低ホスファターゼ症

ALPL|Hypophosphatasia (ALPL-related)

低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia, HPP)は、骨や歯の石灰化異常を引き起こす希少疾患です。ALPL遺伝子の変異が原因で、症状は出生前から成人まで多岐にわたります。本記事では、HPPの病因、診断方法、最新の治療法について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

ALPL|Hypophosphatasia (ALPL-related)

Phosphoethanolaminuria; Deficiency of Alkaline Phosphatase; Rathbun Disease

概要 | Overview

低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia, HPP)は、ALKP遺伝子(ALPL)の変異による稀な遺伝性代謝疾患であり、組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)の活性低下を特徴とする。これにより、骨および歯の石灰化異常が引き起こされる。症状は出生前の致死的な骨発育障害から、成人期における反復性の骨折や筋骨格系の痛みに至るまで、非常に多様である。特に、乳児期発症型では呼吸不全やビタミンB6依存性痙攣、発育障害が見られる一方で、最も軽症の歯科型(オドント低ホスファターゼ症)では歯の発育異常や早期脱落が主な症状となる。遺伝形式は常染色体劣性および常染色体優性の両方が報告されている。

疫学 | Epidemiology

HPPの有病率は型によって異なる。最も重症な周産期型および乳児型の発症率は、カナダのオンタリオ州において1/100,000と推定されており、フランスでは1/300,000とされる。一方、軽症型を含めると、発症率は1/6,300から1/2,430と報告されている。特定の民族集団における創始者変異の影響も報告されており、例えばカナダ・メノナイト集団では周産期型の発症率が1/2,500とされる。日本では、病的変異c.1559delTの頻度を基に、重症型HPPの出生頻度は1/150,000と推定されている。

病因 | Etiology

HPPは、ALPL遺伝子の変異によりTNSALPの活性が低下し、その結果、無機ピロリン酸(PPi)、ピリドキサール5′-リン酸(PLP)、ホスホエタノールアミン(PEA)の分解が阻害されることで発症する。PPiの蓄積は骨石灰化を阻害し、リケッチや骨軟化症を引き起こす。PLPの代謝障害により中枢神経系でのビタミンB6欠乏が生じ、重症型HPPの乳児においてはビタミンB6依存性痙攣が発生する。ALPL変異の大部分はミスセンス変異であり、優性ネガティブ効果を持つ変異が優性遺伝型のHPPに関連している。

ALPL遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

HPPの臨床症状は発症年齢や重症度によって大きく異なるが、一般に以下の7つの臨床型に分類される。

  • 周産期型(重症):出生前または出生直後に発症し、重度の骨発育異常、呼吸不全、高カルシウム血症を伴う。多くの症例で致死的となる。
  • 周産期型(良性):出生前の骨異常が出生後に改善する。
  • 乳児型:生後6か月以内に発症し、リケッチ様の骨異常、筋力低下、発育障害、ビタミンB6依存性痙攣がみられる。
  • 小児型(重症):進行性のリケッチ、短身、歩行困難、骨痛が主な症状。
  • 小児型(軽症):骨密度低下や乳歯の早期脱落を特徴とする。
  • 成人型:ストレス骨折や偽骨折、早期の成人歯脱落、関節痛が特徴。
  • 歯科型(オドントHPP):骨異常を伴わず、歯の発育異常や早期脱落のみが見られる。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

HPPの臨床症状は発症年齢や重症度によって大きく異なるが、一般に以下の7つの臨床型に分類される。

  • 周産期型(重症):出生前または出生直後に発症し、重度の骨発育異常、呼吸不全、高カルシウム血症を伴う。多くの症例で致死的となる。
  • 周産期型(良性):出生前の骨異常が出生後に改善する。
  • 乳児型:生後6か月以内に発症し、リケッチ様の骨異常、筋力低下、発育障害、ビタミンB6依存性痙攣がみられる。
  • 小児型(重症):進行性のリケッチ、短身、歩行困難、骨痛が主な症状。
  • 小児型(軽症):骨密度低下や乳歯の早期脱落を特徴とする。
  • 成人型:ストレス骨折や偽骨折、早期の成人歯脱落、関節痛が特徴。
  • 歯科型(オドントHPP):骨異常を伴わず、歯の発育異常や早期脱落のみが見られる。

治療法と管理 | Treatment & Management

標的治療

アスホターゼアルファ(Strensiq®)は、幼児型および小児型HPPに対する酵素補充療法(ERT)として承認されており、骨石灰化の改善や生存率向上に寄与する。成人型の骨軟化症に対する使用も報告されている。

支持療法

  • 周産期型(重症):呼吸管理、カルシウム代謝の調整、鎮痛、腎機能管理。
  • 乳児型・小児型:呼吸管理、骨健康管理、鎮痛、ビタミンB6補充、頭蓋縫合早期癒合管理、歯科管理。
  • 成人型・オドントHPP:歯科ケア、骨痛や骨軟化症の治療、偽骨折の内固定。

予防策と注意点

  • 避けるべき薬剤:ビスホスホネート、過剰なビタミンD、テリパラチド(小児で禁忌)。
  • 妊娠管理:アスホターゼアルファの妊娠中の安全性は確立されていない。

予後 | Prognosis

HPPの予後は発症年齢と重症度に依存する。周産期型(重症)は高い致死率を示すが、ERTにより改善が見られる場合もある。乳児型は未治療では約50%の死亡率を示すが、ERTにより生存率が向上する。小児型および成人型では、病的骨折の管理が重要であり、適切な治療により生活の質を向上させることが可能である。オドントHPPは一般に良好な予後を示すが、歯科的管理が重要となる。

低ホスファターゼ症は多様な臨床経過をたどるため、個々の症例に応じた適切な治療と管理が不可欠である。

引用文献|References

キーワード|Keywords

低ホスファターゼ症, Hypophosphatasia, HPP, ALPL遺伝子, 組織非特異的アルカリホスファターゼ, 骨軟化症, リケッチ, 偽骨折, 酵素補充療法, アスホターゼアルファ, 遺伝子変異, 早期歯の脱落