ガラクトース血症は、ガラクトース代謝の異常により生じる先天性疾患です。特にGALT遺伝子の変異によるクラシックガラクトース血症は、新生児期に肝機能障害や白内障、敗血症を引き起こし、未治療の場合は致命的となる可能性があります。本記事では、ガラクトース血症の原因、症状、診断、治療、予後について詳しく解説し、最新の治療法や研究の進展についても紹介します。
遺伝子・疾患名
GALT|Galactosemia
Galactose-1-phosphate uridylyltransferase (GALT) deficiency
概要 | Overview
ガラクトース血症(Galactosemia)は、ガラクトース代謝の先天性異常により発症する疾患群であり、特にガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(GALT)欠損に起因するクラシックガラクトース血症(タイプI)は最も重篤な病型とされる。GALT遺伝子の変異により酵素活性が著しく低下または消失し、乳糖を含む食品の摂取後にガラクトース-1-リン酸(Gal-1-P)やガラクトース代謝物が体内に蓄積することで、多臓器障害を引き起こす。特に新生児期には黄疸、肝機能障害、敗血症、白内障などの急性症状が現れることが多く、未治療の場合は致死的な転帰をたどることもある。
現在の標準治療は、乳糖・ガラクトース制限食による管理であり、新生児スクリーニングによる早期診断が重要である。しかし、厳格な食事管理にもかかわらず、神経学的発達遅滞、言語障害、骨密度低下、早発性卵巣不全(POI)などの長期合併症が高頻度で発生することが課題となっている。近年では、遺伝子治療やmRNA治療、薬理学的シャペロンなど、新たな治療戦略の開発が進められている。
疫学 | Epidemiology
クラシックガラクトース血症の発症率は民族によって大きく異なり、西欧諸国では1/16,000~1/50,000の頻度で報告されている。アイルランドでは特に高く、1/16,476であり、トラベラー民族では1/430と極めて高い頻度を示す。一方、日本では1/100,000、台湾では1/400,000、中国では1/759,428と比較的低頻度である。アフリカ系アメリカ人では、臨床変異型ガラクトース血症の原因となるp.Ser135Leu変異が高頻度に認められ、その発生率は1/20,000と推定されている。
病因 | Etiology
GALT遺伝子は染色体9p13に位置し、全長約4.3 kb、11個のエクソンから構成される。GALT酵素はホモ二量体であり、His-Pro-Hisモチーフを含む2つの機能部位を持つ。クラシックガラクトース血症は、GALT酵素活性の完全または著しい欠損によって生じる常染色体劣性遺伝疾患である。
GALT遺伝子の病的変異は319種類以上報告されており、そのうち70%がミスセンス変異である。特に、p.Gln188Arg(Q188R)は欧州系集団で最も頻度が高く、全変異アレルの約70%を占める。その他、p.Lys285Asn(K285N)がドイツおよびオーストリアで約54%、p.Ser135Leu(S135L)がアフリカ系アメリカ人集団で約50%、c.253–2 A>Gがヒスパニック系集団で約11%の割合で報告されている。
症状 | Symptoms
クラシックガラクトース血症の臨床症状は、新生児期の急性症状と長期合併症に大別される。
新生児期の症状
- 哺乳困難
- 嘔吐
- 低血糖
- 下痢
- 黄疸
- 肝腫大・肝機能障害
- 筋緊張低下
- 眼圧低下
- 腎尿細管障害
- 白内障
- 敗血症(特に大腸菌による感染症)
長期合併症
- 言語発達遅滞(特に小児失語症)
- 運動障害
- 認知機能障害
- 成長障害
- 低骨密度(骨粗鬆症)
- 早発性卵巣不全(POI)
検査・診断 | Tests & Diagnosis
ガラクトース血症の診断には、以下の検査が行われる。
- 新生児スクリーニング
- 血中ガラクトースおよびGal-1-Pの測定
- 赤血球GALT酵素活性測定
- GALT遺伝子変異解析
- 確定診断
- ガラクトース制限食施行後の臨床症状の改善
- 分子遺伝学的検査による病的変異の同定
治療法と管理 | Treatment & Management
現在の標準治療は、乳糖・ガラクトース制限食であり、以下の管理が推奨される。
- 食事管理
- 乳糖を含む食品の完全除去(母乳、乳製品、カゼイン・ホエイ含有食品の回避)
- カルシウム、ビタミンD、ビタミンKの補充
- 必要に応じて大豆ベースのフォーミュラミルク(ただし、痕跡量のガラクトースを含む可能性あり)
- 補助療法
- 早期言語療法(Babble Boot Camp など)
- 運動機能の評価とリハビリテーション
- ホルモン補充療法(早発性卵巣不全に対するエストロゲン補充)
- 新規治療法の開発
- 遺伝子治療(AAV9-hGALTを用いたGALT遺伝子導入)
- mRNA治療(LNP封入GALT mRNAの肝細胞への送達)
- 薬理学的シャペロン(変異GALTタンパク質の安定化)
予後 | Prognosis
新生児期の厳格な食事管理により急性症状は改善するが、長期合併症の発生を完全に防ぐことは困難である。特に、神経学的発達遅滞、言語障害、運動機能障害、早発性卵巣不全などのリスクが高い。現在、遺伝子治療やmRNA治療などの新規治療法が研究されており、今後の臨床応用が期待される。
ガラクトース血症の長期管理には、早期診断・介入、適切な食事管理、合併症のモニタリング、患者および家族の教育が重要であり、多職種による包括的なケアが求められる。
引用文献|References
- Wang, Yc., Lan, Lc., Yang, X. et al. A case report of classic galactosemia with a GALT gene variant and a literature review. BMC Pediatr 24, 352 (2024). https://doi.org/10.1186/s12887-024-04769-0
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キーワード|Keywords
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