低髄鞘化を伴う白質ジストロフィー6型(HLD6/H-ABC症候群)

医者

低髄鞘化を伴う白質ジストロフィー6型、あるいはH-ABC症候群という、おそらくこれまでに聞いたこともないような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による脳の病気です」と説明を受け、さらに「脳の白質という部分がうまく育っていません」や「大脳基底核という場所が小さくなっています」といった専門的な話をされて、計り知れない衝撃と不安の中にいらっしゃることと思います。特に、白質ジストロフィーという言葉自体が重く響き、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が限られているため、これからお子さんがどうなってしまうのか、どう育てていけばいいのかと、途方に暮れているかもしれません。

この病気は、医学的には「Hypomyelinating Leukodystrophy type 6」と表記され、頭文字をとってHLD6と呼ばれます。また、過去にはその特徴的なMRI画像所見から「大脳基底核と小脳の萎縮を伴う低髄鞘化症」、略してH-ABC症候群と呼ばれていたこともあり、現在でもこちらの名前で呼ばれることが多くあります。

原因となる遺伝子はTUBB4Aというもので、この遺伝子に変化が起きることで、脳の神経細胞を包むカバーである髄鞘がうまく作られなくなったり、脳の特定の部位が萎縮してしまったりする先天性の疾患です。

非常に希少な疾患ですが、2000年代以降にMRIによる診断技術が普及し、さらに遺伝子解析が進んだことで、世界中で診断される患者さんが増えてきています。

根本的な治療法はまだ研究段階ですが、この病気の特徴を正しく理解し、早期からリハビリテーションや適切なケアを行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、その子らしい成長を支え、笑顔溢れる生活を送ることは十分に可能です。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はあくまで医学的な分類であり、お子さんの未来や可能性をすべて決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、生きる力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気が体の中で何を起こしているのか、全体像を理解するために、いくつかのキーワードを紐解いていきましょう。

白質ジストロフィーと髄鞘

私たちの脳は、神経細胞が集まっている灰白質と、神経細胞から伸びる電線のような神経線維が集まっている白質という部分に分かれています。

この神経線維は、髄鞘、あるいはミエリンと呼ばれる脂質とタンパク質でできた膜で何層にも包まれています。これは家庭にある電気コードをイメージしてください。銅線がむき出しだと電気はうまく流れませんが、ゴムのカバーで覆われていることで、電気信号が漏れずに素早く伝わります。このゴムカバーの役割をしているのが髄鞘です。

白質ジストロフィーとは、この髄鞘の形成や維持に問題が生じる病気の総称です。

その中でも、HLD6は「低髄鞘化」というタイプに分類されます。これは、一度作られた髄鞘が壊れてしまうのではなく、最初から髄鞘が十分に作られない、あるいは作られる量が極端に少ない状態を指します。

カバーが薄いため、脳からの指令が体へうまく伝わらなかったり、感覚の情報が脳へ届きにくかったりします。

H-ABC症候群との関係

HLD6という診断名は、遺伝子的な分類に基づく新しい名前です。

一方、H-ABC症候群という名前は、遺伝子の原因がわかる前から、特徴的なMRI画像所見を持つ患者さんたちのグループにつけられていた名前です。

H-ABCとは、「Hypomyelination with Atrophy of the Basal Ganglia and Cerebellum」の頭文字をとったもので、日本語に訳すと「大脳基底核と小脳の萎縮を伴う低髄鞘化」という意味になります。

2012年から2013年にかけて、H-ABC症候群の患者さんの多くにTUBB4A遺伝子の変異が見つかったことで、現在ではHLD6とH-ABC症候群はほぼ同じ病気を指す言葉として使われています。

発生頻度

非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、白質ジストロフィー全体の中でも比較的稀なタイプです。

しかし、MRI検査で特徴的な所見が見られるため、診断技術の向上とともに報告数は増えています。

性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。

主な症状

HLD6の症状は、脳のどの部分が影響を受けているかによって様々ですが、主に運動機能の発達に影響が出ます。

症状の程度には個人差があり、乳児期から重い症状が出るお子さんもいれば、ゆっくりながらも歩けるようになるお子さんもいます。

1. 運動発達の遅れ

ご家族が最初に気づくことが多い症状です。

首すわり、お座り、ハイハイ、つかまり立ちといった運動のマイルストーンが、一般的な時期よりも遅れます。

軽症の例では、少し遅れて歩き始めることができる場合もありますが、不安定で転びやすかったり、走るのが苦手だったりすることがあります。

重症の例では、首がすわるのに時間がかかり、座位や立位の獲得が難しいこともあります。

2. ジストニア(筋緊張異常)

HLD6の非常に特徴的かつ重要な症状の一つです。

ジストニアとは、自分の意思とは関係なく筋肉に力が入ってしまい、体がねじれたり、固まったりしてしまう症状のことです。

これは、脳の深部にある大脳基底核という部分が、筋肉の緊張をうまく調節できなくなるために起こります。

例えば、足が突っ張ってしまって地面にうまくつけない、腕が勝手に後ろにねじれる、首が後ろに反り返るといった動きが見られます。

緊張が高まると痛みを感じたり、関節が固まって動かしにくくなったりする拘縮の原因にもなるため、リハビリや薬でのコントロールが重要になります。

3. 小脳失調

小脳は、体のバランスをとったり、動きをスムーズにしたりする役割を持っています。

HLD6では小脳が小さくなる(萎縮する)ことが多いため、小脳失調と呼ばれる症状が現れます。

具体的には、座っていても体がグラグラする、物を取ろうとした時に手が震える、歩く時にふらつくといった症状です。

4. 眼球運動障害と視覚

目の動きにも特徴が現れることがあります。

眼振といって、黒目が小刻みに揺れる症状が見られることがあります。

また、動くものを目で追う追視が苦手だったり、斜視が見られたりすることもあります。

視力自体には大きな問題がないことが多いですが、脳での情報処理の問題により、見ているものを認識するのに時間がかかる皮質性視覚障害のような状態になることもあります。

5. 発声と嚥下の特徴

言葉の発達にも遅れが見られることが多いです。

こちらの言っていることはよく理解していても、それを言葉にして話すことが難しい場合があります。

また、特徴的な症状として、ささやき声のような発声(Whispering dysphonia)になることがあります。声帯の筋肉の調節がうまくいかないために、大きな声が出しにくく、息漏れするような話し方になるのが特徴です。

飲み込む力(嚥下機能)も弱くなることがあり、食事中にむせたり、固形物を噛むのが苦手だったりすることがあります。

6. 知的発達

運動機能の障害に比べると、知的な理解力は比較的保たれる傾向があると言われています。

言葉は出なくても、表情や視線、身振りなどで意思疎通ができるお子さんはたくさんいます。

しかし、病状の進行や重症度によっては、知的障害を伴うこともあります。

7. 症状の進行について

HLD6は進行性の疾患とされていますが、そのスピードは人によって全く異なります。

急速に症状が進む場合もあれば、数年から数十年にわたってゆっくりと進行する場合もあります。

特に、風邪をひいて熱を出した時などに一時的に症状が悪化することがあるため、体調管理には注意が必要です。

原因

なぜ、髄鞘が作られなかったり、脳の一部が小さくなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の骨組みを作る重要な部品の不具合にあります。

TUBB4A遺伝子の役割

HLD6の原因は、第19番染色体にあるTUBB4A(チューブ・フォー・エー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、チューブリン・ベータ・4Aというタンパク質を作る設計図です。

微小管と細胞の機能

チューブリンは、細胞の中で微小管という非常に重要な構造物を作ります。

微小管は、細胞にとっての骨組みであり、また細胞の中で物質を運ぶためのレールでもあります。

特に脳の神経細胞においては、この微小管が、神経細胞の形を維持したり、髄鞘を作る細胞(オリゴデンドロサイト)が正常に働いたりするために不可欠な役割を果たしています。

何が起きているのか

TUBB4A遺伝子に変異が起きると、作られるチューブリンの形が変わり、正常な微小管が作れなくなったり、微小管が不安定になったりします。

すると、髄鞘を作る細胞がうまく育たず、髄鞘の形成不全(低髄鞘化)が起こります。

また、大脳基底核や小脳の神経細胞は、この微小管の異常に対して特に弱く、細胞が死んでしまったり、萎縮してしまったりすると考えられています。

これが、HLD6特有の「低髄鞘化」プラス「大脳基底核・小脳の萎縮」という症状につながるのです。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のTUBB4A遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、HLD6の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

赤ちゃん

診断と検査

診断は、特徴的な臨床症状と、MRI検査、そして遺伝学的検査によって確定されます。

1. 脳MRI検査

診断の最も重要な手がかりとなります。

HLD6のMRI画像には、非常に特徴的なパターンがあります。

低髄鞘化

T2強調画像という撮影方法で、本来なら黒く映るはずの白質が、白く(高信号に)映ります。これは髄鞘が少ないことを示しています。

被殻(ひかく)の萎縮

大脳基底核の一部である被殻という場所が、非常に小さくなっている、あるいはほとんど見えなくなっているのが大きな特徴です。

H-ABCの「ABC」の「A」はAtrophy(萎縮)、「B」はBasal Ganglia(大脳基底核)を指しており、まさにこの所見を表しています。

小脳の萎縮

小脳、特にその中心部である小脳虫部が小さくなっていることがよく見られます。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために行われます。

血液を採取し、DNAを解析してTUBB4A遺伝子に変異があるかを調べます。

最近では、複数の遺伝子を一度に調べるパネル検査や、全エクソーム解析といった網羅的な検査が行われることが増えており、これにより診断されるケースが多くなっています。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な対症療法を行うことで、生活の質(QOL)を高め、合併症を防ぐことができます。

治療は、小児神経科医を中心に、整形外科医、リハビリテーションスタッフ、看護師などがチームを組んで行います。

1. リハビリテーション(療育)

HLD6のお子さんにとって、リハビリは生活の一部とも言える重要なケアです。

理学療法(PT)

筋肉の緊張を和らげるストレッチやマッサージを行い、関節が固まるのを防ぎます。

その子の発達段階に合わせて、お座りや立位の保持、歩行訓練などを行います。

また、体に合った車椅子や座位保持装置(座るための椅子)、装具(足のサポーターなど)を作成し、快適な姿勢を保てるようにサポートします。

適切な姿勢を保つことは、背骨の変形(側弯症)や股関節脱臼の予防にもつながります。

作業療法(OT)

手を使う遊びや、日常生活動作の練習を行います。

スイッチなどの福祉機器を使っておもちゃを動かしたり、意思表示をしたりする方法を練習することもあります。

言語聴覚療法(ST)

飲み込み(嚥下)の訓練や、コミュニケーションの支援を行います。

言葉が出にくい場合でも、絵カードや視線入力装置、タブレット端末などを使って意思を伝える方法(AAC)を見つけていきます。

2. 薬物療法

主にジストニアなどの筋緊張異常に対してお薬を使います。

筋肉の緊張を和らげる薬として、バクロフェンやジアゼパム、ダントロレンなどが使われます。

また、レボドパ(パーキンソン病の薬)やトリヘキシフェニジル(抗コリン薬)が、ジストニアや体の硬さを和らげるのに効果がある場合があります。

緊張が強い場合は、ボツリヌス療法(ボトックス注射)を行って、特定の筋肉を緩めることもあります。

3. 整形外科的治療

筋肉の緊張が続くと、股関節が外れやすくなったり(脱臼)、背骨が曲がったり(側弯症)、足首が変形したりすることがあります。

定期的にレントゲンでチェックし、必要に応じて手術や装具による治療を行います。

4. 呼吸と栄養の管理

飲み込みが悪くなって食事が十分にとれない場合は、鼻からのチューブや、お腹に小さな穴を開けて直接栄養を入れる胃ろうという方法を検討します。

胃ろうは「食べる楽しみを奪うもの」ではなく、「栄養をしっかり摂って体力をつけ、口から食べる練習を安全に続けるための土台」です。

また、呼吸が浅くなったり、痰が出しにくくなったりする場合は、吸引器を使ったり、呼吸のリハビリを行ったりします。

5. 最新の研究動向

現在、世界中でHLD6に対する新しい治療法の研究が進められています。

例えば、変異したTUBB4A遺伝子の働きを抑える核酸医薬(ASOなど)の開発などが期待されています。

まだ実験段階や治験の準備段階のものが多いですが、将来的には進行を止めたり、症状を改善したりする治療薬が登場する可能性があります。

患者会などを通じて、最新の情報をチェックしておくことも希望につながります。

生活上の工夫と家族のケア

医療的なケアだけでなく、日々の生活の中での工夫も大切です。

食事の工夫

飲み込みにくい場合は、とろみ剤を使ったり、ミキサー食にしたりして、安全に食べられる形態にします。

姿勢を安定させてあげるだけで、飲み込みがスムーズになることもあります。

コミュニケーション

お子さんは、言葉にならなくてもたくさんのことを感じ、考えています。

表情のわずかな変化や、視線の動き、声のトーンなどから、お子さんの「好き」「嫌い」「楽しい」「痛い」といったサインを読み取ってあげてください。

「わかってもらえた」という経験は、お子さんの心を満たし、さらなるコミュニケーション意欲を引き出します。

体温調節

自律神経の調節が苦手な場合があり、暑い場所や寒い場所で体温調節がうまくいかないことがあります。

室温の調整や、衣服での調節に気をつけてあげましょう。

まとめ

低髄鞘化を伴う白質ジストロフィー6型(HLD6/H-ABC)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: TUBB4A遺伝子の変異により、脳の髄鞘形成と特定の部位(大脳基底核・小脳)の維持に問題が生じる先天性の疾患です。
  • 主な症状: 運動発達の遅れ、ジストニア(筋肉のつっぱり)、小脳失調(ふらつき)、発語の遅れなどが特徴です。
  • 診断の鍵: MRI検査で、白質の低髄鞘化と、被殻という部分の萎縮が見られることが診断の大きな手がかりになります。
  • 治療とケア: 根本治療はまだありませんが、リハビリテーション、筋緊張のコントロール、呼吸・栄養管理によって、生活の質を向上させることができます。
  • 希望: 多くの患者さんは理解力があり、コミュニケーションを楽しむことができます。また、新しい治療法の研究も進んでいます。

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