ギオン・アルメイダ型顎顔面異骨症、あるいは小頭症を伴う顎顔面異骨症という、非常に長く、そして聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による生まれつきの病気です」と説明を受け、さらに「あごや耳の形に特徴があります」や「頭が小さめです」といった話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。
特に、お顔立ちに特徴があると言われると、将来の学校生活や社会生活のことが心配になり、不安を感じていらっしゃることでしょう。
この病気は、ブラジルの遺伝学者であるギオン・アルメイダ博士らによって報告された先天性の疾患です。
顔の骨や耳の形成がゆっくりであったり、頭のサイズが小さかったりするのが主な特徴です。
以前は、有名な映画やドラマの題材にもなった「トリーチャー・コリンズ症候群」と非常によく似ているため、その一種だと考えられていたこともありました。
しかし、近年の遺伝子研究の進歩により、トリーチャー・コリンズ症候群とは原因となる遺伝子が全く異なり、また「小頭症(頭が小さいこと)」や「知的発達の遅れ」を伴いやすいという独自の点があることから、別の独立した病気であることがわかってきました。
現在、世界的にはこの病気の特徴をより分かりやすく表すために、小頭症を伴う顎顔面異骨症、英語の頭文字をとってMFDMと呼ばれることが一般的になっています。
この記事でも、わかりやすくMFDMという言葉を交えて解説していきます。
非常に希少な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ多くありません。そのため、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくく、孤独を感じてしまうご家族も少なくありません。
しかし、遺伝子検査が普及するにつれて、この診断を受けるお子さんが世界中で増えてきており、形成外科や小児科を中心としたサポート体制も整ってきています。
まず最初にお伝えしたいのは、お顔立ちの特徴や発達のペースは一人ひとり全く違うということです。
適切な医療的ケアと療育を受けることで、お子さんはその子らしく豊かに成長していきます。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この長い病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。
病名の意味
この病名は、主な症状を医学用語で組み合わせたものです。
顎顔面異骨症
あご(顎)や顔(顔面)の骨(骨)の形成に、生まれつきの違いがある(異)状態を指します。
具体的には、下あごが小さかったり、頬骨が小さかったり、耳の形が変わっていたりすることを意味します。
ギオン・アルメイダ型
発見者の名前ですが、現在は症状の特徴から小頭症を伴う顎顔面異骨症(MFDM)と呼ばれることが増えています。
小頭症とは、頭囲すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて小さいことを指します。
つまり、顔の骨の形成不全と、頭が小さいことの2つがセットになった病気ということです。
トリーチャー・コリンズ症候群との関係
この病気を理解する上で、トリーチャー・コリンズ症候群(TCS)との違いを知っておくことは非常に重要です。
両者は、下あごが小さい、頬骨が未発達、耳の奇形、目が外側に垂れ下がっているといった顔立ちの特徴が非常によく似ています。
しかし、決定的な違いがあります。
トリーチャー・コリンズ症候群では、通常、頭の大きさは正常で、知的な発達の遅れも見られないことがほとんどです。
一方、ギオン・アルメイダ型(MFDM)では、頭が小さくなる小頭症を伴い、軽度から重度の知的障害や発達の遅れを合併することが多いという点です。
また、親指の形が変わっているなど、顔以外の症状が見られることもMFDMの特徴です。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数百人程度が報告されています。
しかし、これまでトリーチャー・コリンズ症候群や、原因不明の発達遅滞と診断されていた方の中に、実はこのMFDMの方が含まれている可能性が高く、実際の患者数はもう少し多いのではないかと考えられています。
主な症状
MFDMの症状は、顔立ちの特徴だけでなく、神経の発達や他の臓器にも現れることがあります。
症状の程度には個人差が非常に大きく、手術が必要な方もいれば、日常生活にほとんど支障がない方もいます。
1. 顔貌と頭部の特徴
最も気づかれやすい特徴です。
小頭症
生まれた時から頭が小さいこともあれば、成長とともに頭囲の伸びが緩やかになり、徐々に小頭症が明らかになることもあります。
頭が小さいことは、脳の成長がゆっくりであることを反映している場合があります。
下顎低形成(小顎症)
下あごが小さく、後ろに下がっている状態です。
あごが小さいと、寝ている時に舌が喉の奥に落ち込んでしまい、呼吸が苦しくなったり、いびきをかいたりすることがあります。
また、噛み合わせが悪くなることもあります。
頬骨の低形成
頬の骨の膨らみが少なく、平坦な印象を与えることがあります。
耳の奇形
耳介(耳たぶなどの外に出ている部分)が小さかったり、形が変わっていたりします。
耳の穴の前に、小さな皮膚の突起である副耳や、小さな穴のようなものが見られることもあります。
耳の穴自体が狭かったり、塞がっていたりする外耳道閉鎖が見られることもあり、これは難聴の原因になります。
目の特徴
目が外側に向かって下がっている眼瞼裂斜下や、下まぶたの一部が欠けている眼瞼コロボーマが見られることがあります。
口蓋裂
口の中の天井部分が割れている口蓋裂を合併することがあります。
これにより、ミルクが鼻から漏れたり、言葉の発音が不明瞭になったりすることがあります。
2. 神経発達の特徴
MFDMの重要な特徴の一つです。
発達の遅れ
首すわり、お座り、歩行などの運動発達や、言葉の理解や表出などの精神発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。
発達の遅れの程度は、軽度の方から重度の方まで様々です。
全く遅れがなく、通常の学校生活を送っている方もいらっしゃいます。
多くの場合、軽度から中等度の知的障害を伴いますが、これも個人差が大きいです。
言葉を流暢に話すお子さんもいれば、コミュニケーションに支援が必要なお子さんもいます。
3. 聴覚の症状
伝音難聴
耳の穴が狭かったり、中耳にある音を伝えるための小さな骨(耳小骨)の形が変わっていたりすることで、音が鼓膜や神経に届きにくくなる難聴です。
補聴器や、骨導補聴器といった特殊な機器を使うことで、聞こえを改善できることが多いです。
難聴は言葉の発達に大きく影響するため、早期発見と対応が不可欠です。
4. その他の合併症
MFDMでは、顔や頭以外にも症状が出ることがあります。
食道閉鎖症
生まれつき食道が途切れていて、胃につながっていない状態です。
生まれた直後に手術が必要になります。この合併症があることが、トリーチャー・コリンズ症候群との鑑別点の一つになることがあります。
心疾患
心臓の壁に穴が開いている心室中隔欠損症などの先天性心疾患を合併することがあります。
手足の特徴
親指の形が変わっていたり、小さかったりすることがあります。
後鼻孔閉鎖
鼻の奥の通り道が骨や膜で塞がっている状態です。
赤ちゃんは鼻呼吸が主であるため、これが両側に起きると呼吸困難になります。

原因
なぜ、あごが小さくなったり、頭が小さくなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の中で遺伝情報の編集作業を行う重要な部品の不具合にあります。
EFTUD2遺伝子の変異
ギオン・アルメイダ型(MFDM)の原因は、第17番染色体にあるEFTUD2(エフ・トゥード・ツー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、U5 snRNP(ユーファイブ・スモール・ニュークリア・リボ核タンパク質)というタンパク質を作る設計図です。
スプライソソームとスプライシング
少し難しい話になりますが、私たちの体の中で遺伝子の情報をもとにタンパク質が作られるとき、まずDNAの情報がmRNAという物質にコピーされます。
このコピーされたばかりのmRNAには、必要な情報と不要な情報が混ざっています。
そこで、不要な部分を切り取り、必要な部分だけをつなぎ合わせる編集作業が必要になります。これをスプライシングと呼びます。
この編集作業を行う工場のような複合体をスプライソソームと呼びます。
EFTUD2遺伝子が作るタンパク質は、このスプライソソームの非常に重要な部品の一つです。
何が起きているのか
EFTUD2遺伝子に変異が起きると、スプライソソームという編集工場がうまく働かなくなります。
これをハプロ不全と呼び、正常なタンパク質の量が半分になってしまうことで機能が足りなくなる状態です。
スプライシングは体中のあらゆる細胞で行われていますが、なぜか顔の骨や頭(脳)の発達に関わる遺伝子たちが、この編集ミスの影響を特に強く受けてしまうようです。
その結果、顔の骨を作る細胞がうまく増えなかったり、脳の発達がゆっくりになったりして、MFDMの症状が現れると考えられています。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のEFTUD2遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、MFDMの患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。
1. 臨床診断
医師は診察で以下の点を確認します。
- 小頭症があるか。
- 下あごが小さい、耳の形が変わっているなどの特徴的な顔立ちがあるか。
- 知的発達の遅れがあるか。
- 親指の異常や食道閉鎖などの合併症があるか。
トリーチャー・コリンズ症候群と似ていますが、小頭症や発達の遅れがある場合、MFDMが強く疑われます。
2. 画像検査
頭部CT・3D-CT
顔の骨の形や、耳の穴、中耳の骨の状態を詳しく調べます。
あごの関節の状態や、頬骨の形を確認し、将来の手術計画の参考にします。
頭部MRI
脳の構造を確認します。小頭症以外に、脳梁などの構造に変化がないかを見ることがあります。
3. 聴力検査
難聴の有無と種類(伝音か感音か)を調べるために必須の検査です。
赤ちゃんの場合は、眠っている間に音を聞かせて脳波を測るABR(聴性脳幹反応)検査などが行われます。
4. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してEFTUD2遺伝子に変異があるかを調べます。
最近では全エクソーム解析などの網羅的な遺伝子検査で、偶然見つかることも増えています。
これにより、トリーチャー・コリンズ症候群(TCOF1遺伝子など)と明確に区別することができます。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して、形成外科、耳鼻科、小児科、リハビリテーション科などがチームを組んで治療を行うことで、機能と見た目を改善し、生活の質を高めることができます。
1. 呼吸と栄養の管理(乳児期)
あごが小さくて呼吸が苦しい場合
うつ伏せ寝(腹臥位)にすることで、舌が前に落ちて気道が広がり、呼吸が楽になることがあります。
それでも呼吸が苦しい場合は、鼻からチューブを入れて気道を確保したり(経鼻エアウェイ)、重症の場合は気管切開を行ったりすることもあります。
また、骨延長術といって、あごの骨を少しずつ伸ばして気道を広げる手術が行われることもあります。
哺乳が難しい場合
口蓋裂や呼吸障害でミルクが飲めない場合は、鼻からチューブを通したり、お腹に胃ろうを作ったりして栄養を管理します。
体重をしっかり増やすことは、その後の手術や発達のために非常に重要です。
2. 形成外科的治療
お顔立ちや機能の改善を目指して、成長に合わせて段階的に手術が行われます。
口蓋裂の手術
通常、生後1歳から1歳半頃に行われます。
あごの形成手術
骨延長術や、骨移植などを行って、あごの形や噛み合わせを整えます。
耳の形成手術
耳介の形を整える手術や、ご自身の肋軟骨を使って耳を作る手術などが行われます。最近では、非常にリアルなシリコン製のエピテーゼ(人工ボディ)を使用する選択肢もあります。
3. 聴覚の管理
難聴がある場合、言葉の発達を促すために早期から補聴器を使用します。
耳の穴がない、あるいは耳介が小さくて通常の補聴器がかけられない場合は、ヘアバンド型の骨導補聴器や、軟骨伝導補聴器、あるいは埋め込み型の骨導補聴器(BAHAなど)を使用します。
4. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が推奨されます。
理学療法(PT)
運動発達を促す遊びや訓練を行います。
作業療法(OT)
手先の使い方や、日常生活動作の練習を行います。
言語聴覚療法(ST)
言葉の発達支援を行います。
口蓋裂がある場合は、正しい発音のための訓練も行います。
また、コミュニケーションが難しい場合は、サインや絵カードなどの代替手段(AAC)を活用します。
5. 教育と生活のサポート
就学時には、地域の学校の通常学級に通うのか、通級指導教室を利用するのか、特別支援学級や特別支援学校を選ぶのか、お子さんの発達段階や特性に合わせて慎重に検討します。
難聴がある場合は、座席の配慮やFM補聴システムの使用などが役立ちます。
見た目の特徴について、周りのお友達にどう伝えるか、学校の先生と相談して環境を整えることも大切です。
まとめ
ギオン・アルメイダ型顎顔面異骨症(MFDM)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: EFTUD2遺伝子の変異により、細胞内の情報編集(スプライシング)がうまくいかず、顔の骨や脳の形成に影響が出る先天性の疾患です。
- 主な特徴: 小頭症、下あごが小さい、耳の奇形、発達の遅れなどが特徴です。トリーチャー・コリンズ症候群と似ていますが、小頭症と知的障害を伴う点が異なります。
- 治療の柱: 呼吸・栄養管理、形成外科手術、聴覚管理、そして療育による発達支援の4本柱で支えます。
- 予後: 適切なケアにより、多くのお子さんが社会生活を送っています。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
