副腎白質ジストロフィー

ABCD1|Adrenoleukodystrophy, X-Linked

X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)は、ABCD1遺伝子の変異によって発症するペルオキシソーム疾患です。本記事では、X-ALDの発症メカニズム、臨床表現型、診断方法、最新の治療法について詳しく解説します。早期発見と適切な治療の重要性を理解し、最新の研究動向を知るための必読の内容です。

遺伝子・疾患名

ABCD1|Adrenoleukodystrophy, X-Linked

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概要 | Overview

X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-linked adrenoleukodystrophy, X-ALD)は、ABCD1遺伝子の変異により引き起こされるペルオキシソーム疾患である。本疾患では、ペルオキシソーム膜上に発現するATP結合カセット輸送体(ABCD1)が機能不全に陥り、極長鎖脂肪酸(VLCFA)のβ酸化が障害される。その結果、VLCFAが血液および中枢神経系、末梢神経系、副腎皮質に蓄積し、神経変性や内分泌機能障害を引き起こす。X-ALDは、児童期、青年期、成人期に発症する脳型ALD(CALD)、脊髄神経障害を主体とする副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、および副腎機能不全(アジソン病型)の多様な臨床表現型を示す。

本疾患は極めて異質性が高く、同じ遺伝子変異を持つ患者でも異なる表現型を示すことがある。そのため、効果的な治療法の開発には、疾患の病態生理をより深く理解する必要がある。現在の治療法には、造血幹細胞移植(HSCT)、遺伝子治療、副腎ホルモン補充療法、抗酸化療法、食事療法などがあるが、いずれも疾患の進行を完全に抑えるものではなく、さらなる研究が求められる。

疫学 | Epidemiology

X-ALDの有病率は、従来の推定では男性の約1/20,000とされてきたが、新生児スクリーニングの導入により、米国では1/10,500と報告されている。女性保因者の多くは症状を示さないが、50歳以降に軽度の脊髄症状を呈する場合がある。

本疾患はX連鎖性劣性遺伝形式をとるため、男性患者は変異を受け継ぐと発症し、女性は保因者となる。保因者の女性が子を持つ場合、子供が変異を受け継ぐ確率は50%である。さらに、X-ALD患者の約19%は de novo 変異による発症であり、家族歴がない場合でも発症することがある。

病因 | Etiology

X-ALDは、X染色体上のXq28領域に位置するABCD1遺伝子の変異によって引き起こされる。この遺伝子は745アミノ酸から成るペルオキシソーム膜輸送体ABCD1(ALDP)をコードし、VLCFAのペルオキシソーム内への輸送を担う。ABCD1の機能不全によりVLCFAの分解が障害され、特にC26:0やC26:1などのVLCFAが蓄積することで細胞膜の恒常性が破綻し、神経変性や副腎機能不全を引き起こす。

ABCD1遺伝子には950種類以上の病的変異が報告されており、ミスセンス変異(41.1%)、フレームシフト変異(30.6%)、ナンセンス変異(13.7%)などが含まれる。しかし、特定の遺伝子変異と臨床表現型の関連性は未解明であり、同じ変異を持つ患者間で症状の重症度が大きく異なることがある。

ABCD1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

X-ALDは大きく以下の3つの表現型に分類される。

  1. 脳型ALD(CALD)
    • 児童期(4–10歳)、青年期(10–20歳)、成人期(20歳以上)に発症。
    • 児童期CALDは最も重篤であり、進行性の白質病変、視力障害、嚥下障害、痙縮性四肢麻痺を伴う。
    • 治療しなければ数年以内に寝たきりとなり、最終的に死に至る。
  2. 副腎脊髄ニューロパチー(AMN)
    • 30〜40歳で発症し、徐々に進行する。
    • 脊髄の軸索変性により歩行障害や膀胱直腸障害を引き起こす。
    • 脳炎症を伴うAMN脳型へ移行することもある。
  3. 副腎機能不全(アジソン病型)
    • 小児期に発症し、疲労、食欲不振、色素沈着、低血糖などを引き起こす。
    • 診断が遅れると致命的な副腎クリーゼを引き起こす。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

診断には以下の方法が用いられる。

  1. VLCFA測定
    • 血中C26:0濃度、およびC24:0/C22:0、C26:0/C22:0比の上昇を確認。
  2. 遺伝子検査
    • ABCD1遺伝子変異の同定。
  3. MRI検査
    • Loesスコアを用いた白質病変の評価。
    • 臨床症状の発現前から異常所見が認められることがある。
  4. 新生児スクリーニング
    • 2006年以降、C26:0-リゾホスファチジルコリン(C26:0-LysoPC)測定が導入され、早期診断が可能に。

治療法と管理 | Treatment & Management

  1. 造血幹細胞移植(HSCT)
    • Loesスコア9以下の児童期CALDに適応。
    • 早期移植により進行を抑制可能。
  2. 遺伝子治療(Lenti-D)
    • 遺伝子修正幹細胞を用いた治療法。
    • 2021年に米国FDA承認。
  3. 副腎ホルモン補充療法
    • 副腎機能不全に対し、ヒドロコルチゾンやフルドロコルチゾンを使用。
  4. 抗酸化療法
    • N-アセチルシステイン、α-トコフェロール、α-リポ酸など。
    • 酸化ストレス軽減による神経保護効果。
  5. 食事療法
    • VLCFA摂取制限とローズマリーオイル(オレイン酸・エルカ酸)の投与。
    • ただし、長期的な神経保護効果は限定的。

予後 | Prognosis

X-ALDの予後は表現型に依存する。

  • 児童期CALD:未治療では数年で致死的。
  • AMN:進行性だが、脳型への移行がなければ寿命に大きな影響はない。
  • 副腎機能不全のみの型:適切なホルモン補充により管理可能。

引用文献|References

キーワード|Keywords

X連鎖性副腎白質ジストロフィー, X-ALD, ABCD1, VLCFA, 副腎機能不全, 副腎脊髄ニューロパチー, CALD, AMN, 遺伝子変異, 造血幹細胞移植, 遺伝子治療, Loesスコア, 新生児スクリーニング