メチルグルタコン酸尿症

OPA3|3-Methylglutaconic Aciduria, Type 3

Costeff症候群(3-メチルグルタコン酸尿症タイプ3)は、OPA3遺伝子の変異により発症する希少疾患で、幼少期の両側性視神経萎縮と進行性の運動障害を特徴とします。本記事では、疾患の概要、診断方法、治療アプローチについて詳しく解説し、早期発見と適切な管理の重要性を探ります。

遺伝子・疾患名

OPA3|3-Methylglutaconic Aciduria, Type 3

Costeff Syndrome

概要 | Overview

3-メチルグルタコン酸尿症(3-Methylglutaconic Aciduria, 3-MGA)は、代謝異常を伴う希少疾患群であり、その中でもタイプ3(Costeff症候群)は、OPA3遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性遺伝疾患である。本疾患は、幼少期に発症する両側性視神経萎縮を主徴とし、成長とともに運動機能の障害(痙縮性対麻痺、運動失調、舞踏病アテトーゼなど)を伴うのが特徴である。

本症候群は、1989年にCosteffらによって最初に報告され、主にイラク系ユダヤ人の集団で発症率が高いことが指摘されている。尿中には3-メチルグルタコン酸(3-MGA)の異常排泄が認められ、ミトコンドリア機能異常が関与する疾患と考えられている。本稿では、Costeff症候群の疫学、病因、症状、診断方法、治療・管理、予後について詳述する。

疫学 | Epidemiology

Costeff症候群は極めてまれな遺伝性疾患であり、1989年の初報告以降、これまでに約50例の患者が文献上報告されている。特にイラク系ユダヤ人の集団において頻度が高く、近親婚が発症リスクを高める要因の一つと考えられている。2014年のYahalomらの報告では、28名の患者(21家系)が調査され、そのうち9家系では両親が近親婚であった。

本疾患は、乳幼児期に視神経萎縮として発症し、青年期までに進行性の運動障害を呈するが、進行速度は遅く、50歳代でも歩行可能な例が報告されている。また、知的障害の程度には個人差があり、一部の患者では軽度の認知機能低下がみられる。

病因 | Etiology

Costeff症候群の原因遺伝子であるOPA3は、ミトコンドリア内膜に局在するタンパク質をコードしており、その正確な機能は未だ完全には解明されていない。しかし、ミトコンドリアのエネルギー代謝に関与していると考えられている。

1997年、Nystuenらが本疾患の原因遺伝子を19q13.2-q13.3に同定し、2001年にはAniksterらがOPA3遺伝子のc.143-1G>Cスプライス部位変異を報告した。この変異はOPA3のmRNA発現を阻害し、機能的OPA3タンパク質の産生を妨げると考えられる。

ミトコンドリア機能異常により、3-メチルグルタコン酸の異常排泄が生じることが本疾患の代謝的特徴である。この代謝異常は、視神経萎縮や運動機能障害を引き起こす神経変性プロセスに関与すると考えられている。

OPA3遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

Costeff症候群の主要症状は以下の通りである。

  1. 両側性視神経萎縮(小児期発症)
    • 進行性の視力低下
    • 水平眼振や視野欠損
    • 視神経乳頭蒼白(OCTにて網膜神経線維層の菲薄化が確認される)
  2. 運動機能障害(青年期以降に進行)
    • 痙縮性対麻痺
    • 運動失調(失調性歩行)
    • 舞踏病アテトーゼ(不随意運動)
  3. その他の神経症状
    • 認知機能低下(軽度〜中等度)
    • 小脳萎縮に伴う構音障害

症状の進行は緩徐であり、多くの患者は高齢になっても自力歩行が可能である。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

Costeff症候群の診断には、以下の検査が有用である。

  1. 尿中有機酸分析
    • 3-メチルグルタコン酸(3-MGA)の異常排泄が確認される。
  2. 遺伝子検査
    • OPA3遺伝子の変異を検出(代表的な変異:c.143-1G>C)。
  3. 神経眼科検査
    • 視神経萎縮の確認(OCT、視野検査、視覚誘発電位など)。
  4. MRI
    • 小脳萎縮や視交叉の萎縮を伴うことがある。

治療法と管理 | Treatment & Management

現在、Costeff症候群に対する根治療法は存在しない。そのため、症状に応じた対症療法が中心となる。

  1. 視覚リハビリテーション
    • 視覚補助具の利用
    • 視力低下への適応訓練
  2. 運動機能改善のためのリハビリテーション
    • 理学療法・作業療法
    • 痙縮に対するボツリヌス毒素注射
  3. 栄養・代謝管理
    • ミトコンドリア機能を損なう薬剤やアルコールを避ける。
    • L-カルニチン補充療法の有効性が示唆されているが、確立された治療法ではない。
  4. 遺伝カウンセリング
    • 発症リスクの評価と家族計画への助言。

予後 | Prognosis

Costeff症候群の進行は緩徐であり、患者の寿命に大きな影響を及ぼすことは少ない。しかし、視覚障害と運動機能障害は進行性であり、日常生活に支障をきたす可能性がある。

近年、OCTやMRIを用いた詳細な神経眼科的評価が進み、病態の理解が深まっている。今後、ミトコンドリア機能を標的とした新たな治療法の開発が期待される。

本疾患は稀であるため、早期診断と適切な管理が重要であり、特に視力低下を初発症状とする神経変性疾患との鑑別が求められる。

引用文献|References

キーワード|Keywords

Costeff症候群, 3-メチルグルタコン酸尿症, 3-MGA, OPA3, 視神経萎縮, 痙縮性対麻痺, 遺伝性疾患, ミトコンドリア異常, 神経変性疾患, 眼科疾患, 遺伝子検査, 希少疾患