ラスカン・ルミッシュ症候群(Luscan-Lumish Syndrome)

医療

ラスカン・ルミッシュ症候群という、おそらくこれまでに聞いたこともないような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による稀な病気です」と説明を受け、さらに「背が伸びすぎる過成長という特徴があります」や「発達に遅れが出る可能性があります」といった話をされて、計り知れない不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は2014年に報告されたばかりの非常に新しい疾患であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報がほとんど見つからず、「これからどうなってしまうのか」「他に同じ病気の人はいるのか」という孤独や戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。

ラスカン・ルミッシュ症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、体の成長が早くなったり、頭が大きくなったり、知的な発達がゆっくりになったりする先天性の疾患です。

フランスのラスカン博士とアメリカのルミッシュ博士らによって、それぞれ独立して報告されたことから、この名前がつけられました。

医学的には、原因となる遺伝子の名前をとってSETD2関連障害と呼ばれることもあります。

この病気の大きな特徴は、ソトス症候群という別の過成長症候群と非常によく似ていることです。

実際、これまでソトス症候群だと思われていたけれど遺伝子検査で原因がわからなかった患者さんの中に、このラスカン・ルミッシュ症候群の方が多く含まれていたことがわかってきています。

主な特徴として、同年代の子に比べて背が高く、頭のサイズが大きめであること、言葉の遅れ、そして自閉スペクトラム症のような行動の特徴などが見られます。

非常に希少な疾患ですが、遺伝子検査の技術が進歩したことで、診断される患者さんが世界中で増えてきています。

まだ新しい病気であるため、長期的な予後については研究段階の部分もありますが、生命に関わるような重篤な内臓の病気を合併することは比較的少ないと言われており、適切なケアと療育を受けることで、お子さんはその子らしく元気に成長していきます。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と可能性があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病気の定義と歴史

ラスカン・ルミッシュ症候群は、過成長症候群と呼ばれるグループに分類される常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の疾患です。

過成長とは、身長や頭囲などが同年代の平均よりも著しく大きくなる状態を指します。

2014年に、SETD2という遺伝子の変異が原因で、過成長や知的障害、特徴的な顔立ちを示す患者さんたちがいることが初めて報告されました。比較的新しい疾患概念であるため、古い医学書には載っていません。

ソトス症候群との関係

この病気を理解する上で、ソトス症候群との関係を知っておくことは大切です。

ソトス症候群は、過成長症候群の中で最も有名な病気の一つですが、ラスカン・ルミッシュ症候群の患者さんは、ソトス症候群と非常に似た外見や症状を持っています。

そのため、専門医であっても見た目だけで区別するのは難しく、遺伝子検査を行って初めて「ソトス症候群ではなく、ラスカン・ルミッシュ症候群だった」と判明するケースが多くあります。

医学的には「ソトス症候群様(よう)疾患」の一つとして位置づけられることもあります。

発生頻度

非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数百人程度が報告されている段階です。

しかし、診断技術の普及に伴い、報告数は年々増えています。

性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。

主な症状

ラスカン・ルミッシュ症候群の症状は、身体的な特徴、発達の特徴、そして行動面の特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 身体的な特徴(過成長と顔貌)

出生時や幼少期から気づかれることが多い特徴です。

過成長(高身長・大頭症)

生まれた時の身長や体重は平均的か、少し大きめであることが多いですが、乳幼児期から小児期にかけて身長がぐんぐん伸び、同年代の子よりも背が高くなる傾向があります。

また、頭囲すなわち頭の周りの長さも大きめになる大頭症が見られます。95パーセンタイル以上という、同年齢の子の95パーセントが含まれる範囲を超える大きさになることがよくあります。

手や足のサイズも大きい傾向があります。

特徴的なお顔立ち

成長とともに、この症候群に特有のお顔立ちが見られることがあります。

おでこが広く、前に出ている。

顔全体が面長な印象。

髪の生え際が高い位置にある、あるいは生え際の形がM字型である。

目尻が下がっている。

顎が尖っている。

これらのお顔立ちはソトス症候群と似ていますが、ラスカン・ルミッシュ症候群の方が顔の特徴がマイルドである場合もあると言われています。

骨格の特徴

背骨が左右に曲がってしまう脊柱側弯症が見られることがあります。

また、関節が柔らかい関節弛緩が見られることも多く、これが運動発達の遅れや、独特の歩き方に関係していることがあります。

2. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最も心配される点の一つかと思います。

精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

歩き始めが1歳半から2歳以降になることも珍しくありません。これは、筋緊張低下といって、筋肉の張りが弱いことが影響していると考えられます。

言語発達の遅れ

言葉が出始めるのが遅いことが多いです。

話し始めても、複雑な文章を作ることや、発音が不明瞭であるなどの課題が見られることがあります。

しかし、こちらの言っていることを理解する力は、話す力よりも良好である場合が多いです。

知的障害

軽度から重度の知的障害が見られます。

程度には個人差が大きく、読み書きや計算などの学習に困難を伴う場合が多いですが、それぞれのペースで学習を進めることは可能です。

3. 行動面・精神面の特徴

ラスカン・ルミッシュ症候群では、行動や感情のコントロールに関する特徴がよく見られます。

自閉スペクトラム症(ASD)

対人関係の難しさや、こだわり行動といった自閉スペクトラム症の特徴を持つお子さんが多いです。

視線が合いにくい、特定の手順にこだわる、手をひらひらさせるなどの常同行動が見られることがあります。

注意欠如・多動症(ADHD

落ち着きがない、集中力が続かない、衝動的に動いてしまうといった特徴が見られることがあります。

その他の行動特性

不安を感じやすい、かんしゃくを起こしやすい、攻撃的な行動が出てしまうといった情動の問題が見られることもあります。

また、睡眠障害として、寝付きが悪い、夜中に何度も起きるといった悩みを持つご家族も少なくありません。

4. その他の合併症

てんかん

患者さんの一部に、てんかん発作が見られます。

発作のタイプは様々ですが、多くはお薬でコントロール可能です。

脳の構造異常

MRI検査を行うと、脳室が拡大していたり、キアリ奇形1型という小脳の一部が脊髄の方へ下がっている状態が見られたりすることがあります。

また、右脳と左脳をつなぐ脳梁が薄いこともあります。

視覚の問題

斜視や遠視、近視などの屈折異常が見られることがあります。

消化器症状

便秘や、食べたものが胃から食道へ戻ってしまう胃食道逆流症などが見られることがあります。

原因

なぜ、背が伸びすぎたり、発達がゆっくりになったりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する重要なスイッチに生じた変化にあります。

SETD2遺伝子の変異

ラスカン・ルミッシュ症候群の原因は、第3番染色体にあるSETD2(セットディーツー)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、ヒストンメチル基転移酵素という特別なタンパク質を作る設計図です。

ヒストン修飾と遺伝子のスイッチ

私たちの体には約2万個の遺伝子がありますが、それらが全て常に働いているわけではありません。必要な時に、必要な遺伝子だけが働くように調節されています。

DNAはヒストンという糸巻きのようなタンパク質に巻き付いて収納されています。

SETD2が作る酵素は、このヒストンに目印(メチル基)をつける役割をしています。

具体的には、H3K36me3という特定の目印をつけることで、「この遺伝子は今読み取られている最中ですよ」「正しく読み取ってくださいね」という合図を送ったり、DNAの修復を助けたりしています。

これをエピジェネティックな制御と呼びます。

何が起きているのか

ラスカン・ルミッシュ症候群では、SETD2遺伝子の変異により、この酵素の機能が低下したり、失われたりしてしまいます。

すると、ヒストンへの目印付けがうまくいかなくなります。

この目印は、脳の発達や体の成長に関わるたくさんの遺伝子の働きをコントロールしているため、ここがうまくいかなくなると、成長のブレーキが効かなくなって過成長になったり、脳の神経回路の形成がうまくいかずに発達の遅れが出たりすると考えられています。

つまり、一つの遺伝子の故障が、ドミノ倒しのように全身の様々な遺伝子の働きに影響を与えてしまうのです。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のSETD2遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、ラスカン・ルミッシュ症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の特徴的な所見の組み合わせを確認します。

  • 高身長や大頭症といった過成長の特徴。
  • おでこが広いなどの特徴的な顔立ち。
  • 知的発達の遅れや自閉的な行動特性。

しかし、これらの特徴はソトス症候群や他の過成長症候群(ウィーバー症候群など)と共通しているため、症状だけで診断を確定することは困難です。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してSETD2遺伝子に変異があるかを調べます。

以前はソトス症候群の遺伝子(NSD1)だけを調べて陰性となり、「原因不明のソトス症候群様疾患」とされることがありましたが、現在では次世代シーケンサーという技術を使って、SETD2を含む複数の遺伝子を一度に網羅的に調べることができるようになっています(全エクソーム解析など)。

SETD2遺伝子の変異が見つかれば診断が確定し、将来の見通しや治療方針を立てるのに役立ちます。

3. 画像検査

脳のMRI検査

脳室の拡大やキアリ奇形などの構造異常がないかを確認します。

骨のレントゲン検査

脊柱側弯症がないかを確認します。また、手の骨のレントゲンを撮って骨年齢を調べることがあります。過成長症候群では、実年齢よりも骨の成熟が進んでいる(骨年齢が促進している)ことがよくあります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科を中心に、整形外科、児童精神科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

体のバランス感覚を養い、お座りや歩行などの運動機能を高める訓練を行います。

関節が柔らかく不安定な場合は、足に合ったインソール(中敷き)や靴を使用することで、歩行が安定することがあります。

筋緊張が低いお子さんには、遊びの中で楽しく体を動かし、筋力をつけるサポートをします。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作として、着替えや食事、道具の使い方の練習をします。

また、感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを取り入れて、感覚の受け取り方を調整する練習を行うこともあります。

言語聴覚療法(ST)

コミュニケーション能力の向上を目指します。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたい」という気持ちを引き出し、周りがそれを受け止めることで、コミュニケーションの意欲が育ちます。

2. 教育と生活のサポート

就学時には、特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

自閉スペクトラム症やADHDの特性がある場合は、見通しを持たせるための視覚的な支援や、集中しやすい環境づくり、クールダウンできる場所の確保などが役立ちます。

放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用することで、社会性を育む機会を増やすこともできます。

3. 健康管理と定期検診

整形外科的ケア

脊柱側弯症は成長期に進行することがあるため、定期的に背骨のチェックを行います。必要に応じて装具療法などを行います。

神経学的ケア

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬でコントロールします。

頭痛が続く場合などは、脳圧が高くなっていないかなどを確認する必要があります。

腫瘍のリスクについて

SETD2遺伝子は、がん抑制遺伝子としても知られており、一般の大人の腎臓がんなどで変異が見つかることがあります。

ラスカン・ルミッシュ症候群の患者さんにおいて、小児がんのリスクが明確に高いかどうかはまだ結論が出ていませんが、白血病などの報告がわずかにあります。

過度に心配する必要はありませんが、定期的な健康診断や血液検査を受けることが推奨されます。何か変わった症状(長引く発熱、しこり、あざなど)があれば、早めに主治医に相談しましょう。

まとめ

ラスカン・ルミッシュ症候群についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: SETD2遺伝子の変異により、遺伝子の働きを調節するスイッチ機能が変化し、過成長や発達の遅れが起こる先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 高身長、大頭症、特徴的な顔立ち、知的発達の遅れ、自閉スペクトラム症などの行動特性が特徴です。ソトス症候群と非常によく似ています。
  • 予後: 多くの患者さんは、それぞれのペースで発達し、元気に生活しています。生命に関わる重篤な合併症は比較的少ないです。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: 早期からの療育、側弯症などの定期チェック、行動面への理解とサポートが中心となります。

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