先天性N-結合グリコシル化経路異常症

ALG6|Congenital Disorder of Glycosylation Type 1C

ALG6-CDG(先天性糖鎖異常症タイプ1C)は、ALG6遺伝子の変異によって生じる希少疾患で、発達遅滞や筋緊張低下、てんかんなどの多様な症状を引き起こします。本記事では、ALG6-CDGの病因、症状、診断方法、治療の現状について詳しく解説し、最新の研究情報も交えてご紹介します。

遺伝子・疾患名

ALG6|Congenital Disorder of Glycosylation Type 1C

Carbohydrate-Deficient Glycoprotein Syndrome, Type I, with Deficient Glycosylation of Dolichol-Linked Oligosaccharide, (Formerly)

概要 | Overview

先天性糖鎖異常症タイプ1C(Congenital Disorder of Glycosylation Type 1C, ALG6-CDG)は、N-結合型糖鎖修飾経路の異常によって生じる希少な先天性代謝異常症である。本疾患は、ALG6遺伝子(1p31.3) の変異によって引き起こされ、α-1,3-グルコシルトランスフェラーゼ(グルコシルトランスフェラーゼ1)の機能不全が生じる。これにより、タンパク質の適切な糖鎖修飾が阻害され、多系統にわたる症状が発現する。

ALG6-CDGの主な臨床症状には、筋緊張低下、発達遅滞、てんかん、失調、斜視、低血清コレステロール、内分泌異常、および凝固因子欠乏 が含まれる。稀に、網膜変性、深部静脈血栓症、仮性腫瘍性脳症 などの重篤な合併症も報告されている。

本疾患は常染色体劣性遺伝 形式をとり、極めて稀な疾患であるが、PMM2-CDG(CDG-Ia)に次いで頻度の高いCDGの一つである。

疫学 | Epidemiology

ALG6-CDGは世界的に極めて稀な疾患であり、その有病率は100万人あたり1人未満 と推定される。これまでに報告された症例は100例未満 である。

本疾患は人種や地域による明確な偏りは認められていないが、一部の遺伝的ボトルネックを持つ集団(南アフリカの半隔離集団など) で高頻度に報告されている。

病因 | Etiology

ALG6-CDGは、ALG6遺伝子のホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異によって引き起こされる。この遺伝子は、糖鎖前駆体であるリピッド結合オリゴ糖(LLO)への最初のグルコース付加 を触媒する酵素をコードしている。

ALG6酵素の機能喪失により、N-結合型糖鎖の適切な修飾が行われず、タンパク質の立体構造、安定性、および細胞間シグナル伝達に異常をもたらす。その結果、多系統にわたる症状が発現する。

ALG6遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

ALG6-CDGの臨床症状は多様であり、個々の患者によって異なる。代表的な症状は以下の通りである。

神経系の異常

  • 筋緊張低下(低緊張)
  • 発達遅滞(歩行および言語の遅れ)
  • てんかん(発熱性けいれんから難治性てんかんまで)
  • 運動失調(歩行障害、協調運動障害)
  • 脳卒中様エピソード(無気力、一時的な麻痺)

眼科的異常

  • 斜視
  • 網膜色素変性(視力低下)

内分泌および成長障害

  • 低血清コレステロール
  • 高ゴナドトロピン性低性腺機能症(女性では思春期遅延)

消化器系および肝臓の異常

  • 摂食困難、成長障害
  • 蛋白喪失性腸症(低アルブミン血症、浮腫)
  • 肝腫大(肝機能異常)

血液および循環器系の異常

  • 血液凝固異常(第IX、XI因子欠乏、抗トロンビンIII低値)
  • 深部静脈血栓症

検査・診断 | Tests & Diagnosis

ALG6-CDGの診断は、臨床症状、血液検査、および遺伝子検査 に基づいて行われる。

  • 血液検査
    • トランスフェリン糖鎖プロファイリング(異常な糖鎖修飾の検出)
    • 低アルブミン血症、低コレステロール血症
    • 凝固因子の低下
  • 画像検査
    • 脳MRI(脳萎縮、小脳低形成、白質異常)
    • 眼底検査(網膜変性の評価)
  • 遺伝子検査
    • ALG6遺伝子の変異解析(ホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異の検出)

治療法と管理 | Treatment & Management

ALG6-CDGには現在、根治的治療法は存在せず、対症療法が中心 となる。

  • 神経症状の管理
    • てんかん管理(抗てんかん薬、ケトン食療法など)
    • 理学療法・作業療法(運動機能の向上)
  • 栄養管理
    • 経管栄養や高カロリー食の導入(成長不良対策)
    • 蛋白喪失性腸症に対するアルブミン補充
  • 血液凝固異常の管理
    • 抗凝固療法(血栓症予防)
    • 血漿製剤・凝固因子補充療法
  • 内分泌異常の管理
    • ホルモン補充療法(成長ホルモン、性ホルモン補充)

予後 | Prognosis

ALG6-CDGの予後は、症状の重症度および合併症の有無 に大きく左右される。

  • 小児期に死亡する例も報告されているが、思春期以降まで生存する例もある
  • てんかんを合併する例では神経学的後遺症が顕著 であり、発達の停滞が見られることが多い。
  • 重篤な蛋白喪失性腸症や血栓症を合併する場合、生命予後が不良 である。

早期診断により、適切な管理を行うことでQOLの向上が期待されるが、現時点では有効な疾患修飾治療は存在しない。そのため、今後の治療法の開発が求められる疾患である。

引用文献|References

キーワード|Keywords

ALG6-CDG, 先天性糖鎖異常症, ALG6遺伝子, てんかん, 筋緊張低下, 発達遅滞, 低血清コレステロール, 斜視, 蛋白喪失性腸症, 高ゴナドトロピン性低性腺機能症, N-結合型糖鎖異常, 遺伝性代謝疾患