神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)

赤ちゃん

神経線維腫症1型、あるいはNF1やレックリングハウゼン病という診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

お子さんの体に茶色いあざを見つけ、病院でこの病名を告げられたとき、あるいはご自身が診断を受け、インターネットで様々な情報を目にして、大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、インターネット上の画像検索では、症状が重い方の写真が上位に出てくることが多く、それを見て「将来こうなってしまうのか」とショックを受けられる方が非常に多いのが現実です。

しかし、まず最初にお伝えしたい最も大切なことがあります。

神経線維腫症1型は、症状の現れ方に個人差が極めて大きい病気です。

インターネットで見かける重い症状は、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。

実際には、皮膚のあざや少数のしこりがあるだけで、大きな合併症もなく、元気に学校に通い、仕事をし、家庭を持って天寿を全うされる患者さんがたくさんいらっしゃいます。

この病気は、約3000人に1人という、遺伝性の病気の中では比較的高い頻度で見られるものです。

そのため、医療機関には多くのデータや経験が蓄積されており、適切な管理を行うためのガイドラインもしっかりと整備されています。

また、近年では新しいタイプのお薬が登場するなど、治療の選択肢も広がりつつあります。

正しい知識は、漠然とした不安を消し去るための最強の味方です。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そしてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病気の定義と名称

神経線維腫症1型は、皮膚、神経、骨、目など、全身の様々な場所に症状が現れる遺伝性の病気です。

1882年にドイツの病理学者であるフォン・レックリングハウゼン氏によって初めて詳しく報告されたことから、長らく「レックリングハウゼン病」と呼ばれてきました。

現在、医学の世界では、原因やタイプを明確にするために「神経線維腫症1型」、英語のNeurofibromatosis Type 1の頭文字をとって「NF1(エヌエフワン)」と呼ばれることが一般的です。

発生頻度

約3000人に1人から4000人に1人の割合で生まれると言われています。

日本国内には約4万人の患者さんがいると推計されており、決して極めて稀な病気ではありません。

性別や人種による差はなく、誰にでも発症する可能性があります。

指定難病としての位置づけ

この病気は、国が定めた指定難病の一つです。

「難病」と聞くと、治療法がない怖い病気というイメージを持たれるかもしれませんが、この制度は「原因が完全に解明されておらず、長期的な療養が必要なため、医療費の助成や研究の推進を国がサポートする」という意味合いが強いものです。

重症度分類などの基準を満たす場合、「指定難病受給者証」を取得することで、医療費の負担を軽減することができます。

病気の性質

NF1は、神経や皮膚の細胞が異常に増えやすくなる体質と言えます。

良性の腫瘍ができやすいことが特徴ですが、悪性の腫瘍(がん)ができることは比較的稀です。

症状は年齢とともに変化していくのが特徴で、子供の頃はあざが中心で、大人になると皮膚のしこりが増えてくる、といった経過をたどることが多いです。

主な症状

NF1の症状は非常に多岐にわたりますが、すべての症状が全員に出るわけではありません。

ここでは、代表的な症状を体の部位ごとに解説します。

1. 皮膚の症状

最も早く気づかれやすく、診断のきっかけとなる症状です。

カフェ・オ・レ斑(カフェオレ斑)

名前の通り、ミルクコーヒーのような薄い茶色をした、平らなあざです。

生まれた時からあることが多く、形は楕円形や不規則なものなど様々です。

痛みやかゆみはありません。

診断基準の一つとして、子供では径5ミリメートル以上、大人では径15ミリメートル以上のあざが6個以上あること、とされています。

健康な人でも1個や2個あることは珍しくありませんが、NF1の方では数多く見られるのが特徴です。

成長とともに色は少し濃くなることがありますが、大人になってから急激に数が増えることはあまりありません。

雀卵斑様色素斑(じゃくらんはんようしきそはん)

わきの下や、足の付け根(鼠径部)にできる、そばかすのような小さな茶色い点々です。

通常の日焼けによるそばかすとは違い、日光が当たらない場所にできるのが特徴です。

小学校に入る頃から目立ってくることが多いです。

神経線維腫(しんけいせんいしゅ)

これがこの病気の名前の由来となっている症状です。

神経を包んでいる細胞が増えてできる良性の腫瘍です。大きく分けて3つのタイプがあります。

  • 皮膚神経線維腫:皮膚の表面にできる、柔らかいイボのようなものです。色は肌色か少し紫がかっており、指で押すと皮膚の中に沈み込むような感触(ボタン穴サイン)があります。思春期頃からでき始め、妊娠や加齢に伴って数が増えることがあります。痛みはありませんが、見た目の悩みや、服に引っかかるなどの問題になることがあります。
  • 皮下神経線維腫:皮膚の下にできる、クリッとしたしこりです。押すと軽い痛みを感じることがあります。
  • びまん性神経線維腫(叢状神経線維腫):後述します。

叢状神経線維腫(そうじょうしんけいせんいしゅ)

皮膚の下の太い神経に沿って、腫瘍が広がってできるタイプです。

皮膚がたるんだり、患部が腫れ上がったりすることがあります。

生まれつき存在することが多いですが、成長とともに大きくなり、痛みや機能障害を伴うことがあります。

顔や首にできると見た目に影響し、体の深部にできると臓器を圧迫することがあります。

これは全ての患者さんにできるわけではありません。

2. 骨の症状

骨の成長や形成に影響が出ることがあります。

脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)

背骨が左右に曲がってしまう状態です。

NF1のお子さんの約10パーセントから30パーセントに見られます。

軽度であれば経過観察で済みますが、曲がりが強い場合は装具をつけたり、手術が必要になったりすることがあります。

骨の変形・偽関節

すねの骨が生まれつき曲がっていたり、骨折した後に骨がくっつかず、関節のように動いてしまう偽関節という状態になることがあります。

これは歩き始めの時期に見つかることが多く、専門的な整形外科治療が必要です。

低身長・大頭症

同年代の子に比べて身長が低めだったり、頭のサイズが大きめだったりする傾向があります。

これらは体質的なものであり、知能や健康に直接悪影響を与えるものではありません。

3. 目の症状

視力には影響しないものと、注意が必要なものがあります。

虹彩小結節(リッシュ結節)

黒目の中にある茶色の部分(虹彩)にできる、小さな盛り上がりです。

眼科の特殊な顕微鏡で見ると確認できます。

視力には全く影響しませんが、NF1の診断において非常に重要なサインとなります。

視神経膠腫(ししんけいこうしゅ)

目と脳をつなぐ視神経にできる腫瘍です。

NF1のお子さんの約15パーセントに見つかりますが、その多くは成長が止まるか、非常にゆっくりであるため、治療を必要としないことがほとんどです。

ただし、腫瘍が大きくなると視力が低下したり、視野が欠けたり、目が飛び出してきたりすることがあります。

そのため、定期的な眼科検診が欠かせません。

4. 神経・発達の症状

脳の発達に特性が見られることがあります。

学習障害LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD

NF1のお子さんの約半数に、学習の苦手さや、落ち着きのなさが見られると言われています。

「知能が低い」というわけではなく、読み書きや計算など特定の分野が苦手だったり、集中力が続かなかったりするという特性です。

全般的な知的障害(知的発達症)を伴うこともありますが、多くは軽度であり、通常の学級で学んでいるお子さんもたくさんいます。

てんかん

脳の電気信号の乱れにより、けいれんや意識消失などの発作を起こすことがあります。

NF1の患者さんの数パーセントに見られますが、多くは薬でコントロール可能です。

5. その他の症状

高血圧

腎臓の血管が狭くなることや、副腎の腫瘍などが原因で、若い頃から高血圧になることがあります。

悪性腫瘍のリスク

NF1の患者さんは、一般の方に比べて、悪性腫瘍ができるリスクがわずかに高いことが知られています。

特に、良性の叢状神経線維腫が変化してできる悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)には注意が必要です。

急に腫瘍が大きくなったり、痛みが強くなったりした場合は、すぐに医師に相談する必要があります。

ただし、過度に恐れる必要はありません。定期的な検診を受けていれば、早期発見・早期治療が可能です。

原因

なぜ、このような様々な症状が現れるのでしょうか。その原因は、細胞の増殖をコントロールする遺伝子の働きにあります。

NF1遺伝子の変異

この病気の原因は、第17番染色体にあるNF1遺伝子の変異です。

この遺伝子は、ニューロフィブロミンというタンパク質を作る設計図です。

ニューロフィブロミンの役割

ニューロフィブロミンは、細胞の中で「増殖しなさい」という信号が出過ぎないようにブレーキをかける役割、いわば腫瘍抑制因子として働いています。

専門的には、細胞内のRAS/MAPK経路という信号伝達経路のブレーキ役を担っています。

何が起きているのか

NF1遺伝子に変異があると、正常なニューロフィブロミンが作られなくなったり、機能しなくなったりします。

すると、細胞のブレーキが壊れた状態になり、細胞が必要以上に増え続けてしまいます。

その結果、神経を包む細胞が増えて神経線維腫ができたり、色素を作る細胞が活発になってカフェオレ斑ができたりするのです。

このように、細胞増殖の信号伝達(RAS経路)に異常がある病気のグループをRASオパチー(ラスオパチー)と呼び、ヌーナン症候群などもこの仲間です。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

親から子への遺伝

ご両親のどちらかがNF1である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。男女差はありません。

突然変異

しかし、NF1の患者さんの半数以上は、ご両親はこの病気ではなく、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異によるものです。

これは、受精卵ができる過程で偶然に起きた変化であり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレスなどが原因で起こるものではありません。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状が揃っているかどうかを確認することで行われます。これを臨床診断と呼びます。

診断基準(NIH基準など)

以下の7つの項目のうち、2つ以上が当てはまる場合にNF1と診断されます。

  1. 6個以上のカフェオレ斑がある(小児で径5mm以上、成人で径15mm以上)。
  2. 2個以上の神経線維腫、または1個以上の叢状神経線維腫がある。
  3. わきの下や鼠径部に雀卵斑様色素斑(そばかす)がある。
  4. 視神経膠腫がある。
  5. 2個以上の虹彩小結節(リッシュ結節)がある。
  6. 特徴的な骨病変(脊柱側弯症の進行、骨の変形など)がある。
  7. 第一度近親者(親、兄弟、子供)にNF1の患者さんがいる。

子供の場合、最初はカフェオレ斑しか見られないことが多く、診断基準を満たすまでに数年かかることがあります。そのため、「NF1の疑い」として経過観察を続けることもよくあります。

検査

遺伝子検査

血液を採取してNF1遺伝子の変異を調べることができます。

診断が難しい場合や、これから生まれてくるお子さんへの遺伝を考える場合に検討されますが、必須ではありません。

また、遺伝子変異の種類と症状の重さには明確な関連がないことが多く、「変異が見つかったからといって、将来どんな症状が出るかは予測できない」という点に注意が必要です。

画像検査

MRIやCT検査を行って、体の奥に腫瘍がないか、脳に変化がないかを調べます。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変異そのものを治して病気を完治させる方法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療を行うことで、健康を維持し、生活の質を高めることができます。これを対症療法といいます。

1. 定期的な経過観察

これが最も重要です。

症状が変化していないか、新しい症状が出ていないかを定期的にチェックします。

小児期は半年に1回、成人期は1年に1回程度の通院が目安となります。

2. 皮膚の治療

カフェオレ斑

見た目が気になる場合は、ファンデーションなどのメイクアップでカバーすることができます。レーザー治療は、一時的に色が薄くなっても再発することが多く、かえって色が濃くなることもあるため、慎重な判断が必要です。

神経線維腫

痛みがあったり、衣服に擦れて邪魔になったり、見た目が気になる場合は、手術で切除することができます。

数が多い場合は、炭酸ガスレーザーなどで取り除くこともありますが、傷跡が残る可能性などを考慮して行います。

3. 叢状神経線維腫の新しい治療薬

これまで、手術で取りきれない叢状神経線維腫に対する有効な治療法はありませんでした。

しかし、2022年に日本でも「コセルゴ(一般名:セルメチニブ)」というお薬が承認されました。

これは、細胞の増殖信号(MEK)をブロックする分子標的薬です。

腫瘍を完全に消すことは難しいですが、腫瘍を小さくしたり、痛みを和らげたりする効果が期待できます。

現在は、症状があって手術が難しい3歳以上のお子さんが対象となっています。

4. 整形外科的治療

側弯症や骨の変形に対しては、装具による矯正や手術を行います。早期発見が重要ですので、学校検診などで背骨の曲がりを指摘されたら、すぐに専門医を受診しましょう。

5. 発達・学習のサポート

学習障害やADHD傾向がある場合は、その子の特性に合わせた学習環境を整えることが大切です。

「やる気がない」のではなく、「脳の特性による苦手さ」であることを周囲が理解し、短時間で集中する工夫や、視覚的な教材を使うなどの配慮を行うことで、お子さんのストレスは大きく減ります。

必要に応じて、療育や通級指導教室を利用しましょう。

ライフステージごとのポイント

乳幼児期

カフェオレ斑で診断されることが多い時期です。

骨の変形や、目の腫瘍がないかをチェックします。

言葉の遅れや落ち着きのなさが気になり始めることもあります。

学童期

そばかすが出てきたり、皮膚のプツプツができ始めたりします。

学習面でのつまずきや、友人関係での悩みが生まれることがあります。

学校の先生に病気のことを伝え、必要な配慮をお願いすることも大切です。

思春期

第二次性徴に伴い、皮膚の神経線維腫が増え始めることがあります。

外見への悩みが深くなる時期です。心のケアが大切になります。

脊柱側弯症が進行しやすい時期なので注意が必要です。

成人期

就職、結婚、出産などのライフイベントを迎えます。

妊娠中に腫瘍が一時的に大きくなったり数が増えたりすることがあるため、計画的な管理が推奨されます。

高血圧や悪性腫瘍などの合併症に注意し、定期的な健康診断を欠かさないようにします。

まとめ

神経線維腫症1型(NF1)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: 全身の細胞のブレーキ役(NF1遺伝子)の変異により、良性の腫瘍やあざができやすくなる体質です。
  • 症状の多様性: 症状の出方は人それぞれで、軽症の方もたくさんいます。ネット上の重症例が全てではありません。
  • 主な症状: カフェオレ斑、神経線維腫、骨の変形、学習の苦手さなどが代表的です。
  • 治療の進歩: 根本治療はありませんが、新しいお薬(コセルゴ)が登場するなど、治療の選択肢は広がっています。
  • 管理の鍵: 定期的な受診を続け、変化を早期に見つけて対応することが、健康を守る一番の方法です。

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