「赤ちゃんが大きい」と言われたら。遺伝子の悪戯『ソトス症候群』の真実と、向き合い方【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

妊婦健診で、医師からふと言われた一言が、心に棘のように刺さって抜けないことはありませんか?

「赤ちゃんの頭、週数より少し大きめですね」

「首の後ろのむくみ(NT)が少し気になります」

もちろん、「個性ですね」と言われて終わることも多いですが、不安になってネット検索を繰り返し、眠れない夜を過ごしている方もいるかもしれません。

「大きいことは良いことだ」と昔は言われましたが、医学的には、平均よりも極端に成長が早い場合、そこに遺伝子の病気が隠れていることがあります。

その一つが、今回解説する**「ソトス症候群」**です。

別名「脳性巨人症」とも呼ばれるこの病気は、体が大きく成長する一方で、発達のペースはゆっくりであるという特徴を持っています。

日本では指定難病にも認定されていますが、その認知度はまだ十分とは言えません。

今日は、この病気の原因、特徴、そして診断や治療について、最新の医療データをもとに丁寧に紐解いていきます。


1. ソトス症候群とは? 遺伝子の「スイッチ」の故障

「ソトス症候群」という名前を初めて聞いた方も多いでしょう。

これは、1964年に小児科医のソトス先生によって報告された疾患で、日本ではおよそ1〜2万人に1人の割合で生まれると言われています。

原因は「NSD1遺伝子」の変異

私たちの体の中には、膨大な数の遺伝子があります。その中で、細胞が「いつ、どの遺伝子を使うか」を調整する司令塔のような役割をしているのが、**「NSD1遺伝子」**です。

ソトス症候群は、この司令塔の遺伝子に生まれつきの変異(エラー)が生じることで起こります。

遺伝子のスイッチのオン・オフがうまく切り替わらなくなるため、体や脳の発達リズムが乱れてしまいます。

その結果、体はどんどん大きくなる(過成長)のに、言葉や運動の発達はゆっくりになるという、独特のアンバランスさが生じるのです。

親からの遺伝ではない?

「遺伝子の病気」と聞くと、「親から遺伝したのか?」と心配される方が多いですが、ソトス症候群のほとんど(95%以上)は**「突然変異」**によるものです。

ご両親の遺伝子に全く問題がなくても、受精卵が細胞分裂をする過程でたまたまエラーが起こり、誰にでも発症する可能性があります。

(※極めて稀に家族性の遺伝もありますが、大多数は偶発的なものです)


2. 成長のアンバランス。4つの主な特徴

ソトス症候群のお子さんには、いくつかの共通する特徴が見られます。

もちろん個人差は大きいですが、主なサインを知っておくことは早期発見につながります。

① 身体的特徴:生まれた時から「大きい」

最大の特徴は、出生時から身長や頭囲が平均よりもかなり大きいことです(過成長)。

また、顔立ちにも特徴が現れやすいと言われています。

  • 頭の形:おでこが広く、少し前に出ている。
  • 顔の輪郭:面長で、あごが細くとがっている。
  • :目と目の間が少し離れている。
  • 手足:年齢の割に手足が大きい。

これらの特徴は、成長とともに目立たなくなることもありますが、幼少期には顕著に見られることが多いです。

② 発達の遅れ:体は大きいけれど……

体の成長スピードとは裏腹に、運動や言葉の発達はゆっくりです。

  • 運動:首すわり、寝返り、はいはい、歩き始めなどが平均より遅れる傾向があります。
  • 言葉:「ママ」「ブーブー」などの発語が2〜3歳以降になることも珍しくありません。

言葉でうまく伝えられないもどかしさから、かんしゃくを起こしたり、パニックになったりすることもあります。

また、知的な発達に関しても、軽度〜中等度の遅れ(知的障害)を伴うことが多く、学習面でのサポートが必要になるケースが一般的です。

③ 神経系の症状

筋肉の張りが弱く(低緊張)、体がふにゃふにゃして抱っこしにくい、力が入りにくいといった特徴が見られることがあります。

また、乳幼児期に熱性けいれんを起こしやすかったり、てんかんを合併したりすることもあります。

行動面では、ADHD(注意欠如・多動症)のような落ち着きのなさや、自閉スペクトラム症(ASD)に似たこだわり行動が見られることもあります。

④ その他の合併症

心臓や腎臓に生まれつきの異常があったり、背骨が曲がる「側弯症(そくわんしょう)」が見られたりすることもあります。定期的な検診が欠かせません。

【ソトス症候群の主な特徴まとめ】

| 分類 | 主な特徴 |

| :— | :— |

| 身体的特徴 | 乳幼児期からの過成長(身長・頭囲大)、特徴的な顔貌(面長・広いおでこ) |

| 発達 | 運動発達の遅れ、言葉の遅れ、知的障害 |

| 神経系 | 筋緊張低下(体が柔らかい)、けいれん、ADHD・自閉傾向 |

| 合併症 | 心疾患、腎奇形、側弯症など |


3. 妊娠中に分かるの? 診断への道のり

「お腹にいる時に診断できるの?」

これは、多くの妊婦さんが抱く疑問です。

妊娠中の診断は難しい

結論から言うと、妊娠中にソトス症候群を「確定診断」することは非常に難しいのが現状です。

超音波検査(エコー)で「頭が大きい」「羊水が多い」といったサインが見つかることはありますが、それだけで「ソトス症候群です」と断定することはできません。頭が大きい赤ちゃんは他にもたくさんいるからです。

確実なのは「遺伝子検査」

確定診断のためには、生まれた後に血液検査を行い、NSD1遺伝子の変異を調べる必要があります。

  • FISH法:特定の遺伝子の欠失を調べる。
  • マイクロアレイ検査:染色体全体の細かい欠失や重複を調べる。
  • 全エクソーム解析:全遺伝子を網羅的に調べる。

当院(ヒロクリニック)でも行っているような、NIPT(新型出生前診断)の技術が進歩し、一部の遺伝子疾患のリスクを判定できるようになってきていますが、ソトス症候群に関しては、まだ一般的なスクリーニング検査の対象外であることが多いです。

もし、上のお子さんがソトス症候群である場合など、特定のリスクがある場合は、遺伝カウンセリングを通じて専門的な検査を検討することになります。


4. 治る病気? 親ができるサポートとは

「もし診断されたら、治療法はあるの?」

残念ながら、遺伝子の変異そのものを修復する「根本的な治療法」は、現時点ではありません。

しかし、それは「何もできない」という意味ではありません。

症状に合わせた対症療法や療育を行うことで、お子さんの「生きる力」を伸ばし、生活の質(QOL)を大きく高めることは十分に可能です。

具体的なサポート例

  • 言葉の遅れ:絵カードや写真を使って視覚的にコミュニケーションをとる練習をする、言語聴覚士による訓練を受ける。
  • 運動の遅れ:理学療法士によるリハビリで、体の動かし方を学ぶ。
  • 合併症の管理:心臓や腎臓、てんかんなどは、定期的な通院と投薬でコントロールする。
  • 教育・生活:保育園や学校と連携し、加配の先生についてもらったり、特別支援教育を活用したりして、その子のペースに合った環境を整える。

医師、看護師、療法士、学校の先生、心理士。

多くの専門家と「チーム」を組み、社会全体でお子さんを支えていく体制を作ることが何より大切です。

成長するにつれて、過成長のペースが落ち着いたり、言葉でのコミュニケーションができるようになったりと、その子なりの成長を見せてくれるようになります。


5. 次の子もなる? 親の年齢は関係ある?

最後に、よくある質問にお答えします。

Q. 次の子どももソトス症候群になる確率は?

A. 非常に低いです。

先ほどお話しした通り、この病気のほとんどは突然変異です。基本的には「たまたま起きた事故」のようなものなので、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほぼ変わりません。

ただし、極めて稀に「生殖細胞モザイク(親の精子や卵子の一部にだけ変異がある状態)」のケースがあり、その場合は再発率が上がります。心配な場合は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

Q. 親が高齢だとリスクが上がる?

A. 明確な関係はありません。

ダウン症などの染色体異常(数の変化)は、母体年齢とともにリスクが上がることが知られていますが、ソトス症候群(遺伝子の変異)に関しては、親の年齢との強い関連性は確認されていません。

「私が高齢出産だったから……」とご自分を責める必要はありません。


本日のまとめ

今日は、体の成長と発達のペースが異なる「ソトス症候群」について解説しました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 「大きさ」と「遅れ」のギャップ

体は大きいのに、言葉や運動の発達はゆっくり。この独特のアンバランスさが最大の特徴です。

2. 原因は遺伝子の突然変異

NSD1遺伝子のエラーで起こりますが、ほとんどは親からの遺伝ではなく、誰にでも起こりうる突然変異です。

3. 早期発見でサポートにつなげる

根本治療はありませんが、療育や医療的ケアによって、その子らしい成長を支えることができます。

4. 自分を責めないで

親の年齢や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。

もし、お子さんの発達や特徴で気になることがあれば、一人で悩まず専門医に相談してください。

診断名は「レッテル」ではなく、お子さんを正しく理解し、最適なサポートを届けるための「パスポート」です。

未来のあなたと赤ちゃんが、笑顔でそれぞれのペースで歩んでいけるよう、私たちは正しい医療情報でサポートし続けます。