グリコーゲン貯蔵病VII型(GSD VII)

PFKM|Glycogen Storage Disease, Type 7

グリコーゲン貯蔵病VII型(GSD VII)、別名タルイ病は、筋型ホスホフルクトキナーゼ(PFKM)の欠損によって引き起こされるまれな代謝疾患です。運動不耐性、筋痙攣、ミオグロビン尿、代償性溶血などの症状がみられます。本記事では、病因、症状、診断方法、治療管理についてわかりやすく解説します。

遺伝子・疾患名

PFKM|Glycogen Storage Disease, Type 7

Glycogen Storage Disease ⅶ; Tarui Disease; Muscle Phosphofructokinase Deficiency; Phosphofructokinase Myopathy

概要 | Overview

グリコーゲン貯蔵病VII型(GSD VII)、別名タルイ病(Tarui病)は、筋型ホスホフルクトキナーゼ(PFK)酵素の欠損により生じる常染色体劣性遺伝性代謝疾患である。本疾患は筋肉細胞内でのグリコーゲンの分解障害を引き起こし、エネルギー産生の低下をもたらす。主な臨床症状には運動不耐性、筋痙攣、努力性ミオパチー、代償性溶血が含まれる。病型は大きく4つの臨床型に分類される。

  1. 古典型(小児期発症):運動後の筋痛、痙攣、ミオグロビン尿を特徴とする。
  2. 重症乳児型(乳児期発症):低緊張、進行性筋症、心筋症、呼吸障害を呈し、多くは1歳未満で致死的となる。
  3. 遅発型(成人発症):主に近位筋の筋力低下が特徴であり、運動誘発性の筋症状を伴うことがある。
  4. 溶血型(筋症状を伴わない):溶血性貧血が主徴であり、筋関連の症状は認められない。

本疾患はPFKM遺伝子(12q13)の変異によって引き起こされる。現在までに27種類の病的変異が報告されており、アシュケナージ系ユダヤ人、日本人、およびヨーロッパ系民族に多いとされる。

疫学 | Epidemiology

GSD VIIは極めてまれな疾患であり、推定有病率は100万分の1未満とされる。世界的に報告数は限られているが、特定の民族集団において遺伝的な集積が認められる。特にアシュケナージ系ユダヤ人集団では、特定のスプライシング異常を引き起こす変異が優勢である。

病因 | Etiology

本疾患の原因は、PFKM遺伝子の変異による筋型ホスホフルクトキナーゼ(PFK-M)酵素の活性低下または欠損である。PFKは解糖系の律速酵素であり、フルクトース-6-リン酸をフルクトース-1,6-ビスリン酸に変換する役割を担う。

PFKには3つのアイソフォーム(M型、L型、P型)が存在し、それぞれ筋肉(M型)、肝臓(L型)、血小板(P型)に分布している。GSD VIIでは、筋型PFKが欠損するため、筋肉でのグリコーゲン分解が阻害され、エネルギー産生が低下する。

PFKM遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

1. 古典型(小児期発症)

  • 運動後の筋痛、筋痙攣
  • 努力性ミオパチー
  • ミオグロビン尿(長時間の運動後)
  • 高尿酸血症、黄疸(ビリルビン上昇)
  • クレアチンキナーゼ(CK)上昇

2. 重症乳児型

  • 低緊張(乳児期から)
  • 進行性筋症
  • 心筋症
  • 呼吸障害

3. 遅発型(成人期発症)

  • 近位筋優位の筋力低下
  • 軽度の運動不耐性

4. 溶血型

  • 溶血性貧血(筋症状なし)
  • 赤血球の早期破壊(代償性溶血)

検査・診断 | Tests & Diagnosis

  • 血液検査
    • クレアチンキナーゼ(CK)上昇
    • ビリルビン上昇(黄疸)
    • 高尿酸血症
  • 筋生検
    • 筋組織内のグリコーゲン蓄積
    • PFK活性の低下
  • 遺伝子検査
    • PFKM遺伝子の変異解析
    • 既知の病的変異のスクリーニング
  • 運動負荷試験
    • アイソトープ検査により筋内グリコーゲン分解の異常を確認
    • 虚血運動試験で静脈乳酸値の上昇が見られない(GSD Vと異なる)

治療法と管理 | Treatment & Management

1. 運動管理

  • 短時間の高強度運動を避ける(特に無酸素運動)
  • 低強度の持続的運動(ウォーキング、軽いストレッチ)を推奨
  • 糖質摂取によるエネルギー補給は逆効果(グリコーゲンおよび血糖の利用が妨げられるため)

2. 栄養管理

  • 高タンパク食が有用な可能性(十分なエビデンスはないが、ミトコンドリア代謝の代替エネルギー源としての活用)
  • 脂質利用促進を考慮(中鎖脂肪酸の摂取など)
  • 脱水予防(水分補給をこまめに行い、ミオグロビン尿による腎障害を防ぐ)

3. 薬物療法

  • 鎮痛剤(アセトアミノフェン):軽度の筋痛緩和
  • 抗高尿酸血症薬(アロプリノールなど):高尿酸血症を伴う場合

4. 予防策

  • 筋疲労のサイン(痙攣、痛み)を見極めて適切に運動量を調整
  • 定期的な腎機能モニタリング(ミオグロビン尿による腎障害リスク)

予後 | Prognosis

GSD VIIの予後は病型により異なる

  • 古典型:運動制限を適切に行えば、生活の質(QOL)は維持可能
  • 重症乳児型:進行性の筋症・心筋症により1歳未満での致死率が高い
  • 遅発型:進行は比較的緩やかであり、日常生活の調整で適応可能
  • 溶血型:筋症状がないため、生命予後は良好

現在のところ根本的な治療法はなく、症状管理が中心となる。しかし、遺伝子治療の研究が進行中であり、将来的な治療の可能性が示唆されている。

引用文献|References

キーワード|Keywords

グリコーゲン貯蔵病VII型, GSD VII, タルイ病, PFKM, 筋型ホスホフルクトキナーゼ, 運動不耐性, ミオグロビン尿, 代償性溶血, 筋痙攣, 希少疾患, 遺伝子変異, 筋疾患, 先天性代謝異常, 解糖系障害