妊婦が気をつけたい歯の健康と予防法

歯磨き 女性

この記事のまとめ

妊娠中は歯茎が腫れやすくなる「妊娠性歯肉炎」が起こりやすく、放置すると歯周病や虫歯のリスクも高まります。歯科治療の多くは安定期(妊娠5〜8か月ごろ)であれば通常どおり受けられ、レントゲンや麻酔についても過度に怖がる必要はありません。多くの自治体では妊婦歯科健診を母子健康手帳と一緒に無料で受けられます。気になる症状があるときは自己判断で我慢せず、早めにかかりつけの歯科医院・産婦人科へ相談してください。

この記事でわかること

  • 妊娠中に歯茎が腫れやすくなる理由(妊娠性歯肉炎のメカニズム)
  • 歯周病を放置した場合に指摘されているリスク
  • 歯科治療はいつ受けられるか、安定期・レントゲン・麻酔の考え方
  • 母子健康手帳を使った妊婦歯科健診の受け方
  • 毎日のセルフケアとつわり中の歯磨きの工夫

妊娠中に歯茎が腫れやすくなる理由|妊娠性歯肉炎とは

妊娠中はホルモンの変化により歯茎の血流が増え、腫れや出血が起こりやすくなります。この状態は「妊娠性歯肉炎」と呼ばれ、妊娠中期から後期にかけてよく見られる症状です。まずは、なぜ歯茎が敏感になるのか、その仕組みから見ていきます。

ホルモンの変化と妊娠性歯肉炎のメカニズム

妊娠中に増える女性ホルモンのプロゲステロンやエストロゲンは、歯茎の血管を広げ、血流を増やす働きを持ちます。その結果、歯茎がふだんより腫れぼったくなり、歯磨きのときに出血しやすい状態になるのです。

私自身、妊婦さんの相談を受けるなかで「急に歯茎から血が出るようになった」という声を何度も聞いてきました。多くの場合は妊娠中に一時的に起こる変化で、出産後にホルモンバランスが落ち着けば自然と軽快していきます。Xでも@kakkun73411さんが、妊娠後期に受けた歯科の定期検診で「この時期歯茎腫れる妊婦さんが多いらしいけど大丈夫」と歯科医師から説明を受けたと投稿していました。実際に、この時期特有の変化だとわかっているだけでも、気持ちは軽くなるはずです。

ただし、腫れや出血を「妊娠中はみんな起こることだから」と放置するのはおすすめできません。歯茎の炎症が続くと歯周病へ進行し、歯を支える骨にまで影響が及ぶこともあります。腫れや出血が気になったら、早めに歯科医院で相談してください。

女性ホルモンの増加 プロゲステロン・エストロゲン 歯茎の血流が増加 血管が広がる 妊娠性歯肉炎 腫れ・出血しやすい 出産後、ホルモンが落ち着くと軽快することが多い変化です
妊娠性歯肉炎が起こる仕組み(ホルモン変化から歯茎の炎症まで)

歯周病を放置するとどうなるか|早産・低体重児との関連

日本臨床歯周病学会によると、歯周病にかかっている妊婦は早産や低体重児出産の危険率がおよそ7倍にのぼるとされています。喫煙や高齢出産などの他の要因よりも高い数値だと報告されています。口の中の歯周病菌や炎症物質が血流にのって胎盤へ及ぶ経路が指摘されているためです。

数字だけを見ると不安になるかもしれませんが、歯周病は治療・予防ができる病気です。毎日のケアと定期的な歯科受診を続ければ、対処できる範囲がほとんど。過度に怖がりすぎず、気になる症状は早めに相談する姿勢を大切にしてください。

歯科治療はいつ受けられる?安定期を中心にした時期の考え方

歯科治療の多くは、体調が安定しやすい妊娠5〜8か月ごろの「安定期」に受けるのが一般的です。妊娠初期・安定期・後期で、歯科医院が配慮するポイントは変わってきます。時期ごとの目安を整理しました。

時期週数・月数の目安歯科治療の考え方
妊娠初期〜15週ごろつわりの影響もあり、応急処置を中心に。積極的な治療は安定期以降に回すことが多い
安定期16週〜27週(5〜8か月)ごろ体調が落ち着き、レントゲンや麻酔を含めた通常の治療が受けやすい時期
妊娠後期28週以降お腹が大きく長時間の仰向けが負担になりやすいため、短時間の治療にとどめることが多い
妊娠時期別の歯科治療の目安(施設や体調により前後します)

この目安はあくまで一般的な考え方です。つわりの重さやお腹の張りやすさには個人差があるため、実際の治療計画は歯科医師と相談しながら決めてください。受診時には、必ず妊娠していることと現在の週数を伝えましょう。

妊婦の歯科治療に対応する歯医者の診察室

レントゲン撮影は赤ちゃんに影響しますか?

日本放射線技術学会によると、胎児の被ばく線量が100mGyを超えない限り、被ばくを理由に医学的な中絶が正当化されることはありません。通常の医療用X線検査で、この数値を超えることは極めてまれです。歯科用レントゲン1回あたりの被ばく線量は、この基準を大きく下回るごくわずかな量にとどまります。

撮影の際は、お腹に防護用のエプロンを着けるなど配慮した対応が一般的です。それでも不安が残るときは、遠慮せず歯科医師にその場で確認してください。

麻酔は使ってもいいのでしょうか

「妊娠中は麻酔もレントゲンも一切できない」と思い込んでいる方は少なくありません。Xでも@chack329さんが「妊娠中は麻酔もレントゲンもできないし我慢していた」と振り返る投稿をしていました。私も同じような誤解で治療を先延ばしにしてしまった妊婦さんに何人も出会っています。

実際には、安定期であれば局所麻酔を使った治療も通常どおり受けられるケースがほとんどです。歯科で使う局所麻酔は使用量も少なく、日本歯科医師会も歯科麻酔の基本情報を公開しています。使う麻酔薬の種類や量は体調や持病によって歯科医師が判断しますので、我慢せず妊娠していることを伝えてください。

痛みを我慢したまま治療を先延ばしにすると、かえってストレスや炎症が長引くこともあります。安定期に入ったら、気になる歯の治療をまとめて相談してみるのも一つの方法です。妊娠中の安定期の目安については妊娠の安定期はいつから?開始週数と判断基準でも詳しく解説しています。

妊婦歯科健診の受け方|母子健康手帳を使った無料健診

多くの自治体では、母子健康手帳と一緒に受け取る受診券を使って「妊婦歯科健診」を無料で受けられます。通常の歯科受診とは別の、口腔内の変化を早期に見つけるための健診です。こども家庭庁の母子保健施策でも、妊娠に伴う口腔環境の変化やう蝕・歯周疾患の早期発見・保健指導を目的とした事業として位置づけられています。

いつ・どこで受けられるか

多くの市区町村では、体調が安定しやすい妊娠中期(12週〜27週ごろ)での受診をすすめています。実施時期や協力歯科医院、対象条件は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の案内や母子健康手帳に綴じ込まれた受診券を確認してください。

受診券は母子健康手帳の交付時に一緒に渡されることが一般的です。母子健康手帳をいつまで使うのか、交付の流れが気になる方は母子手帳はいつまで?取得の期限と使う年齢を医師が解説もあわせてご覧ください。

健診で診てもらえること

妊婦歯科健診では、歯科医師が視診で虫歯の有無、歯石の付着、歯茎の炎症などを確認し、健診後に歯磨きの仕方や食生活についての保健指導を受けられます。自治体によってはレントゲン検査を行わない健診もあります。

健診で虫歯や歯周病の疑いを指摘された場合は、あらためて通常の歯科医院で詳しい検査と治療を受ける流れになります。健診はあくまで早期発見の入り口。気になる指摘があったら先延ばしにせず、早めに予約を取ってください。妊婦健診全体のスケジュールを確認したい方は妊婦健診のスケジュールって?内容や費用を徹底解説も参考になります。

毎日できるセルフケアと注意したい生活習慣

歯科受診とあわせて、毎日の歯磨きとデンタルフロス、つわり中の口腔ケアを続けることが、妊娠中の歯を守る土台になります。ここでは日常でできる工夫を紹介します。

歯磨き・デンタルフロス・マウスウォッシュの選び方

歯磨きは朝晩1日2回を目安に、歯と歯茎の境目をやさしくブラッシングしてください。歯茎が敏感な時期は、強く磨きすぎるとかえって出血の原因になります。歯ブラシだけで落としきれない汚れには、デンタルフロスをあわせて使うと効果的です。

マウスウォッシュを使う場合は、刺激の強いアルコール入りではなく、ノンアルコールタイプを選んでください。口の中をすっきりさせたいだけなら、水でのすすぎだけでも十分な場合があります。

つわりで胃酸が上がってきたときの歯磨きタイミング

嘔吐で胃酸が口の中に残ると、歯の表面のエナメル質が一時的にやわらかくなります。この状態ですぐに歯を磨くと、エナメル質を傷つけることがあるため注意してください。

嘔吐した直後は、まず水で口をすすいで酸を洗い流しましょう。歯磨きは30分ほど時間を置いてから行うと、エナメル質への負担を抑えられます。歯磨き自体がつらいときは、無糖のガムを噛んで唾液の分泌を促す方法もあります。

虫歯の進行が早く感じるときの水分補給と栄養

妊娠中は夜間の頻尿で目が覚めるたびに水分補給をする方も多く、口の中が乾きやすくなりがちです。唾液には口内の細菌や酸を洗い流す働きがあるため、乾燥が続くと虫歯が進みやすく感じることがあります。

Xでも@nx_kcbさんが「夜頻尿で目が覚めるたびに水分補給をしているのに口の中がカラカラで、妊娠中の虫歯の進行速度がまじでやばい」とつづっていました。似たような感覚を持つ妊婦さんは意外と多いものです。こまめなうがいや、糖分の少ない飲み物への切り替えが、乾燥対策の一つになります。

あわせて、カルシウムやビタミンD、ビタミンCを意識した食事も歯茎の健康を支えます。甘いものや酸性の強い飲み物を摂ったあとは、30分ほど時間を置いてから歯を磨く習慣をつけてください。

歯周病は妊娠高血圧症候群など全身の状態とも関連が指摘されています。詳しくは妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群の違いについてで解説していますので、あわせてご確認ください。虫歯やエプーリスなど歯のトラブル全般について幅広く知りたい方は妊娠中の歯のトラブル予防と治療の注意点も参考になります。

まとめ

妊娠中の歯・歯科ケアについてお伝えしました。歯茎の腫れや出血は妊娠性歯肉炎としてよく見られる変化ですが、放置すると歯周病に進行することがあります。

治療の多くは安定期であれば通常どおり受けられ、レントゲンや麻酔についても過度に構える必要はありません。妊婦歯科健診や日々のセルフケアを組み合わせながら、気になる症状は我慢せず歯科医師に相談してください。

よくある質問

Q. 妊娠中に歯茎が腫れるのはなぜですか?

妊娠中に増えるプロゲステロンやエストロゲンといったホルモンが歯茎の血流を増やし、腫れや出血が起こりやすくなるためです。この状態は妊娠性歯肉炎と呼ばれ、妊娠中期から後期にかけてよく見られます。多くは出産後にホルモンバランスが落ち着くと軽快しますが、放置すると歯周病に進行することがあるため、気になる症状は早めに歯科医院で相談してください。

Q. 歯科治療はいつから受けられますか?

体調が落ち着きやすい安定期(妊娠5〜8か月ごろ)であれば、レントゲンや麻酔を含めた通常の治療を受けやすいとされています。妊娠初期は応急処置にとどめ、妊娠後期は長時間の仰向けを避けるなど配慮されることが一般的です。実際の治療計画は体調によって変わるため、受診時に妊娠週数を伝えたうえで歯科医師と相談してください。

Q. 妊娠中にレントゲンを撮っても赤ちゃんに影響はありませんか?

日本放射線技術学会によると、胎児の被ばく線量が100mGyを超えない限り医学的な問題は生じないとされ、通常の医療用X線検査でこの数値を超えることは極めてまれです。歯科用レントゲンの被ばく線量はこの基準を大きく下回るごくわずかな量にとどまります。撮影時は防護エプロンを着けるなどの配慮も一般的なので、不安なときは歯科医師にその場で確認してください。

Q. 妊娠中の麻酔は赤ちゃんに影響しませんか?

安定期であれば、局所麻酔を使った治療も通常どおり受けられるケースがほとんどです。歯科で使う局所麻酔は使用量も少なく、麻酔薬の種類や量は体調や持病を踏まえて歯科医師が判断します。「妊娠中は麻酔が一切できない」というのは誤解であることが多いため、我慢せず妊娠していることを伝えて相談してください。

Q. 妊婦歯科健診はいつ・どこで受けられますか?

多くの市区町村では、母子健康手帳と一緒に渡される受診券を使って、妊娠中期を中心に妊婦歯科健診を無料で受けられます。実施時期や協力歯科医院、対象条件は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の案内や母子健康手帳に綴じ込まれた受診券で詳細を確認してください。

Q. つわりで歯磨きがつらいときはどうすればいいですか?

においや刺激に敏感になっている場合は、香りの少ない歯磨き粉に変える、歯ブラシのヘッドが小さいものを選ぶといった工夫が役立ちます。嘔吐した直後はまず水で口をすすぎ、30分ほど時間を置いてから歯磨きをするとエナメル質への負担を抑えられます。歯磨き自体が難しい日は、無糖のガムを噛んで唾液の分泌を促す方法も試してみてください。

著者・監修

岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。

医師監修 監修日:2025年9月5日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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