ヘモクロマトーシス3型(TFR2関連)は、TFR2遺伝子の変異により鉄の恒常性が乱れ、肝臓や心臓、膵臓などに過剰な鉄が蓄積する希少疾患です。本記事では、その原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説し、適切な管理方法を紹介します。早期診断と治療の重要性を知り、健康維持に役立てましょう。
遺伝子・疾患名
TFR2|Hemochromatosis, Type 3 (TFR2-related)
概要 | Overview
ヘモクロマトーシス3型(TFR2関連)は、TFR2遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性鉄過負荷症であり、主に肝臓、心臓、膵臓、関節などの臓器に鉄が異常に蓄積することで発症する。典型的な症状には肝疾患、糖尿病、関節炎、皮膚の色素沈着、心血管疾患、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症が含まれる。本疾患は進行性であり、治療が遅れると肝硬変や肝細胞癌などの深刻な合併症を引き起こす可能性がある。
TFR2遺伝子はトランスフェリン受容体2をコードし、体内の鉄恒常性を調節する重要な役割を果たす。この遺伝子の変異によってヘプシジン(HAMP遺伝子によりコードされる鉄調節ホルモン)の発現が低下し、鉄の吸収が制御不能になることが病態の根本的な要因である。本疾患は常染色体劣性遺伝形式で遺伝する。
診断には血清鉄マーカー(フェリチン、トランスフェリン飽和度)、肝臓の画像診断、遺伝子検査が用いられる。治療の第一選択肢は瀉血療法であり、鉄負荷を低減し、臓器障害を防ぐことを目的とする。
疫学 | Epidemiology
ヘモクロマトーシス3型は極めて稀な疾患であり、その有病率は100万人あたり1人未満と推定される(<1/1,000,000, 世界規模)。本疾患の報告例は主にヨーロッパに集中しており、アジア人では非常に稀である。TFR2遺伝子の変異によるヘモクロマトーシスは遺伝的浸透率が100%ではなく、環境要因(慢性肝炎、低鉄食、慢性出血)や遺伝的要因(ヘモグロビノパシーなど)の影響を受ける可能性がある。
報告されている最年長の発症例は82歳の患者であり(Roetto et al., 2001)、最年少の発症例は2歳の小児であった(Khayat et al., 2019)。一方で、一部の患者では低鉄食や月経過多、慢性胃炎(Helicobacter pylori関連)による鉄欠乏を示す例も報告されている(Girelli et al., 2002)。
病因 | Etiology
TFR2遺伝子(7q22.1)のホモ接合または複合ヘテロ接合変異が本疾患の原因となる。TFR2は肝臓や骨髄の赤芽球に発現し、鉄の恒常性維持に重要な役割を果たしている。TFR2の変異により、ヘプシジンの発現が減少し、十二指腸からの鉄吸収が制御不能となる。これにより、過剰な鉄が体内に蓄積し、様々な臓器に損傷を与える。
TFR2遺伝子変異に関連する代表的な病的変異には以下がある。
- p.Arg30ProfsTer31(Roetto et al., 2001)
- p.Ser470Ile(Khayat et al., 2019)
- p.Ala621_Gln624del(Girelli et al., 2002)
- p.G446E(日本の報告例)
症状 | Symptoms
本疾患の症状は、鉄の蓄積が進行するにつれて現れる。
初期症状:
- 倦怠感、疲労感
- 関節痛(特に第2・3中手指節関節)
- 腹痛
- 性欲低下
進行した場合の症状:
- 肝疾患(肝腫大、肝線維症、肝硬変)
- 糖尿病
- 皮膚の色素沈着(「ブロンズ糖尿病」)
- 心不全(心筋鉄沈着による)
- 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
- 関節症(特に手指の関節)
検査・診断 | Tests & Diagnosis
診断には以下の方法が用いられる。
血液検査:
- 血清フェリチン値(>1000 ng/mLで肝線維化のリスク増加)
- トランスフェリン飽和度(>45%でヘモクロマトーシスの可能性高)
- 血清鉄・TIBC(鉄結合能)
- ヘプシジン-25(低値)
画像診断:
- 腹部MRI(肝臓の鉄沈着をT2*-weighted imagingで評価)
- 腹部CT(肝実質の高吸収)
遺伝子検査:
- TFR2遺伝子の病的変異を同定
治療法と管理 | Treatment & Management
瀉血療法:
- 第一選択肢として、定期的な瀉血を実施
- 目標: 血清フェリチン50–100 ng/mL、ヘモグロビン11–12 g/dL
- 瀉血頻度: 初期は週1回、その後は状態に応じて調整
鉄キレート療法:
- 瀉血不能例(貧血合併など)ではデフェロキサミン、デフェラシロクスを使用
生活習慣の管理:
- 鉄分摂取制限(特にレバー、赤身肉、鉄強化食品の摂取制限)
- アルコール制限(ヘプシジン抑制作用による鉄吸収増加を防ぐ)
- ビタミンC過剰摂取の回避(鉄吸収促進作用があるため)
合併症の管理:
- 肝硬変の進行評価(肝生検、MRIによる鉄濃度測定)
- 糖尿病の管理(血糖コントロール)
- 関節症の管理(鎮痛薬、理学療法)
予後 | Prognosis
早期診断と適切な治療(特に瀉血療法)が行われた場合、ヘモクロマトーシス3型の予後は良好であり、肝硬変や心不全のリスクを低減できる。しかし、診断の遅れや治療の遅延があると、肝硬変や肝細胞癌、心筋症などの重篤な合併症を引き起こす可能性がある。
鉄過剰の蓄積による臓器障害は不可逆的な場合があるため、早期の介入が重要である。また、遺伝子変異の浸透率が100%ではないため、リスクのある家族のスクリーニングを行い、適切なフォローアップを行うことが推奨される。
引用文献|References
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キーワード|Keywords
ヘモクロマトーシス, TFR2, TFR2変異, 遺伝性鉄過負荷, 鉄沈着症, 遺伝子変異, ヘプシジン, トランスフェリン受容体, 肝疾患, 糖尿病, 心筋症, 瀉血療法