NIPT陽性、誰に頼る?人生を導く「計画相談」と支援のプロ

NIPTで陽性判定が出た時、最大の不安は「これからどう育てればいいのか」という具体的な生活が見えないことではないでしょうか。 実は、日本には家族だけで悩まず、プロが伴走してくれる強力な仕組みがあります。それが「相談支援事業」です。 介護のケアマネージャーのように、国家資格を持つ専門員が「あなただけの支援計画」を作成し、療育や生活をコーディネートしてくれます。本記事では、知的障害児の人生を導くこの制度の全貌と、賢い活用法を解説します。

1. 障害福祉の羅針盤:「相談支援事業」とは何か?

まず、この聞き慣れない「相談支援事業」という言葉が、具体的に何を指し、家族にとってどのようなメリットがあるのか、その基本構造を理解しましょう。

複雑な福祉サービスへの「入り口」

日本の障害福祉サービスは多岐にわたります。

児童発達支援、放課後等デイサービス、ホームヘルプ、ショートステイ、移動支援、就労継続支援……。これらはバラバラに存在しており、初めて障害児を育てる親御さんが、自分のお子さんに最適なサービスを自力で探し出し、契約し、調整することは極めて困難です。

そこで、「相談支援事業所」が窓口となります。 ここに所属する「相談支援専門員」は、地域の社会資源(どこにどんな施設があり、どんな特徴があるか)を熟知しています。彼らが家族のニーズを聞き取り、行政(役所)と事業所(施設)の間に入って、サービスの利用調整を行います。

3つの種類の相談支援

法律上、相談支援は大きく分けて以下の3つに分類されます。

  1. 基本相談支援:
    障害の種別や等級に関わらず、情報提供や助言を行う、最も基礎的な相談窓口です。
  2. 計画相談支援(障害児相談支援):
    福祉サービスを利用するために必須となる「サービス等利用計画」を作成します。NIPT後に障害児を出産した場合、最も深く関わることになるのがこの支援です。
  3. 地域相談支援(地域移行・地域定着):
    入所施設や精神科病院から地域生活(グループホームや一人暮らし)へ移行するためのサポートや、その後の生活を見守る支援です。成人期以降に重要になります。

利用者負担は「無料」

重要なポイントとして、この相談支援事業を利用するための費用(計画作成費など)は、全額が公費(国や自治体)で賄われます。

つまり、利用者である家族の自己負担は0円です。経済的な心配をせずに、プロフェッショナルのサポートを受けることができる仕組みになっています。

2. 最も重要なプロセス:「計画相談支援」の具体的な流れ

NIPTで陽性となり、お子さんが生まれて療育(児童発達支援)などを利用したいと思った時、具体的にどのような手順でこの制度を利用するのか。時系列で解説します。

① 相談・申請

まず、お住まいの自治体の「障害福祉課」窓口に行き、サービスを利用したい旨を伝えます。そこで、「指定特定相談支援事業所(または障害児相談支援事業所)」のリストを渡されます。

家族は事業所を選び、契約を結びます。「ダウン症の支援に強い」「医療的ケア児に詳しい」など、事業所ごとの特徴があるため、役所の担当者や保健師におすすめを聞くのも良いでしょう。

② アセスメント(課題分析)

担当の相談支援専門員が自宅を訪問し、面談を行います。

  • 子供の状態: 発達の状況、健康状態、好きなこと、苦手なこと。
  • 家族の状況: 親の就労状況、兄弟の有無、困っていること、将来の希望。
    これらを詳しく聞き取り(アセスメント)、現在の課題と目標を整理します。
    「言葉が出るようになってほしい」「親が働けるよう、夕方まで預かってほしい」といった具体的なニーズをここで伝えます。

③ サービス等利用計画案の作成

アセスメントに基づき、専門員が「サービス等利用計画案」を作成します。

  • 「週に2回、理学療法のあるA事業所に通う」
  • 「月に1回、親の休息のためにB施設のショートステイを利用する」
    このように、1週間・1ヶ月のスケジュールの中に、具体的にどのサービスをどう組み込むかを設計図にします。

④ 支給決定と受給者証の交付

作成された計画案を自治体に提出します。自治体は内容を審査し、サービスの支給決定(「月〇日分の利用を認めます」という許可)を下し、「通所受給者証」が交付されます。

⑤ 担当者会議とサービス開始

専門員が招集し、利用する予定の事業所スタッフ、親、専門員が集まる「サービス担当者会議」を開きます。ここで全員が支援の方針(個別支援計画)を共有し、連携体制を作ってから、実際のサービス利用がスタートします。

⑥ モニタリング(継続的な見直し)

計画を作って終わりではありません。

「3ヶ月に1回」などの頻度で、専門員が状況を確認(モニタリング)します。

「最近、事業所に行き渋るようになった」「親の残業が増えたので利用日数を増やしたい」といった変化があれば、計画を見直し(プラン変更)、常に最適な状態にチューニングし続けます。

3. ライフステージごとの支援:ゆりかごから墓場まで

相談支援事業の真価は、子供の成長に合わせて、途切れることなく支援をつないでいく点にあります。NIPT受検者が懸念する「将来」をどう支えるのかを見ていきます。

乳幼児期〜学齢期:「障害児相談支援」

この時期のメインテーマは「発達支援」と「親の就労・レスパイト」です。

  • 早期療育のコーディネート:
    医療機関と連携し、理学療法(PT)や言語聴覚療法(ST)が受けられる児童発達支援センターを紹介します。
  • 放課後等デイサービスの調整:
    小学校入学後は、放課後の居場所となるデイサービスを探します。「宿題を見てくれるところ」「運動療法に特化したところ」など、子供の特性に合った場所を専門員が提案します。
  • 教育との連携:
    保育所等訪問支援を活用し、幼稚園や学校の先生と連携して、集団生活での配慮事項を伝えます。

青年期〜成人期:「就労」と「自立」への移行

18歳を超えると、法律が「児童福祉法」から「障害者総合支援法」へ切り替わり、サービス体系も変わります。ここでの専門員の役割は、社会への橋渡しです。

  • 就労支援:
    就労移行支援事業所や就労継続支援(A型・B型)を紹介し、働く場所を見つけるサポートをします。
  • 生活の場の移行:
    「親元を離れて暮らしたい」というニーズに対し、グループホームの見学や体験入居を調整します。

地域定着支援:親亡き後の見守り

親が高齢化したり亡くなったりした後、一人暮らしやグループホームで暮らす障害者を支えるのが「地域定着支援」です。

  • 24時間の連絡体制:
    常時連絡が取れる体制を確保し、何かあった時にすぐに駆けつけます。
  • 緊急時の対応:
    急病やトラブル発生時に、医療機関や警察と連携して対応します。
    相談支援事業所が、親に代わって「地域の見守り役」として機能することで、孤立を防ぎます。

4. 相談支援専門員のスキルと選び方:誰と組むかで人生が変わる

相談支援専門員は、障害児・者の人生を左右するキーパーソンです。彼らの専門性と、良い専門員に出会うためのポイントを解説します。

求められる高度な専門性

相談支援専門員になるには、実務経験(3年〜10年)に加え、公的な研修を受ける必要があります。彼らは単なる事務屋ではありません。

  • アセスメント力: 表面的な言葉だけでなく、本人がうまく表現できない「真のニーズ」を汲み取る力。
  • 社会資源の知識: 地域にどんな事業所があり、どんな空き状況で、どんな評判かという生きた情報網。
  • 調整・交渉力: 行政に対して必要な支給量を認めさせたり、事業所に対して無理な受け入れを調整したりする交渉力。

「セルフプラン」との違い

実は、専門員に依頼せず、親自身が計画を作成する「セルフプラン」も認められています。

しかし、NIPTで陽性判定を受けたばかりの、まだ障害受容も揺れ動く時期の親御さんが、複雑な制度を理解して計画を立てるのは負担が大きすぎます。

第三者である専門員が入ることで、「親の視点」だけでなく「客観的なプロの視点」が入り、将来を見据えた無理のない計画が立てられます。

事業所選びのポイント

相談支援事業所にも「得意分野」があります。

  • 重心(重症心身障害)に強い: 医療的ケアが必要なケースの調整経験が豊富。
  • 精神障害に強い: 思春期以降のメンタルケアに強い。
  • 就労に強い: 地域の企業とのネットワークを持っている。

NIPTで18トリソミーダウン症候群などが想定される場合は、地域の親の会や保健師に「この地域の障害児支援に強い相談支援事業所はどこですか?」と具体的に聞くことが、良い出会いへの近道です。

5. NIPTと相談支援:検査を受ける前に知っておくべきこと

NIPTは「知る」ための検査ですが、知った後にどう動くかという「行動」の指針が必要です。相談支援事業はその指針そのものです。

「育てられるか」という不安への回答

「育てられるか自信がない」という不安の多くは、「何をすればいいか分からない」という無知から来ています。

「相談支援専門員というパートナーがついて、計画を立ててくれる」「定期的に見直してくれる」「何かあったら電話一本で相談できる」

この事実を知っているだけで、「自分たち夫婦だけで抱え込まなくていいんだ」という安心感につながります。

孤立を防ぐセーフティネット

虐待や育児放棄(ネグレクト)の背景には、必ずと言っていいほど「家庭の孤立」があります。

相談支援事業を利用するということは、定期的なモニタリングを通じて、社会と繋がり続けることを意味します。専門員は、子供の成長だけでなく、親の疲労度やメンタルヘルスにも目を配ります。

「お母さん、少し疲れていませんか? レスパイト(休息)を使いましょう」

その一言をかけてくれる存在がいることが、家族崩壊を防ぐ防波堤になります。

6. まとめ:相談支援事業は、家族の「未来の設計図」を描く場所

本記事では、NIPTのその先にある福祉の要、「相談支援事業」について解説してきました。

ポイントをまとめます。

  1. 福祉のコンシェルジュ: 相談支援専門員は、複雑なサービスを整理し、家族に最適な利用計画を作ってくれる無料のパートナーである。
  2. PDCAサイクル: 計画(Plan)→利用(Do)→モニタリング(Check)→見直し(Action)を繰り返し、子供の成長に合わせて支援をアップデートし続ける。
  3. 生涯にわたる支援: 幼児期の療育から、成人期の就労、親亡き後の地域生活まで、途切れることなく支える仕組みがある。
  4. 親の負担軽減: サービスの調整や行政との交渉を任せることで、親は「親としての役割(愛情を注ぐこと)」に専念できる。

NIPTで陽性判定が出たとき、目の前が真っ暗になるかもしれません。しかし、日本の福祉制度の中には、あなたと一緒にペンを持ち、未来の設計図を描いてくれる専門職が必ず待っています。

検査を受ける前、あるいは結果が出た後、もし不安に押しつぶされそうになったら、お住まいの自治体の「障害福祉課」や「基幹相談支援センター」に連絡してみてください。

「まだ生まれていないけれど、心配で」と伝えても大丈夫です。そこから繋がる縁が、あなたとお子さんの人生を支える強固な命綱となるはずです。

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