言語障害を伴う知的発達障害(Intellectual developmental disorder with language impairment)

医者

医師から「知的な遅れに加えて、特に言葉の遅れが目立つタイプです」や「遺伝子の変化により、言葉を司る脳の回路に特徴があります」といった説明を受け、不安や戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。

一般的な知的障害と何が違うのか、言葉は出るようになるのか、将来どうなるのかと、答えの出ない問いに心を痛めていることでしょう。

この診断名は、単に「知能指数(IQ)が低い」ということだけを指しているのではなく、全体的な発達のゆっくりさに比べて、特に言葉を話す能力やコミュニケーションの力に大きな課題があるという特徴を示しています。

医学的には、FOXP1(フォックスピーワン)やFOXP2(フォックスピーツー)といった、脳の言語中枢の発達に深く関わる遺伝子の変化によって引き起こされるケースなどが知られています。

まず最初にお伝えしたいのは、言葉が出なくても、お子さんには豊かな心と、伝えたい想いがあるということです。

診断名は、お子さんを理解し、適切なコミュニケーション方法を見つけるための地図のようなものです。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この診断名が何を意味しているのか、全体像を理解しましょう。

病気の定義

言語障害を伴う知的発達障害とは、その名の通り、知的機能の発達の遅れである知的障害があり、かつ、その知的レベルから予想されるよりもさらに重い言語機能の障害を併せ持っている状態を指します。

通常、知的発達がゆっくりであれば、言葉の発達もそれに合わせてゆっくりになります。しかし、このタイプのお子さんは、認知能力すなわち物事を理解する力に比べて、特に言葉を話す力が著しく苦手であるという特徴があります。

遺伝子との関係(FOXP1など)

近年の遺伝子研究により、このような特徴を持つお子さんの一部には、特定の遺伝子に変異があることがわかってきました。

代表的なものが、第3番染色体にあるFOXP1(フォックスピーワン)遺伝子や、第7番染色体にあるFOXP2(フォックスピーツー)遺伝子です。

これらの遺伝子は、言語遺伝子とも呼ばれるほど、人間の言語能力の発達に重要な役割を果たしています。

医学的なデータベースでは、FOXP1関連知的障害のことを、そのまま言語障害を伴う知的発達障害と分類することもあります。

この記事では、こうした遺伝的な背景を持つケースを中心に解説していきますが、原因が特定されていない場合でも、対応やケアの基本は同じです。

全体的な特徴

主な特徴は、言葉の理解力はある程度育っているのに、言葉が出ない、あるいは発音が不明瞭で伝わりにくいという理解と表出のギャップです。

また、自閉スペクトラム症のようなこだわりや対人関係の特徴を併せ持つことも多く、コミュニケーションの支援が生活の質を高める鍵となります。

主な症状

この障害の症状は、言語の特徴、身体的な特徴、行動面の特徴に分けられます。

個人差はありますが、多くのお子さんに共通するポイントを見ていきましょう。

1. 言語・コミュニケーションの特徴(中核症状)

最も目立ち、ご家族が最初に気づく症状です。

表出言語の著しい遅れ

あー、うーといった声は出るものの、意味のある単語、例えばマンマやワンワンなどが出始めるのが非常に遅いです。

3歳や4歳を過ぎても発語がない、あるいは数語に限られることがあります。

話せるようになっても、単語が中心で、助詞の「て・に・を・は」を使った文章を作るのが苦手な場合があります。

受容言語とのギャップ

非常に重要な点ですが、彼らは言葉がわからないわけではありません。

ゴミをポイしてきて、靴を持ってきてといった日常的な指示は理解できていることが多いです。

わかっているのに言えないという状態であり、これが本人にとっても大きなストレスすなわちもどかしさになります。

小児期発語失行(CAS)

言葉が出にくい原因の一つとして、小児期発語失行という症状が見られることがあります。

これは、口や舌の筋肉に麻痺があるわけではないのに、脳から口をこう動かして音を作ろうという指令がうまく伝わらない状態です。

そのために、言いたい音が出せなかったり、話すたびに発音が変わったり、非常に努力して話そうとしたりする様子が見られます。

FOXP2遺伝子の変異がある場合、特にこの症状が強く出ることが知られています。

2. 神経発達と知的な特徴

全般的な精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達も、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

手先の不器用さが見られることもあり、スプーン操作や着替えに時間がかかることがあります。

知的障害

軽度から重度まで様々ですが、中等度の知的障害が見られることが多いです。

しかし、前述の通り、言葉での表現が苦手なために、実際の知的能力よりも低く見積もられてしまっている、つまり過小評価されている可能性もあります。

視覚的な情報処理、すなわち見て覚えることは得意な場合が多いです。

3. 行動面・精神面の特徴

言葉で伝えられないもどかしさが、行動に現れることがあります。

かんしゃく・パニック

自分の気持ちや要求を言葉で伝えられないため、大泣きしたり、物を投げたり、叩いたりすることで意思表示をしようとすることがあります。

これはわがままや性格が悪いのではなく、コミュニケーション手段がないための悲鳴のようなものです。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向

FOXP1関連障害などでは、自閉スペクトラム症の特性を合併することが多いです。

視線が合いにくい、特定の遊びにこだわる、変化を嫌う、感覚過敏として音や触覚に敏感などの特徴が見られます。

一方で、人懐っこく、誰とでも関わろうとする社交的なタイプのお子さんもいます。

注意欠如・多動症(ADHD)の傾向

じっとしているのが苦手で動き回ってしまったり、集中力が続かなかったりすることがあります。

4. 身体的な特徴

顕著な特徴はありませんが、いくつか共通する傾向があります。

筋緊張低下

赤ちゃんの頃は体が柔らかく、抱っこした時にフニャッとした感じがする筋緊張低下が見られることがあります。

口の周りの筋肉の締まりが弱く、よだれが多く出たり、口をポカンと開けていたりすることもあります。

顔貌の特徴

FOXP1関連障害の場合、広いおでこ、目尻が下がっている、鼻先が丸いといった愛らしい顔立ちの特徴が見られることがありますが、ご家族に似ている範囲内であることが多いです。

原因

なぜ、言葉だけが特に苦手になるのでしょうか。その原因は、脳の中で言葉を操るための回路を作る遺伝子の働きにあります。

言語関連遺伝子(FOXP1/FOXP2)の役割

この障害の原因として最もよく知られているのが、FOXP1やFOXP2といった遺伝子の変異です。

これらの遺伝子は、転写因子と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。

転写因子とは、他のたくさんの遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする司令塔のような役割を持っています。

脳の配線工事の監督

FOXP1やFOXP2は、胎児期から乳幼児期にかけて、脳の神経細胞が正しい場所に移動し、正しい相手とつながってネットワークを作る過程を監督しています。

特に、大脳皮質や大脳基底核、小脳といった、言葉の理解、発音の運動制御、リズム感などを司る領域の発達に深く関わっています。

何が起きているのか

遺伝子に変異が起きると、この監督役のタンパク質がうまく働かなくなります。

すると、脳全体の機能である知能にはある程度の影響が出つつ、特に言葉を話すための運動プログラムを作る回路すなわち発語や、言葉を理解する回路の形成がピンポイントでうまくいかなくなります。

これが、知的障害に加えて、さらに重い言語障害が現れる理由と考えられています。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

これらの遺伝子変異の多くは、常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

これは、2つある遺伝子のうち片方に変異があれば症状が出るタイプです。

しかし、ほとんどのケースはご両親から遺伝したものではなく、お子さんの代で初めて変化が起きた新生突然変異(de novo変異)です。

親の育て方や、妊娠中の生活習慣が原因ではありません。

診断と検査

診断は、発達の特徴の評価と、遺伝学的検査によって行われます。

1. 臨床評価

小児科医や言語聴覚士による評価が行われます。

発達検査では、新版K式発達検査などで、全体的な発達指数(DQ)を調べます。

言語評価では、言葉の理解力と表出力を詳しく調べます。理解はできているのに発語がないというギャップや、口の動きの不器用さといった発語失行の兆候がないかを確認します。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために行われます。

これまで原因不明の言葉の遅れとされていたお子さんが、近年の検査技術の進歩、特に全エクソーム解析などにより、FOXP1などの遺伝子変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。

診断がつくことで、なぜ言葉が出ないのかという疑問が解消され、適切な療育方針を立てやすくなります。

3. 脳のMRI検査

脳の構造を確認するために行われます。

多くの場合は明らかな異常は見られませんが、脳室の拡大や、小脳の形成不全などの軽微な所見が見られることがあります。

赤ちゃん

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して脳の回路を作り直すような根本的な治療法はありません。

しかし、適切な療育、すなわちリハビリテーションを行うことで、コミュニケーション能力を伸ばし、生活の質を劇的に高めることができます。

1. 言語聴覚療法(ST)

この障害のお子さんにとって、最も重要で、かつ長期的に必要となるサポートです。

発語失行へのアプローチ

単に言ってごらんと促すだけでなく、口の形を真似する練習や、音を出すための口の筋肉の運動、リズムに合わせて声を出す練習などを行います。

PROMPT法など、触覚を使って口の動きを誘導する専門的な技法が有効な場合もあります。

AAC(拡大代替コミュニケーション)の導入

これが非常に重要です。

言葉が出るのをただ待つのではなく、ジェスチャー、絵カード、写真、コミュニケーションボード、タブレット端末やVOCAアプリなどの言葉以外の手段を積極的に使います。

機械に頼ると言葉が出なくなるのではと心配されるご家族もいらっしゃいますが、実際は逆です。

AACを使って伝わったという成功体験を積むことで、コミュニケーションの意欲が高まり、結果的に発語が促されるという研究データがたくさんあります。

まずは指差しや絵カード交換から始めて、意思表示の楽しさを教えます。

2. 作業療法(OT)

手先の不器用さや、感覚の問題に対応します。

手先を使う遊びを通じて、脳の発達を促します。

また、感覚統合療法を取り入れて、感覚過敏を和らげたり、自分の体の動きを感じ取る力を育てたりします。

3. 理学療法(PT)

運動発達の遅れや筋緊張低下に対して、体幹を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。

安定した姿勢は、良い発声の土台となります。

4. 教育と生活のサポート

環境調整

かんしゃくやパニックを減らすために、お子さんが理解しやすい環境を作ります。

言葉だけでなく、視覚的支援、つまり絵や写真を併用することがポイントです。

一日のスケジュールを絵で示したり、行ってはいけない場所に×のマークをつけたりすることで、お子さんは安心して過ごすことができます。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、少人数で手厚い支援が受けられる環境が望ましいことが多いです。

個別の指導計画を作成し、言語聴覚士と連携しながら、コミュニケーション支援を学校生活の中に組み込んでもらうことが大切です。

まとめ

言語障害を伴う知的発達障害(FOXP1関連障害など)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: 言語の発達に関わる遺伝子の働きにより、知的な遅れ以上に言葉を話すことが苦手になる疾患です。
  • 主な特徴: 言葉の理解と表出の大きなギャップ、小児期発語失行すなわち口がうまく動かせないこと、自閉傾向、人懐っこさなどが混在します。
  • 原因: FOXP1やFOXP2などの遺伝子の突然変異によるものが多く、親のせいではありません。
  • 治療の鍵: 言語聴覚療法が中心です。特に、絵カードやタブレットなどのAAC(代替コミュニケーション)を早期から活用することが、心の安定と成長につながります。
  • 予後: ゆっくりですが、確実にコミュニケーション能力は育ちます。言葉だけでなく、様々な手段で人とつながることができます。

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