妊娠中の方なら一度は耳にしたことがあるかもしれません。
「採血だけで赤ちゃんの染色体異常がわかる」「精度が99%以上」といった情報が広まる一方で、その実態については多くの誤解や不安が渦巻いています。
「本当に99%も当たるの?」
「陽性が出たらどうすればいい?」
「費用が高くて迷っている…」
そんな妊婦さんの声に応えるべく、今回はNIPT専門医の岡医師(ヒロクリニック)と産婦人科医の花澤医師による特別対談の内容をお届けします。専門家の視点から、NIPTの基礎知識から最新の事情、そして決して切り離せない「命の選択」というデリケートな問題まで、深く切り込んでいきます。
まず、NIPTの基本をおさらいしましょう。
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)は、妊婦さんの血液中に含まれる「胎児由来のDNA(正確には胎盤由来)」を分析し、染色体の数に異常がないかを調べるスクリーニング検査です。
■ 何がわかるの?
主に調べられるのは以下の3つの染色体異常です。
さらに、性染色体の異常(ターナー症候群、クラインフェルター症候群など)や、より微細な遺伝子の欠失(微小欠失症候群)まで調べられるプランも存在します。
■ 欧米と日本の違い
岡医師によると、欧米では「全ての妊婦さんが受けるべき検査」という認識が一般的になりつつあるといいます。これは、生まれてくる赤ちゃんの健康状態を事前に知ることで、適切な医療体制やサポートを準備できるという考えに基づいています。
一方、日本ではまだ「全員が受けるもの」という位置づけではありません。しかし、晩婚化や少子化が進む中、「たった一人の我が子だからこそ、万全を期したい」と考えるカップルが増え、受検率は年々上昇傾向にあります。
NIPTが画期的とされる理由は、その**「安全性」と「正確性」**にあります。
1. 安全性:流産リスクがほぼゼロ
従来の確定診断である「羊水検査」や「絨毛検査」は、お母さんのお腹に針を刺すため、わずかながら流産や出血のリスクがありました。しかし、NIPTは通常の採血と同じ手法で行うため、母体や赤ちゃんへの身体的負担がほとんどありません。
2. 正確性:デジタルな解析技術
DNAは「A・T・G・C」という4つの塩基配列で構成された、いわばデジタルの情報です。
エコー検査(超音波検査)が医師の技術や赤ちゃんの向き、映り具合といった「アナログな要素」に左右されるのに対し、NIPTは遺伝子の量を数値として測定します。そのため、感度・特異度ともに99.9%以上という極めて高い精度を実現しています。
■ エコー検査は不要?
では、NIPTさえ受ければエコー検査は不要なのでしょうか?
答えは「NO」です。
岡医師は「NIPTとエコー検査は役割が違う」と強調します。
それぞれの得意分野が異なるため、両方を併用することが、赤ちゃんの状態をより正確に知るためのベストな方法と言えます。
ここで注意が必要なのが、**「NIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)検査であり、診断ではない」**という点です。
「精度99.9%」という数字だけを見ると、「陽性が出たら間違いなく病気だ」と思ってしまいがちです。しかし、実際には**「偽陽性(本当は陰性なのに陽性と判定されること)」**の可能性がゼロではありません。
岡医師は、「NIPTの精度があまりにも高すぎるため、それだけで診断がついたと勘違いしてしまう方が多い」と警鐘を鳴らします。
NIPTで陽性判定が出た場合、**必ず「羊水検査」を受けて診断を確定させる必要があります。**実際に、NIPTで陽性と出ても、羊水検査で陰性(異常なし)となるケースは存在します。一つの検査結果だけで判断せず、複数のステップを踏むことが重要です。
■ 検査時期:妊娠6週から可能?
従来は妊娠10週以降が推奨されていましたが、技術の進歩により、さらに早期(6週〜)からの検査が可能になってきています。
「少しでも早く安心したい」という妊婦さんのニーズに応える形で、世界的には妊娠9週前後での実施がスタンダードになりつつあるようです。
■ 費用の相場
NIPTは保険適用外(自費診療)のため、費用は決して安くありません。
なぜこれほど価格差があるのでしょうか?
高額なプランでは、より多くの遺伝子領域を詳しく解析するため、コストがかかるのです。例えば、「22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)」などの微小欠失は、ダウン症に次いで頻度の高い疾患ですが、基本的な検査では見つけられません。どこまで詳しく知りたいか、それぞれの家族の考え方や予算に合わせて選択する必要があります。
対談の終盤、話題はNIPTの核心部分である「陽性だった場合の選択」へと移ります。
もし、お腹の赤ちゃんに障害があるとわかったら、どうするか。
この問いに正解はありません。
「産む」という選択も、「産まない(中絶)」という選択も、どちらもご家族が真剣に悩み抜いて出した結論であれば尊重されるべきです。
岡医師はこう語ります。
「どのような選択をしたとしても、それは間違いではありません。その後の人生を歩むのはご家族自身です。私たち医師は、ジャッジをするのではなく、どんな決断であっても寄り添い続ける存在でありたい」
花澤医師もこれに同意し、「医療の世界は白か黒かだけではない。100組の夫婦がいれば100通りの考え方がある」と述べています。
NIPTを受けるということは、単に病気を見つけるだけでなく、**「自分たちがどんな家族を築いていきたいか」**を夫婦で深く話し合うきっかけにもなるのです。
最後に、NIPTを検討している方へ。
不安な気持ちを抱えて検査を受けるのは当然のことです。だからこそ、正しい知識を持ち、専門家によるサポート体制が整ったクリニックを選ぶことが大切です。
単に検査をして結果を通知するだけでなく、その結果をどう受け止め、どう行動すればよいのかを一緒に考えてくれる医療機関を選びましょう。
NIPTは、未来の赤ちゃんと家族のための「お守り」のような存在かもしれません。
迷っているなら、まずは専門医に相談してみてはいかがでしょうか。その一歩が、あなたの不安を安心へと変える手助けになるはずです。
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