先天性筋無力症候群

RAPSN|Congenital Myasthenic Syndrome 11

先天性筋無力症候群11型(CMS11)は、RAPSN遺伝子の変異により発症する神経筋接合部の疾患で、筋力低下や呼吸不全などの症状を特徴とします。本記事では、CMS11の原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説し、早期診断と適切な管理の重要性を紹介します。

遺伝子・疾患名

RAPSN|Congenital Myasthenic Syndrome 11

Myasthenic Syndrome, Congenital, 11, Associated with Acetylcholine Receptor Deficiency (CMS11); [Formerly: Myasthenic Syndrome, Congenital, Ie]

概要 | Overview

先天性筋無力症候群11型(Congenital Myasthenic Syndrome 11, CMS11)は、RAPSN遺伝子の病的バリアントにより生じる神経筋接合部の後シナプス障害である。本疾患は、アセチルコリン受容体(AChR)のクラスタリングを制御する43 kDa受容体関連タンパク質(ラプシン, rapsyn)の機能低下によって発症する。ラプシンはAChRを細胞骨格と結合させる役割を持ち、その欠損や機能不全により神経筋伝達の障害を引き起こす。

CMSは自己免疫疾患ではなく、先天的な遺伝的要因による疾患群であり、疲労しやすい筋力低下を特徴とする。CMS11では、特に軸性筋や四肢筋の筋力低下(乳児期発症型では筋緊張低下を伴う)、眼筋の障害(眼瞼下垂や眼球運動障害)、および顔面・球麻痺(嚥下障害や発声障害)がみられる。症状は変動性があり、身体活動により悪化する。

疫学 | Epidemiology

CMSの有病率は地域によって異なり、英国の18歳未満のCMS患者123例の解析では、有病率は200万人に対し2.8~14.8例と報告されている(平均9.2例/100万人)。この値は、同地域における若年性重症筋無力症(juvenile MG)の有病率1.5例/100万人と比較して約6倍高い。また、ブラジル(22例)、スロベニア(8例)、スペイン(64例)などでも有病率が報告されており、それぞれ1.8例/100万人、22.2例/100万人、1.8例/100万人であった。しかし、いずれの研究も未診断例の存在により有病率が過小評価されている可能性が指摘されている。

CMSの原因遺伝子は35種類が報告されており、その中でRAPSN、DOK7、CHRNE、COLQ、GFPT1の病的バリアントが比較的高頻度に認められる。特にRAPSN p.Asn88Lys変異は、西欧および中央ヨーロッパの集団において創始者効果が確認されている。

病因 | Etiology

RAPSN遺伝子はラプシンをコードしており、これはAChRの細胞膜への固定とクラスタリングを担う重要なタンパク質である。ラプシンは、筋特異的キナーゼ(MuSK)経路を介してAChRと結合し、βカテニン(CTNNB1)およびクロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質8(CHD8)と相互作用することでシナプス構造を安定化させる。

RAPSNの病的バリアントのうち、いくつかのミスセンス変異は自己クラスタリング機能を保持しているが、一部の変異はこの機能を喪失している。特にp.N88K変異は、ラプシンの自己クラスタリングおよびE3リガーゼ活性を低下させ、NMJの形成を阻害することが報告されている。

RAPSN遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

CMS11の臨床症状は、神経筋接合部の機能障害による筋力低下および筋疲労を特徴とし、主に以下の症状がみられる。

  • 筋力低下および筋疲労:身体活動に伴う症状の悪化
  • 眼筋の障害:眼瞼下垂、眼球運動障害
  • 顔面および球麻痺:構音障害、嚥下障害
  • 呼吸筋障害:乳児期の呼吸不全、反復性の呼吸不全エピソード
  • 関節拘縮(関節強直症):新生児期に多発性関節拘縮を伴う場合あり

また、CMS患者の約20%はRAPSN変異を有すると推定されており、RAPSN-CMSの患者は新生児期または乳児期に呼吸不全を呈することが多い。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

CMS11の診断には以下の手法が用いられる。

  1. 臨床評価:筋力低下、眼瞼下垂、筋疲労の確認
  2. 電気生理学的検査:反復神経刺激試験(RNS)によるCMAPの低下
  3. 遺伝学的検査:RAPSN遺伝子の変異解析
  4. 筋生検および超微細構造解析:NMJの異常(副次シナプス溝の減少など)

CMSは重症筋無力症(MG)やLambert-Eaton症候群(LEMS)と鑑別する必要がある。また、一部のCMS患者では血清クレアチンキナーゼ(CK)値が上昇することがある。

治療法と管理 | Treatment & Management

CMS11の治療は、神経筋伝達を改善する薬剤の使用が中心となる。

  • ピリドスチグミン(抗コリンエステラーゼ薬):最も一般的に使用される
  • サルブタモール(アルブテロール):交感神経作用によるNMJ機能の改善
  • エフェドリン:特定のCMSサブタイプに有効
  • アミファンプリジン:一部のCMS患者に有効

また、重度の呼吸筋障害がある患者には、

  • 非侵襲的人工呼吸(NIV):夜間低換気の管理
  • 気管切開:重篤な呼吸不全例で検討

早期診断および適切な治療介入により、患者の生活の質を向上させることが可能である。

予後 | Prognosis

RAPSN-CMSは一般に慢性の経過をたどるが、適切な治療により筋力低下の進行を抑え、生活の質を改善することができる。小児期には呼吸不全エピソードが多いが、成長とともに頻度が低下する傾向がある。一方で、成人期以降の呼吸機能低下が報告されているため、定期的な呼吸機能評価が推奨される。

近年、次世代シーケンシング技術の進展により診断精度が向上しており、早期診断および治療開始が可能となっている。遺伝カウンセリングを含めた包括的な管理が重要である。

引用文献|References

キーワード|Keywords

先天性筋無力症候群, CMS11, RAPSN, 神経筋接合部, 筋力低下, 呼吸不全, ピリドスチグミン, 遺伝性疾患, AChR欠乏, 神経筋疾患, 電気生理学的検査, 遺伝子変異