妊婦の持病悪化…治療はどうする?医師が解説

医者

妊娠中に持病が悪化することは少なくありません。妊婦としての体調管理には特別な配慮が必要ですが、持病がある場合、どのように治療を進めるべきか不安も多いでしょう。本記事では、妊娠中に持病が悪化した場合の治療法、注意点、妊娠との関係について医師が解説します。妊婦さんとその家族が安心して治療を受けられるよう、知っておきたい情報をお伝えします。

1. 妊娠中に持病が悪化する可能性とその影響

妊娠中に持病が悪化すると、母体や胎児への影響が大きいため、早期の対応が必要です。特に糖尿病や高血圧、心疾患などは、妊娠に伴うホルモンの変化や体重増加によって悪化することがあります。持病が悪化すると、流産早産、胎児の成長遅延、さらには母体の健康問題が引き起こされることがあります。そのため、妊婦は定期的に医師の診察を受け、早期発見と予防に努めることが大切です。

2. 妊婦の持病治療における基本的な考え方

妊婦の治療は、母体の健康を守りながら胎児への影響を最小限に抑えることが最優先されます。妊娠中は薬物の使用に制限があるため、治療方法を慎重に選択する必要があります。例えば、妊婦にとって安全とされる薬剤を使用し、必要最低限の治療を行うことが求められます。また、生活習慣の改善や食事指導も重要な治療方法です。

3. 具体的な持病とその治療法

妊娠中に持病が悪化する場合、母体の健康や胎児への影響が懸念されます。持病の治療は、妊娠の進行状況や母体の状態に応じて調整されるべきです。ここでは、妊娠中に発症または悪化しやすい代表的な持病について、具体的な治療法や管理方法を詳細に説明します。

1. 糖尿病

妊娠糖尿病と既往歴のある糖尿病(1型・2型糖尿病)は、妊娠中に悪化することがあるため、特に注意が必要です。血糖値の管理が重要となりますが、妊娠中に使える治療法には制約があります。

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病は妊娠中に初めて診断される糖尿病で、特に妊娠24〜28週に発症しやすいです。妊娠糖尿病の主なリスクは、過剰な体重増加、早産、大きな赤ちゃん(巨大児)、低血糖、さらには母体の高血圧や胎盤機能不全です。妊娠糖尿病の治療は以下の方法で管理されます。

  • 食事療法
    妊娠糖尿病の管理において最も重要なのは食事療法です。炭水化物の摂取を適切に管理し、血糖値の急激な上昇を防ぎます。血糖値を安定させるために、1日に数回の小分けの食事を取り、糖質の摂取量や質に注意を払い、GI(グリセミックインデックス)値が低い食品を選ぶことが推奨されます。また、適切なカロリー摂取量と、必要に応じた食事管理計画が立てられます。
  • 運動療法
    妊娠中の適度な運動は、血糖値のコントロールに有益です。ウォーキングや軽いジョギングなど、妊娠に負担の少ない運動が推奨されます。しかし、運動は過度に行うことなく、個別の体調に合わせて調整する必要があります。
  • インスリン療法
    食事療法と運動療法だけでは血糖値のコントロールが難しい場合、インスリン療法が必要になることがあります。妊娠中でも使用できるインスリン製剤があり、血糖値を正常範囲に保つために適切な量とタイミングで投与されます。
  • 経口薬
    妊娠中は原則として経口薬の使用は避けるべきですが、場合によってはメトホルミンが使われることがあります。メトホルミンは血糖値の上昇を抑える薬で、妊娠糖尿病にも使用されることがありますが、使用には医師の慎重な判断が求められます。

既往歴のある糖尿病

妊娠前から糖尿病があった場合、妊娠中に血糖コントロールが難しくなることがあります。妊娠糖尿病とは異なり、妊娠初期から十分にコントロールしないと母体と胎児に重大な影響を与える可能性があるため、事前にしっかりとした治療計画が必要です。

  • 血糖値の管理
    インスリン注射や経口薬が必要となる場合が多いです。妊娠中は血糖値の急激な変動を避け、安定させることが大切です。医師は必要に応じて薬剤を調整し、胎児に影響のない範囲で最適な治療を提供します。
  • 定期的なモニタリング
    妊娠中は定期的に血糖値を測定し、治療が適切に行われているかを確認します。また、胎児の発育状態や胎盤機能を定期的にチェックする必要があります。

2. 高血圧

妊娠中に発症する高血圧や、妊娠高血圧症候群(PE)は母体と胎児に多くのリスクをもたらします。妊娠中に高血圧が悪化すると、早産、胎児発育不全、さらには母体の重篤な合併症(子癇前症や子癇)を引き起こすことがあるため、早期の対応が必要です。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降に高血圧(血圧140/90mmHg以上)が発生する疾患です。治療法には以下のものがあります。

  • 安静
    妊婦の体調が安定するように、安静を保つことが基本です。特に寝ているときは左側を下にして寝ることが推奨されます。これにより、血液の循環が改善され、胎児への血流が増加します。
  • 薬物療法
    高血圧が治療を必要とする場合、妊婦用の安全な薬剤(例えば、ラベタロールやメチルドパなど)が使われます。これらの薬剤は胎児への影響が少ないとされていますが、使用には慎重な判断が求められます。
  • 食事療法
    塩分摂取を制限し、低脂肪で栄養バランスの取れた食事を摂取することが推奨されます。また、適度な体重管理が重要です。

妊娠中の高血圧の管理

高血圧が慢性的に続く場合、妊娠中の経過が注意深く監視されます。血圧を定期的に測定し、必要に応じて薬物療法を行い、無理な体重増加やストレスを避けることが大切です。

3. 心疾患

妊娠中の体重増加やホルモンの影響で、心疾患が悪化することがあります。特に、心不全や心筋症が進行すると、母体や胎児に深刻な影響を及ぼすことがあります。心疾患の治療には、以下の方法が取られます。

妊娠中の心疾患治療

  • 薬物療法
    妊娠中に使用可能な薬剤が限られているため、薬の選択には慎重を期します。例えば、β遮断薬やACE阻害薬などが妊婦には適していないことが多いため、利尿薬や血圧降下薬など、妊娠中でも安全に使える薬剤を選択します。
  • 管理とモニタリング
    妊婦の心疾患が悪化しないように、定期的な心電図や超音波検査が行われ、心機能の監視が続けられます。特に、妊娠後期において心機能が低下しないように、注意深い監視が求められます。

4. その他の持病

妊娠中は、喘息、腎疾患、自己免疫疾患なども悪化することがあります。これらの持病に対する治療法は、病状に応じたものを選択し、妊娠に配慮した治療を行います。

喘息

妊娠中に喘息の症状が悪化することがあります。喘息がコントロールできていないと、母体に低酸素状態が生じ、胎児にも影響が出る可能性があります。治療には吸入薬を使用することが一般的であり、妊娠中でも比較的安全に使用できる薬剤が選ばれます。

腎疾患

腎疾患がある妊婦は、妊娠中に腎機能が悪化することがあります。血圧の管理や適切な水分管理が重要です。腎機能が低下すると、妊娠高血圧症候群妊娠糖尿病といった合併症を引き起こす可能性があるため、継続的な腎機能のチェックと薬物療法が求められます。

自己免疫疾患

自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)の管理は、妊娠中も継続的に行います。治療には免疫抑制剤が使われることが多く、妊娠中に使用可能な薬剤を選択します。また、病状の悪化を防ぐために定期的な検査と専門医のフォローが重要です。

妊娠中の持病治療は、母体と胎児の安全を最優先に考慮し、医師との連携を密にしながら進めていくことが求められます。それぞれの病状に応じた治療法を選択し、生活習慣を改善することで、健康的な妊娠期間を支援できます。

4. 妊婦の薬物治療のリスクと管理方法

妊婦の薬物治療では、薬剤が胎児に与える影響を考慮することが重要です。特定の薬剤は胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中に使用する薬の選択は慎重に行う必要があります。例えば、血圧の薬や糖尿病薬、抗生物質などには、安全に使用できる薬と避けるべき薬があります。医師との相談を重ね、必要最低限の薬剤を使用することが大切です。

薬 コップ

5. 妊娠中の治療方針を決定するための医師との連携

妊娠中に持病を抱える場合、母体と胎児の両方に影響を及ぼす可能性があるため、定期的に医師と連携しながら治療を進めることが欠かせません。妊娠中はホルモンの変化や体重増加などで症状が変動しやすく、妊娠前と同じ治療を続けることが必ずしも安全とは限りません。そのため、持病の状態や妊娠週数、母体の体調に応じて、薬の種類や投与量、治療方法を柔軟に調整していく必要があります。

また、妊婦自身も「いつもと違う症状」「急な体調の変化」を感じた際には、我慢せず早めに医師へ相談することが大切です。血圧の上昇、血糖値の変動、動悸や息切れ、むくみの悪化などは、母子の安全に関わるサインである可能性があります。定期健診の場だけでなく、日常的に体調を記録して医師と共有することで、より的確な治療方針が立てやすくなります。

さらに、必要に応じて産婦人科医と内科・循環器科・内分泌科などの専門医が連携して診療にあたることもあります。複数の診療科が連携することで、母体の持病管理と妊娠管理の両立が可能になります。

このように、妊婦本人の積極的な情報提供と医師の判断を組み合わせながら治療方針を決定していくことが、安心して出産を迎えるための鍵となります。

6. 持病の予防と管理のためのライフスタイルの改善

持病を悪化させないためには、ライフスタイルの改善が欠かせません。食事の見直しや運動習慣の導入、ストレス管理など、日常生活の中でできる予防策を取り入れましょう。特に、妊娠中は適切な体重管理が重要で、過度な体重増加を防ぐことが持病の悪化を防ぐために有効です。

7. まとめ

妊娠中に持病が悪化することは、母体や胎児にとって深刻なリスクを伴います。しかし、適切な治療と予防策を講じることで、母子ともに健康を保ちながら、安心して妊娠生活を送ることができます。妊婦自身の健康管理と、医師との密な連携が重要です。妊娠中は、持病の管理をしっかりと行い、安心して出産に臨むための準備を整えましょう。

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