妊娠中、お腹の赤ちゃんの健やかな成長を願って、葉酸や鉄分、カルシウムなど、様々なサプリメントや食事に気を遣っているプレママさんは多いことでしょう。 しかし、「たったある1つの栄養素が足りないだけで、赤ちゃんの脳の発達が止まってしまう」という事実をご存知でしょうか?
実は現代の日本において、意外と見落とされている「赤ちゃんにとって不可欠な栄養素」が存在します。もしその栄養素が、あなたの嫌いな食べ物に含まれていたら……そう思うと少しゾッとしませんか?
本コラムでは、赤ちゃんの知能発達に直結する重要な栄養素「ヨウ素」と、それが不足することで引き起こされる恐ろしい疾患「クレチン症」、そして忙しい妊婦さんでも手軽にヨウ素を補給できる「超簡単ズボラ飯レシピ」について詳しく解説していきます。
私たちが生きていく上で欠かせない様々なホルモン。その中でも、赤ちゃんの脳(知能)や身体の成長において極めて重要な役割を果たしているのが「甲状腺ホルモン」です。
特に、お母さんのお腹の中にいる胎児期において、甲状腺ホルモンは赤ちゃんの脳の神経細胞を形成し、知能を発達させるための「絶対的な必須アイテム」となります。 この甲状腺ホルモンを体内で作り出すための「唯一の原材料」となるのが、今回取り上げる「ヨウ素(ヨード)」という栄養素なのです。
もし、妊娠中にお母さんの体内でヨウ素が決定的に不足し、赤ちゃんに十分な甲状腺ホルモンが行き渡らなかった場合、どうなってしまうのでしょうか。
赤ちゃんは「クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)」という病気を持って生まれてくるリスクが高まります。 クレチン症とは、生まれつき甲状腺の形に異常があったり、甲状腺ホルモンを作り出す力が極端に弱かったりする疾患です。
この病気の恐ろしいところは、適切な処置(早期発見・早期治療)を行わないと、重度の知的障害や、身長が伸びない(低身長)といった深刻な後遺症が一生涯残ってしまうという点です。かつては「不治の病」として恐れられ、原因が分からずに悲しい思いをする家族が少なくありませんでした。
「そんな恐ろしい病気があるなんて知らなかった…どうすればいいの?」と不安になったお母さん、どうか深呼吸して安心してください。 日本という国は、赤ちゃんを守るための医療システムが世界トップクラスに整備されている「本当に素晴らしい国」なのです。
かつては不治の病とされたクレチン症も、現代の日本では「ほぼ問題ない(後遺症を残さずに健康に育てられる)疾患」となっています。それを可能にしているのが、「新生児マススクリーニング検査」というシステムです。
日本で生まれたすべての赤ちゃんは、生後4日から5日頃(産院を退院する前)に、必ずこのマススクリーニング検査を受けます。 赤ちゃんの小さな足の裏(カカト)にチクッと小さな針を刺し、ごく微量の血液を採取して調べる検査です。この検査費用は原則として全額「公費負担(無料)」で行われています。
この検査項目の中に、クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)がしっかりと含まれています。 もし検査で陽性(クレチン症の疑い)が出た場合、すぐに精密検査が行われます。そしてクレチン症であることが確定した場合、生後すぐに「足りない甲状腺ホルモンを薬(チラージンなど)で補充する」という治療を開始します。
この「ホルモン補充」を早期に行うことで、赤ちゃんの脳には十分なホルモンが行き渡り、他の健康な子供たちと全く同じように、正常な知能と身体の発達を遂げることができるのです。
「なんだ、生まれてから薬を飲めば治るなら安心だね」 そう思った方もいるかもしれません。しかし、ここには一つ大きな試練があります。それは、クレチン症の治療薬(甲状腺ホルモン薬)は、「原則として一生涯、毎日飲み続けなければならない」ということです。
小さな赤ちゃんのうちから、そして成長して大人になってからも、毎日欠かさず薬を管理して飲み続けることは、本人にとっても家族にとっても大きな負担となります。 だからこそ、「生まれてからの治療」に頼る前に、「妊娠中の食生活でヨウ素をしっかり摂り、予防できるものは予防する」ことが何よりも重要なのです。
では、赤ちゃんの脳を守り、クレチン症を予防するための原材料である「ヨウ素」は、一体どんな食べ物に含まれているのでしょうか。
ヨウ素の正体は、ズバリ「海のもの(海産物)」です。
周囲を海に囲まれた日本において、これらは古くから「和食」の基本として食べられてきた食材ばかりです。 昔の日本人は、朝食に焼き海苔を食べ、毎日の味噌汁は「昆布や鰹節から取った天然の出汁」で作られていました。そのため、日常生活を送っているだけで自然に十分な量のヨウ素を摂取できており、ヨウ素不足に陥ることはほとんどありませんでした。
しかし、現代はどうでしょうか。 食の欧米化が進み、朝食は「食パン1枚とコーヒー」で済ませる人が増えました。また、共働きで忙しい家庭では、昆布から時間をかけて出汁を取る機会は減り、手軽な「顆粒ダシ(化学調味料ベースのもの)」を使うのが一般的になっています。
「出汁文化の国なのに、ヨウ素不足の妊婦さんが増えている」 意識して海のものを食べない限り、現代の食生活ではいとも簡単にヨウ素不足に陥ってしまうのです。
朝食で「焼き海苔とアサリの味噌汁」を飲んでいれば十分なヨウ素が摂取できます。しかし、それができずに食パンだけで済ませる日々が続くと、その食生活の積み重ねが、知らず知らずのうちにお腹の赤ちゃんの脳の発達に悪い影響を与えてしまうかもしれないのです。

「朝からしっかりお魚を焼いて、昆布で出汁を取るなんて、つわりもあるし仕事も忙しくて現実的にムリ!」 「ちゃんと和食を作れていない私って、ダメな母親なのかな…」
そんな風に自分を責めてしまうお母さん、ストップです!「安心してください。みんなそうなんです。自信を持って完璧な食生活を送っている妊婦さんなんて、現代にはほとんどいません」
そこで、忙しい妊婦さんでも罪悪感なく、超簡単にヨウ素を美味しく摂取できる、「ヨウ素たっぷりズボラ飯」を4つご紹介します。今日からすぐに試せるものばかりですよ!
パン派のあなたに朗報です!食パンにバターを塗り、その上に「ごはんですよ」などの海苔の佃煮(瓶詰めのもの)を軽く塗り、最後にスライスチーズを乗せてトースターで焼くだけ。 「パンに海苔の佃煮!?」と驚くかもしれませんが、これが甘じょっぱくて意外なほどクセになる美味しさなのです。海苔にはヨウ素がたっぷり含まれており、クレチン症対策はバッチリです。 (※注意:美味しいからといって海苔の佃煮を分厚く塗りすぎると、塩分の摂りすぎになってしまうので「薄塗り」を心がけましょう)
冷凍うどんを電子レンジで解凍し、そこに「塩」「オリーブオイル」「チューブのにんにく」を適量混ぜ合わせます。最後に「あおさのり(乾燥)」をたっぷりとかけるだけ。 パスタを茹でる手間すら省いた究極のズボラ飯ですが、あおさのりの磯の香りととろみが加わることで、味の満足度が非常に高い一品になります。
「コーンポタージュスープ」と「ワカメ」。一見すると絶対に交わらないこの二つですが、実は相性抜群だそうです。 作り方は、市販の粉末コーンスープをお湯で溶かし、そこに「乾燥ワカメ」をパラパラとひとつまみ入れるだけ。 ワカメのコリコリとした食感が良いアクセントになり、クルトンの代わりとして十分に楽しめます。「海の香りとコーンの甘さがちょっと合わないかも…」と感じる方は、粗挽きの黒こしょうを強めに振ると味が引き締まって食べやすくなります。
耐熱容器に「卵」「しらす」「あおさの粉」「白だし(少量)」を入れてよく混ぜ合わせます。そのままラップをせずに電子レンジ(600Wで1分〜1分半程度、お好みで調整)でチンするだけ。 火もフライパンも使わずに、タンパク質とヨウ素(しらす・あおさ)が同時に摂れる、朝の忙しい時間に最強の一品です。
ここまで「ヨウ素を摂りましょう」と強調してきましたが、最後に産婦人科医として非常に重要な注意点をお伝えしなければなりません。
「ヨウ素は、とにかく大量に食べれば良いというものではありません」
実はヨウ素は非常に繊細な栄養素であり、「不足」しても赤ちゃんの脳の発達を止めてしまいますが、逆に「過剰摂取(摂りすぎ)」しても、赤ちゃんの甲状腺機能に悪影響を及ぼし、甲状腺腫などを引き起こす危険性があるのです。
日本の厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」においても、妊婦のヨウ素の推奨量は設定されていますが、同時に「耐容上限量(これ以上は摂ってはいけないという上限)」も厳密に定められています。
そのため、ヨウ素を「サプリメント」でドバッと集中的に摂取しようとするのは非常に危険です。昆布エキスの入ったサプリメントなどを自己判断で大量に飲むことは絶対に避けてください。 (※ちなみに、日本の妊婦用マルチビタミンサプリの多くは、過剰摂取を防ぐためにあえてヨウ素を配合していないか、ごく微量に抑えられています)。
大切なのは、サプリメントに頼るのではなく、「毎日の食事(和食)の中で、適量の海産物を意識して摂る」ことです。 「今日はのりトーストを食べたから大丈夫」「お味噌汁に少しワカメを入れた」といった、日常の中のちょっとした意識の積み重ねが、一番安全で確実なクレチン症予防に繋がります。
本日は、赤ちゃんの脳の発達を支える「ヨウ素」とクレチン症、そして毎日の食卓でできる予防法についてお話ししました。
ひろし先生ご自身も「海藻が大好き」だそうで、毎日の食事に海苔や昆布、海苔入りのふりかけがないと落ち着かないほどだとか。「海苔のパリパリに炙った美味しさの中に、こんなに大切な栄養素が詰まっているんですよ」と笑顔で語っています。
妊娠中の食事制限や体重管理、つわりの苦しみなど、プレママの毎日は本当に過酷です。 「あれもダメ、これもダメ」と言われる中で、今回の「ヨウ素」の話を聞いてプレッシャーに感じてしまった方もいるかもしれません。
しかし、「ズボラ飯」の数々は、そんなプレッシャーを笑い飛ばしてくれるような手軽でユニークなものばかりです。 「完璧な和食を作らなきゃ」と肩肘を張る必要はありません。食パンに海苔の佃煮を塗るだけで、あなたは立派に「赤ちゃんの脳を守るための行動」を実践しているのです。
現代の医療(新生児マススクリーニング)が万が一の時に赤ちゃんを救ってくれるという絶対的な安心感を胸に抱きつつ。 ぜひ明日の朝から、磯の香り漂う「ズボラ飯」を取り入れて、お腹の赤ちゃんの健やかな脳の発達と、未来の笑顔をサポートしてあげてくださいね。
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