こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
このコラムでは、NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなくデータで分かりやすくお届けしています。
妊娠中に受けるNIPT(新型出生前診断)は、赤ちゃんの染色体異常のリスクを早期に、安全に知るための画期的な検査です。しかし、その結果がもし**「陽性」だった場合、ご夫婦は「命の選択」**という、人生で最も重い決断を迫られることになります。
本記事では、このNIPTの陽性判定後というデリケートな状況に焦点を当て、データが示す選択の現実、ご夫婦が経験する心理的な葛藤、そして医師や医療者が果たすべき倫理的な役割について、医師の立場から率直に、そして真摯にお話しします。
NIPTは、妊娠初期にお母さんの血液に含まれる胎児由来のDNA断片を解析し、染色体の数の異常を調べます。一般的な検査で対象となるのは、主に以下の3つの疾患です。
| 疾患名 | 出生頻度(日本) | 特徴と予後 |
| 21トリソミー(ダウン症候群) | 約1,000人に1人 | 軽度〜中等度の知的障害を伴う。医療の進歩で平均寿命は60歳を超える。 |
| 18トリソミー(エドワーズ症候群) | 約6,000人に1人 | 重度の心疾患や合併症を伴い、生後1年の生存率は1割未満と非常に厳しい。 |
| 13トリソミー(パトウ症候群) | 約10,000人に1人 | 重度の知的障害、多臓器異常を伴い、多くが新生児期に亡くなる。 |
【検査範囲の広がり】
近年は技術が進歩し、施設によっては、これら3つの主要なトリソミーに加え、全染色体の異常や、ディジョージ症候群などの微小欠失症候群まで、より広い範囲をカバーできるようになっています。
NIPTの受検者は、日本で年間8.2万人以上にまで増加しています。その背景には、晩婚化やキャリア形成による出産の平均年齢の上昇があります。
この年齢に伴うリスク上昇が、妊婦さんの不安を高め、NIPTという**「早く、安全に知る手段」**へのニーズを高めているのです。

NIPTを受けた妊婦さんのおよそ**約2%**が「陽性」と判定されます(NIPTはスクリーニング検査であるため、この後、羊水検査などで確定診断が必要です)。
そして、出生前診断運営委員会の報告によると、確定診断で異常が確認されたケースのうち、約9割が中絶を選択しているという現実があります。
この「9割」という数字は、単なる統計ではなく、多くのご夫婦が悩み、葛藤し、自らの人生をかけて下した決断の重さを物語っています。
この決断の背景には、「どちらが正しいか」という正解はなく、それぞれの家庭が抱える非常に個人的な事情が絡み合います。
| 選択を左右する要素 | 選択の方向性(一例) |
| 経済的負担 | 医療費や療育費の長期的な支出、親の就労継続の難しさなどから、中絶を選ぶ。 |
| 年齢・体力 | 高齢で出産する場合、長期的な介護や支援の継続が難しいと判断し、中絶を選ぶ。 |
| 福祉制度 | 地域の福祉制度や医療サポートの充実度を調べ、利用可能と判断し、出産を選ぶ。 |
| 価値観・信仰 | 「命を授かった以上、受け入れる」という価値観に基づき、出産を選ぶ。 |
| 予後(病気の重さ) | 18トリソミーや13トリソミーなど、予後が極めて厳しい疾患である場合、中絶を選ぶ。 |
結論: 大切なのは、世間体の意見や噂ではなく、ご夫婦が置かれた状況や価値観を最優先し、最善の答えを探す**「自己決定のプロセス」**なんです。
NIPTは**「単なる血液検査ではない」**と私たちは認識しています。陽性判定後の現場では、診断直後から涙が止まらない方、夫婦で意見が食い違い結論が出せない方など、非常に大きな心理的な負荷がかかります。
このとき、私たち医師の役割は、**「答えを押しつけること」**ではありません。
「命を選別する検査ではないか」という批判がある一方で、「事前に知って準備することで安心して子育てに臨める」という意見も存在します。
私たちは、NIPTを**ご夫婦が主体的に、人生の方向性を決めるための「ひとつの道具」**だと考えています。検査自体が良い悪いを決めるのではなく、どう使い、どう受け止めるかが大事です。
そして、その重い選択を誰にも責められず、自分たちなりに納得できる形で支えるのが、私たち医療者の最も重要な役割なのです。
今日は、【NIPTで陽性が出たあとの選択】という、非常に重いテーマについてお話ししました。
NIPTは、数字や結果だけではなく、その後の人生や家族のあり方に直結する検査です。この情報が、ご夫婦が不安を乗り越え、最良の決断を下すための一助となることを願っています。
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