マーシャル・スミス症候群という、おそらくこれまでに聞いたこともないような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による非常に稀な病気です」と説明を受け、さらに「骨の成長が早すぎます」や「呼吸の管理が大切です」といった話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。
特に、この病気は世界的に見ても報告数が少ない希少疾患であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報は限られており、古い医学情報などを見て不安を募らせている方もいらっしゃるかもしれません。
マーシャル・スミス症候群は、1971年にマーシャル博士とスミス博士によって初めて報告された先天性の疾患です。
最大の特徴は、生まれた時から骨の成熟スピードが異常に早いこと、すなわち骨年齢が促進していることです。それに加えて、呼吸器の問題や特徴的なお顔立ち、全体的な発達のゆっくりさが見られます。
かつては、呼吸器の合併症によって幼少期に命に関わることが多い病気だと考えられていました。しかし、これは医療技術や管理方法がまだ十分に確立されていなかった時代の情報も含まれています。
現在では、呼吸や栄養の状態を適切に管理することで、症状を安定させ、成人期まで成長されている患者さんも増えてきています。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を閉ざすものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、生きる力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病気の定義
マーシャル・スミス症候群は、過成長症候群と呼ばれるグループに分類されることがあります。
過成長というと、体が大きくなる巨人症のようなものをイメージするかもしれませんが、この病気の場合は少し意味合いが異なります。
身体的な大きさというよりも、骨の成熟するスピードが速すぎるという意味での過成長です。
医学的には、骨年齢促進、呼吸障害、精神運動発達遅滞、異形顔貌を4大特徴とする症候群と定義されています。
骨年齢促進とは
通常、子供の骨には骨端線という成長するための軟骨の層があり、年齢とともに少しずつ骨へと変わっていきます。レントゲンを撮ると、手の骨の数や形などで、骨が何歳相当まで育っているかという骨年齢を判定することができます。
マーシャル・スミス症候群のお子さんは、生まれたばかりの赤ちゃんであっても、レントゲンを撮ると幼児期や学童期のような骨の形をしていることがあります。
骨が早く大人びてしまうため、最初は身長が伸びるスピードが速いことがありますが、骨の成長が早く終わってしまうために、最終的な身長は低くなる傾向があります。
発生頻度
非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数十例から百例程度が報告されている段階です。
日本国内でも数例から十数例程度と推測される希少な病気です。
性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。
主な症状
マーシャル・スミス症候群の症状は、骨格、呼吸器、顔立ち、脳神経など全身に及びます。
特に乳幼児期には、呼吸と栄養の管理が最も重要な課題となります。
1. 骨格と成長の特徴
この病気の診断の決め手となる最も重要な特徴です。
著しい骨年齢の促進
先ほども触れましたが、実年齢に対して骨の成熟度が非常に進んでいます。
例えば、生後数ヶ月の赤ちゃんなのに、骨のレントゲン写真は数歳児のように見えるといったことが起こります。
これは、体の中の時計の進み方が、骨に関してだけ早送りになっているような状態です。
低身長と成長障害
生まれた時の身長や体重は平均的、あるいは平均より少し大きいこともありますが、その後、体重が増えにくくなることが多いです。
身長に関しては、乳児期にはよく伸びることがありますが、骨の成長が早期に止まってしまうため、最終的には低身長になることが多いとされています。
また、皮下脂肪が少なく、細身の体型になる傾向があります。
その他の骨格異常
背骨が横に曲がる側弯症や、後ろに曲がる後弯症が見られることがあります。
指の骨が太く幅広くなっていたり、指の先端が細くなっていたりする特徴的な指の形が見られることもあります。
胸郭すなわち胸の骨の形が平らであったり、変形していたりすることもあります。
2. 呼吸器の症状(生命予後に関わる重要な点)
ご家族と医療チームが最も注意深く管理しなければならないのが呼吸器の問題です。
上気道閉塞
鼻や喉、気管などの空気の通り道が狭くなりやすい傾向があります。
喉の組織が柔らかくてへしゃげてしまう喉頭軟化症や、気管が柔らかい気管軟化症を合併することが多く、息を吸う時にゼーゼーという音がしたり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。
誤嚥と肺炎
飲み込む機能が弱いことや、喉の構造の問題から、唾液やミルクが気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすいです。
これが原因で肺炎を繰り返すことがあり、乳幼児期の体調管理における最大の課題となります。
睡眠時無呼吸症候群など、寝ている間の呼吸の問題も起こりやすいため、酸素飽和度のモニタリングなどが必要になることがあります。
3. 顔貌の特徴
マーシャル・スミス症候群には、いくつか共通するお顔立ちの特徴があります。
これらは成長とともに変化し、その子なりの個性となっていきます。
額の突出
おでこが広く、前に出ているような形をしています。
眼球突出
目が大きく、少し前に出ているような印象を与えることがあります。
白目の部分が青っぽく見える青色強膜が見られることもあります。
鼻と顎の特徴
鼻の付け根が低く、鼻先が上を向いていることがあります。
顎が小さい小顎症が見られることもあり、これが呼吸や哺乳のしにくさに関係している場合もあります。
多毛
体毛が濃くなる傾向があり、特におでこや背中などに産毛が多く見られることがあります。
4. 神経発達と知的な特徴
全体的な発達のゆっくりさが見られます。
精神運動発達遅滞
首すわり、お座り、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。
これは、呼吸器の問題で入院が長引いたり、筋力が弱かったりすることも影響しています。
知的発達の遅れ
中等度から重度の知的障害が見られることが多いです。
言葉が出るのが遅かったり、言葉数は少なかったりしますが、こちらの言っていることは理解しており、身振りや表情でコミュニケーションをとることができるお子さんもいます。
性格は明るく、人懐っこいお子さんが多いと言われています。
5. その他の症状
脳の構造の変化
MRI検査をすると、右脳と左脳をつなぐ脳梁という部分が薄かったり、脳室が拡大していたりすることがあります。
しかし、てんかん発作などの神経症状を合併することは比較的少ないとされています。
聴覚・視覚
難聴や視力障害を合併することがあるため、定期的な検査が必要です。
原因
なぜ、骨が早く成長したり、呼吸が苦しくなったりするのでしょうか。その原因は、体の設計図の一部である遺伝子の働き方の変化にあります。
NFIX遺伝子の変異
マーシャル・スミス症候群の原因は、第19番染色体にあるNFIX(エヌフィックス)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、核内因子I-X型というタンパク質を作る設計図です。
NFIXタンパク質は、転写因子と呼ばれるグループに属し、他のたくさんの遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする司令塔のような役割をしています。
特に、骨格の形成、脳の発達、血液の細胞の形成などに関わる重要な遺伝子たちに指令を出しています。
なぜ骨の成長が早まるのか
マーシャル・スミス症候群では、NFIX遺伝子の特定の場所(主にエクソン6から10の間)に変異が起きることで、正常なNFIXタンパク質が作られなくなったり、異常なタンパク質が作られたりします。
実は、このNFIX遺伝子の別の種類の変異(遺伝子全体が欠失するなど)では、ソトス症候群2型(マラン症候群)という別の病気になることが知られています。
マラン症候群でも過成長が見られますが、骨年齢の促進はそれほど顕著ではありません。
マーシャル・スミス症候群で見られる特定の変異は、NFIXタンパク質の働きを邪魔するような特殊な作用(ドミナント・ネガティブ効果などと呼ばれます)を引き起こし、その結果、骨の成熟を抑えるブレーキが壊れてしまい、骨年齢が異常に進んでしまうのではないかと考えられています。
遺伝について
この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のNFIX遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、マーシャル・スミス症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察、レントゲン検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。
1. 臨床診断とレントゲン検査
医師は、顔立ちの特徴や呼吸の状態、発育の様子を診察します。
そして、診断の大きな決め手となるのが、手や全身のレントゲン検査です。
生後間もない時期にもかかわらず、手首の骨(手根骨)などが大人のようにしっかりと写っていたり、指の骨の形に特徴があったりする場合、マーシャル・スミス症候群が強く疑われます。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してNFIX遺伝子に変異があるかを調べます。
最近では、全エクソーム解析などの網羅的な遺伝子検査で偶然見つかることも増えています。
NFIX遺伝子の変異が見つかれば診断が確定し、似たような症状を持つ他の過成長症候群(ソトス症候群やウィーバー症候群など)と区別することができます。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療やケアを行うことで、命を守り、生活の質を高めることは十分に可能です。
特に、呼吸と栄養の管理が予後を大きく左右します。
1. 呼吸器の管理(最優先事項)
乳幼児期において最も重要なのが、気道の確保と呼吸のサポートです。
気道閉塞への対応
喉頭軟化症などで空気の通り道が狭くなっている場合、寝る向きを工夫したり、鼻から酸素を投与したりします。
重症で呼吸が苦しい場合や、睡眠時無呼吸がひどい場合には、鼻マスクによる人工呼吸(CPAPやBiPAP)を行ったり、場合によっては気管切開手術を行って確実に気道を確保したりすることもあります。
気管切開と聞くと抵抗があるかもしれませんが、安定した呼吸を確保することで、お子さんが楽になり、成長や発達に良い影響を与えることも多いです。
感染症対策
肺炎を起こしやすいため、風邪をひかせないような予防策や、体調が悪い時の早めの受診が大切です。
予防接種はスケジュール通りに受けることが推奨されます。また、RSウイルスに対するシナジス注射などの適応になる場合もあります。
2. 栄養と食事の管理
体重が増えにくいことや、誤嚥のリスクがあることから、栄養管理も非常に重要です。
経管栄養の活用
口から飲むのが難しかったり、飲んでも気管に入ってしまったりする場合は、鼻からチューブを通したり、お腹に胃ろうを作ったりして、直接胃に栄養を入れます。
十分な栄養を摂ることは、体を強くし、呼吸の状態を良くするためにも不可欠です。
胃ろうは、誤嚥性肺炎のリスクを減らし、確実な栄養摂取を可能にする有効な手段です。口からの食事は、嚥下リハビリテーションを行いながら、楽しみとして少しずつ進めていくことができます。
3. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が推奨されます。
理学療法(PT)
筋肉の緊張が弱い場合や、関節が硬い場合などに、運動発達を促す訓練を行います。
お座りや歩行の練習、呼吸を楽にするためのポジショニングなども指導してもらいます。
作業療法(OT)
手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。
言語聴覚療法(ST)
コミュニケーション能力の向上を目指します。
言葉が出にくい場合でも、サインや絵カードなどの代替コミュニケーション手段(AAC)を活用することで、意思表示ができるようになります。
また、安全に食べるための嚥下訓練もSTの専門分野です。
4. 整形外科的ケア
側弯症などの骨格の変形がある場合は、定期的にレントゲンを撮って経過を見ます。
進行する場合は、コルセット(装具)を使ったり、手術を検討したりすることもあります。
まとめ
マーシャル・スミス症候群についての解説をまとめます。
- 病気の本質: NFIX遺伝子の変異により、骨の成熟スピードが異常に早まる骨年齢促進を特徴とする先天性の疾患です。
- 主な症状: 著しい骨年齢促進、呼吸器のトラブル(気道閉塞・誤嚥)、特徴的な顔立ち、発達の遅れなどが挙げられます。
- 管理の要点: 特に乳幼児期の呼吸管理と栄養管理が生命予後を左右する最も重要なポイントです。
- 予後の変化: かつては予後不良と言われていましたが、適切な医療ケアにより、長期生存が可能になってきています。
- 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
