VPS45関連先天性好中球減少症(SCN5)

VPS45|Congenital Neutropenia (VPS45-related)

VPS45関連先天性好中球減少症(SCN5)は、重度の好中球減少と免疫不全を引き起こす稀な遺伝性疾患です。本記事では、SCN5の症状、診断方法、治療選択肢について詳しく解説し、最新の研究動向も紹介します。早期発見と適切な管理が鍵となるこの疾患について、専門的かつ分かりやすくお伝えします。

遺伝子・疾患名

VPS45|Congenital Neutropenia (VPS45-related)

Congenital Neutropenia-Myelofibrosis-Nephromegaly Syndrome; Congenital Neutropenia-Bone Marrow Fibrosis-Nephromegaly Syndrome; Neutropenia, Severe Congenital, 5, Autosomal Recessive; Vacuolar Sorting Protein 45 Deficiency

概要 | Overview

VPS45関連先天性好中球減少症(Severe Congenital Neutropenia-5, SCN5)は、常染色体劣性遺伝形式をとる原発性免疫不全症の一種であり、重度の好中球減少症および好中球機能障害を特徴とする。患者は顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)に対する反応が乏しく、致命的な感染症を発症するリスクが高い。また、骨髄線維症や腎外造血を伴う腎腫大が報告されている。さらに、発達遅延、皮質盲、難聴、脳梁の菲薄化、脳波異常などの神経学的異常が一部の患者で認められている。

SCN5はVPS45遺伝子のホモ接合または複合ヘテロ接合変異によって引き起こされる。この遺伝子は細胞内小胞輸送およびゴルジ体内輸送に関与するタンパク質をコードしており、その機能異常が好中球の発生や機能不全を引き起こす。

疫学 | Epidemiology

SCN5の発生率は極めて低く、世界的な有病率は100万人あたり1人未満と推定される。これまでに報告された症例数は20例程度であり、大部分の患者が乳児期に診断されている。特に新生児期から重篤な感染症を発症しやすく、適切な治療が行われない場合、早期死亡のリスクが高い。

病因 | Etiology

SCN5は、VPS45遺伝子の変異によって引き起こされる。VPS45はSec1/Munc18(SM)ファミリーに属し、エンドソーム系を介したタンパク質輸送を制御する役割を持つ。VPS45欠損により、エンドソーム成熟の異常、顆粒球前駆細胞のアポトーシス促進、好中球の細胞内輸送障害などが生じる。

また、VPS45遺伝子変異はG-CSF受容体(CSF3R)の誤った輸送を引き起こし、G-CSF療法に対する抵抗性を示すことが分かっている。これにより、好中球産生の増強が困難となり、持続的な好中球減少症が発生する。

VPS45遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

SCN5の主要な臨床症状は以下の通りである:

  • 重度の好中球減少症:出生直後から発症し、G-CSF治療に抵抗性を示す
  • 再発性の重篤な感染症:肺炎、敗血症、皮膚感染症、深在性膿瘍など
  • 骨髄線維症:骨髄の線維化が進行し、造血機能が低下
  • 腎外造血による腎腫大
  • 血液異常:血小板減少症(血小板減少)、高ガンマグロブリン血症、網状赤血球増加を伴う貧血
  • 神経学的異常(一部の症例)
    • 発達遅延
    • 皮質盲
    • 難聴
    • 脳梁菲薄化
    • 脳波異常
  • 骨異常:骨硬化症の報告あり

検査・診断 | Tests & Diagnosis

SCN5の診断には以下の検査が有効である:

  • 血液検査:持続的な好中球減少(絶対好中球数 <0.5×10⁹/L)
  • 骨髄検査:好中球分化の停止(顆粒球前駆細胞レベルでの成熟停止)、骨髄線維症の確認
  • 遺伝子検査:VPS45遺伝子の病的変異の特定
  • 免疫学的検査:T細胞、NK細胞の異常が示唆される場合がある
  • 画像検査:腎腫大、脾腫、肝腫大の確認

確定診断には次世代シーケンシング(NGS)を用いた遺伝子解析が推奨される。

治療法と管理 | Treatment & Management

SCN5は進行性かつ致命的な疾患であり、治療は主に以下の手段がとられる:

  • 抗生物質による感染管理:広域スペクトル抗菌薬による予防的抗菌療法
  • G-CSF療法:有効性は低いが、一部の患者で部分的な効果が見られる場合がある
  • 輸血療法:貧血および血小板減少症の管理のための血液・血小板輸血
  • JAK1/JAK2阻害剤(ルキソリチニブ):肝脾腫の縮小に有効とされる報告あり
  • 造血幹細胞移植(HSCT):唯一の根治的治療法であり、早期移植が推奨される

HSCTの成功率は約70%とされるが、一部の患者では移植片拒絶や移植後の合併症が生じる可能性がある。

予後 | Prognosis

SCN5の予後は極めて厳しく、適切な治療が行われなければ新生児期から乳児期にかけて高率で死亡する。報告された症例の多くでは、G-CSF療法に反応せず、重篤な感染症や骨髄不全の進行により1歳未満で死亡している。

HSCTを受けた患者の生存率は比較的高いが、移植後の合併症や長期的な免疫抑制の管理が必要となる。また、一部の患者では神経学的後遺症を伴うことが報告されている。

早期診断と迅速な治療介入が重要であり、特にG-CSF非反応性の好中球減少症が認められた場合には、VPS45関連SCNの可能性を念頭に置いた精査が推奨される。

引用文献|References

キーワード|Keywords

VPS45, SCN5, 先天性好中球減少症, 好中球減少, G-CSF抵抗性, 免疫不全, 骨髄線維症, 造血幹細胞移植, 遺伝性疾患, 腎外造血, T細胞減少, JAK阻害剤