脳、眼、心臓の異常を伴う、あるいは伴わない神経発達障害(RERE関連疾患)

医者

「脳、眼、心臓の異常を伴う、あるいは伴わない神経発達障害」という、非常に長く、そして体の重要な器官の名前が並んだ診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による病気です」と説明を受け、さらに聞き慣れないアルファベットや専門用語を聞かされて、計り知れない不安の中にいらっしゃることと思います。特に、まだ小さなお子さんにこのような診断がついた場合、これからどう成長していくのか、目や心臓の病気はどうなるのかと、心配で胸がいっぱいになっているかもしれません。

この長い病名は、医学的な特徴をそのまま記述した正式名称ですが、日常的には少し長すぎるため、原因となる遺伝子の名前をとってRERE関連疾患、あるいはRERE症候群と呼ばれることが増えてきています。

また、英語の頭文字をとってNEDBEH(ネドベ)と略されることもあります。

この病気は、REREという遺伝子に変化が起きることで、脳の発達や、目、心臓、耳などの臓器の形成に影響が出る生まれつきの体質です。

「異常を伴う、あるいは伴わない」という名前がついている通り、症状の出方には非常に大きな個人差があります。

重い障害を持つお子さんもいれば、軽度の発達の遅れだけで、目や心臓には全く問題がないお子さんもいます。

非常に希少な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ多くありません。そのため、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくく、孤独を感じてしまうご家族も少なくありません。

しかし、近年遺伝子検査の技術が進歩したことで、この診断を受けるお子さんが増えてきており、世界中で理解が深まってきています。

また、この病気は「1p36欠失症候群」という比較的よく知られた染色体異常症と密接な関係があることもわかっており、そこから多くの知見を得ることができます。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの可能性を限定するものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と成長の力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この長い病名がどのような意味を持っているのか、そしてどのような病気なのかを理解しましょう。

病名の意味とRERE

この病名は、主な特徴を組み合わせたものです。

神経発達障害

脳の成長や発達に関わる機能に何らかの課題があることを示します。具体的には、言葉の遅れ、運動の遅れ、知的な発達のゆっくりさ、あるいは自閉スペクトラム症のような行動の特徴などを指します。

脳、眼、心臓の異常を伴う、あるいは伴わない

脳の構造、目の形や機能、心臓の構造などに生まれつきの変化が見られることがありますが、全ての患者さんに必ずあるわけではありません。人によって症状の組み合わせが全く異なるという意味です。

これらをまとめて、RERE遺伝子の変異によって引き起こされる一連の症状として、RERE関連疾患と呼びます。

1p36欠失症候群との関係

この病気を理解する上で、1p36欠失症候群という病気のことを知っておくと役立つことがあります。

1p36欠失症候群は、1番染色体の端っこが欠けてしまうことで起こる病気で、重度の知的障害やてんかん、特徴的な顔立ちなどが見られます。

実は、RERE遺伝子はこの1番染色体の端っこ(1p36領域)に存在しています。

研究の結果、1p36欠失症候群で見られる症状の多く、特に目や脳、心臓の症状の一部は、このRERE遺伝子が失われることによって引き起こされていることがわかってきました。

つまり、RERE関連疾患は、1p36欠失症候群の症状の一部を共有する兄弟のような関係にある病気と言えます。ただし、RERE関連疾患では、RERE遺伝子だけにピンポイントで変化が起きているため、1p36欠失症候群全体と比べると症状が少し異なる場合もあります。

発生頻度

非常に稀な疾患ですが、全エクソーム解析などの網羅的な遺伝子検査が普及するにつれて、診断される患者数は増えています。

正確な頻度はわかっていませんが、発達遅滞や先天性の異常を持つお子さんの中に、一定の割合で存在すると考えられています。

主な症状

RERE関連疾患の症状は、全身の様々な場所に現れる可能性がありますが、その程度や組み合わせは人によって本当に様々です。

ここでは、報告されている主な症状について、部位ごとに詳しく見ていきましょう。

1. 神経発達の特徴

最も多くの患者さんに見られるのが、発達のゆっくりさです。

知的発達の遅れ

軽度から重度まで幅がありますが、多くのお子さんに知的障害が見られます。

物事を理解したり、学習したりするペースはゆっくりです。

運動発達の遅れ

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動のマイルストーンが、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

筋肉の緊張が低い、いわゆる体が柔らかい状態である低緊張が見られることが多く、これが運動発達の遅れの一因となります。

言葉の遅れ

言葉が出始めるのが遅い、あるいは言葉が出にくい傾向があります。

お話しするのが苦手な場合でも、こちらの言っていることはある程度理解していることが多く、身振りや表情でコミュニケーションをとることができます。

行動面の特徴

自閉スペクトラム症に似た特徴が見られることがあります。

視線が合いにくい、特定のものに強い興味を持つ、反復的な行動をする、感覚が過敏であるといった様子です。

また、多動や衝動性が見られることもあり、じっとしているのが苦手な場合もあります。

性格は人懐っこく明るいお子さんもいれば、少し不安を感じやすいお子さんもいます。

2. 眼の症状

RERE遺伝子は目の形成に重要な役割を果たしているため、目に特徴的な症状が出ることがあります。

コロボーマ(虹彩欠損など)

眼球が作られる途中で、組織の一部が閉じきらずに欠けてしまう状態です。

黒目(虹彩)の下の部分が欠けて、鍵穴のような形に見えることがあります。

網膜や視神経にコロボーマがある場合は、視力に影響が出ることがあります。

その他の眼症状

視神経が細い視神経低形成や、眼球自体が小さい小眼球症が見られることもあります。

また、近視や乱視、斜視といった一般的な目のトラブルも合併しやすい傾向があります。

これらは視覚の発達に影響するため、眼科での定期的なチェックが重要です。

3. 脳の構造異常

MRI検査などで脳の中を見ると、形に特徴が見られることがあります。

脳室拡大

脳の中にある水(髄液)が溜まる部屋である脳室が、通常より大きくなっていることがあります。

脳梁の異常

右脳と左脳をつなぐ橋のような部分である脳梁が、薄かったり、一部がなかったりすることがあります。

小脳の異常

バランス感覚などを司る小脳の発達がゆっくりであることがあります。

これらの脳の形の特徴は、必ずしも重篤な症状に直結するわけではありませんが、発達の遅れと関連していると考えられています。

4. 心臓の症状

生まれつきの心臓の病気である先天性心疾患を合併することがあります。

心室中隔欠損症(心臓の部屋を隔てる壁に穴が開いている)や、心房中隔欠損症、ファロー四徴症などが報告されています。

多くの場合、手術や自然閉鎖によって管理が可能ですが、定期的な循環器科でのフォローが必要です。

5. 耳と聴力の症状

感音性難聴

音を感じる神経の働きが弱く、音が聞こえにくい状態になることがあります。

難聴は言葉の発達に大きく影響するため、新生児聴覚スクリーニングやその後の検査で早期に発見し、必要であれば補聴器などでサポートすることが大切です。

また、耳の形が少し低い位置についていたり、形に特徴があったりすることもあります。

6. その他の特徴

顔貌の特徴

おでこが広い、眉毛が太い、目が少し離れている、耳の位置が低い、鼻と口の間(人中)が短いなど、共通したお顔立ちの傾向が見られることがあります。これらは成長とともに変化し、その子なりの個性となっていきます。

腎臓の異常

腎臓の形や位置に異常が見られることがあります。尿の逆流などが起きやすい場合もあるため、超音波検査などで確認します。

成長の問題

身長の伸びがゆっくりで、低身長になることがあります。

原因

なぜ、目や心臓、脳といった様々な場所に症状が現れるのでしょうか。その原因は、胎児期の発達において「司令塔」の役割を果たす遺伝子の変化にあります。

RERE遺伝子の役割

この病気の原因は、第1番染色体(1p36.23領域)にあるRERE(アールイーアールイー)という遺伝子の変異です。

遺伝子は体を作る設計図ですが、RERE遺伝子が作っているタンパク質は、他の遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする調節役、専門的には転写共役因子としての役割を持っています。

特に、REREタンパク質は、レチノイン酸という物質の信号を受け取って働く経路に関わっています。

レチノイン酸は、赤ちゃんがお腹の中で育つ時に、脳、目、心臓、耳、腎臓などの臓器を正しい形に作るために必要不可欠な物質です。

RERE遺伝子は、このレチノイン酸の指令を細胞の核の中に伝え、「ここに目を作れ」「ここに心臓の壁を作れ」という命令を実行させる重要な役割を担っているのです。

何が起きているのか

RERE遺伝子に変異が起きると、この調節役のタンパク質がうまく働かなくなったり、量が足りなくなったりします。

すると、レチノイン酸からの「臓器を作れ」という指令が正しく伝わらず、目や心臓の形成が不完全になったり(コロボーマや心欠損)、脳の発達がゆっくりになったりします。

変異の種類や場所によって、タンパク質の機能がどれくらい落ちるかが異なるため、症状の重さや組み合わせに大きな個人差が生まれると考えられています。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のRERE遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、RERE関連疾患の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

医者

診断と検査

診断は、症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の点を確認します。

  • 発達の遅れがあるか。
  • コロボーマなどの目の異常や、難聴、心疾患があるか。
  • 脳のMRIで特徴的な所見があるか。
  • 顔立ちの特徴があるか。

これらの特徴が組み合わさっている場合、RERE関連疾患や1p36欠失症候群などが疑われますが、症状だけで診断を確定することは困難です。チャージ症候群など、似た症状を持つ他の病気との区別も必要です。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してRERE遺伝子に変異があるかを調べます。

特定の遺伝子だけを調べる検査もありますが、最近では全エクソーム解析といって、すべての遺伝子を網羅的に調べる検査で見つかることが増えています。

これにより、1p36欠失症候群なのか、RERE遺伝子単独の変異なのか、あるいは全く別の遺伝子の病気なのかをはっきりさせることができます。

3. 全身のスクリーニング検査

診断がついた後、あるいは診断の過程で、合併症を見落とさないために全身の検査を行います。

  • 眼科検査:視力、屈折、眼底検査などを行い、コロボーマや視神経の異常がないか調べます。
  • 聴力検査:ABR(聴性脳幹反応)などで難聴の有無を調べます。
  • 心エコー検査:心臓の構造に異常がないか調べます。
  • 腹部超音波検査:腎臓などの形を調べます。
  • 脳MRI検査:脳の構造を詳しく調べます。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科、眼科、循環器科、耳鼻科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. 合併症の治療

それぞれの臓器の症状に対して、対症療法を行います。

心臓の治療

心疾患がある場合は、程度に応じて経過観察を行ったり、手術治療を行ったりします。現代の医療では、多くの先天性心疾患が管理可能です。

眼科的治療

屈折異常に対しては眼鏡を使用します。コロボーマなどによる視力障害がある場合は、ロービジョンケアといって、見えにくさを補助する工夫や訓練を行います。

難聴の治療

難聴がある場合は、補聴器を使用したり、療育を通じてコミュニケーション能力を育てたりします。

2. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

体の低緊張がある場合、姿勢を保つ練習や、歩行などの運動機能を高める訓練を行います。

作業療法(OT)

手先の器用さを高めたり、食事や着替えなどの日常生活動作の練習を行ったりします。感覚統合療法などを通じて、感覚の過敏さや不器用さにアプローチすることもあります。

言語聴覚療法(ST)

言葉の理解や表出(お話しすること)を促す訓練を行います。

言葉だけでなく、ジェスチャーや絵カード、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション方法を見つける手助けもします。

3. 教育と生活のサポート

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

また、放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用することで、社会性を育む機会を増やすことができます。

4. 定期的なフォローアップ

成長に伴って新たな課題が出てくることもあります。

例えば、側弯症(背骨が曲がる)が出てきたり、てんかん発作が起きたりすることもあります。

定期的に小児科などを受診し、全身の状態をチェックし続けることが大切です。

まとめ

脳、眼、心臓の異常を伴う、あるいは伴わない神経発達障害(RERE関連疾患)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: RERE遺伝子の変異により、胎児期の臓器形成や脳の発達に必要な指令がうまく伝わらなくなることで起こる先天性の疾患です。
  • 主な症状: 知的発達の遅れ、運動の遅れ、言葉の遅れに加え、目の異常(コロボーマ)、心疾患、難聴などが人によって様々な組み合わせで現れます。
  • 1p36欠失症候群との関係: 1p36欠失症候群の症状の一部は、このRERE遺伝子の欠失によるものであり、両者は密接に関連しています。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: 合併症(目、心臓、耳)の早期発見と治療、そして早期からの療育による発達支援が中心となります。

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