遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 13(MRD13)」という長い英語の診断名、あるいは「CHAMP1遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。
医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「言葉の発達が非常にゆっくりになります」や「CHAMP1という遺伝子が原因です」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。
特に、「13型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
まず最初に、言葉の整理をさせてください。
この「常染色体顕性知的発達障害13型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってCHAMP1関連障害(CHAMP1-related disorder)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。
これは、第13番染色体にあるCHAMP1(チャンプワン)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。
全体的な発達の遅れや、特に言葉を話すことの難しさ、筋緊張の低下、そして愛嬌のある人懐っこい性格を主な特徴とします。
非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特に全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が含まれていることがわかってきました。世界中で患者会が発足するなど、少しずつ情報共有が進んでいる疾患です。
まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。
お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。
あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。
概要:どのような病気か
まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。
病名の意味と「優生(優性)」について
検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。
現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。
したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害13型」となります。
ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。
つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、13番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。
全体的な特徴
MRD13の原因遺伝子はCHAMP1です。
この遺伝子は、細胞分裂の際に染色体を正しく分配するために重要な役割を果たしています。
この機能がうまくいかないことで、脳を含む体の発達に影響が出ます。
主な特徴は、重度の知的発達の遅れと、著しい言葉の遅れです。言葉を発することが難しいお子さんも多いですが、理解力は比較的良好で、コミュニケーション意欲は高い傾向にあります。
また、小頭症すなわち頭のサイズが小さいことや、筋緊張低下、てんかんなどを合併することもあります。
性格は非常に明るく、社交的で、周りの人を笑顔にする力を持っていると言われています。
主な症状
知的発達障害13型(MRD13/CHAMP1関連障害)の症状は、発達の特徴、身体的な特徴、そして行動面の特徴の3つに大きく分けられます。
すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。
1. 神経発達と知的な特徴
ご家族が最初に「あれ?」と感じ、病院を受診するきっかけとなるのがこの発達の遅れです。
全般的な精神運動発達遅滞
首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。
歩き始めが2歳から3歳、あるいはそれ以降になることもあります。
筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることもあり、全体的に体が柔らかく、姿勢を保つのが苦手な場合があります。
しかし、時間をかけてリハビリを行うことで、多くのお子さんが独歩(一人歩き)を獲得します。
言語発達の遅れ(最も顕著な特徴)
CHAMP1関連障害のお子さんにとって、最も大きな課題となるのが言葉です。
言葉が出始めるのが非常に遅く、数語の単語のみでお話しする場合や、有為語(意味のある言葉)がほとんど出ない場合もあります。
発声はあっても、特定の発音が難しかったり、言葉として聞き取ることが難しかったりすることもあります。
しかし、ここが重要な点ですが、彼らは「何もわかっていない」わけではありません。こちらの言っていることを理解する力(受容言語)は、話す力(表出言語)よりもはるかに良好であることが多いです。
ジェスチャーや表情、視線で一生懸命に伝えようとします。
中等度から重度の知的障害が見られることが多いです。
新しいことを学習するのに時間がかかりますが、繰り返し経験することで、できることは着実に増えていきます。
2. 身体的な特徴
MRD13には、いくつかの身体的な特徴や合併症が報告されています。
小頭症
頭囲すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて小さい小頭症が見られることがあります。
生まれた時から小さい場合もあれば、成長とともに頭の大きさの伸びが緩やかになる場合もあります。
顔貌の特徴
専門医が見ると気づくような共通した顔立ちの特徴(特異的顔貌)があります。
頭が前後に短い(短頭)。
おでこが広い。
目が離れている(眼間開離)。
鼻が短い、あるいは鼻先が上を向いている。
人中(鼻と口の間)が平坦である。
耳の位置が低い。
これらは非常にマイルドな特徴であり、ご家族に似ている部分も大きいため、個性の範囲内と捉えられることも多いです。
眼科的な問題
近視、遠視、乱視といった屈折異常や、斜視が見られることがよくあります。
また、眼振(目が小刻みに揺れる)が見られることもあります。
その他の合併症
てんかん:患者さんの約半数にてんかん発作が見られます。発作のタイプは様々で、抗てんかん薬による治療が必要になることがあります。
消化器症状:便秘や胃食道逆流症(ミルクの吐き戻しなど)が見られることがあります。
摂食の問題:乳児期にミルクを飲む力が弱かったり、離乳食を飲み込むのが苦手だったりすることがあります。
3. 行動面・精神面の特徴
CHAMP1関連障害のお子さんは、行動面でもいくつかの特徴的な傾向を持っています。
親しみやすい性格(Happy demeanor)
アンジェルマン症候群のように、非常によく笑い、人懐っこく、社交的な性格をしているお子さんが多いと言われています。
人との関わりを楽しみ、ポジティブな感情表現が豊かです。
注意欠如・多動症(ADHD)の傾向
じっとしているのが苦手で動き回ってしまったり、集中力が続かなかったりすることがあります。
興味のあるものに突発的に向かってしまう衝動性が見られることもあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の傾向
対人関係は良好なことが多いですが、特定の物事に強いこだわりを持ったり、手を叩いたり体を揺らしたりする常同行動が見られることがあります。
感覚過敏(音や光、触覚に敏感)を持つこともあります。
睡眠障害
寝付きが悪い、夜中に何度も起きるといった睡眠の問題を抱えることがあります。

原因
なぜ、言葉が遅れたり、小頭症になったりするのでしょうか。その原因は、細胞分裂の際に重要な役割を果たすタンパク質の不具合にあります。
CHAMP1遺伝子の役割
この病気の原因は、第13番染色体にあるCHAMP1(Chromosome Alignment Maintaining Phosphoprotein 1)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、細胞分裂のプロセスに関わるタンパク質を作る設計図です。
細胞分裂と染色体の整列
私たちの体は、細胞分裂を繰り返して成長します。細胞が分裂するとき、遺伝情報が詰まった染色体は、2つの新しい細胞に均等に分けられなければなりません。
このとき、染色体を引っ張って移動させるための糸(微小管)と、染色体をつなぐ役目をするのが「動原体(キネトコア)」という装置です。
CHAMP1タンパク質は、この動原体と微小管が正しく結合するように調整し、染色体が細胞の中央にきれいに整列するように見張っている役割を持っています。
いわば、細胞分裂という精密なダンスの振付師のような存在です。
何が起きているのか(ハプロ不全)
MRD13では、2つあるCHAMP1遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなることで、作られるタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。
あるいは、作られたタンパク質の形がおかしくなり、正常な機能を果たせなくなります。
その結果、細胞分裂の際に染色体の分配がスムーズにいかなくなったり、神経細胞の発達や移動に影響が出たりして、脳の発達遅滞や小頭症などが引き起こされると考えられています。
遺伝について(顕性遺伝と突然変異)
この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。
人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のCHAMP1遺伝子に変異があれば発症します。
しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。
ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。
これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。
妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。
したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。
診断と検査
診断は、特徴的な症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。
1. 臨床診断の難しさ
発達の遅れや小頭症は、他の多くの病気でも見られる症状です。
また、特徴的な顔つきも、成長とともに変化するため、見た目だけでCHAMP1関連障害と診断することは不可能です。
これまでは「原因不明の精神発達遅滞」や「脳性麻痺」と診断されていることが多くありました。
2. 遺伝学的検査
確定診断のために最も確実な検査です。
血液を採取し、DNAを解析してCHAMP1遺伝子に変異があるかを調べます。
特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。
これにより、偶然CHAMP1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。
3. その他の検査
診断の補助や合併症のチェックのために、以下の検査が行われることがあります。
脳のMRI検査:脳の構造に大きな異常がないかを確認します。脳室の拡大や脳梁の菲薄化などが見られることがありますが、特異的な所見ではありません。
脳波検査:てんかんの疑いがある場合、あるいはてんかんの既往がなくても、脳波異常がないかを確認するために行われます。
眼科検査:斜視や視力の問題を確認します。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の量を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。
1. リハビリテーション(療育)
お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。
言語聴覚療法(ST)
MRD13のお子さんにとって、最も重要な療育の一つです。
言葉が出にくい場合でも、コミュニケーションの意欲は高いため、その気持ちを汲み取れる手段を提供することが大切です。
ジェスチャー(ベビーサイン)、絵カード(PECS)、写真、タブレット端末のアプリ(VOCA)など、代替コミュニケーション手段(AAC)を積極的に導入します。
「自分の気持ちが伝わった」という成功体験が、さらなるコミュニケーション意欲を引き出し、言葉の発達を促す土台となります。
また、摂食嚥下機能(食べる機能)の評価と訓練もSTの重要な役割です。
理学療法(PT)
筋緊張低下や運動発達の遅れに対して、体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。
お座りや歩行などの基本動作の獲得をサポートします。
歩行が不安定な場合は、足に合ったインソール(中敷き)や靴を使用することで、安定性が増すことがあります。
作業療法(OT)
手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。
日常生活動作として、スプーンを持って食べる、着替える、靴を履くなどの練習をします。
感覚統合療法を取り入れて、感覚の過敏さや鈍感さに対応する練習を行うこともあります。
2. 教育と生活のサポート
環境調整
多動や注意散漫がある場合、落ち着いて過ごせる環境を作ることが大切です。
刺激を減らした静かなスペースを用意したり、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりする工夫(構造化)が役立ちます。
学校選び
就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。
個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。
特に、言葉による指示だけでなく、視覚的な支援(絵や文字)を併用することで、理解度が格段に上がることが多いです。
3. 合併症の管理
てんかん
てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。
脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。
眼科・歯科ケア
定期的な眼科検診を行い、斜視や屈折異常があれば眼鏡などで矯正します。
また、歯並びの問題や虫歯のリスク管理のために、定期的な歯科検診も大切です。
まとめ
知的発達障害13型(MRD13/CHAMP1関連障害)についての解説をまとめます。
- 病気の本質: CHAMP1遺伝子の変異により、細胞分裂や脳の発達に関わるタンパク質が不足し、発達に影響が出る先天性の疾患です。
- 主な特徴: 全般的な発達の遅れ、特に重度の言葉の遅れ、筋緊張低下、小頭症、そして人懐っこく明るい性格が特徴です。
- 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
- 治療: 根本治療はありませんが、AAC(代替コミュニケーション)を活用した言語療法、理学療法、てんかん管理によって、生活の質を向上させることができます。
- 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが、家族や周囲の人々と温かい関係を築いています。
