ファブリー病(Fabry病)は、GLA遺伝子の病的変異によって引き起こされるX連鎖性ライソソーム病です。酵素α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)の活性が低下し、糖脂質の蓄積によって全身の臓器障害を引き起こします。腎疾患や心疾患、神経症状を伴い、男性だけでなく女性の保因者にも症状が現れることがあります。早期診断と適切な治療により、病気の進行を抑えることが可能です。
遺伝子・疾患名
GLA|Fabry Disease, X-Linked
Alpha-Galactosidase a Deficiency; Anderson-Fabry Disease; Angiokeratoma Corporis Diffusum; Ceramide Trihexosidase Deficiency; Hereditary Dystopic Lipidosis; Deficiency of Melibiase
概要 | Overview
ファブリー病(Fabry病、FD)は、GLA遺伝子の病的変異によって引き起こされる希少なX連鎖性ライソソーム病である。GLA遺伝子は酵素α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)をコードしており、この酵素はライソソーム内で糖脂質の一種であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)を分解する役割を持つ。しかし、α-Gal Aが欠損または活性が低下すると、Gb3やその他の糖脂質が様々な臓器に蓄積し、多系統にわたる障害を引き起こす。
ファブリー病は、発症時期や症状の程度に幅があり、重症型では小児期や思春期に発症し、多くの臓器に影響を及ぼす。一方、軽症型や遅発型では、主に心臓や腎臓といった特定の臓器に症状が現れる。主な症状として、手足の灼熱痛(アクロパレシア)、皮膚の血管腫(アンギオケラトーマ)、角膜混濁(角膜渦状混濁)、発汗低下(無汗症)、消化器症状(腹痛、下痢)、耳鳴り、難聴、さらには進行性の腎障害、心疾患、脳血管障害などが挙げられる。
ファブリー病はX連鎖性遺伝形式をとるため、男性が重症型を発症しやすい。一方、女性の保因者もX染色体の不活性化(ライオニゼーション)の影響により、軽症から重症まで多様な症状を呈することがある。
疫学 | Epidemiology
ファブリー病の発症頻度は、従来は出生男児10万人に1人と考えられていたが、近年の新生児スクリーニングの結果では、それよりもはるかに高い頻度である可能性が示されている。例えば、台湾におけるGLA遺伝子変異(IVS4+919G>A)を持つ遅発型の男性患者の頻度は875人に1人、女性患者は399人に1人と報告されている。特定の高リスク集団ではさらに有病率が高く、慢性腎臓病(CKD)患者では0.3%、肥大型心筋症(HCM)患者では1.2%がファブリー病の可能性があるとされている。
病因 | Etiology
ファブリー病の原因は、X染色体上(Xq22)に位置するGLA遺伝子の病的変異によるα-Gal A酵素の欠損または活性低下である。この酵素の働きが低下すると、Gb3やその代謝産物であるリソGb3(lyso-Gb3)がライソソーム内に蓄積する。特に血管内皮細胞、腎糸球体の足細胞、心筋細胞、神経細胞においてこの蓄積が顕著となり、慢性炎症、酸化ストレス、線維化を引き起こす。現在までに900種類以上の病的なGLA遺伝子変異が報告されており、それぞれの酵素活性の残存率によって、症状の重症度に大きな差がある。
症状 | Symptoms
ファブリー病の症状は、小児期や思春期に現れることが多く、時間とともに進行する。典型的な症状として以下のものがある。
手足に生じる灼熱痛(アクロパレシア)は、運動や発熱、暑さによって誘発されることが多い。皮膚にはアンギオケラトーマと呼ばれる赤黒い発疹が現れ、特に体幹部や鼠径部に多くみられる。眼科的には、角膜に渦巻き状の混濁(角膜渦状混濁)が生じるが、視力にはほとんど影響を与えない。発汗機能の低下(無汗症)がみられ、暑さに弱くなることもある。消化器症状としては、腹痛、下痢、吐き気などが現れることがある。
耳鳴りや進行性の難聴は、内耳の障害によるものであり、高齢になるにつれて悪化することがある。腎機能の障害は、初期には尿中のタンパク質排泄(タンパク尿)が増加し、放置すると慢性腎不全(CKD)や末期腎不全(ESRD)に進行する。心臓の障害としては、左心室の肥大(LVH)、不整脈、心不全などがあり、脳血管系の合併症としては脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)のリスクが高まる。
一方、遅発型のファブリー病では、これらの全身症状は現れず、主に心臓または腎臓に限定された障害として発症することが多い。
検査・診断 | Tests & Diagnosis
ファブリー病の診断には、以下のような検査が用いられる。
男性患者では、白血球や乾燥血液スポットを用いた酵素活性測定が第一選択となり、酵素活性が1%未満であれば古典型のファブリー病と診断される。女性では酵素活性が正常範囲内となることも多いため、遺伝子検査によるGLA変異の同定が必要となる。加えて、血漿中のリソGb3測定は病気の進行度を評価するための有用なバイオマーカーとなる。
腎臓や心臓、皮膚の組織生検を行うと、Gb3の蓄積を確認できる。心臓のMRIや心エコー検査は、遅発型の心臓型ファブリー病の診断に有用である。腎機能評価として、尿タンパク測定や糸球体濾過率(GFR)の測定が重要となる。脳MRIを行うことで、白質病変などの脳血管障害を確認することもできる。
治療法と管理 | Treatment & Management
ファブリー病の治療では、糖脂質の蓄積を抑え、症状の管理と臓器障害の進行防止を目的とする。
酵素補充療法(ERT)は、遺伝子組換え型のα-Gal Aを投与する治療法で、アガルシダーゼ・アルファ(Replagal®)、アガルシダーゼ・ベータ(Fabrazyme®)、および新規のペグニガルシダーゼ・アルファ(PRX-102)がある。また、ミガラスタット(Galafold®)という薬は、特定のGLA変異を持つ患者に対して酵素の安定化を促すファーマコロジカル・シャペロン療法として使用される。
補助療法として、腎障害の進行を抑えるためのACE阻害薬やARB、不整脈や心不全の管理のための抗不整脈薬やペースメーカーの装着、脳卒中予防のための抗血小板薬や抗凝固薬の使用が推奨される。疼痛管理には、抗てんかん薬(カルバマゼピン、ガバペンチン)や抗うつ薬(デュロキセチン)が有効とされる。
予後 | Prognosis
ファブリー病の予後は、発症年齢や酵素活性の残存率、臓器障害の程度によって大きく異なる。治療なしでは、腎不全や重篤な心疾患、脳卒中が40~50代で発生することが多い。早期にERTやシャペロン療法を開始することで病気の進行を遅らせ、生活の質を向上させることができる。
引用文献|References
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