原発性免疫不全症候群

CIITA|Bare Lymphocyte Syndrome (CIITA-related)

裸リンパ球症候群(BLS II)は、主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHC-II)の発現異常によって引き起こされる重篤な原発性免疫不全症です。本記事では、BLS IIの原因となるCIITA遺伝子変異に焦点を当て、病因、症状、診断方法、治療法、予後について詳しく解説します。特に、遺伝子解析の役割と造血幹細胞移植(HSCT)を含む治療戦略に関する最新の知見を提供し、早期診断の重要性を強調します。

遺伝子・疾患名

CIITA|Bare Lymphocyte Syndrome (CIITA-related)

概要 | Overview

裸リンパ球症候群(Bare Lymphocyte Syndrome, BLS)は、主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHC-II)の発現異常によって引き起こされる先天性免疫不全症である。特にBLS IIは、MHC-II遺伝子の転写を制御する転写因子の異常によって発症し、抗原提示細胞(APC)におけるMHC-II分子の欠如を特徴とする。この疾患の最も一般的な原因は、CIITA(クラスIIトランスアクチベーター)遺伝子、またはRFX5、RFXANK、RFXAPといった転写因子関連遺伝子の変異である。CIITA変異によるBLS IIは全症例の約9%を占め、特に免疫応答に重要な役割を果たす。

BLS IIの患者は、生後早期から重篤な細菌・ウイルス・真菌・寄生虫感染症に罹患しやすく、主に消化管および呼吸器系の感染が頻発する。免疫グロブリン異常やTリンパ球の異常も認められ、疾患の進行に伴い、成長障害や神経発達遅滞が見られることがある。本疾患は予後不良であり、根治的治療法として造血幹細胞移植(HSCT)が考えられるが、適切なドナーを見つけることが難しく、また移植後の免疫再構築が遅延する傾向がある。

疫学 | Epidemiology

BLS IIは極めて稀な疾患であり、全世界で約200例が報告されている。特に近親婚の多い地域(北アフリカ、中東、南アジア)において高い発生率が認められている。約3分の2の症例は北アフリカ地域から報告されており、この地域ではRFXANK遺伝子の変異が最も一般的である。

本症候群の遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり、近親婚が多い家庭では発症リスクが高い。これまでの報告によると、BLS IIの大多数はRFXANK遺伝子の変異(75.3%)に起因し、次いでRFX5、RFXAP、CIITAの順に頻度が低くなる。CIITA遺伝子変異によるBLS IIは比較的稀であり、全体の9%程度に過ぎない。

病因 | Etiology

BLS IIの発症には、MHC-II遺伝子の転写を制御する転写因子の機能喪失が関与している。MHC-II遺伝子は、X、X2、Y、W/Sの4つのシス作用エレメントを持つプロモーターを介して制御されており、これらの部位には以下の転写因子が結合する。

  • RFX複合体(RFXANK、RFX5、RFXAP):Xボックスに結合し、MHC-II転写の基盤を形成
  • CREB(cAMP応答要素結合タンパク質):X2ボックスに結合
  • NF-Y(CCAATボックス結合タンパク質):Yボックスに結合
  • CIITA(クラスIIトランスアクチベーター):RFX複合体に結合し、転写を開始

CIITAはMHC-II遺伝子の発現を調節する「マスターコントローラー」とされ、直接DNAに結合することなく、他の転写因子を介してMHC-II遺伝子の転写を活性化する。CIITAの変異は、MHC-IIの発現障害を引き起こし、CD4+ T細胞の発達や抗体産生に深刻な影響を及ぼす。

CIITA遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

BLS IIの典型的な症状は、早期発症の反復感染であり、特に肺炎、慢性下痢、口腔カンジダ症などが頻繁に見られる。一般的な病原体として、以下のものが挙げられる。

  • 細菌:サルモネラ属、肺炎球菌、ブドウ球菌
  • ウイルス:ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)
  • 真菌:ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)、カンジダ属
  • 寄生虫:クリプトスポリジウム属

その他の特徴的な症状には、成長障害、免疫グロブリンの異常、CD4+ T細胞の減少、および神経発達遅滞が含まれる。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

BLS IIの診断は、以下の検査を組み合わせて行われる。

  1. フローサイトメトリー:B細胞や単球におけるHLA-DR(MHC-II)の発現を評価
  2. 免疫グロブリン測定:IgG、IgA、IgMの低下を確認
  3. リンパ球サブセット解析:CD4+/CD8+比の逆転(CD4+低下、CD8+増加)
  4. 遺伝子解析:CIITA、RFX5、RFXANK、RFXAPの変異を検出

治療法と管理 | Treatment & Management

現在、BLS IIの根治療法は造血幹細胞移植(HSCT)のみである。治療戦略には以下が含まれる。

  1. 感染予防
    • 抗菌薬(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)
    • 抗ウイルス薬(ガンシクロビル)
    • 抗真菌薬(フルコナゾール)
  2. 免疫補助療法
    • 免疫グロブリン補充療法(IVIG)
  3. HSCTの適応評価と移植
    • HLA適合ドナーからの移植が理想的
    • HLA不適合移植の場合、強化された免疫抑制療法が必要

予後 | Prognosis

BLS IIの予後は一般に不良であり、多くの患者が幼少期に重篤な感染症で死亡する。HSCTを受けた患者の生存率は40〜80%と報告されているが、診断時の年齢、移植前の感染状態、移植後の免疫再構築の進行度によって大きく異なる。

一部の患者は適切なIVIGおよび抗生物質治療によって20代まで生存した例も報告されているが、ほとんどの患者は5歳未満で死亡する。したがって、早期診断と迅速なHSCTの実施が生存率向上の鍵となる。

引用文献|References

キーワード|Keywords

裸リンパ球症候群, BLS II, CIITA, MHC-II欠損症, 免疫不全症, 遺伝性疾患, 造血幹細胞移植, RFX5, RFXANK, RFXAP, CD4+T細胞, HLA-DR, 原発性免疫不全, 免疫グロブリン補充療法, 遺伝子検査

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