脳室周囲結節状異所性灰白質1型(PVNH1)

赤ちゃん

脳室周囲結節状異所性灰白質(Periventricular Nodular Heterotopia:PVNH)という、非常に長く、聞き慣れない診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「脳の形成異常です」と説明を受け、MRI画像を見せられたとき、大きなショックと不安を感じられたことと思います。

しかし、この病名は「脳の一部が欠けている」や「壊れている」という意味ではありません。

脳の細胞が、本来あるべき場所へ移動する途中で、少し「休憩」してしまった状態だとイメージしてください。

実は、この病気を持つ方の中には、大人になるまで気づかずに社会生活を送り、偶然受けた脳ドックや、大人になってからのてんかん発作で初めて診断される方も少なくありません。

つまり、「診断された=重い障害」とは限らないのです。

まず最初にお伝えしたいのは、適切な管理と理解があれば、多くの方がその人らしい豊かな生活を送ることができるということです。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この複雑な病名を分解して、どのような意味が込められているのかを理解しましょう。

病名の意味

脳室周囲(のうしつしゅうい):脳の中心にある、脳脊髄液(のうせきずいえき)という水が入った部屋(脳室)の周りに。

結節状(けっせつじょう):ボコボコとした丸いかたまり(結節)がある。

異所性(いしょせい):本来あるべき場所とは違う場所(異所)にある。

灰白質(かいはくしつ):神経細胞が集まっている部分(通常は脳の表面にある)。

つまり、「本来なら脳の表面(大脳皮質)まで移動するはずだった神経細胞の一部が、移動しきれずに脳室の周りに留まってしまい、そこでコブのような集まりを作ってしまった状態」を指します。

どのような病気か一言で言うと

「脳の神経細胞の『お引越し』が途中で止まってしまったために、脳室の壁に神経細胞の『かたまり』ができてしまう先天性の状態」です。

PVNH1(1型)とは

脳室周囲結節状異所性灰白質自体は、遺伝子の変異だけでなく、様々な要因で起こりますが、「1型」と分類される場合は、特定の遺伝子(FLNA)の変異が関わっているタイプを指します。

このタイプは、脳だけでなく、心臓や血管、血液の固まりやすさなど、全身に特徴が現れることがあるのが特徴です。

また、遺伝の形式(X連鎖優性遺伝)の関係で、患者さんの多くは女性です。

指定難病

日本では「指定難病136:脳形成異常」の一部として、あるいはてんかんの重症度に応じて、医療費助成の対象となる場合があります。

主な症状

PVNH1の症状は、脳の症状(てんかんなど)と、それ以外の全身の症状に分けられます。

症状の程度には個人差が非常に大きく、無症状の方から、ケアが必要な方まで様々です。

1. 脳・神経系の症状

てんかん発作(最も多い症状)

患者さんの約80〜90%に見られます。

発症時期は幅広く、小児期から大人になってから(20代や30代)初めて発作が起きることもあります。思春期(中学生〜高校生頃)に発症することが比較的多いと言われています。

脳室の周りにある「異所性」の神経細胞が、勝手に電気信号を出してしまい、それが正常な脳回路に干渉することで発作が起きると考えられています。

お薬(抗てんかん薬)でコントロールできる場合も多いですが、中にはお薬が効きにくい(難治性)場合もあります。

知的能力・発達

ここがご家族にとって一番心配な点かと思いますが、PVNH1の患者さんの多くは、正常範囲の知能を持っています。

学校に通い、勉強し、就職されている方もたくさんいます。

ただし、一部の方では、境界域の知能や軽度の知的障害、あるいは学習障害(読み書きの苦手さなど)が見られることがあります。

言葉の遅れや、運動発達の遅れが軽度見られることもありますが、リハビリテーションなどで伸びていくことが多いです。

2. 循環器(心臓・血管)の症状

PVNH1(FLNA遺伝子変異)特有の症状として、心臓や血管の形に変化が出ることがあります。

動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう):生まれた直後に閉じるはずの血管が閉じない。

大動脈弁閉鎖不全症などの弁膜症:心臓の弁の形や働きに問題がある。

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう):大動脈の一部が膨らんでしまう。

これらは、定期的な心エコー検査などでチェックし、必要に応じて治療を行います。

3. 血液・皮膚・関節の症状

血液凝固異常

血小板の機能に少し問題があり、血が止まりにくい、あざができやすいといった傾向が見られることがあります。手術の際などは注意が必要です。

皮膚と関節

皮膚が柔らかく伸びやすかったり、関節が柔らかすぎたり(過伸展)することがあります。これはエーラス・ダンロス症候群という病気に似た特徴ですが、PVNH1の一部として現れることがあります。

原因

なぜ、神経細胞のお引越しが途中で止まってしまうのでしょうか。その原因は、細胞の「骨組み」を作る遺伝子の変化にあります。

FLNA遺伝子の変異

PVNH1の主な原因は、X染色体(性染色体)にある「FLNA(フィラミンエー)」という遺伝子の変異です。

FLNA遺伝子の役割

この遺伝子は、「フィラミンA」というタンパク質を作る設計図です。

フィラミンAは、細胞の中にある「アクチン骨格」という骨組みをつなぎ合わせる接着剤のような役割をしています。

細胞が移動する(お引越しする)ためには、この骨組みを組み立てたり壊したりしながら、アメーバのように形を変えて進んでいく必要があります。

また、血管や心臓の弁を作る細胞にとっても、このフィラミンAは重要な役割を果たしています。

何が起きているのか

FLNA遺伝子に変異があると、フィラミンAがうまく働かなくなります。

すると、神経細胞は脳室(生まれた場所)から脳の表面(目的地)に向かって移動しようとしますが、骨組みがうまく作れないため、移動の途中で動けなくなってしまいます。

その結果、脳室の壁に神経細胞が取り残され、そこで固まって「結節(ノジュール)」を作ってしまうのです。

遺伝について

この病気は「X連鎖顕性遺伝(X連鎖優性遺伝)」という形式をとります。

女性に多い理由

女性はX染色体を2本持っています(XX)。男性は1本です(XY)。

FLNA遺伝子はX染色体に乗っています。

女性の場合、片方のX染色体のFLNAに変異があっても、もう片方の正常なX染色体が機能をある程度補うことができるため、生まれてくることができます(症状は出ます)。

男性の場合、X染色体が1本しかないため、FLNAが働かないと脳だけでなく全身の血管などが重篤な形成不全を起こし、多くの場合、生まれてくることができません(流産や死産になることが多いです)。

そのため、患者さんのほとんどが女性です。

ただし、稀に男性でも、体の細胞の一部だけに変異がある「モザイク」という状態などで、軽症で生まれてくることがあります。

親から子への遺伝

お母さんがPVNH1である場合、お子さん(男女問わず)に遺伝する確率は50%です。

しかし、お母さん自身は全く症状がなく(あるいは軽微で気づかず)、お子さんが診断されて初めてお母さんも検査を受けたら見つかった、というケースもよくあります。

また、ご両親ともに遺伝子変異を持っておらず、お子さんで初めて変異が起きた「突然変異(de novo変異)」のケースも多くあります。

赤ちゃん

診断と検査

診断は、特徴的な画像所見と、遺伝学的検査によって行われます。

1. 頭部MRI検査

最も重要な検査です。

脳室の壁に沿って、灰白質(神経細胞のかたまり)がボコボコと連なっている様子が確認できます。

これを「真珠の首飾り(string of pearls)」のように見える、と表現することもあります。

CT検査では見えにくいことが多く、MRI検査が必須です。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために行われます。

血液を採取し、DNAを解析してFLNA遺伝子に変異があるかを調べます。

この検査を行うことには、いくつかの意味があります。

確定診断:他の脳形成異常と区別がつきます。

合併症の予測:心臓や血管のチェックが必要かどうかがわかります。

家族への情報:次の妊娠の際のリスク評価などに役立ちます。

3. 全身のスクリーニング検査

PVNH1(FLNA関連)と診断された場合、脳以外の全身もチェックします。

心エコー検査:心臓の弁や血管の異常がないか。

血液検査:血小板の機能や凝固能に問題がないか。

眼科検査、聴力検査など。

治療と管理

現在の医学では、異所にある神経細胞を動かしたり、遺伝子を修復したりする根本的な治療法はありません。

しかし、症状をコントロールし、合併症を予防するための治療と管理方法は確立されています。

1. てんかんの治療

PVNH1の治療の中心となります。

抗てんかん薬

発作の種類や脳波の結果に合わせて、その人に合ったお薬を調整します。多くの場合、お薬で発作を減らしたり止めたりすることができます。

外科手術

お薬が効きにくい(難治性)場合で、発作の震源地が特定できる場合は、その部分を切除したり、熱凝固したりする外科手術が検討されることがあります。ただし、異所性灰白質が広範囲にある場合は手術が難しいこともあります。

2. 循環器の管理

定期検診

心臓の弁や大動脈の状態を定期的にエコーやCTでチェックします。

大動脈瘤などが見つかった場合は、血圧の管理を行ったり、大きさによっては手術を検討したりします。

3. 血液・止血管理

手術や抜歯の際

血が止まりにくい体質の可能性があるため、事前に血液検査を行い、必要であれば止血剤を使用するなどの対策をとります。

4. 日常生活とライフステージごとの管理

学校生活

てんかん発作がある場合は、学校の先生に状況を伝え、発作時の対応を共有しておきます。知的な遅れがない場合は、通常のクラスで過ごすことが多いですが、学習面でのサポートが必要な場合もあります。

妊娠・出産

女性の患者さんが妊娠を希望される場合、以下の点について専門医(産婦人科、脳神経内科、遺伝診療科)とよく相談する必要があります。

てんかん薬の調整:妊娠中に安全なお薬への変更など。

心血管系の評価:妊娠・出産は心臓や血管に負担がかかるため、事前に大動脈などの状態をチェックします。

遺伝カウンセリング:お子さんへの遺伝の確率(50%)や、男児の場合のリスク(流産の可能性が高いことなど)について、正確な情報を得ておくことが大切です。

まとめ

脳室周囲結節状異所性灰白質1型(PVNH1)についての解説をまとめます。

病気の本質

FLNA遺伝子の変異により、神経細胞の移動が途中で止まってしまった状態です。

主な症状

てんかん発作が主症状ですが、知能は正常なことが多いです。心臓や血管、血液の症状を合併することがあります。

原因

X連鎖優性遺伝であり、女性に多く発症します。

診断

頭部MRIでの「脳室周囲の結節」が決め手となります。

治療と管理

てんかんのコントロールと、心血管系の定期的なチェックが柱となります。

関連記事

  1. NEW
  2. NEW
  3. NEW
  4. NEW
  5. NEW
  6. NEW