筋緊張低下、常同的な手の動き、および言語障害を伴う神経発達障害(MEF2Cハプロ不全症候群)

妊婦

「筋緊張低下、常同的な手の動き、および言語障害を伴う神経発達障害」という、非常に長く、症状をそのまま記述したような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による病気です」と説明を受け、さらに「MEF2C(メフツーシー)」という遺伝子の名前や、「レット症候群に似ています」といった話をされて、頭の中が整理できずにいらっしゃるかもしれません。特に、お子さんの発達がゆっくりであることや、手を不思議な動かし方をする様子を見て、これからどうなってしまうのかと不安を感じていらっしゃることでしょう。

この長い病名は、医学的な特徴を正確に表した正式名称ですが、世界的には原因となる遺伝子の名前をとってMEF2Cハプロ不全症候群、あるいはMEF2C関連障害と呼ばれることが一般的です。

また、英語の病名の頭文字をとってNEDHSIL(ネドヒシル)と略されることもあります。

この病気は、MEF2Cという脳の発達にとって非常に重要な遺伝子に変化が起きることで生じる生まれつきの体質です。

名前の通り、体が柔らかいこと、手をこすり合わせるなどの独特な動きをすること、そして言葉を話すことが難しいことが主な特徴です。

非常に希少な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ多くありません。そのため、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくく、孤独を感じてしまうご家族も少なくありません。

しかし、近年遺伝子検査の技術が進歩したことで、この診断を受けるお子さんが世界中で増えてきており、同じような症状を持つ仲間とのつながりも生まれつつあります。

この記事では、この疾患について、どのような病気なのか、全身に現れる特徴、原因となるMEF2C遺伝子の仕組み、レット症候群との違い、治療や療育の選択肢、そしてこれからの生活で何に気をつければよいのかを、専門用語を言葉の中に溶け込ませて詳しく解説します。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの限界を決めるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、ゆっくりでも確実に成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この長い病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。

病名の意味とMEF2Cハプロ不全症候群

この病名は、主な3つの特徴を組み合わせたものです。

筋緊張低下

筋肉の張りが弱く、体が柔らかい状態です。赤ちゃん時代には「フロッピーインファント」と呼ばれることもあり、抱っこするとフニャッとしたり、首が座るのが遅かったりします。

常同的な手の動き

自分の意思とは関係なく、あるいは癖のように繰り返される手の動きのことです。手を洗うような動き、手を叩く動き、口に手を入れる動きなどがよく見られます。

言語障害を伴う神経発達障害

言葉の理解や、お話しすること(発語)に大きな難しさがある状態です。知的発達の遅れも伴います。

これらをまとめて、MEF2C遺伝子の変異によって引き起こされる一連の症状として、MEF2Cハプロ不全症候群と呼びます。

5q14.3欠失症候群との関係

この病気は、以前は「5q14.3欠失症候群」と呼ばれることもありました。

これは、5番染色体のq14.3という場所がごっそりと欠けてしまうことで起きる病気なのですが、実はこの場所にMEF2C遺伝子が存在しています。

研究の結果、5q14.3欠失症候群の主な症状は、このMEF2C遺伝子がなくなってしまうことで起きていることがわかりました。

現在では、染色体の欠失でも、遺伝子の中の小さな変異でも、原因がMEF2Cにある場合はまとめてMEF2C関連障害として扱われることが多くなっています。

レット症候群との類似性

この病気は、レット症候群という別の病気と症状が非常によく似ています。

レット症候群も、手の常同運動や言葉の喪失、てんかんなどを特徴とする病気です。

そのため、最初は「レット症候群ではないか」と疑われ、レット症候群の遺伝子検査(MECP2遺伝子など)を行っても異常が見つからず、さらに詳しい検査をして初めてMEF2Cの変異が見つかるというケースがよくあります。

医学的には「レット症候群類縁疾患」の一つに分類されることもあります。

発生頻度

非常に稀な疾患ですが、全エクソーム解析などの網羅的な遺伝子検査が普及するにつれて、診断される患者数は増えています。

重度の知的障害を持つお子さんの中に、一定の割合で存在すると考えられています。

主な症状

この病気の症状は、発達の過程で変化していくことがあります。

症状の程度には個人差がありますが、多くの患者さんに共通して見られるサインについて詳しく見ていきましょう。

1. 運動機能と筋緊張

ご家族が最初に「あれ?」と思うきっかけになることが多いのが、運動発達の遅れです。

筋緊張低下

生まれた時から体が柔らかく、抱っこしにくい感じがすることがあります。

首すわり、寝返り、お座りなどの運動のマイルストーンが、一般的な時期よりも大幅に遅れます。

運動発達の遅れ

歩き始める時期は個人差が大きいですが、多くのお子さんは歩行が可能になります。ただし、2歳から3歳、あるいはそれ以降になることも珍しくありません。

歩き始めても、バランスが悪くふらつきやすかったり、足の幅を広げて歩いたりする様子が見られることがあります。

2. 特徴的な手の動き(常同運動)

この病気の診断の手がかりとなる重要な症状です。

生後数ヶ月から幼児期の間に始まります。

手の動きの種類

手を体の前で組んでモミモミするような動き(手洗い動作)、パチパチと手を叩く動き、手を口に入れる動きなどがよく見られます。

また、手をひらひらさせたり、指を噛んだりすることもあります。

これらの動きは、起きている間はずっと続いていることもあれば、興奮した時や手持ち無沙汰な時に強くなることもあります。

目的を持って手を使うこと(おもちゃを掴んで遊ぶなど)が苦手になることもありますが、リハビリによって手の使い方は上達していきます。

3. 言語とコミュニケーション

言葉の発達には大きな課題があります。

言葉の遅れ

言葉(発語)が出ない、あるいは単語が数語程度にとどまることが多いです。

重度の場合は、生涯を通じて有意味語(意味のある言葉)が出ないこともあります。

コミュニケーション

言葉は話せなくても、こちらの言っていることはある程度理解しているお子さんが多いです。

目線や表情、ジェスチャー、あるいは「アー」「ウー」といった声のトーンで、自分の気持ちを伝えることができます。

音楽やリズムに反応して笑顔を見せるなど、感情表現は豊かです。

4. てんかん発作

患者さんの多くに、てんかん発作が見られます。

発作のタイプは様々で、体が一瞬ビクッとする発作や、ボーッとして意識がなくなる発作、全身が硬直する発作などがあります。

生後数ヶ月の早い時期から始まることもあれば、幼児期以降に始まることもあります。

お薬でコントロールできる場合もありますが、いくつものお薬を試す必要がある難治性の場合もあります。

5. 行動面の特徴

自閉スペクトラム症に似た行動が見られることがあります。

視線の合いにくさ

目が合いにくかったり、呼んでも振り向かなかったりすることがあります。

しかし、成長とともに人と関わることが好きになり、目が合うようになるお子さんもたくさんいます。

その他の行動

多動でじっとしているのが苦手だったり、睡眠障害(寝付きが悪い、夜中に起きる)があったりすることがあります。

また、痛みに対して鈍感で、転んでも泣かないといった様子が見られることもあります。

歯ぎしりをするお子さんも比較的多く見られます。

6. 身体的な特徴

顔貌の特徴

特徴的と言えるほどはっきりしたものではありませんが、おでこが広い、眉毛がアーチ状である、鼻が低い、口が開いている、上唇が薄いといった共通した傾向が見られることがあります。

視覚の問題

斜視や、屈折異常(遠視や乱視)が見られることがあります。

目は見えていても脳での処理がうまくいかない皮質視覚障害がある場合もあります。

原因

なぜ、言葉が出にくかったり、不思議な手の動きをしたりするのでしょうか。その原因は、脳の発達をコントロールする「司令塔」のような遺伝子の変化にあります。

MEF2C遺伝子の役割

この病気の原因は、第5番染色体にあるMEF2C(メフツーシー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、転写因子と呼ばれるタンパク質を作る設計図です。

転写因子とは、他のたくさんの遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする役割を持つ、いわば「現場監督」のような存在です。

特にMEF2Cは、脳の神経細胞が正しい場所に移動したり、神経同士がつながって回路を作ったり(シナプス形成)する時期に、非常に重要な指令を出しています。

脳の初期の発達において、なくてはならない重要な遺伝子の一つです。

何が起きているのか

この病気では、MEF2C遺伝子の片方に変異が起きたり、欠失してなくなったりすることで、正常なMEF2Cタンパク質の量が半分になってしまいます。

これを専門的にはハプロ不全と呼びます。

現場監督の数が半分になってしまうため、脳を作るための指示が十分に行き渡らず、神経回路の形成がうまくいかなくなります。

その結果、運動や言葉の発達が遅れたり、脳の電気信号の調節がうまくいかずに痙攣が起きたりすると考えられています。

また、抑制性ニューロンという「脳のブレーキ役」の細胞の発達に影響が出やすいことが、てんかんや自閉的行動に関係しているという研究もあります。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のMEF2C遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、MEF2Cハプロ不全症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

医者

診断と検査

診断は、症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

特に、レット症候群やアンジェルマン症候群など、似た症状を持つ他の病気との区別が重要です。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の点を確認します。

  • 重度の発達の遅れがあるか。
  • 言葉の遅れが顕著か。
  • 特徴的な手の動き(常同運動)があるか。
  • 筋緊張低下があるか。
  • てんかん発作があるか。

これらの特徴が揃っている場合、MEF2C関連障害が疑われます。

2. 脳波検査

てんかん発作の有無や、脳の電気活動の状態を調べます。

MEF2C関連障害のお子さんでは、起きている時よりも寝ている時の方が、てんかんのような波が出やすいという特徴が見られることがあります。

3. 画像検査(MRI)

脳のMRI検査を行います。

脳の構造に大きな奇形があることは少ないですが、脳梁が薄い、大脳が少し小さい、脳のシワが少し少ないといった、軽微な変化が見られることがあります。

しかし、MRIでは明らかな異常が見つからないことも多く、「画像はきれいなのに症状が重い」ということが、遺伝子検査へ進むきっかけになることもあります。

4. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してMEF2C遺伝子に変異や欠失があるかを調べます。

最近では全エクソーム解析といって、すべての遺伝子を網羅的に調べる検査で見つかることが増えています。

これにより、レット症候群の遺伝子(MECP2)には異常がなく、MEF2Cに異常があることが判明し、診断が確定します。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科、小児神経科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. てんかんの治療

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

バルプロ酸やレベチラセetamなど、発作のタイプに合わせてお薬を選びます。

発作をコントロールすることは、脳の発達を守り、日中の学習や遊びを充実させるために非常に重要です。

難治性の場合は、ケトン食療法などの食事療法が検討されることもあります。

2. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

体の中心(体幹)をしっかりさせ、お座りや立位、歩行の練習を行います。

足が外側を向いてしまう場合などは、インソール(足底板)や装具を使って歩行をサポートします。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

常同運動で手が使いにくい場合でも、遊びの中で手の機能を高めたり、スプーンなどの道具を使う練習をしたりします。

言語聴覚療法(ST)

コミュニケーション能力の向上を目指します。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、写真、VOCA(音声出力装置)、タブレット端末のアプリなど、その子に合ったコミュニケーション手段(AACといいます)を見つけることが大切です。

「伝えたい」という気持ちを引き出し、それを周りが受け止めることで、コミュニケーションの意欲が育ちます。

また、食事の飲み込みに問題がある場合は、摂食指導を行います。

3. 教育と生活のサポート

就学時には、特別支援学校など、お子さんの特性に合わせた手厚い教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

また、放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用することで、家族以外の社会とのつながりを持つことができます。

4. 日常生活でのケア

常同運動への対応

手を口に入れたり噛んだりして傷ができてしまう場合は、手袋をつけたり、噛んでも安全なグッズ(チューイングトイ)を渡したりするなどの工夫をします。

睡眠障害への対応

生活リズムを整える工夫や、必要に応じて睡眠改善薬(メラトニンなど)を使用することがあります。

歯のケア

歯ぎしりをするお子さんが多いため、歯がすり減らないように歯科での定期検診を受けることが大切です。

まとめ

筋緊張低下、常同的な手の動き、および言語障害を伴う神経発達障害(MEF2Cハプロ不全症候群)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: MEF2C遺伝子の変異により、脳の神経回路の形成に必要な指令が十分に行き渡らなくなる先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 筋緊張低下(体の柔らかさ)、レット症候群に似た手の常同運動、重度の言葉の遅れ、てんかんなどが特徴です。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: てんかんのコントロール、早期からの療育(特にコミュニケーション支援)、そして個性に合わせた生活支援が中心となります。

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