妊娠中のご夫婦にとって、胎児の健康状態を知ることは大きな関心事です。近年、日本でも急速に普及してきた「NIPT(新型出生前診断)」は、お腹の赤ちゃんの染色体異常の可能性を調べる検査として注目を集めています。
NIPTは「Non-Invasive Prenatal Testing(非侵襲的出生前検査)」の略称で、母体の血液を採取するだけで胎児の染色体異常の可能性を調べることができる検査です。従来の羊水検査などと異なり、針を刺すなどの侵襲的な処置が不要なため、流産のリスクがないことが大きな特徴です。
この検査は主に、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトー症候群(13トリソミー)といった、胎児の主要な染色体異常の可能性を調べるために行われます。妊娠10週目以降に受けることができ、高い精度で結果を得ることが可能です。
NIPTの費用は受ける医療機関や検査の種類によって異なりますが、大きく分けて「公的NIPT」と「自費NIPT」の2種類があります。
公的NIPTは、2022年4月から一部の医療機関で開始された保険適用外の検査です。日本産科婦人科学会が認定した医療機関で受けることができ、費用は約15万円〜20万円程度となっています。公的NIPTを受けるためには、以下の条件のいずれかに該当する必要があります:
一方、自費NIPTは民間クリニックで受けることができる検査で、公的NIPTよりも条件が緩和されています。年齢制限がなく、希望すれば基本的に誰でも受けることができるのが特徴です。費用は医療機関によって異なりますが、一般的に約6万円〜20万円程度となっています。
自費NIPTの場合、検査項目によって費用が変わることがあります。基本的な染色体異常(13・18・21番染色体)のみの検査であれば比較的安価ですが、性染色体(X・Y染色体)の異常や微小欠失症候群なども含めた包括的な検査になると費用が高くなる傾向があります。
NIPT検査の費用には、主に以下のような内訳が含まれています:
医療機関によっては、これらがすべて含まれた「パッケージ料金」として提示されることが一般的です。支払い方法は医療機関によって異なりますが、多くの場合はクレジットカード払いや現金払いに対応しています。また、一部の医療機関では分割払いに対応しているところもあります。
なお、NIPTは現在のところ公的医療保険の適用外となっているため、全額自己負担となります。また、医療費控除の対象にはなりますので、確定申告の際に申請することで一部が還付される可能性があります。
NIPTは非常に高い精度を持つ検査として知られています。特に、ダウン症候群(21トリソミー)に関しては、検出率が99%以上と非常に高いことが報告されています。エドワーズ症候群(18トリソミー)やパトー症候群(13トリソミー)についても、95%以上の高い検出率があるとされています。
しかし、重要なのはNIPTはあくまでも「スクリーニング検査」であり、確定診断ではないという点です。つまり、NIPTで「陽性」という結果が出た場合でも、それは「染色体異常の可能性が高い」ということを示すだけであり、実際に染色体異常があるかどうかを確定するためには、羊水検査などの確定検査が必要となります。
NIPTの偽陽性率(実際には染色体異常がないのに検査で陽性と判定される確率)は、検査する染色体の種類によって異なりますが、一般的に0.1%〜1%程度とされています。また、稀に「判定保留」や「判定不能」という結果が出ることもあります。これは主に、母体血液中の胎児由来のDNA断片(セルフリーDNA)の量が少ない場合などに起こります。
NIPTは優れた検査ですが、いくつかの限界や注意点があります:
これらの限界を理解した上で検査を受けることが重要です。また、検査前後のカウンセリングを通じて、検査の意義や結果の解釈について十分に理解することが推奨されています。
NIPT検査は一般的に以下のような流れで行われます:
まず、検査を受ける前に医師や認定遺伝カウンセラーによるカウンセリングを受けます。このカウンセリングでは、検査の目的、方法、精度、限界、結果の解釈などについて詳しく説明を受けます。また、検査後に陽性結果が出た場合の対応についても話し合います。カウンセリングは通常30分〜1時間程度かかります。
カウンセリング後、同意書にサインをして実際の検査に進みます。検査は母体から約10mlの血液を採取するだけの簡単なものです。採血自体は数分で終わります。採血は通常、妊娠10週以降に行われます。
採取した血液は専門の検査機関に送られ、分析されます。母体の血液中には胎児由来のDNA断片(セルフリーDNA)が含まれており、これを分析することで胎児の染色体の状態を推測します。検査結果が出るまでには、医療機関によって異なりますが、一般的に1〜2週間程度かかります。
検査結果が出たら、再び医療機関を訪れて医師から結果の説明を受けます。結果は「陰性(低リスク)」「陽性(高リスク)」「判定保留」などで示されます。結果説明は通常30分程度かかります。
もし結果が「陽性」だった場合は、確定診断のための検査(羊水検査や絨毛検査など)を受けるかどうかを検討します。これらの確定検査は侵襲的であり、約0.2〜1%程度の流産リスクがありますが、より確実な診断が可能です。
全体の所要時間としては、初回のカウンセリングから結果説明まで、約2〜3週間程度かかるのが一般的です。ただし、医療機関の混雑状況や検査機関の処理能力によって変動することがあります。
NIPT検査は万人に適しているわけではありません。検査を受けるかどうかの判断は個人や夫婦の価値観、状況によって異なります。以下に、検査を検討すべき人と、慎重に考えた方がよい人の特徴をまとめます。
いずれの場合も、検査を受けるかどうかの最終的な判断は、十分な情報を得た上で本人(夫婦)が行うべきものです。検査前のカウンセリングでは、これらの点について詳しく説明を受け、自分たちの状況や価値観に照らし合わせて慎重に検討することが重要です。
NIPT検査は非常に有用な検査ですが、その限界を理解することも重要です。ここでは、NIPT検査で分かることと分からないことを明確にしていきます。
これらの限界を理解した上で、必要に応じて超音波検査などの他の出生前検査と組み合わせることで、より包括的な胎児の健康評価が可能になります。
NIPT検査は医学的な側面だけでなく、倫理的・心理的な側面も持ち合わせています。検査を受けるかどうかを決める際には、これらの側面についても十分に考慮することが重要です。
NIPTをめぐる主な倫理的課題には以下のようなものがあります:
これらの倫理的課題に対して、日本産科婦人科学会などの専門団体は、適切なカウンセリング体制の整備や、検査を受ける際の十分な情報提供の重要性を強調しています。
NIPT検査は、受検者に様々な心理的影響を与える可能性があります:
これらの心理的影響に対処するためには、検査前後の適切なカウンセリングが非常に重要です。また、必要に応じて心理専門家によるサポートを受けることも検討すべきでしょう。
NIPT検査を受けるかどうかは、医学的な側面だけでなく、個人や夫婦の価値観、宗教観、人生観なども含めた総合的な判断が必要です。十分な情報を得た上で、自分たちにとって最善の選択をすることが大切です。
NIPT(新型出生前診断)は、母体血液から胎児の染色体異常の可能性を高い精度で調べることができる非侵襲的な検査です。この記事では、NIPT検査の基本情報から費用、精度、検査の流れ、倫理的側面まで幅広く解説しました。最後に、NIPT検査を検討する際の重要なポイントをまとめます。
NIPT検査を受けるかどうかの最終的な判断は、十分な情報を得た上で、個人や夫婦が自分たちの価値観に基づいて行うべきものです。検査を受けることも、受けないことも、どちらも正しい選択です。大切なのは、自分たちにとって最善の選択をすることです。
妊娠・出産は人生の大きなイベントであり、様々な不安や疑問が生じるのは自然なことです。NIPT検査についても、わからないことがあれば、遠慮なく医療機関に相談してください。適切な情報と支援を得ながら、安心して妊娠期を過ごせることを願っています。
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