こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
妊娠中、お母さんたちが一番楽しみにしているもの。それは「妊婦健診」ではないでしょうか。
エコーに映る我が子の姿を見て、「順調ですよ」という医師の言葉に安堵する。その繰り返しが、出産への自信と希望を育てていきます。
しかし先日、Yahoo!ニュースで取り上げられたあるご家族の事例が、多くの妊婦さんに衝撃を与えました。
ずっと「順調」だと言われてきたのに、妊娠後期になって突然、赤ちゃんに重篤な異常がある可能性を告げられたのです。
中絶手術が法的に可能な時期(妊娠22週未満)を過ぎ、もはや産む以外の選択肢がない状況で突きつけられた「99.9%障害がある」という現実。
「妊婦健診を受けていれば安心」
私たちは無意識にそう思い込んでいますが、実はこうしたケースは決して「まれ」ではありません。
妊婦健診には、どんなに優れた医師でも見抜けない“死角”が存在するのです。
今日はこのニュースをもとに、遺伝専門医の視点から「なぜ異常が見過ごされてしまうのか」、そして「私たちにできる事前の対策はあるのか」について、深く掘り下げて解説していきます。
まず、今回話題となったケースについて整理しましょう。
診断されたのは**「スティックラー症候群」**という遺伝性の疾患でした。
私たちの体を作る重要なタンパク質の一つに「コラーゲン」があります。肌の弾力に関わる成分として有名ですが、実は骨、関節、目、耳などの形成にも深く関わっています。
このコラーゲンを作る遺伝子(COL2A1など)に変異が生じると、骨格の発達不全、強度の近視、難聴、口蓋裂(口の中の天井が裂けている状態)といった様々な症状が現れます。これがスティックラー症候群です。
今回のお母さんは、妊娠20週頃の健診で一度「手足が少し短いかも」と指摘を受けていました。
しかし、胎児の成長には個人差があります。その時点での短さは「個性の範囲内(成長のばらつき)」と判断され、深刻な異常とは見なされませんでした。
ところが、妊娠32週を過ぎた頃、再びエコー検査をした際に、手足の短さだけでなく、あごの小ささや全身のバランスなど、明らかな異変が見つかったのです。
この時点で初めて「何らかの症候群かもしれない」と告げられましたが、時はすでに妊娠後期。
確定診断のための羊水検査を行うにはリスクが高く、結果が出るまでの時間も足りません。結局、正式な病名が判明したのは、赤ちゃんが生まれて1年も経ってからでした。
「毎回病院に行っているのに、なぜもっと早く分からなかったの?」
そう思うのは当然です。しかし、これには「医師のミス」という言葉では片付けられない、妊婦健診そのものの構造的な限界があります。
そもそも妊婦健診は、「赤ちゃんの病気を発見する」ための検査ではありません。
最大の目的は、**「お母さんと赤ちゃんの命を守り、妊娠を安全に継続させること」**です。
具体的にチェックしているのは以下の4点です。
| 項目 | 目的・分かること |
| 血圧・体重 | 妊娠高血圧症候群や急激な体重増加など、母体の危険サインを早期発見する。 |
| 子宮底長 | お腹の大きさを測り、羊水の量や胎児の大まかな発育を確認する。 |
| 心拍・胎動 | 赤ちゃんが生きているか、元気に動いているかを確認する。 |
| エコー検査 | 頭の大きさ、大腿骨の長さ、心臓の動きなど、「形」に異常がないかを見る。 |
これらは全て「今、この瞬間の状態」を確認するためのものです。
医師は「心臓は動いているか?」「羊水は減っていないか?」「お母さんの血圧は大丈夫か?」という、生命維持に関わる緊急性の高いチェックを最優先で行っています。
そのため、生命に直結しない微細な形態異常や、目に見えない遺伝子の異常までは、スクリーニングの対象外となってしまうのが現状なのです。
超音波(エコー)検査で見えるのは、あくまで**「形(形態)」**です。
心臓に穴が開いている、指の本数が違う、といった「形の異常」はある程度分かります。
しかし、遺伝子の中に書かれた情報は映りません。
こうした**「機能的・質的な異常」**は、エコーには映りません。
今回のスティックラー症候群のように、最初は正常に見えても、成長するにつれて徐々に骨の変形などの「形」としての異常が現れてくる病気の場合、妊娠中期(20週頃)のエコーでは「異常なし」と判断されてしまうのは、ある意味で避けられないことなのです。
赤ちゃんの体は、十月十日かけて完成します。
20週の時点ではまだ未完成な部分が多く、異常があっても特徴として現れていないことが多々あります。
30週を過ぎ、体が大きくなり、骨格がしっかりしてきて初めて、「あれ?バランスがおかしいぞ」と気づくことができる。
この**「症状が現れるまでのタイムラグ」**こそが、今回のような悲劇を生む最大の要因です。
妊婦健診だけでは限界がある。では、私たちはただ祈るしかないのでしょうか?
「100%防ぐ」ことは現代医学でも不可能ですが、**「少しでも早く、リスクに気づく」**ことは可能です。
そのための有効な手段が、**NIPT(新型出生前診断)**です。
NIPTは、お母さんの腕から採血した血液を使って、赤ちゃんのDNA(染色体)を調べる検査です。
エコー検査のような「見た目」の検査ではなく、**「遺伝子(染色体)」の情報に直接アプローチするため、体の形がまだ未完成な妊娠初期(9〜10週頃)**から受けることができます。
| 染色体 | 疾患名(通称) | 主な特徴 |
| 21番 | ダウン症候群 | 知的発達の遅れ、心疾患、特徴的な顔貌など。 |
| 18番 | エドワーズ症候群 | 重篤な心疾患、発育不全、手指の重なりなど。 |
| 13番 | パトウ症候群 | 脳や顔面の形成不全、多指症など。予後は厳しい場合が多い。 |
これらは「染色体数」の異常ですが、最近では技術の進歩により、さらに細かい遺伝子の欠失(微小欠失症候群)や、単一遺伝子疾患の一部を調べられる検査機関も増えてきています。
「検査を受けて、もし陽性だったら怖い」
そう思うのは当然です。しかし、NIPTを受ける最大のメリットは、「準備の時間」を手に入れられることです。
NIPTは「命を選別する」ための検査と誤解されがちですが、本来は**「赤ちゃんを迎えるための、最善の環境を整えるための検査」**なのです。
一つだけ注意していただきたいのは、NIPTはあくまで「非確定的検査(スクリーニング)」だという点です。
「陽性」と出ても、実際には赤ちゃんに異常がない(偽陽性)可能性もゼロではありません。
そのため、陽性が出た場合は必ず、羊水検査などの「確定診断」を受ける必要があります。
検査結果だけで自己判断せず、必ず専門の医師(遺伝カウンセリング)と相談しながら進めていくことが重要です。
今日は、ニュースで話題となった事例をもとに、妊婦健診の限界と出生前診断の役割についてお話ししました。
最後に、大切なポイントを振り返りましょう。
1. 妊婦健診は「万能」ではない
健診の主目的は母子の生命維持です。エコーで見えるのは「今の形」だけであり、遺伝子の異常や、成長してから現れる病気は見つけられないことがあります。
2. 異常が見えるまでには「時間差」がある
赤ちゃんの成長に伴って初めて症状が現れる病気(スティックラー症候群など)の場合、妊娠後期になるまで「順調」と診断されてしまうケースは珍しくありません。
3. 「早く知る」ためのNIPT
NIPTは妊娠初期から受けられ、エコーでは見えない染色体の情報を調べることができます。リスクを早期に把握することで、NICUの手配や心の準備など、具体的な対策を立てることが可能になります。
4. 知識は「お守り」になる
「健診を受けているから大丈夫」という過信は禁物です。検査の限界を知り、必要であればNIPTなどのプラスアルファの検査を検討すること。それが、未来のあなたと赤ちゃんを守るための、現実的な「備え」になります。
妊娠期間は、幸せと不安が隣り合わせの時間です。
「もっと早く知っていれば」と後悔するご家族を一人でも減らすために、私たちは正しい医療情報を発信し続けます。
もし検査について迷っていることがあれば、一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。あなたの不安に寄り添い、最適な選択を一緒に考えていきましょう。
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