マイヤー症候群(Myhre Syndrome)

医者

マイヤー症候群という、非常に稀で聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による病気です」と説明を受け、さらに「SMAD4という遺伝子が原因です」や「筋肉質な体つきが特徴です」といった話をされて、まだ具体的なイメージが湧かずに戸惑っていらっしゃるかもしれません。あるいは、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

この病気は、1981年にアメリカの医師であるマイヤー博士たちによって初めて報告されました。

結合組織という、体の細胞と細胞をつなぎ合わせたり、体を支えたりする組織に変化が起きる生まれつきの体質です。

最大の特徴は、身長は低いものの、まるでスポーツ選手のように筋肉質でがっちりとした体格をしていることです。また、皮膚が厚くなったり、関節が硬くなったり、聴力が低下したりといった症状も見られます。

そして、この病気においてご家族と医療者が最も共有しておくべき重要な情報は、体が傷を治そうとする反応が強すぎるために、手術や怪我のあとに組織が硬くなってしまう「線維化」という現象が起きやすいという点です。これは、日々の生活や医療処置を受ける上で、知っておくべきとても大切なポイントになります。

非常に希少な疾患ですが、近年遺伝子検査の技術が進歩したことで、診断される患者さんが世界中で増えてきており、アメリカには「Myhre Syndrome Foundation」という患者団体もあり、研究が活発に進められています。

まず最初にお伝えしたいのは、正しい知識を持つことが、お子さんの健康と安全を守る一番の力になるということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と可能性があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そしてどのような特徴があるのかを全体像として理解しましょう。

病気の定義

マイヤー症候群は、結合組織疾患と呼ばれるグループに属する先天性の疾患です。

結合組織とは、骨、軟骨、腱、皮膚、血管など、体を形作り、支えるための組織のことです。

原因となるSMAD4遺伝子の働きが変わることで、この結合組織の作られ方や修復のされ方に変化が生じます。

身体的な特徴のパラドックス

この病気の見た目の特徴は非常にユニークです。

多くの発達障害や先天性疾患では、筋肉の張りが弱く、体が柔らかい「低緊張」という状態が見られることが多いのですが、マイヤー症候群はその逆です。

筋肉がしっかりと発達しており、小さい頃から非常に筋肉質で、がっちりとした体格をしています。

しかし、その一方で関節の動きは硬く、動かしにくいという特徴があります。

「見た目は力強くて動きやすそうなのに、実際には体が硬くて動きにくい」というパラドックス(逆説的な状態)が、この病気の特徴の一つと言えます。

進行性の線維化リスク

マイヤー症候群を理解する上で最も重要なのが「線維化」です。

線維化とは、傷が治る過程でコラーゲンなどの組織が増えすぎて、皮膚や内臓が硬くなってしまう現象のことです。通常の怪我のあとに残る傷跡(瘢痕)が、過剰に作られてしまう状態をイメージしてください。

マイヤー症候群の患者さんは、手術や炎症などをきっかけに、この線維化が強く起きやすい体質を持っています。

特に、呼吸をするための管である気管や喉、心臓を包む膜などに影響が出ることがあるため、慎重な管理が必要です。

発生頻度

非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界中で報告されているのは数百例程度です。

しかし、特徴的な体つきや症状の組み合わせが知られるようになるにつれて、診断される数は増えています。

主な症状

マイヤー症候群の症状は、骨格、皮膚、感覚器、内臓など、全身の様々な場所に現れます。

個人差はありますが、多くの患者さんに共通して見られるサインについて、詳しく見ていきましょう。

1. 骨格と筋肉、成長の特徴

ご家族が成長過程で気づくことが多い身体的な特徴です。

低身長

お腹の中にいる時の発育は正常範囲であることが多いですが、生まれてから徐々に身長の伸びが緩やかになり、最終的な身長は平均よりも低くなることが多いです。

これは、骨の成長が通常よりも早く終了する傾向があるためでもあります。

筋肉質な体格(筋肥大)

特別なトレーニングをしているわけではないのに、胸板が厚く、腕や足の筋肉が隆起して、非常にがっちりとした体つきになります。

肩幅が広く、胴体がしっかりしているのも特徴です。

関節の拘縮(こうしゅく)

関節が硬くなり、可動域(動かせる範囲)が狭くなります。

特に、手の指、肘、肩、足首などが硬くなりやすいです。

手が完全に開ききらない、腕がまっすぐ伸びない、つま先立ちのような歩き方になるといった症状が見られます。

骨の厚み

レントゲンを撮ると、頭の骨や肋骨、手足の骨などが通常よりも厚くなっていることがわかります。

2. お顔立ちと皮膚の特徴

マイヤー症候群には、共通する特徴的なお顔立ちがあります。

お顔立ち

目が細い(眼瞼裂が狭い)、まつ毛が長い、唇が薄い、口が小さい、あごがしっかりしている(場合によっては少し前に出ている)といった特徴が見られます。

顔全体の印象としては、表情が乏しいように見えることがありますが、これは皮膚が厚く硬いために表情筋の動きが伝わりにくいことが一因です。

皮膚の特徴

皮膚が厚くて硬い感じがします。

手術や怪我をした後の傷跡が、ケロイドのように盛り上がりやすい傾向があります。

3. 聴覚の症状

患者さんの大多数に、難聴が見られます。

これには2つの原因が混ざっていることが多いです。

一つは伝音性難聴で、耳小骨という音を伝える骨の動きが悪くなることで起こります。

もう一つは感音性難聴で、音を感じる神経自体の働きが弱くなることで起こります。

難聴は言葉の発達やコミュニケーションに大きく影響するため、早期発見と対応が重要です。

4. 知的発達と行動

発達に関しては個人差があります。

知的発達の遅れ

軽度から中等度の知的障害が見られることが多いです。

しかし、中には知的な遅れがほとんどなく、通常の社会生活を送っている方もいます。

言葉の遅れや、運動発達の遅れ(歩き始めなど)が見られることもあります。

行動面の特徴

自閉スペクトラム症に似た特徴が見られることがあります。

こだわりが強かったり、変化を嫌がったり、対人関係が苦手だったりすることがあります。

一方で、明るく社交的な性格のお子さんもたくさんいます。

5. 循環器(心臓・血管)の症状

心臓や血管の壁が硬くなりやすい傾向があります。

心膜炎・心筋症

心臓を包む膜が硬くなる収縮性心膜炎や、心臓の筋肉が広がりにくくなる拘束型心筋症を起こすことがあります。

これにより、息切れやむくみが出ることがあります。

高血圧

血管の壁が硬くなることで、動脈の弾力性が低下し、血圧が高くなりやすい傾向があります。

6. 呼吸器の症状(最も注意が必要)

気道(空気の通り道)に問題が起きることがあります。

喉頭・気管の狭窄

鼻や口から肺へ続く空気の通り道(喉頭や気管)が狭くなることがあります。

これは、粘膜の下で線維化が進むことによって起こります。

いびきがひどい、息をする時にゼーゼーという音がする、風邪をひくと呼吸が苦しくなりやすいといった症状が見られます。

特に、全身麻酔の際に人工呼吸器の管を入れる(挿管する)操作が刺激となって、その後に気管が狭くなってしまうリスクがあるため、手術の際には麻酔科医との入念な相談が必要です。

7. その他の症状

停留精巣

男の子の場合、精巣が陰嚢の中に降りてこないことがあります。

視力

遠視、乱視、斜視などが見られることがあります。

赤ちゃん

原因

なぜ、筋肉がついたり、体が硬くなったりするのでしょうか。その原因は、細胞に「組織を作れ」という命令を出す信号の異常にあります。

SMAD4遺伝子の役割

マイヤー症候群の原因は、第18番染色体にあるSMAD4(スマッドフォー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、細胞の中でTGF-ベータ(ティージーエフ・ベータ)という信号伝達経路において働くタンパク質を作っています。

TGF-ベータ経路は、細胞の増殖、分化、そして「結合組織(コラーゲンなど)を作る」というプロセスを調節する非常に重要なシステムです。

SMAD4タンパク質は、細胞の外から来た「組織を作れ」という信号を受け取り、それを細胞の核の中に届けるメッセンジャーの役割をしています。

何が起きているのか(機能獲得型変異)

SMAD4遺伝子の変異には、大きく分けて2つのタイプがあります。

一つは、機能が失われてしまうタイプで、これは若年性ポリポーシスという大腸にポリープができる病気の原因になります。

もう一つが、マイヤー症候群の原因となる「機能獲得型」の変異です。

マイヤー症候群では、SMAD4遺伝子の特定の場所に変異が起きることで、SMAD4タンパク質が通常よりも安定し、働きすぎてしまう状態になります。

わかりやすく言うと、「組織を作れ」「修復しろ」というスイッチが入りっぱなし、あるいは強く入りすぎてしまう状態です。

その結果、コラーゲンなどの結合組織が過剰に作られてしまい、皮膚が厚くなったり、筋肉の周りの膜が厚くなったり、傷跡が硬く盛り上がったり(線維化)すると考えられています。

筋肉質に見えるのも、筋肉そのものが増えているだけでなく、筋肉の周りの結合組織が増えている影響もあるのではないかと考えられています。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のSMAD4遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、マイヤー症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の特徴的な所見の組み合わせを確認します。

  • 低身長で筋肉質な体格。
  • 皮膚が厚い。
  • 関節の動きが制限されている。
  • 特徴的なお顔立ち。
  • 難聴や知的発達の遅れ。

これらの特徴が揃っている場合、マイヤー症候群が強く疑われます。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してSMAD4遺伝子に変異があるかを調べます。

特に、マイヤー症候群に特徴的な特定の場所(Ile500やArg496など)に変異があるかを確認します。

これにより、似たような症状を持つ他の結合組織疾患と区別し、診断を確定させることができます。

3. 全身の評価検査

診断がついた後は、合併症がないか全身をチェックします。

  • 心エコー検査: 心膜や心筋の厚さ、弁の動き、血流などを調べます。
  • 聴力検査: 難聴の種類と程度を調べます。
  • 呼吸機能検査・画像検査: 喉や気管の狭窄がないか、CTやMRIで確認することもありますが、内視鏡検査などは刺激になる可能性があるため慎重に判断されます。
  • 眼科検査: 視力や目の構造を調べます。
  • 整形外科的検査: 関節の可動域や骨の変形をレントゲンなどで確認します。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な管理を行い、特に「線維化のリスク」を避けることで、健康を維持することは十分に可能です。

治療の目標は、合併症を予防し、生活の質(QOL)を高めることにあります。

1. 「線維化」を防ぐための最重要事項

マイヤー症候群の管理において、最も気をつけなければならないのが、医療処置による侵襲(体へのダメージ)を最小限にすることです。

手術と麻酔の注意点

手術が必要な場合(例えば停留精巣の手術や、その他の外科手術)、気管挿管(喉に管を入れること)は可能な限り避ける、あるいは極めて慎重に行う必要があります。

管の刺激によって、術後に喉や気管が腫れたり、狭くなったりするリスクが高いためです。

麻酔科医や外科医に対し、「マイヤー症候群であり、気道狭窄のリスクが高い」ことを事前にしっかりと伝え、どうしても必要な場合以外は気管挿管を避けた麻酔方法(マスク換気やラリンジアルマスクなど)を検討してもらうことが推奨されます。

内視鏡検査の制限

気管支鏡や胃カメラなどの内視鏡検査も、粘膜を刺激して線維化を誘発する可能性があるため、本当に必要な場合に限り、愛護的に(優しく)行う必要があります。

2. 薬物療法の可能性

現在、ロサルタンという高血圧の薬が、TGF-ベータの働きを抑える作用を持つことから、マイヤー症候群の線維化予防や治療に効果があるのではないかと期待され、研究が進められています。

一部の患者さんでは実際に使用されることもありますが、まだ確立された標準治療ではありません。主治医とよく相談する必要があります。

3. リハビリテーション(療育)

関節の硬さや発達の遅れに対して、継続的なリハビリが重要です。

理学療法(PT)

関節が固まらないように、愛護的なストレッチを行います。無理に強く伸ばすと逆に組織を傷めてしまう可能性があるため、「優しく、ゆっくり」が基本です。

体の使い方の練習や、姿勢の保持などをサポートします。

作業療法(OT)

手先の硬さがあっても使いやすい道具(太い柄のスプーンなど)を提案したり、日常生活動作の練習を行ったりします。

言語聴覚療法(ST)

難聴や知的発達の遅れによる言葉の問題に対し、コミュニケーションの練習を行います。

補聴器の調整や装用練習もサポートします。

4. 聴覚の管理

難聴に対しては、補聴器を使用することで、言葉の聞き取りやコミュニケーションを助けることができます。

伝音性難聴と感音性難聴の両方がある場合が多いため、耳鼻科医による定期的なチェックと調整が必要です。

5. 循環器・呼吸器の定期検診

症状がなくても、年に1回程度は心エコー検査などで心臓の状態をチェックします。

また、呼吸の状態(いびきや息苦しさ)に変化がないか、日頃から注意深く観察します。

まとめ

マイヤー症候群(Myhre Syndrome)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: SMAD4遺伝子の変異により、組織を作るスイッチが入りすぎている状態になり、結合組織が厚く硬くなる先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 低身長、筋肉質な体格、関節の動かしにくさ、難聴、知的発達の遅れなどが特徴です。
  • 最大の注意点: 体が傷を治そうとする力が強すぎるため、手術や気管挿管などの刺激によって組織が狭くなったり硬くなったりする「線維化」のリスクがあります。
  • 医療連携の重要性: 手術や検査の際は、医師に病気の特徴(特に気道のリスク)を正しく伝えることが、安全を守る鍵となります。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。

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