妊娠中は、ホルモンの変化や体重増加によって体力が低下しやすくなります。しかし、適切な体力づくりは妊娠期の不調を軽減し、出産・産後の回復力を高める大きな助けとなります。近年では、NIPT(新型出生前診断)を受けて妊娠経過を把握しながら、より計画的に体力づくりに取り組む方も増えています。本記事では、妊娠中に安全かつ効果的に始められる体力づくりの工夫と注意点を、医療的観点を交えて詳しく解説します。
1. 妊娠中の体力づくりが必要な理由
1-1. 妊娠で疲れやすくなる生理的変化
妊娠後期に向けて血液量は約30〜50%増加し、心拍数や心拍出量も上昇します。ホルモンの影響で靭帯が緩み、重心も変化するため、腰背部への負担や転倒リスクが増します。こうした身体負荷に対応するため、計画的な運動で基礎体力を維持することが大切です。
1-2. 出産時の持久力と筋力維持
分娩は長時間にわたる持久負荷です。有酸素運動と軽い筋トレの習慣は呼吸循環機能や骨盤周囲の筋力を保ち、いきみや体位変換をスムーズにします。妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群の予防効果も報告されています。
1-3. 不調の予防・軽減
腰痛・むくみ・便秘などは活動量低下や血流不足で悪化します。ウォーキングやマタニティヨガ、水中運動は血流促進と自律神経の安定に役立ち、体重管理にも有効です。
1-4. 産後の回復促進
妊娠中の運動習慣は産後の体重管理や血栓予防、メンタル安定に貢献します。産後うつの予防要因の一つとしても注目されています。
1-5. 睡眠・自律神経の安定
4〜16週間の運動介入で睡眠の質が改善する研究結果もあり、日中の疲労軽減やストレス緩和にも効果が期待できます。
1-6. 安全な運動の目安
妊娠経過が順調であれば、週150分の中等度有酸素運動+軽い筋トレが推奨されます。強度は「会話できるが歌えない」程度を目安にし、異常があれば即中止します。
2. 妊娠中の安全な運動
妊娠中の運動は「安全性」が第一です。主治医の許可を得た上で、以下のような負担の少ない運動を選びましょう。
妊婦さんに人気の運動と安全ポイント一覧
| 運動名 | 安全な始め方 | 注意点 |
| ウォーキング(マタニティウォーク) | 朝夕の涼しい時間帯に20〜30分。マタニティシューズやクッション性のある靴を使用。背筋を伸ばし、腕を軽く振って歩く。 | 長時間や坂道での負荷は避ける。息切れや腹部の張りを感じたら中止。 |
| マタニティヨガ | 妊婦向けクラスやオンライン動画を利用。呼吸法・ストレッチを中心に、反動をつけずにゆっくり行う。 | 妊娠初期は安定期に入ってから開始するのが望ましい。腹部を強く圧迫するポーズは避ける。 |
| 水中エクササイズ(アクアエクササイズ) | 水温28〜30℃前後の温水プールで、マタニティプログラムを利用。浮力を活かして歩行や軽いストレッチを行う。 | 滑りやすいプールサイドでの転倒に注意。急激な温度差や長時間の入水は避ける。 |
| 軽い筋トレ(自宅) | スクワット、膝つきプランク、足首回しなど、自重を使った短時間トレーニング。回数は少なめからスタート。 | 腹圧が強くかかる動作や息を止める動作は控える。必ず呼吸を続けながら行う。 |
| マタニティピラティス | 骨盤底筋群や体幹を意識しながら、低負荷でゆっくり動く。妊婦専用クラスを利用すると安全。 | 高難度のポーズや長時間の仰向け姿勢は避ける。腰痛や張りが出たら中止。 |

3. 栄養面からの体力づくりサポート
体力をつけるには運動だけでなく、栄養補給も重要です。妊娠期には以下の栄養素を意識して摂取します。
- 鉄分:血液量が増えるため鉄不足になりやすく、貧血予防に必須。レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじきなど。
- たんぱく質:筋肉や胎児の成長に欠かせない。魚、肉、卵、大豆製品をバランスよく。
- 葉酸:胎児の神経管閉鎖障害予防に重要。妊娠初期からサプリで補うことも推奨されます。
- カルシウム:骨の健康を維持。乳製品、小魚、緑黄色野菜などから摂取。
- ビタミンD:カルシウム吸収を助け、免疫力向上にも寄与。日光浴や魚介類から。
栄養素別おすすめレシピ
1. 鉄分たっぷり
「ほうれん草とひじきの煮浸し」
材料(2人分)
- ほうれん草…1束
- 乾燥ひじき…10g
- にんじん…1/3本
- だし汁…200ml
- 醤油…小さじ2
- みりん…小さじ1
作り方
- ひじきは水で戻し、ほうれん草は茹でて3cm幅に切る。
- 鍋にだし汁を沸かし、ひじきと千切りにしたにんじんを煮る。
- ほうれん草を加え、醤油・みりんで味を整える。
2. たんぱく質&ビタミンD
「鮭と豆腐のふんわり蒸し」
材料(2人分)
- 生鮭…2切れ
- 絹ごし豆腐…150g
- 小松菜…1/2束
- しょうが(千切り)…少々
- 醤油…小さじ1
- 酒…小さじ1
作り方
- 鮭は軽く塩を振り、豆腐は水切りして一口大に切る。
- 耐熱皿に鮭、豆腐、小松菜、しょうがを並べ、醤油と酒をふる。
- 蒸し器または電子レンジ(600Wで約5分)で加熱する。
3. 葉酸+カルシウム
「ほうれん草とチーズ入りオムレツ」
材料(2人分)
- 卵…3個
- ほうれん草…1/2束
- ピザ用チーズ…30g
- 牛乳…大さじ2
- 塩・こしょう…少々
作り方
- ほうれん草を茹でて水気を絞り、2cm幅に切る。
- 卵に牛乳、塩こしょうを混ぜ、ほうれん草とチーズを加える。
- フライパンで両面を焼き、中まで火を通す。
4. ビタミンD+カルシウム+鉄分
「いわしのトマト煮」
材料(2人分)
- いわし(手開き済み)…4尾
- トマト缶…1/2缶(200g)
- 玉ねぎ…1/2個
- にんにく…1片
- オリーブオイル…小さじ2
- 塩…少々
作り方
- 玉ねぎとにんにくをみじん切りにし、オリーブオイルで炒める。
- いわしを加えて軽く焼き色をつけ、トマト缶を加えて10分煮込む。
- 塩で味を調え、好みでパセリを散らす。
4. NIPTと妊娠中の体力づくりの関係
NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液から胎児の染色体異常の可能性を高精度で判定する検査です。妊娠10週以降に行えるため、検査結果を踏まえて体力づくりの計画を立てるケースもあります。
4-1. 検査後の安心感と活動意欲
陰性結果を得た妊婦さんは、精神的な安心感から積極的に運動に取り組めることがあります。
4-2. 陽性の場合の体調管理
陽性結果が出た場合でも、医師の指示のもと安全な範囲で体力づくりを続けることが、出産・育児への備えになります。
4-3. 健康管理の一環としての位置づけ
NIPTは確定診断ではないため、必要に応じて羊水検査などの追加検査が行われます。その間も、過度な運動を避けつつ栄養管理を行うことが重要です。
5. 自宅でできる体力づくりの具体例
妊娠中は天候や体調、外出制限などで運動が難しい日もあります。そんな時でも、自宅で安全に行える軽めの運動を取り入れることで、血行促進・筋力維持・リラックス効果が得られます。以下は特別な道具が不要で、妊婦さんでも取り組みやすいメニューです。
5-1. 椅子スクワット(下半身・体幹強化)
効果:太もも・お尻・骨盤周囲の筋肉を強化し、出産時のいきみや姿勢保持をサポート。
やり方
- 安定した椅子の背もたれを軽く持ち、足を肩幅に開く。
- 息を吸いながら腰をゆっくり後方へ下げ、太ももが床と平行になる手前で止める。
- 息を吐きながら元の姿勢に戻る。
- 10回×2セット、無理のない範囲で行う。
ポイント
- 膝がつま先より前に出ないよう注意。
- 腹圧をかけすぎず、呼吸は止めない。
5-2. 足首回し(むくみ・冷え予防)
効果:ふくらはぎのポンプ作用を活性化し、血流やリンパの流れを促進。
やり方
- 椅子やソファに座り、片足を軽く持ち上げる。
- 足首を大きく、ゆっくり外回し10回、内回し10回。
- 反対側も同様に行う。
ポイント
- 寝る前やテレビを見ながらでもOK。
- むくみやすい夜は、就寝前に行うと翌朝が楽になる。
5-3. 軽いストレッチ(首・肩・背中の緊張緩和)
効果:姿勢改善・肩こり・背中のこわばりを解消。
やり方
- 椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばす。
- 首をゆっくり左右・前後に倒す(各方向5秒キープ)。
- 両肩を耳に近づけてから、後ろへ大きく回す動作を5回。
- 背中を丸める→胸を開く動きをゆっくり5回。
ポイント
- 呼吸と連動させ、反動はつけない。
- 無理に伸ばさず「心地よい範囲」で止める。
5-4. 追加のおすすめ:壁プッシュ
効果:腕・胸・肩まわりの筋力維持。
やり方
- 壁に両手を肩幅でつき、足を少し後ろに引く。
- 息を吸いながら肘を曲げ、顔を壁に近づける。
- 息を吐きながら肘を伸ばし、元に戻す。10回×1〜2セット。

6. 医師と連携した体力づくりのすすめ
妊娠中は体調や合併症の有無によって安全な運動・食事内容が異なります。自己判断せず、必ず主治医や助産師に確認しましょう。
医師相談が必要な主なケース
安全に進めるコツ
- 健診時に運動・体調の記録を共有。
- 栄養士と連携して必要栄養素を確保。
- むくみや急な体重増加、視覚異常、息切れなどは早期報告。
運動中止の目安
出血、羊水漏れ、強い張りや痛み、めまい・動悸、胸痛、激しい頭痛や視覚異常が出たらすぐ中止し医師へ。
まとめ
妊娠中の体力づくりは、母体と胎児の健康を守り、出産・産後を乗り切るための大切な準備です。ウォーキングやマタニティヨガなど安全な運動、栄養バランスの取れた食事、そしてNIPTを含む適切な健康管理を組み合わせることで、安心して妊娠期を過ごすことができます。無理のない範囲で継続し、医師の助言を受けながら、自分に合った方法で体力を育んでいきましょう。
