概要
先天性血液凝固因子異常症はそれぞれの血液凝固因子活性が先天的に欠乏している病態です。血漿中の凝固因子抗原量と活性の関係から、抗原量と活性がともに欠如したType 1と、抗原量は正常量存在するが活性の欠如したType 2の二つに分類され、Type 1は凝固因子欠乏症、type 2は凝固因子異常症と定義されます。血友病以外の先天性凝固因子異常症は血友病類縁疾患と総称されることもあります。ほとんどの疾患が常染色体劣性遺伝であるが、フィブリノゲン異常症は常染色体優性遺伝です。
疫学
平成25年度血液凝固異常症全国調査(厚生労働省委託事業)において報告されている本邦における血友病以外の先天性血液凝固因子異常症の患者数を示します。発症頻度は血友病やVWDに比較すると圧倒的に少ないです。
原因
自己抗体によるそれぞれの標的凝固因子の活性阻害(いわゆるインヒビター)や、自己抗体と標的凝固因子との免疫複合体が迅速に除去されるために各凝固因子が減少すること(クリアランス亢進)が、出血の原因となる場合が多いと推測されます。多彩な基礎疾患・病態(他の自己免疫性疾患、腫瘍性疾患、感染症など)、妊娠/分娩を伴っているが、症例の約半数は特発性です。後天的に自己抗体が生じる原因は不明であるが、多因子疾患で、高齢者に多いことから加齢もその一因と思われます。
ETHE1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プラン・N-advance GM+プランで検査が可能となっております。症状
凝固因子欠乏症では関節内や筋肉内といった深部出血が特徴といわれるが、鼻出血や皮膚の出血斑も多い。血友病類縁疾患の臨床症状は欠乏する凝固因子によっても様々です。新生児の遷延する臍出血はフィブリノゲン欠乏症や先天性第XIII因子欠乏症に特徴的です。またフィブリノゲン欠乏症や先天性第XIII因子欠乏症は自然流産の原因になります。 ①先天性フィブリノゲン欠乏/異常症 フィブリノゲンは血小板の凝集、炎症反応の防御、組織修復・創傷治癒に関与し、妊娠の成立、維持の必須因子でもあります。そのため先天性フィブリノゲン欠乏症では臍出血、頭血腫、消化管・頭蓋内・関節内出血、自然流産(習慣性流産)や創傷治癒の遅延が出現します。
フィブリノゲン欠乏症の女性では排卵に伴う卵巣出血により腹腔内出血を生じることもある。一方、フィブリノゲン異常症では出血症状だけでなく血栓傾向を認める患者が約15%存在し、一部の患者では出血傾向と血栓傾向の両者を認めます。自然流産の原因ともなり、分娩後に過多出血や血栓塞栓症が出現することもあります。
②先天性プロトロンビン欠乏/異常症 皮下・鼻・歯肉出血、関節内・筋肉内血腫が生じます。異常症は無症候か比較的軽症です。
③先天性第V因子欠乏症 パラ血友病と称されます。皮下・鼻・歯肉出血、月経過多、筋肉内血腫を生じます。重症例もあるが、血友病に比較して臨床症状は比較的穏やかで無症候例もあります。
④先天性第VII因子欠乏症 皮下・鼻・歯肉・抜歯後・外傷後出血、月経過多を生じ、頭蓋内出血や胸腔内出血を認めることもあります。血友病と比較すると症状が軽微であるが、凝固因子活性が1%以下の患者では重症血友病に類似した重症出血を生じることがあります。
⑤先天性第X因子欠乏症 皮下・鼻・歯肉出血、外傷後過剰出血、月経過多、頭蓋内・関節内出血を生じます。出血の程度は第X因子活性と相関し、凝固因子レベルが1%以下の患者では、関節内、軟部組織、粘膜からの重症出血を生じます。
⑥先天性第XI因子欠乏症 血友病Cと称され、術後・外傷後出血を生じる。無症状も多く出血症状は比較的軽度であるが、線溶活性が亢進するため、線溶活性が高い部位での手術や外傷、抜歯時には出血傾向が強く現れます。
⑦先天性第XII因子欠乏症 通常出血傾向は認められません。
⑧先天性第XIII因子欠乏症 臍出血、臍帯脱落遅延、創傷治癒遅延、皮下出血、筋肉内・関節内出血、頭蓋内出血、自然流産(習慣性流産)を生じる。 第XIII因子は、フィブリンの架橋ならびにフィブリン塊の安定化に必須であるため、第XIII因子欠乏症では凝血塊が機械的に不安定となり、線溶系に対する感受性が高いため出血傾向を生じます。一時的に止血して24~36時間後に再び出血する後出血が特徴です。
治療
出血の可能性は個々の症例により異なるが、凝固第V因子活性をもとに治療計画を立てます。手術時や外傷時、重症出血時などの止血管理は、新鮮凍結血漿(FFP)の輸血を行います。凝固第V因子の生体内回収率は50~100%、半減期は36時間です。FFPは最初15~20ml/kgを静注し、続いて凝固第V因子活性20%を維持するように補充します。鼻出血や歯肉出血には、トラネキサム酸が有効です。
【参考文献】
一般社団法人日本血栓止血学会 – 第V因子欠乏症
