Joubert症候群2型(JBTS2)

TMEM216|Joubert Syndrome, Type 2

Joubert症候群2型(JBTS2)は、TMEM216遺伝子の変異により発症する稀な神経発達障害です。本記事では、臼歯徴候(molar tooth sign)などの特徴的な脳MRI所見、症状、診断方法、治療・管理法、そして最新の遺伝子研究について詳しく解説します。早期診断と適切なケアが重要となる本疾患について、わかりやすくご紹介します。

遺伝子・疾患名

TMEM216|Joubert Syndrome, Type 2

Cerebellooculorenal Syndrome 2

概要 | Overview

Joubert症候群2型(Joubert Syndrome, Type 2, JBTS2)は、TMEM216遺伝子の変異により引き起こされる常染色体劣性遺伝疾患であり、小脳虫部形成不全および脳幹異常を特徴とする神経発達障害である。本症では、MRIにおいて「臼歯徴候(molar tooth sign)」と呼ばれる特有の構造異常が観察される。主な臨床症状には、低緊張(筋緊張低下)、運動失調、精神運動発達遅滞、眼球運動失行、新生児期の呼吸異常が含まれる。また、網膜異常、多指症、肝線維化、腎疾患などの多臓器症状を伴うことがある。

JBTS2の原因遺伝子であるTMEM216は、細胞小器官である一次繊毛(primary cilium)の機能に重要な役割を果たしており、その欠損は繊毛病(ciliopathy)の一種であるJoubert症候群に関連する。さらに、Meckel症候群2型(MKS2)網膜色素変性症98型(RP98)といった他の繊毛関連疾患とも関連が報告されている。

疫学 | Epidemiology

Joubert症候群全体の有病率は推定1.7/100,000(0〜19歳の年齢層)であり、TMEM216関連JBTS2は比較的稀なサブタイプに分類される。Joubert症候群は世界中で報告されているが、Ashkenazi系ユダヤ人集団ではTMEM216遺伝子のp.R73L*変異が高頻度で認められるなど、一部の民族集団では特定の変異が集積していることが知られている。

現在までにJoubert症候群に関連する遺伝子は40種類以上が同定されており、遺伝子型と臨床表現型の相関が徐々に明らかになりつつある。例えば、TMEM67変異は肝線維化を伴うJoubert症候群のリスクが高く、NPHP1、RPGRIP1L、TMEM237の変異は腎疾患のリスクを高めることが報告されている。

病因 | Etiology

TMEM216遺伝子11q12.2に位置し、一次繊毛の構造維持とシグナル伝達に関与する膜貫通型タンパク質Transmembrane Protein 216をコードする。繊毛は、発生過程や組織の恒常性維持に重要な役割を担っており、その機能異常はJoubert症候群を含む様々な繊毛病の発症につながる。

TMEM216の機能喪失は以下の疾患にも関与している:

  • Meckel症候群2型(MKS2):腎嚢胞、神経系の発達異常(通常、後頭部脳瘤)、肝胆管異形成、多指症を特徴とする重篤な繊毛病。
  • 網膜色素変性症98型(RP98):夜盲や視野狭窄を伴う網膜変性疾患で、小児期早期に発症する。

JBTS2においては、小脳虫部低形成、上小脳脚の肥厚、視床間溝の拡大といった脳構造異常が生じ、これが臼歯徴候としてMRIで確認される。

TMEM216遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

JBTS2の臨床症状は主に以下のような特徴を示す:

  • 神経症状
    • 低緊張(新生児期に顕著)
    • 小脳性運動失調(歩行困難、バランスの不安定性)
    • 精神運動発達遅滞
    • 眼球運動失行(Oculomotor Apraxia, OMA)
    • 呼吸異常(間欠的過呼吸や無呼吸、通常乳児期に顕著)
  • 全身症状(臓器障害を伴う場合)
    • 眼科的異常:網膜ジストロフィー、眼球振盪、視神経萎縮
    • 腎疾患:ネフロン癆(Nephronophthisis)、腎嚢胞、慢性腎不全
    • 肝疾患:肝線維化、胆管異形成(COACH症候群)
    • 骨格異常:多指症(pre-, meso-, post-axial)

臨床表現型は高度に可変的であり、患者によって重症度が異なる。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

Joubert症候群2型の診断には以下の手法が用いられる:

  • 画像診断
    • 脳MRI(臼歯徴候の確認)
    • 網膜・眼底検査(網膜ジストロフィーの評価)
    • 腎エコー・MRI(腎嚢胞、腎不全のスクリーニング)
  • 遺伝子検査
    • TMEM216遺伝子の変異解析(特にAshkenazi系ユダヤ人で頻度が高いp.R73L*変異)
    • 他のJoubert症候群関連遺伝子の解析(マルチ遺伝子パネル検査、エクソーム解析)

治療法と管理 | Treatment & Management

JBTS2に対する特異的治療法は存在しないため、症状に応じた対症療法および合併症管理が重要となる。

  • リハビリテーション
    • 理学療法(歩行訓練、運動機能向上)
    • 作業療法(手指の協調運動トレーニング)
    • 言語療法(発語・嚥下障害への対応)
  • 合併症管理
    • 眼科フォローアップ(視力低下・網膜変性の進行監視)
    • 腎機能管理(慢性腎疾患の早期発見・透析の適応判断)
    • 肝疾患モニタリング(肝線維化の進行抑制)
    • 呼吸管理(新生児期の呼吸異常への対策)

予後 | Prognosis

Joubert症候群2型の予後は表現型に依存する。純粋に神経症状のみを示す場合はリハビリテーションにより生活の質が向上する可能性があるが、腎不全や肝線維化を伴う場合は生命予後が悪化する可能性がある

網膜変性が進行すると視覚障害が著しくなり、重度の腎疾患が進行した場合には透析や腎移植が必要となる可能性がある。早期診断と多分野にわたる専門的な管理が、患者の予後改善に寄与すると考えられる。

引用文献|References

キーワード|Keywords

Joubert症候群, JBTS2, TMEM216, 臼歯徴候, 小脳虫部形成不全, 眼球運動失行, 遺伝子変異, 繊毛病, MRI診断, ネフロン癆, 肝線維化, 多指症