封入体ミオパチーⅡ型

GNE|Inclusion Body Myopathy Type 2

GNEミオパチー(野中ミオパチー、遠位型ミオパチー)は、GNE遺伝子の変異によって発症する希少な筋疾患です。主に下肢の筋力低下から始まり、徐々に進行しますが、大腿四頭筋は比較的温存される特徴があります。本記事では、GNEミオパチーの症状、診断、治療の進展について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

GNE|Inclusion Body Myopathy Type 2

Nonaka Myopathy; Gne Myopathy; Distal Myopathy with Rimmed Vacuoles; Distal Myopathy, Nonaka Type; Quadriceps-Sparing Myopathy

概要 | Overview

GNEミオパチー(GNE筋症)は、インクルージョンボディミオパチー2型(IBM2)、野中ミオパチー、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)、遺伝性インクルージョンボディミオパチー(HIBM)、大腿四頭筋温存型ミオパチーとも呼ばれる、稀な常染色体劣性の神経筋疾患である。この病気はGNE遺伝子の変異によって引き起こされる。この遺伝子はシアル酸という糖の合成に関与する二機能性酵素をコードしており、このシアル酸は細胞機能において重要な役割を果たしている。GNEミオパチーの主な特徴は、進行性の筋力低下であり、特に遠位筋が影響を受けるが、大腿四頭筋は比較的温存されることが多い。発症は通常、若年成人期(20代〜30代)であり、徐々に重症化していく。

疫学 | Epidemiology

GNEミオパチーは世界的に見られる疾患であるが、一部の集団では特定の遺伝的要因(創始者変異)により発症率が高い。世界全体の推定有病率は100万人あたり1〜9人とされる。特に中東のユダヤ人、日本人、インド系住民、ロマ民族では有病率が高く、それぞれの集団に特有の変異が確認されている。例えば、中東地域ではp.M743T変異、日本ではp.V603L変異が多く見られる。近年の研究では、診断率の低さや臨床的認識の不足により、実際の患者数は推定よりも多い可能性が指摘されている。

病因 | Etiology

GNEミオパチーは、GNE遺伝子の両アレルに変異が生じることで発症する。GNE遺伝子は染色体9p12-13に位置し、UDP-N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼとN-アセチルマンノサミンキナーゼという二つの酵素活性を持つ。この酵素はシアル酸の生合成において重要な役割を担う。GNE遺伝子に変異が生じると、この経路が障害され、シアル酸の不足(低シアル酸化)が起こり、筋組織の変性を引き起こすと考えられている。また、ミトコンドリア機能異常や異常タンパク質の蓄積、細胞骨格の変化など、他の病態メカニズムも関与している可能性がある。

GNE遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

本疾患の初発症状は、足の筋力低下、特に前脛骨筋の萎縮による足関節背屈障害(フットドロップ)である。これにより、つまずきやすくなり、階段の昇降が困難になる。症状は徐々に進行し、下肢全体や上肢(特に手指の筋肉や深指屈筋)にも影響を及ぼす。特徴的な所見として、大腿四頭筋は比較的温存されることが多い。疾患が進行すると、日常生活の移動が困難となり、発症から10〜20年以内に車椅子が必要になることが多い。呼吸機能は通常は保たれるが、一部の患者では軽度の拘束性肺疾患や睡眠時無呼吸が報告されている。心疾患の合併は稀であるが、一部の患者では血小板減少症が確認されている。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

診断は、臨床症状、画像診断、病理組織学的所見、および遺伝子検査に基づいて行われる。血清クレアチンキナーゼ(CK)値は正常から軽度上昇の範囲にあることが多い。筋電図(EMG)ではミオパチー性変化が認められ、MRIによる筋画像では前脛骨筋の高度な萎縮と大腿四頭筋の相対的温存が特徴的に見られる。筋生検では、縁取り空胞(リムドバキュオール)、細胞質封入体、アミロイド沈着が確認される。確定診断には、GNE遺伝子の両アレルに病的変異が認められることが必要である。最近では、低シアル酸化を指標とするバイオマーカーの研究が進められている。

治療法と管理 | Treatment & Management

GNEミオパチーの根本的治療法は確立されていないが、複数の治療戦略が研究されている。シアル酸補充療法として、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)やN-アセチルマンノサミン(ManNAc)が前臨床試験および初期臨床試験で有望な結果を示しているが、拡張放出型Neu5Acの第3相試験では有意な効果は確認されなかった。ManNAc療法は疾患進行の抑制に一定の効果が示されており、現在も臨床試験が進行中である。遺伝子治療の研究も進められており、GNE遺伝子の導入を目的とした治療法が模索されている。対症療法としては、理学療法、装具(フットドロップ補助装具)および移動支援機器が推奨される。呼吸機能や心機能の管理も必要に応じて行われる。日本では2024年に拡張放出型アセノイラミン酸製剤がGNEミオパチー治療薬として承認され、大きな進展となった。

予後 | Prognosis

GNEミオパチーは緩徐進行性の疾患であり、多くの患者が発症後10〜20年以内に車椅子の使用を必要とするようになる。しかし、一般的には寿命には影響を及ぼさないとされる。大腿四頭筋が温存されることにより、他のミオパチーと比較して長期間歩行が可能であることが特徴である。早期のリハビリテーション介入により、移動能力の低下を遅らせることができる。現在の治療法は対症療法にとどまっているが、シアル酸補充療法や遺伝子治療の研究が進められており、将来的な疾患修飾療法の開発が期待される。遺伝子スクリーニングの進歩と早期診断の普及が、今後の患者の予後改善に重要となる。

引用文献|References

キーワード|Keywords

GNEミオパチー, 野中ミオパチー, 遠位型ミオパチー, インクルージョンボディミオパチー, 遺伝性筋疾患, GNE遺伝子, シアル酸代謝, フットドロップ, 筋力低下, 遺伝子治療, シアル酸補充療法, 希少疾患

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