PROP1関連複合下垂体ホルモン欠損症

PROP1|Combined Pituitary Hormone Deficiency 2

PROP1遺伝子の変異によって引き起こされる複合型下垂体ホルモン欠乏症2(CPHD2)は、成長ホルモン(GH)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン(LH・FSH)などの分泌低下を引き起こします。本記事では、CPHD2の原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説し、早期発見と適切な管理の重要性を説明します。

遺伝子・疾患名

PROP1|Combined Pituitary Hormone Deficiency 2

概要 | Overview

複合型下垂体ホルモン欠乏症2(Combined Pituitary Hormone Deficiency 2, CPHD2)は、下垂体前葉ホルモンのうち成長ホルモン(GH)と1つ以上のホルモンの分泌が障害される疾患である。本疾患は、PROP1遺伝子の変異によって引き起こされることが最も多く、下垂体の発生と機能に関わる転写因子の異常が病態の中心にある。GH、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロラクチン(PRL)、および性腺刺激ホルモン(LH, FSH)の分泌低下を特徴とする。小児期に成長障害や甲状腺機能低下症、思春期遅延、さらには不妊症などが認められ、成人期には副腎不全が進行することがある。本疾患は、適切なホルモン補充療法によって管理可能である。

疫学 | Epidemiology

CPHDの有病率は全世界で約1/8000と推定されている。本疾患の大部分は非遺伝性であり、脳外科手術、感染症、放射線治療、腫瘍、重金属中毒、外傷、自己免疫疾患などが原因となる。一方で、PROP1を含む複数の遺伝子の変異が先天的なCPHDの原因となることが知られており、遺伝的要因による症例は全体の5~30%に相当すると考えられている。PROP1遺伝子変異は、特に家族性CPHDにおいて30~50%の症例に関連しており、特定の地理的・民族的集団において遺伝的ボトルネックや創始者効果が関与している可能性が示唆されている。

病因 | Etiology

PROP1遺伝子は、下垂体の発生と機能維持に関与する転写因子をコードしており、5q35.3に位置する。PROP1は、POU1F1遺伝子の発現を調節し、成長ホルモン産生細胞(GH産生細胞)、甲状腺刺激ホルモン産生細胞(TSH産生細胞)、およびプロラクチン産生細胞(PRL産生細胞)の分化に重要な役割を果たす。PROP1の機能喪失型変異は、これらの細胞の発達障害を引き起こし、下垂体ホルモンの分泌低下をもたらす。代表的な変異としてc.301_302delAGフレームシフト変異があり、この変異によりDNA結合能を失い転写活性が低下する。これらの変異は家族性および孤発性の両方のCPHD症例で報告されている。

PROP1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

PROP1関連CPHDの主な症状は以下の通りである。

  • 小児期:成長障害、甲状腺機能低下症(軽度)、低身長
  • 思春期:性腺刺激ホルモンの分泌低下による思春期遅延、未発達な第二次性徴、不妊症(治療なしでは生殖能力なし)
  • 成人期:副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)欠乏に伴う副腎不全(ストレス耐性低下、感染症リスク増大)
  • 稀な症状:短頸、視神経低形成、知的障害(まれ)

多くの患者は出生時の身体発育は正常であり、新生児期の低血糖や黄疸は少ないが、幼児期以降に成長遅延が顕在化する。TSH欠乏症はGH欠乏と同時またはそれ以降に発症し、思春期のLH・FSH分泌障害により二次性徴の遅れが認められる。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

CPHDの診断は臨床的所見とホルモン検査に基づいて行われる。

  • 血液検査:GH、TSH、ACTH、PRL、LH、FSHの低下
  • 成長ホルモン刺激試験:成長ホルモン分泌の低下
  • 甲状腺機能検査:遊離T4低値、TSH低値
  • ACTH刺激試験:副腎不全の評価
  • MRI検査:下垂体の低形成、肥大、または正常像
  • 遺伝子検査:PROP1遺伝子の病的変異を確認

PROP1変異を有する患者では、下垂体のMRI像が正常または低形成であることが多いが、一部の症例では一過性の下垂体肥大が見られることがある。

治療法と管理 | Treatment & Management

PROP1関連CPHDの治療はホルモン補充療法が中心となる。

  • GH補充療法:成長ホルモン(rhGH)を皮下注射
  • TSH欠乏症の治療:L-チロキシン(Levothyroxine)経口投与
  • 性ホルモン補充療法
    • 男児:12~13歳からテストステロンエナンテートの筋注
    • 女児:11~12歳からエストラジオール(後にプロゲステロン併用)
  • ACTH欠乏症の管理:ヒドロコルチゾン投与、ストレス時の増量
  • 不妊治療:ゴナドトロピン補充による排卵・精子形成の誘導

定期的なホルモンモニタリング(IGF1、T4、エストラジオール/テストステロン、コルチゾール)は、3~4か月ごとに行われる。

予後 | Prognosis

PROP1関連CPHDの予後は適切なホルモン補充療法の有無によって大きく異なる。GH補充療法を受けた患者では正常身長に達する可能性が高く、適切なホルモン治療により日常生活に支障をきたさないことが多い。ただし、ACTH欠乏が進行する可能性があり、長期的な副腎機能のモニタリングが必要である。また、PROP1変異を有する患者の中には成人期までACTH分泌が維持される症例もあるが、思春期以降に副腎不全を発症するリスクがあるため注意が必要である。適切な管理により、QOLを維持することが可能であるが、一生涯にわたるホルモン補充療法と定期的なフォローアップが必要とされる。

引用文献|References

キーワード|Keywords

PROP1, POU1F1, CPHD2, 複合型下垂体ホルモン欠乏症, 成長ホルモン, GH, 甲状腺刺激ホルモン, TSH, LH, FSH, ACTH, プロラクチン, 遺伝子変異, 下垂体低形成, ホルモン補充療法

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