妊娠中の甲状腺ホルモンは、赤ちゃんの脳の発達に欠かせません。その材料になるのがヨウ素です。ただし日本の妊婦さんの多くにとって注意すべきは「不足」よりも「摂りすぎ」だと、厚生労働省の食事摂取基準は位置づけています。
💡 この記事でわかること
甲状腺ホルモンは胎児の脳の神経細胞を作る材料であり、その原料となるのがヨウ素です。妊娠中に極端な不足や過剰が続くと、赤ちゃんの発達に影響が及ぶ可能性があります。
甲状腺は喉の前面にある小さな臓器で、ヨウ素を原料に甲状腺ホルモンを作ります。このホルモンは胎児期から乳幼児期にかけて、脳の神経細胞の形成や身体の成長に関わる働きを担います。
お母さんの体内でヨウ素が極端に不足すると、赤ちゃんに届く甲状腺ホルモンも不足しがちになります。逆に大量に摂り続けると、赤ちゃんの甲状腺の働きが一時的に抑えられることがあります。過不足どちらも避けたい理由がここにあります。
先天性甲状腺機能低下症は、生まれつき甲状腺の働きが弱く、甲状腺ホルモンが十分に作られない疾患です。日本内分泌学会は、甲状腺ホルモンが子どもの脳や体の発達・成熟に重要な役割を持つと説明しています。
この疾患は新生児全員を対象にしたマススクリーニング検査の対象に含まれており、次章で仕組みを詳しく説明します。

世界的にはヨウ素不足が課題になる地域が多い一方、海藻や昆布だしを日常的に摂る日本の食生活では、妊婦さんに起こりやすいのはむしろ摂りすぎです。厚生労働省の食事摂取基準も、この点を踏まえた設計になっています。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、ヨウ素の推奨量と耐容上限量(摂ってよい量の上限)を次のように定めています。
| 区分 | 推奨量(目安) | 耐容上限量 |
|---|---|---|
| 非妊娠時(18〜29歳女性) | 140µg/日 | 3,000µg/日 |
| 妊娠中(付加量+110µg) | 250µg/日 | 2,000µg/日 |
| 授乳中(付加量+140µg) | 280µg/日 | 2,000µg/日 |
推奨量は妊娠中の方が多いのに、耐容上限量は非妊娠時より低いという逆転現象。厚生労働省の策定資料は、この理由を「妊娠中はヨウ素過剰への感受性が高いと考えられるため、非妊娠時よりも過剰摂取に注意する必要がある」と説明しています。
日本甲状腺学会が公表した全国調査(児童約3万人・162校対象)では、尿中ヨウ素濃度の中央値が269µg/Lで、WHOが適正とする範囲(100〜299µg/L)に収まっていました。ただし調査した46地域のうち12地域では過剰の目安となる300µg/L以上を示し、1地域は1,000µg/Lを超えていたと報告されています。
日本人の食事からのヨウ素摂取量はおおむね200〜500µg/日と推定されており、これは推奨量140µg/日を上回る水準です。ヒロクリニックの外来でも「昆布は体にいいと思って毎日だしをとっています」という妊婦さんの声をよく耳にします。
その心がけ自体は自然なことです。ただし「昆布だし・海苔・ひじき・わかめ」を毎食のように重ねて摂ると、耐容上限量に近づきやすくなります。一方で、厚生労働省の資料は海藻類をほとんど摂らない人のヨウ素不足についても今後把握すべき課題として挙げています。極端な偏りを避け、適量を意識することが両方のリスクを遠ざける近道です。特定の食品を「毎日必ず」「絶対に避ける」と決めつけず、1週間単位でバランスを見る感覚のほうが、日々の食事作りは続けやすくなります。
日本ではすべての新生児が生後4〜5日ごろにマススクリーニング検査を受け、先天性甲状腺機能低下症もその対象に含まれています。この体制があるため、生まれてから治療を始めても発達を支える道が用意されています。
検査方法は、赤ちゃんのかかとからの少量採血。費用は原則として公費でまかなわれます。一般社団法人日本マススクリーニング学会は、日本小児内分泌学会と共同でこの検査のガイドラインを整備・改訂しています。
検査で陽性が確認された場合は、精密検査を経て診断が確定し、速やかに甲状腺ホルモンを補う薬による治療が始まります。治療の開始が早いほど、脳の発達を支えやすくなるという考え方が新生児医療の基本方針です。産院や小児科と連携しながら、生後まもない時期から専門的なフォローが受けられる体制になっています。
治療薬は、多くの場合で長期にわたる服用が必要。だからこそ、妊娠中の食事でヨウ素の過不足を防ぐことは、生まれてからの負担を減らす備えの一つになります。
サプリメントに頼らず、海藻や魚介類を「ときどき・適量」で摂るのが、日本の食生活に合った現実的な方法です。日々の食事内容を振り返るところから始めてみてください。
味噌汁のわかめ、朝食の焼き海苔、煮物のひじきといった一般的な量であれば、日常の範囲内に収まることがほとんどです。心配なのは、これらを毎食のように重ねたり、昆布だしを何杯も飲んだりする摂り方です。
食品ごとのヨウ素の量には差があります。だしの土台になる昆布は特に多く含む食品で、海苔・ひじき・わかめといった海藻類がそれに続き、魚介類は海藻ほど極端ではありません。目安として、次のような頻度感で考えてみてください。
| 食品 | ヨウ素量の傾向 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 昆布(だし・佃煮・とろろ昆布など) | 特に多い | 毎食ではなく、1日1回程度を目安に |
| 海苔・ひじき・わかめ | 多い | 普段の食事に取り入れる程度でよい |
| タラ・サバなどの魚介類 | やや多い | 他のおかずと組み合わせて適量を |
実際に食事内容を伺うと、海苔の佃煮や乾燥わかめを常備菜のように使っている方は多く、それ自体は問題ではありません。量と頻度が偏っていないかを、一度チェックしてみましょう。
昆布エキスなどヨウ素を含むサプリメントを自己判断で追加するのは避けてください。多くの妊婦用マルチビタミンは、過剰摂取を防ぐためにヨウ素を含まないか、ごく少量に抑えて設計されています。
基本は毎日の食事からの摂取です。「今日は焼き海苔を食べたから、明日の味噌汁は昆布だし以外にする」といった調整で十分にバランスが取れます。
バセドウ病や橋本病などすでに甲状腺の病気の診断がある方は、ヨウ素の摂取量よりも既往症の管理が優先されます。自己判断で食事を大きく変える前に、主治医に相談してください。
強い倦怠感や動悸、体重の急な変化など、単なる妊娠に伴う変化と区別がつきにくい症状が続く場合も、自己判断で様子を見続けず早めの受診が安心につながります。
妊婦健診や採血の結果で甲状腺の数値に触れられたときは、まず何を聞けばよいのか迷う方も多いはずです。次の3点を医師に確認すると、その後の見通しが立てやすくなります。
この3点さえ押さえておけば、次の健診までの過ごし方に迷いにくくなります。数値の細かい解釈は個人差が大きいため、インターネット上の情報だけで判断せず、担当医の説明を優先してください。
本記事は、甲状腺の病気がない妊婦さんを対象にした食事面での基本的な考え方を扱っています。橋本病・バセドウ病といった甲状腺疾患そのものの種類や症状については「妊娠と甲状腺疾患」で、TSH・FT4検査を受けるタイミングや妊娠初期に検査が重視される理由については「妊娠12週までの対策!子どもの知能(IQ)を守るために必ずやるべき甲状腺検査」で、それぞれ詳しく解説しています。
出生前の疾患予防やNIPT(新型出生前診断)で分かることの全体像を知りたい方は、「先天性異常は防ぐことができるのか」も参考になります。妊娠中に注意したい他の栄養・嗜好品については「妊娠中に控えるべきカフェイン摂取量」でも、摂取量の目安という同じ視点でまとめています。先天性疾患そのものの基礎知識は「先天性疾患とは」で解説しています。
妊娠中のヨウ素について、外来でよく聞かれる疑問をまとめました。
大量に摂り続けると、赤ちゃんの甲状腺の働きが一時的に抑えられ、甲状腺腫や甲状腺機能低下につながることがあります。厚生労働省の食事摂取基準では、妊娠中の耐容上限量は1日2,000µgと、非妊娠時の3,000µgより低く設定されています。
可能性はあります。厚生労働省の資料でも、海藻類の摂取が少ない人がどの程度ヨウ素不足に陥っているかは、今後把握すべき課題として挙げられています。ただし日本人全体で見ると、摂取量はむしろ多い傾向にあります。
毎日の味噌汁や煮物に使う程度であれば、昆布や海苔を毎食のように重ねて摂るのと比べて摂取量は限られます。心配な場合は、昆布だしを何杯も飲む、昆布の佃煮や海藻サラダを頻繁に食べるなど、摂り方が重なっていないかを振り返ってみてください。
日本内分泌学会によると、甲状腺ホルモンは子どもの脳や体の発達・成熟に重要な役割を持ち、新生児マススクリーニングで生まれた赤ちゃん全員が検査を受けます。陽性が確認された場合は、速やかにホルモン補充治療を始める体制が整っています。
妊娠中は非妊娠時よりヨウ素過剰への感受性が高いと考えられているためです。厚生労働省の食事摂取基準でも、妊婦の耐容上限量は非妊娠時より低い1日2,000µgに設定されています。サプリメントでの上乗せは避け、食事からの摂取を基本にしてください。
バセドウ病や橋本病などですでに診断がある方は、ヨウ素摂取量よりも主治医による経過観察や薬の調整が優先されます。詳しくは「妊娠と甲状腺疾患」のコラムもあわせてご覧ください。
無理に食べようとする必要はありません。つわりの時期は食べられるものを優先し、ヨウ素は体調が落ち着いてから少しずつ取り戻せば十分です。何日も食事が摂れない、体重が大きく減るといった状態が続く場合は、ヨウ素より先に脱水や栄養状態の確認が必要になるため、産婦人科に相談してください。
甲状腺ホルモンとヨウ素の関係は、不安をあおるための話ではありません。日本の食生活では摂りすぎのほうが起こりやすいという事実を知り、毎日の食事の中で量と頻度を意識する。それだけで、過不足どちらのリスクも遠ざけられます。
気になる症状や検査について相談したい場合は、LINEでの無料相談やNIPTの予約窓口もご利用いただけます。
参考情報:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書/日本甲状腺学会 会誌抄録(全国調査によるヨウ素摂取量の現状)/日本内分泌学会「先天性甲状腺機能低下症・亢進症|一般の皆様へ」/日本マススクリーニング学会
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
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