こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
子育てをしていると、「言葉が出るのが遅いかな?」「なんだか他の子と比べて落ち着きがないかも」と、お子さんの成長に不安を感じる瞬間があるかもしれません。
多くの場合、それは個性や発達のペースの違いですが、中には生まれつきの「遺伝子」が関わっているケースもあります。
その代表的なものが、今回解説する**「フラジャイルX症候群」**です。
遺伝性の知的障害の原因としては最も頻度が高い疾患でありながら、日本ではまだ十分に知られていません。
「発達障害だと思っていたけれど、実は遺伝子の病気だった」ということが判明するケースも少なくありません。
今日は、この病気がなぜ起こるのか、どのような特徴があるのか、そして妊娠中や出生後に私たちが知っておくべきことについて、医学的な視点から分かりやすく解説していきます。
まず、この少し不思議な名前についてお話ししましょう。
「フラジャイル(Fragile)」とは、英語で「壊れやすい」「もろい」という意味です。
私たちの性別を決める染色体には「X」と「Y」がありますが、この病気の方のX染色体を顕微鏡で見ると、一部がちぎれそうに見える(くびれて見える)場所があることから、この名前が付けられました。
X染色体の上には、脳の発達や学習に欠かせない重要な遺伝子(FMR1遺伝子)が乗っています。
この遺伝子に異常が起きると、脳神経をつなぐために必要なタンパク質(FMRP)がうまく作られなくなってしまいます。
その結果、知的な発達がゆっくりになったり、独特の行動特徴が現れたりするのです。
発生頻度の目安を見てみましょう。
男性の方が発生頻度が高く、症状も強く出やすい傾向があります。
理由は染色体の組み合わせにあります。
女性はX染色体を2本持っているため(XX)、片方に異常があっても、もう1本の正常な遺伝子が働きを補ってくれる(カバーする)ことができます。
一方、男性はX染色体を1本しか持っていません(XY)。そのため、唯一のX染色体に異常があると、その影響がダイレクトに出てしまうのです。
フラジャイルX症候群のお子さんは、一見すると「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠如・多動症(ADHD)」と同じような行動をとることが多く、診断が難しい場合があります。
しかし、詳しく観察すると、この症候群特有のサインが見えてくることがあります。
「言葉の遅れ」が最初の気づきになることが多いです。
これらは自閉症の特徴と非常に似ていますが、フラジャイルX症候群の場合は、これらに加えて**「知的障害(IQの低さ)」**を伴うことがほとんどです。
幼少期には目立たないことも多いですが、成長とともに以下のような特徴が現れることがあります。
もし、お子さんに発達の遅れがあり、さらに上記のような身体的特徴も見られる場合は、一度専門医に相談してみることをお勧めします。単なる「個性」ではなく、遺伝子検査によって原因がはっきりする可能性があるからです。
「遺伝子の病気」と聞くと、「親から子へどう伝わるの?」と不安になる方もいるでしょう。
この病気のメカニズムは非常にユニークで、**「世代を超えて変化する(悪化する)」**という特徴があります。
原因となるFMR1遺伝子の中には、「CGG」という3つの塩基(DNAの文字)が繰り返し並んでいる部分があります。
この「繰り返し回数」が運命を分けます。
| 繰り返し回数 | 状態の名前 | どういうこと? |
| 〜44回 | 正常 | 遺伝子は正常に働き、タンパク質が作られます。 |
| 55〜200回 | 前変異(保因者) | ご本人に知的障害などの症状は出ませんが、不安定な状態です。 |
| 200回以上 | 完全変異 | 遺伝子のスイッチが完全にOFFになり、必要なタンパク質が作られず発症します。 |
ここで重要なのが、55〜200回の「前変異」の状態です。
この状態のご本人は、知的障害などの症状がないため、自分が保因者であることに気づいていないケースがほとんどです。
しかし、母親がこの「前変異」を持っている場合、卵子が作られる過程で繰り返し回数が一気に増えてしまうことがあります。
その結果、生まれたお子さん(特に男の子)に受け継がれた時には「200回以上(完全変異)」となり、フラジャイルX症候群を発症してしまうのです。
「親戚に誰もそんな病気の人はいないのに」
そう思っていても、実は母親自身が知らず知らずのうちに保因者(前変異)であり、お子さんの代で初めて発症した(完全変異になった)、というケースは決して珍しくありません。
また、前変異を持つ女性自身も、将来的に「早期閉経(卵巣機能不全)」のリスクが高まることが知られています。
「もし、お腹の赤ちゃんがこの病気だったら…」
心配な場合、妊娠中に行える検査はあるのでしょうか?
まず注意が必要なのは、現在広く行われているNIPT(新型出生前診断)では、フラジャイルX症候群を調べることはできないという点です。
NIPTは主に「染色体の数(ダウン症など)」を調べる検査であり、今回のような「遺伝子の中の細かい繰り返しの回数」までは見ることができません。
もし、ご家族にフラジャイルX症候群の方がいる、あるいはご自身が保因者である可能性がある場合、確定診断のためには以下の検査が必要です。
これらは、お腹に針を刺して胎盤の絨毛や羊水を採取し、赤ちゃんの細胞(DNA)を直接分析する方法です。FMR1遺伝子の「CGG繰り返し数」を正確に測定できるため、発症リスクを確実に知ることができます。
ただし、流産のリスクがわずかにある(0.1〜0.3%程度)ため、受検にあたっては遺伝カウンセリングなどで専門家とよく相談する必要があります。
また、最近では「キャリアスクリーニング」といって、妊娠前(あるいは妊娠初期)に、ご両親が保因者かどうかを調べる遺伝子検査も選択肢として存在します。
心配な方は、まずはご自身が検査を受けることから始めるのも一つの方法です。
今日は、遺伝性の知的障害の原因となる「フラジャイルX症候群」についてお話ししました。
最後に、大切なポイントを振り返りましょう。
1. 発達の遅れや自閉傾向がサイン
言葉の遅れ、視線を合わせない、感覚過敏などの特徴に加え、面長な顔立ちなどの身体的特徴がある場合、この症候群の可能性があります。
2. 原因はFMR1遺伝子の「繰り返し」
遺伝子の中の「CGG」という暗号の繰り返しが200回を超えると、脳に必要なタンパク質が作られなくなり発症します。
3. 「保因者」から発症する
お母さんが症状のない「前変異(保因者)」の場合、お子さんに受け継がれる際に「完全変異」となり、発症することがあります。家系に病歴がなくても起こり得ます。
4. 診断には専門的な検査が必要
一般的なNIPTでは分からず、羊水検査や絨毛検査が必要です。心配な場合は、遺伝診療の専門医に相談しましょう。
遺伝子の病気と聞くと怖く感じるかもしれません。しかし、原因がわかることで、お子さんに合った適切な療育環境(静かな環境を用意する、視覚的な支援を行うなど)を整えることができ、生きやすさにつながります。
「知ること」は、お子さんとご家族の未来を守るための、大切な第一歩です。
これからも、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするために、正しい医療情報をお届けしていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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