難聴、常染色体劣性77

LOXHD1|Deafness, Autosomal Recessive 77

常染色体劣性難聴77型(DFNB77)は、LOXHD1遺伝子の変異によって引き起こされるまれな進行性の感音性難聴です。発症年齢や症状の進行度は個人差がありますが、多くの患者で高音域の聴力が徐々に低下します。遺伝子診断や人工内耳による治療の可能性について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

LOXHD1|Deafness, Autosomal Recessive 77

概要 | Overview

常染色体劣性難聴77型(DFNB77)は、LOXHD1遺伝子の変異によって引き起こされるまれな進行性の非症候性感音性難聴(NSHL)です。この疾患は発症が遅れることが多いものの、進行性であり、軽度から重度までの聴力障害を引き起こします。LOXHD1遺伝子は染色体18q12-21に位置し、内耳の有毛細胞の維持と機能に必要なリポキシゲナーゼ相同性ドメイン1(LOXHD1)タンパク質をコードしています。このタンパク質は、細胞膜との相互作用を媒介するPLAT(ポリシスチン-1、リポキシゲナーゼ、α-トキシン)ドメインを15個持ち、正常な聴覚機能に重要な役割を果たしています。

DFNB77は世界中で報告されていますが、その臨床的特徴は患者によって大きく異なります。発症年齢は幼少期から成人期までさまざまであり、聴力障害の程度も軽度から重度まで幅があります。多くの患者では低周波数(250Hz~500Hz)で軽度から中等度の難聴が見られ、高周波数ではより深刻な聴力低下を示す下降型オージオグラムが観察されます。LOXHD1遺伝子の変異の組み合わせによって、難聴の重症度や進行速度が影響を受ける可能性が示唆されています。

疫学 | Epidemiology

難聴は最も一般的な感覚障害の一つであり、世界で約4億6600万人が影響を受けており、そのうち約7%が子どもとされています。先天性難聴の発生率は新生児1000人あたり1~2人と推定されており、そのうち少なくとも50%が遺伝的要因に起因すると考えられています。現在までに120種類以上の遺伝子が非症候性感音性難聴(NSHL)に関与していると報告されています。さらに、65%以上のNSHLが常染色体劣性遺伝(ARNSHL)によるものとされています。

LOXHD1遺伝子は2009年にDFNB77との関連が報告されました。現在までに約100例のDFNB77症例が報告されていますが、診断が見逃されている可能性があり、正確な有病率は不明です。研究では、68.5%のDFNB77患者が5歳以前に発症し、62%が下降型オージオグラムを示すことが確認されています。LOXHD1の変異は世界中のさまざまな民族集団で報告されていますが、パキスタンや中東地域の一部など、近親婚の頻度が高い集団では発症率が高い可能性があります。

病因 | Etiology

DFNB77は、LOXHD1遺伝子の両アレルに病的な変異が存在することによって発症します。これらの変異には、ミスセンス(アミノ酸置換)、ナンセンス(早期終止)、フレームシフト(フレームがずれる)、スプライシング変異(RNA加工の異常)などがあります。特に、PLATドメイン(特にPLAT 9)の変異がDFNB77と強く関連しており、細胞膜への適切な局在やタンパク質間の相互作用が阻害されることが示唆されています。

また、LOXHD1のホモ接合(同じ変異が両親から受け継がれる)ではより重度の難聴を引き起こし、ヘテロ接合性(異なる2つの変異を持つ)では比較的軽度の症状を示す傾向があります。特に、ミスセンス変異とスプライシング変異の組み合わせを持つ患者は、より軽度の症状を示すことが多いとされています。加齢とともにすべての周波数帯で聴力が悪化する例が多く報告されており、早期の遺伝子スクリーニングと適切な介入が重要となります。

LOXHD1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

DFNB77は進行性の両側性感音性難聴として現れます。症状は個人によって異なりますが、以下のような特徴があります。

発症は乳幼児期または学童期以降とさまざまで、進行性のため徐々に悪化します。初期には軽度から中等度の難聴を示し、高周波域で特に顕著な聴力低下が見られます。オージオグラムでは、低音域の聴力は比較的保持され、高音域でより顕著な聴力低下を示す下降型のパターンが一般的です。症候性の特徴はなく、他の身体的異常は伴わないため、遺伝子検査による診断が重要となります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

DFNB77の診断には、以下の検査が用いられます。

遺伝子検査として、全エクソームシーケンス(WES)LOXHD1遺伝子の標的シーケンス解析が行われます。これにより、病的変異の有無を確認し、遺伝カウンセリングを提供することが可能になります。

聴覚検査では、純音聴力検査(PTA)で各周波数の聴力を測定し、多くの患者で下降型オージオグラムが確認されます。語音聴力検査では、言葉の認識能力を評価します。また、耳音響放射(OAE)聴性脳幹反応(ABR)が若年の患者に対して行われることがあります。

治療法と管理 | Treatment & Management

DFNB77の治療には、補聴器や人工内耳(CI)が使用されます。軽度から中等度の難聴の患者には補聴器が有効ですが、重度から高度の難聴には人工内耳が推奨されます。特に、3.5歳以前に人工内耳を装用すると、言語発達に良い影響を与えることが示されています。

また、聴覚口話療法を受けることで、聞こえの訓練を行い、言語発達を促すことができます。読話(リップリーディング)や手話の習得も、重度の難聴患者には有益です。

遺伝カウンセリングでは、家族の発症リスクの評価や出生前診断が行われることがあります。将来的には、遺伝子治療や幹細胞治療が治療選択肢として期待されています。

予後 | Prognosis

DFNB77の進行速度や重症度は個人差がありますが、早期診断と適切な介入によって生活の質を向上させることが可能です。特に、幼児期の人工内耳装用により、言語習得能力が大幅に向上します。遺伝子治療の研究が進めば、さらなる治療の可能性が広がると考えられています。

引用文献|References

キーワード|Keywords

DFNB77, LOXHD1, 遺伝性難聴, 感音性難聴, 進行性難聴, 遺伝子診断, 人工内耳, 補聴器, PLATドメイン, 難聴の治療, 遺伝カウンセリング, 聴覚リハビリテーション