産後の赤ちゃんに障害が見つかった時に親にできていたかもしれないこと:妊婦健診の限界と「知る」という選択肢【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

妊娠中の経過は順調、妊婦健診でも毎回「順調ですね」と言われてきた。

それなのに、生まれて初めて赤ちゃんに深刻な病名や障害が判明することがあります。

「どうして? 健診では何も言われなかったのに」

「もっと早く知っていれば、何か準備ができたのではないか」

そんな風に自分を責めたり、行き場のない不安に襲われたりすることは、決して珍しいことではありません。

結論から申し上げます。一般的な妊婦健診には「限界」があります。

赤ちゃんの全ての状態を事前に知るためには、健診以外の専門的な検査が必要なのです。

事前に知る機会を逃してしまうと、心の準備も、治療の選択肢も与えられないまま、産後の慌ただしい中で大きなショックを受けることになりかねません。「異常なし」という言葉を信じて安心したい気持ちは痛いほど分かりますが、心の中では「本当に大丈夫かな?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

そこで今日は、【産後の赤ちゃんに障害が見つかった時に親にできていたかもしれないこと】というテーマで、妊婦健診のリアルな限界と、私たちがとれる具体的な対策について、医学的なデータを交えて解説していきます。


1. 妊婦健診で「異常なし」でも障害が判明する現実

「先生、妊婦健診で『異常なし』と言われても、生まれてみたら障害があったという話を聞くと不安です。これって、よくあることなんでしょうか?」

診察室で、このようなご質問をいただくことは少なくありません。

答えから申し上げますと、妊婦健診で異常なしと言われた場合でも、生まれてきた赤ちゃんに障害があることは、現実的に起こり得ます。

これには明確な理由があります。

妊婦健診の目的と限界

まず、一般的な妊婦健診で行われる「超音波検査(エコー)」の主な目的をご存知でしょうか?

それは、赤ちゃんの「成長」や「形態(形)」に明らかな異常がないかを確認することです。手足の長さ、頭の大きさ、心臓の形などを目で見てチェックします。

しかし、「機能的な障害」は、形を見るだけの超音波検査では発見することができません。

たとえば、脳の形が正常であっても、脳の働きに関わる「知的障害」や「発達障害」があるかどうかは、エコーには映らないのです。同様に、目や耳の形がきれいでも、視力や聴力に問題があるかどうかは分かりません。

データで見る「見えない障害」の確率

ここで、少し衝撃的かもしれませんが、大切なデータをお伝えします。

妊婦健診で「異常なし」と診断されても、実際には約3%〜7%の赤ちゃんに何らかの先天的な異常があるというデータがあります。(参考:厚生労働省科学研究成果データベース)

「3%〜7%」という数字を聞いて、どう感じましたか?

「意外と多いな」と思われたかもしれません。100人の赤ちゃんがいれば、そのうち3人から7人には、健診では見つけられなかった何らかの異常が見つかる可能性があるということです。

これは、決して他人事ではなく、誰にでも起こりうる「一般的なこと」なのです。

具体的な異常の種類と頻度

では、具体的にどのような異常が、どのくらいの頻度で起こりうるのでしょうか。代表的な先天異常の発生頻度をまとめました。

  • 心臓の異常(約0.5%〜1%)
    先天的な異常の中では最も頻度が高いものの一つです。小さな穴が開いている程度のものから、手術が必要なものまで様々ですが、エコーで見つかることもあれば、生まれてからの聴診で初めて気づかれることもあります。
  • 知的障害(約1%〜2%)
    脳の機能に関わる問題のため、妊娠中の超音波検査で診断することは困難です。
  • 発達障害(約1%〜3%)
    自閉スペクトラム症やADHDなどが含まれますが、これらも脳の機能的な特性であり、形態的な検査では分かりません。
  • その他の遺伝性疾患(約1%〜2%)
    遺伝子の変異によって起こる病気です。見た目に特徴が出るものもあれば、代謝機能などに問題が出るものもあります。
  • 感覚器官の障害(約0.5%〜1%)
    先天性の難聴や視覚障害などです。これらも生まれてからのスクリーニング検査で判明することが多い異常です。

このように見ていくと、妊婦健診の「異常なし」は、「今のところ、形の上では大きな問題は見当たりません」という意味であり、「全ての病気や障害がない」ことを保証するものではないことがお分かりいただけると思います。

もちろん、過度に不安になる必要はありません。多くの赤ちゃんは元気に生まれてきます。

しかし、「健診だけでは分からないことがある」という事実を知っておくことは、産後の生活に向けた心の準備として非常に大切です。生まれてから発達の過程で気になることがあれば、すぐに専門医に相談するなど、継続的な見守りが必要なのです。


2. 「知る」ためにできること:3つの専門的検査

「妊娠中に私たちができる対策は、本当にないのでしょうか?」

「生まれてくるまで、ただ祈っているしかないのでしょうか?」

そんなことはありません。

一般的な妊婦健診の限界を知った上で、「もっと詳しく赤ちゃんのことを知りたい」「リスクを把握して準備をしたい」と考える親御さんのために、現代医療にはいくつかの選択肢があります。

具体的には、以下の3つの検査が挙げられます。

  1. 胎児ドック(精密超音波検査)
  2. NIPT(新型出生前診断
  3. キャリアスクリーニングテスト

これらは、通常の健診よりも一歩踏み込んで、胎児の異常の可能性をより深く調べるための検査です。それぞれの特徴と、何が分かるのかを詳しく解説していきましょう。

① 胎児ドック(精密超音波検査)

これは、通常の妊婦健診よりも高性能な超音波機器を使い、専門的な技術を持つ医師が時間をかけて行う検査です。

  • 時期:妊娠18週〜20週頃(中期ドック)が一般的ですが、初期や後期に行うこともあります。
  • 分かること:赤ちゃんの全身の「形態異常」を詳細にチェックします。心臓の部屋の構造、血流、脳の構造、口唇口蓋裂などの顔面の形成異常、手足の指の本数などを確認します。また、首の後ろのむくみ(NT)などを測定することで、ダウン症などの染色体異常の可能性(確率)を推測することもできます。
  • 精度:形態異常の発見率は高いですが、あくまで「形」を見る検査であるため、染色体異常の確定診断はできません。精度は70〜80%程度とされています。

② NIPT(新型出生前診断)

近年、受検される方が増えているのがこのNIPTです。お母さんの腕から血液を採取するだけで行える、母体にも赤ちゃんにも負担の少ない検査です。

  • 時期:妊娠9週〜10週以降から受けられます。
  • 分かること:お母さんの血液中に漏れ出している赤ちゃんのDNA断片を分析し、染色体の異常を調べます。主に「21トリソミー(ダウン症候群)」「18トリソミー(エドワーズ症候群)」「13トリソミー(パトウ症候群)」の3つの染色体異常のリスクを判定します。また、施設によっては性染色体の異常や、微小欠失症候群といったより細かい遺伝子の変化を調べることができるプランもあります。
  • 精度:非常に高い精度を誇ります。特にダウン症に関しては、感度99%以上とされています。「陰性」と出た場合、その信頼性は極めて高いと言えます。ただし、あくまで「非確定的検査」であるため、陽性の場合は羊水検査などの確定検査が必要になります。

③ キャリアスクリーニングテスト

これは日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、非常に重要な検査です。これまでの2つが「赤ちゃん」を調べるのに対し、これは「ご両親(カップル)」の遺伝子を調べるものです。

  • 時期:妊娠前、または妊娠中のいつでも可能です。
  • 分かること:ご両親が「遺伝性疾患の保因者(キャリア)」であるかどうかを調べます。私たちは誰でも、病気の原因となる遺伝子の変異をいくつか持っています。ただ、それが1つだけなら発症しない(潜んでいる状態=キャリア)ことが多いのです。しかし、パートナーも偶然同じ遺伝子の変異を持っていた場合、お子さんにその病気が遺伝する可能性があります(常染色体劣性遺伝)。
    この検査では、SMA(脊髄性筋萎縮症)や嚢胞性線維症など、数百種類〜数千種類の遺伝性疾患のリスクを事前に知ることができます。
  • 精度:遺伝子そのものを解析するため、疾患によりますが90%以上と高い精度を持ちます。

3. 検査ごとの比較まとめ

それぞれの検査には得意・不得意があります。分かりやすく表で比較してみましょう。

検査項目胎児ドックNIPT(新型出生前診断キャリアスクリーニングテスト
実施時期妊娠18週〜20週頃妊娠9週〜16週頃妊娠前〜妊娠中いつでも
主な対象形態異常(心疾患、手足の異常など)、染色体異常の可能性染色体異常(21, 18, 13トリソミー)、微小欠失など両親の遺伝子変異(劣性遺伝疾患のリスク)
検査方法精密超音波(エコー)母体採血唾液または血液(両親)
精度70〜80%程度(術者の技術による)ダウン症で99%以上90%以上(検査対象による)
分かる異常のタイプ目に見える「形」の異常染色体の「数」や「構造」の異常特定の「遺伝子」による病気のリスク

このように、「胎児ドック」は形を、「NIPT」は染色体を、「キャリアスクリーニング」は遺伝子を調べるもの、と整理すると分かりやすいでしょう。

それぞれの検査は独立したものではなく、組み合わせることでより多角的に赤ちゃんの健康状態を把握することが可能になります。


4. 「知ること」は「準備すること」

「もし検査をして、陽性だったらどうしよう…」

そう考えて、検査をためらう気持ちはとても自然なことです。怖いと感じるのは、あなたが赤ちゃんのことを真剣に愛している証拠でもあります。

しかし、事前に情報を得ることは、決してネガティブなことではありません。

NIPTやキャリアスクリーニングテストによって得られる情報は、生まれてくる命の道筋を照らすための「灯り」となります。

心の準備ができる

突然の告知によるパニックを防ぐことができます。事前に可能性を知っていれば、時間をかけてパートナーと話し合い、家族で知識を深め、赤ちゃんを迎えるための心の土台を作ることができます。

最適な医療環境を選べる

もし赤ちゃんに心臓の病気や治療が必要な疾患が見つかった場合、「NICU(新生児集中治療室)のある大きな病院で出産する」「専門の小児外科医がいる病院と連携をとる」といった具体的な対策を立てることができます。出産直後からスムーズに最善の治療を受けさせてあげられることは、赤ちゃんの予後(その後の経過)を大きく左右します。

早期療育・サポートの準備

どのようなサポートが必要になるか、地域の療育センターや支援団体について事前に調べることができます。「生まれてから慌てて探す」のと「あらかじめ選択肢を持っている」のでは、親御さんの精神的な余裕が全く違います。


本日のまとめ

今日は【産後の赤ちゃんに障害が見つかった時に親にできていたかもしれないこと】という、少し重いけれど、とても大切なテーマでお話ししました。

最後に、重要なポイントを3つにまとめて振り返ります。

1. 妊婦健診の「異常なし」には限界がある

妊婦健診で「異常なし」と言われても、それは「エコーで見える範囲の形に異常がない」という意味に過ぎません。実際には3〜7%の赤ちゃんに何らかの先天異常が見つかる可能性があり、健診結果が全てを保証するものではないという現実を知っておくことが大切です。

2. 知的・発達障害はエコーでは見えない

多くの親御さんが心配される知的障害や発達障害、視覚・聴覚の障害などは、脳や神経の機能的な問題であるため、妊娠中の超音波検査では発見できません。「形を見る検査」と「機能を見る検査」は別物であることを理解しましょう。

3. より深く知るための選択肢(NIPTなど)がある

もし、あなたが「できる限り赤ちゃんのことを知っておきたい」「万全の準備をして迎えたい」と望むなら、NIPT(新型出生前診断)や胎児ドック、キャリアスクリーニングテストといった専門的な検査を受けることが推奨されます。

特にNIPTは、ダウン症などの染色体異常を非常に高い精度で検出でき、早期にリスクを知るための有効な手段です。

「知ること」は、決して怖いことではありません。

それは、未来のあなたと赤ちゃんを守るための、最初の一歩になり得るのです。