的障害(60%)、けいれん(78%)、運動異常(30%)、行動異常(77%)を認めます。AGAT 欠損症では、 軽度〜重度知的障害、けいれん(9%)、行動異常(27%)、筋緊張低下(67%)を認めます。

診断

尿中の クレアチン とクレアチニンを測定し、その比(尿中のクレアチン/クレアチニン)の上昇により、診断の可能性を検討できます。 女性の患者さんは、尿検査では診断できません。 脳中のクレアチンが欠乏していることは脳MRSで診断できますが、お子さんの診断では検査中の鎮静が必要です。

“AGAT欠損症とGAMT欠損症は、脳の神経細胞でクレアチンを産生することが出来ないことで発症する疾患です。ですから、クレアチンを内服することにより症状の改善が期待される治療法のある疾患です。GAMT欠損症では、オルニチンや安息香酸ナトリウムの摂取、アルギニン摂取制限が併用されます。 クレアチントランスポーター欠損症では、脳内で作られたクレアチンが神経細胞内に運ぶ仕組みが上手く働いていません。ですから、クレアチンの内服は効果がないといわれています。現在、治療法の研究が進められています。”

【参考文献】

難病情報センター – 脳クレアチン欠乏症候群