常染色体顕性知的発達障害41型(MRD41/TRIM28関連神経発達障害)

妊婦

遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 41(MRD41)」という長い英語の診断名、あるいは「TRIM28遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「言葉の発達がゆっくりになります」や「筋肉の張りが弱いです」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、「41型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。

まず最初に、言葉の整理をさせてください。

この「常染色体顕性知的発達障害41型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってTRIM28関連神経発達障害(TRIM28-related neurodevelopmental disorder)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。

これは、第19番染色体にあるTRIM28(トリム・トゥエンティエイト)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

全体的な発達の遅れや、筋緊張の低下、そして自閉スペクトラム症のような行動特性を主な特徴とします。

非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特に全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が含まれていることがわかってきました。そのため、診断される患者さんの数は世界中で少しずつ増えています。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の意味と「優生(優性)」について

検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。

現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。

したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害41型」となります。

ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。

つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、41番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。

全体的な特徴

MRD41の原因遺伝子はTRIM28です。

この遺伝子は、他の遺伝子の働きを調節する重要な役割を持っています。

脳の発達や機能維持に必要なタンパク質が適切に作られないことで、様々な症状が現れます。

主な特徴は、全体的な発達の遅れ、特に言葉の遅れや運動発達の遅れです。

また、赤ちゃんの頃から筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることが多く、体が柔らかい印象を受けることがあります。

てんかん発作を合併することもありますが、その頻度は患者さんによって異なります。

顔つきなどの身体的な特徴は目立たないことが多く(非症候性)、見た目だけでは診断がつかないことが一般的ですが、一部の患者さんでは共通する顔貌の特徴が見られることもあります。

主な症状

知的発達障害41型(MRD41)の症状は、発達の特徴、身体的な特徴、そして行動面の特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最初に「あれ?」と感じ、病院を受診するきっかけとなるのがこの発達の遅れです。

全般的な精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

歩き始めが1歳半から2歳以降になることもあります。

これは、次に説明する筋緊張の弱さが関係していることが多いです。

手先の不器用さが見られることもあり、積み木を積んだり、クレヨンで描いたりするのに時間がかかることがあります。

言語発達の遅れ

言葉の発達はゆっくりで、発語(おしゃべり)が出始めるのが遅い傾向があります。

話し始めても、単語が中心だったり、文章をつなげるのが苦手だったりすることがあります。

しかし、こちらの言っていることを理解する力(受容言語)は、話す力(表出言語)よりも比較的良好である場合が多く、身振りや表情で意思疎通を図ろうとする姿が見られます。

知的障害

軽度から重度まで、幅広い程度の知的障害が見られます。

新しいことを学習するのに時間がかかったり、抽象的な概念を理解するのが苦手だったりします。

しかし、時間をかけて繰り返し経験することで、できることは着実に増えていきます。

2. 身体的な特徴

筋緊張低下(フロッピーインファント)

この疾患において、比較的多く見られる特徴の一つです。

赤ちゃんの頃は体が柔らかく、抱っこした時にフニャッとした感じがする筋緊張低下が見られることがあります。

成長しても、関節が柔らかい(関節弛緩)傾向が続くことがあり、姿勢を保つのが苦手で、すぐにゴロゴロしたり、机にもたれかかったりすることがあります。

これは「やる気がない」のではなく、重力に逆らって体を支えるのが大変な状態なのです。

顔貌の特徴

MRD41には、ダウン症候群のような誰が見てもわかるような強い顔つきの特徴はありません。

しかし、詳しく観察すると、以下のような特徴が見られることがあります。

少し窪んだ目(眼球陥凹)。

まぶたが下がっている(眼瞼下垂)。

鼻の付け根が太い、あるいは鼻先が丸い。

耳の位置が低い。

これらは個性の範囲内であることが多く、成長とともに目立たなくなることもあります。

摂食の問題

乳児期にミルクを吸う力が弱かったり(哺乳困難)、飲み込むのが下手だったりすることがあります。

離乳食が進んでも、よく噛まなかったり、飲み込むのに時間がかかったりすることもあります。

肥満傾向

一部の患者さんでは、成長とともに体重が増えやすく、肥満傾向になることが報告されています。

これはTRIM28遺伝子が脂肪の代謝などにも関わっている可能性が示唆されています。

その他の合併症

てんかん:一部の患者さんに見られます。発作のタイプは様々です。

視覚障害:斜視や弱視などが見られることがあります。

口蓋裂:口の中の天井部分が割れている粘膜下口蓋裂などが見られることがあります。

3. 行動面・精神面の特徴

脳の発達の違いは、行動や感情のコントロールにも影響を与えます。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向

視線が合いにくい、名前を呼んでも反応が薄い、特定の遊びにこだわる、変化を嫌うといった特徴が見られることがあります。

人との関わりに関心が薄いように見えることもありますが、慣れた人には笑顔を見せるなど、その子なりの社会性を持っています。

不安や感情の起伏

新しい場所や環境に対して強い不安を感じたり、自分の気持ちをうまく伝えられないもどかしさから、かんしゃくを起こしたりすることがあります。

また、音や光などの感覚刺激に対して敏感な感覚過敏を持っていることもあります。

注意欠如・多動症(ADHD)の傾向

じっとしているのが苦手で動き回ってしまったり、集中力が続かなかったりすることがあります。Getty Images詳しく見る

原因

なぜ、言葉が遅れたり、筋肉が柔らかかったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する重要な「管理職」のようなタンパク質の不具合にあります。

TRIM28遺伝子の役割

この病気の原因は、第19番染色体にあるTRIM28(Tripartite motif-containing 28)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、転写共抑制因子(てんしゃきょうよくせいいんし)と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。

エピジェネティクスと遺伝子のスイッチ

私たちの体には約2万個の遺伝子がありますが、それらが全て常に働いているわけではありません。必要な時に、必要な遺伝子だけが働くようにスイッチが調節されています。

TRIM28が作るタンパク質は、他の遺伝子のスイッチを「オフ」にする(抑制する)役割を持っています。

特に、脳の発達や機能維持に関わる遺伝子たちが、勝手に働きすぎないように調節したり、働くべきタイミングをコントロールしたりしています。

これを専門的にはエピジェネティクス制御と呼びます。

何が起きているのか(ハプロ不全)

MRD41では、2つあるTRIM28遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなることで、作られるタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

調節役のタンパク質が半分しかいないため、他の遺伝子のスイッチのコントロールがうまくいかなくなります。

その結果、脳の神経細胞の発達バランスが崩れたり、神経のつなぎ目(シナプス)の機能が変わったりして、発達の遅れや知的障害が起こると考えられています。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のTRIM28遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

一方で、症状が軽微で気づかれていなかった親御さんから遺伝するケースも稀に報告されています。その場合は、次のお子さんへの遺伝を考える際に遺伝カウンセリングが役立ちます。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断の難しさ

発達の遅れや筋緊張低下は、他の多くの病気でも見られる症状です。

また、特徴的な顔つきなどが目立たないことも多いため、見た目だけでTRIM28関連障害と診断することは不可能です。

そのため、これまでは「原因不明の精神発達遅滞」や「筋緊張低下症」と診断されていることが多くありました。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してTRIM28遺伝子に変異があるかを調べます。

特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。

これにより、偶然TRIM28遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。

これは、長い間診断がつかずに悩んでいたご家族にとって、診断の旅(Diagnostic Odyssey)の終わりを意味します。

3. その他の検査

診断の補助や合併症のチェックのために、以下の検査が行われることがあります。

脳のMRI検査:脳の構造に大きな異常がないかを確認します。基本的には正常であることが多いですが、脳梁が薄いなどの軽微な変化が見られることもあります。

脳波検査:てんかんの疑いがある場合に行います。

血液検査:代謝異常など他の病気がないかを除外したり、肥満傾向がある場合は脂質や血糖の状態を確認したりします。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の量を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

筋緊張低下や運動発達の遅れに対して、体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。

お座りや歩行などの基本動作の獲得をサポートします。

関節が柔らかい場合は、足に合ったインソール(中敷き)やハイカットの靴を使用することで、足首を安定させ、歩きやすくする工夫をすることもあります。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作として、スプーンを持って食べる、着替える、靴を履くなどの練習をします。

感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを取り入れて、感覚の受け取り方を調整する練習を行うこともあります。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。

言葉の理解を深める遊びを取り入れたり、発音の練習をしたりします。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、写真、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたいことが伝わる」という経験を積み重ねることで、コミュニケーションへの意欲が育ちます。

2. 教育と生活のサポート

環境調整

自閉的傾向や不安がある場合、落ち着いて過ごせる環境を作ることが大切です。

刺激を減らした静かなスペースを用意したり、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりする工夫(構造化)が役立ちます。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

筋緊張が弱いお子さんの場合、姿勢を保つための椅子や机の調整も重要です。

3. 合併症の管理

てんかん

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。

肥満対策

体重が増えやすい傾向がある場合は、幼児期からバランスの良い食事と適度な運動を心がけることが大切です。

栄養士による栄養指導を受けることも有効です。

視覚・聴覚のケア

定期的な眼科検診を行い、斜視や弱視があれば眼鏡などで矯正します。

中耳炎になりやすい場合もあるため、耳鼻科でのケアも大切です。

まとめ

知的発達障害41型(MRD41/TRIM28関連神経発達障害)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: TRIM28遺伝子の変異により、他の遺伝子の働きを調節する機能が低下し、脳の発達や機能に影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 全般的な発達の遅れ、筋緊張低下(体の柔らかさ)、言葉の遅れ、自閉スペクトラム症の傾向、一部で肥満傾向などが特徴です。
  • 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
  • 治療: 根本治療はありませんが、理学療法・作業療法・言語聴覚療法などの療育、環境調整によって、生活の質を向上させることができます。
  • 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが、それぞれの方法で周囲との関わりを持っています。

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