CNGB3関連先天性色覚異常(アクロマトプシア・タイプ3)【CNGB3】

やさしいまとめ

Achromatopsia(アクロマトプシア)は、生まれつき色を感じる細胞がうまく働かず、まぶしさや視力の低下、色がわからないといった症状が現れる目の病気です。

特にCNGB3遺伝子の異常によって起こるタイプ(Achromatopsia 3)が多く、子どもの頃から気づかれることがあります。

このページでは、原因や症状、検査・治療の方法、将来に向けた研究について、専門的な内容をやさしい言葉で解説しています。お子さまの視力や色覚に不安のある方、診断を受けたご家族の方にとって、参考になる情報です。

遺伝子領域 | Implicated Genomic Region

CNGB3

CNGB3

Achromatopsia 3(アクロマトプシア・タイプ3)は、CNGB3(Cyclic Nucleotide Gated Channel Beta 3:環状ヌクレオチド依存性陽イオンチャネルβ3サブユニット)という遺伝子の両方のコピー(常染色体劣性遺伝)に病的な変異があることによって起こる疾患です。この遺伝子は第8染色体のq21.3という場所に存在しています。

CNGB3は、錐体細胞(すいたいさいぼう:cone photoreceptor)と呼ばれる目の光を感じる細胞の働きに重要なタンパク質を作る設計図です。特に、昼間の明るい光や色の情報を電気信号に変える「環状ヌクレオチド依存性チャネル(cyclic nucleotide-gated channel)」を作るために必要不可欠な構成要素のひとつです。

このチャネルは、暗いところでは開いた状態で、ナトリウム(Na⁺)やカルシウム(Ca²⁺)といったイオンが細胞内に入ってきます。光が入ってくると、細胞内の「cGMP(cyclic guanosine monophosphate)」という物質が減り、チャネルが閉じることで、光が来たという合図が脳へ伝わります。CNGB3に異常があると、この光の合図を作る仕組みがうまく働かなくなります。

疾患名 | Disorder

この病気は「Achromatopsia(アクロマトプシア)」と呼ばれ、日本語では「先天性色覚全盲」や「全色盲」と訳されます。特にCNGB3という遺伝子の変異によって起こるタイプは、「Achromatopsia 3(ACHM3)」あるいは「CNGB3関連アクロマトプシア」と呼ばれます。

また、「ロッドモノクロマチズム(Rod Monochromacy、杆体単色視)」とも呼ばれ、色を感じる錐体細胞が働かず、暗いところで使う「杆体細胞(rod photoreceptor)」しか働いていない状態を指します。

地域によっては「Pingelapese blindness(ピンゲラップ島の盲目症)」という別名で呼ばれることもあります。これは、ミクロネシアのピンゲラップ島でCNGB3の特定の変異が多く見られるためです。

概要 | Overview

Achromatopsia 3は、生まれつき錐体細胞が正常に働かないことで起こる目の病気です。昼間の明るい光に対するまぶしさ(羞明:photophobia)、目の揺れ(眼振:nystagmus)、視力の低下(低視力:low visual acuity)、そして色の識別ができない(色覚異常:color blindness)という特徴があります。

ほとんどの患者さんでは、3種類ある錐体細胞(赤・緑・青の光にそれぞれ反応)すべてが機能しておらず、「完全型(complete achromatopsia)」と呼ばれます。ごく一部の患者さんでは、一部の錐体細胞が部分的に働いていて「不完全型(incomplete achromatopsia)」と診断されることがあります。

Achromatopsiaは、一般的な「色弱(色覚異常)」とは異なり、色をまったく感じることができないか、極端に低い能力しか持ちません。

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疫学 | Epidemiology

Achromatopsiaは、世界中でおおよそ3万人から5万人に1人の割合でみられる稀な病気です。

その中でもCNGB3遺伝子に原因があるタイプ(Achromatopsia 3)は、特にヨーロッパ系の人々に多く、全体の約60~70%を占めています。最もよく知られている病的変異は「c.1148delC」と呼ばれ、これひとつで世界のAchromatopsiaの約40%を説明できると言われています。

病因 | Etiology

CNGB3遺伝子が病的な変異を持つと、錐体細胞の中にあるイオンチャネルのβサブユニットが正しく作られず、錐体細胞が光を電気信号に変える働きが失われます。

その結果、昼間の視力、明るい場所での見え方、色の識別が大きく障害されます。この遺伝子異常は、次のようなさまざまな種類の変異として報告されています:

  • ナンセンス変異(タンパク質が途中で止まってしまう)
  • フレームシフト変異(読み枠のずれ)
  • スプライス部位変異(RNAのつなぎ目の異常)
  • ミスセンス変異(アミノ酸が間違って変わる)

多くの場合、両親は健康でも、それぞれがCNGB3遺伝子に1つずつ変異を持つ保因者(キャリア)です。

症状 | Symptoms

Achromatopsia 3の主な症状は以下のとおりです

  • 強いまぶしさ(photophobia):明るい場所で目を開けるのがつらいと感じる
  • 眼振(nystagmus):目が小刻みに揺れる
  • 視力低下(low visual acuity):完全型では0.1未満(20/200以下)、不完全型では0.3程度(20/80)になることも
  • 全色盲(total color blindness):赤・緑・青のいずれの色も区別できない
  • 中心暗点(central scotoma)や偏心固視(eccentric fixation):視野の中心に見えにくい部分ができる
  • 屈折異常(refractive error):遠視(hyperopia)や近視(myopia)、乱視(astigmatism)がみられる

これらの症状は、生後数週間から数ヶ月以内に現れ、視力や症状は基本的に安定していますが、一部の患者さんでは少しずつ進行することもあります。

検査・診断 | Testing & Diagnosis

臨床診察

典型的な症状(光過敏、眼振、視力低下)が見られる乳児において、まずこの疾患を疑います。問診と家族歴の確認も重要です。

色覚検査

  • ファーンスワーステスト(Farnsworth D-15)やアノマロスコープ(anomaloscope)を用いて色の識別能力を測定します。

電気生理検査(ERG:electroretinogram)

  • フルフィールドERG(網膜全体の反応):光に反応する錐体細胞の働きが極端に弱いか、まったく反応しません。
  • 30Hzフリッカー応答:完全型では消失していることが多く、不完全型ではかすかに見られることがあります。

画像検査

  • 光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography):黄斑(視力の中心)にある構造の異常を確認します。たとえば、中心の構造が未発達(中心窩低形成:foveal hypoplasia)であったり、視細胞の内外節が失われていることがあります。
  • 眼底自発蛍光(FAF:Fundus Autofluorescence):網膜の代謝状態やダメージを視覚化します。

遺伝子検査

  • 確定診断には、CNGB3を含む関連遺伝子の変異を調べることが不可欠です。
  • 特定の変異が見つかることで、病気のタイプを正確に分類し、将来の治療や臨床試験への参加にもつながります。
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治療法と管理 | Treatment & Management

現時点での対症療法(症状を和らげる方法)

  • 遮光レンズや色付き眼鏡:赤や茶色のレンズでまぶしさを軽減し、少しでも見やすくします。
  • 拡大鏡や電子機器:視力の弱さを補うために使われます。
  • 教育的支援:教室では前の席を確保し、明るすぎない環境を整えるなどの配慮が必要です。

開発中の治療

  • 遺伝子治療(Gene Therapy):ウイルスベクター(AAV)を用いて、CNGB3遺伝子の正常なコピーを網膜に届ける治療が臨床試験中です。
  • 神経栄養因子(CNTF):動物実験では効果が見られましたが、人での効果は限定的です。
  • レチノイド療法(Retinoid Therapy):特定の変異に対して、細胞内のチャネル機能を改善する可能性が示唆されています。
  • 幹細胞療法(Stem Cell Therapy):網膜に新しい細胞を移植する研究も進められていますが、まだ実験段階です。

予後 | Prognosis

Achromatopsia 3は、伝統的には「進行しない(stationary)」と考えられてきましたが、最近の研究では、一部の患者さんでは加齢とともにゆっくりと視機能が低下したり、網膜の構造に変化が出てくることがわかってきました。

とくに若年期に治療を受ける方が効果が高い可能性があるため、早期診断と定期的な経過観察が非常に大切です。

やさしい言葉の説明|Helpful Terms

遺伝子(Gene)
体の設計図のようなもの。お父さんとお母さんから半分ずつ受けついで、生まれつきの体の特徴や働きを決めます。

常染色体劣性遺伝(Autosomal Recessive Inheritance)
両親がそれぞれ「隠れた変異」を持っていると、子どもにその病気があらわれることがあります。両親は元気でも、子どもにだけ症状が出ることがあります。

CNGB3遺伝子(CNGB3 Gene)
目の中で光を感じる「錐体細胞(すいたいさいぼう)」という細胞がうまく働くために必要な遺伝子です。この遺伝子に問題があると、色がわからなくなったり、明るい光が苦手になります。

アクロマトプシア(Achromatopsia)
生まれつき「色」を感じる細胞が働かない目の病気です。色の区別ができず、まぶしさや視力の低下などの症状があります。

完全型(Complete Achromatopsia)
色を感じる細胞がまったく働かないタイプです。視力がとても低く、色がまったくわからないことが多いです。

不完全型(Incomplete Achromatopsia)
色を感じる細胞の一部が少しだけ働いているタイプです。完全型よりは症状が軽いこともあります。

羞明(Photophobia)
光にとても敏感になってしまい、まぶしくて目を開けるのがつらい状態です。

眼振(Nystagmus)
目が自分の意思とは関係なく小刻みに動く症状です。生まれてすぐに見られることが多いです。

視力低下(Low Visual Acuity)
ものがはっきり見えにくくなること。メガネではあまり改善しないことがあります。

全色盲(Total Color Blindness)
赤・青・緑など、すべての色の違いがわからなくなる状態です。

杆体細胞(Rod Photoreceptor)
暗い場所で見えるように働く目の細胞です。アクロマトプシアの人は、色を見る細胞(錐体細胞)が働かない代わりに、この杆体細胞だけが使われています。

電気生理検査・ERG(Electroretinogram)
目の細胞が光にどう反応するかを調べる検査です。赤ちゃんや子どもでも安全にできます。

OCT(Optical Coherence Tomography)
目の中をCTのように詳しく調べる画像検査です。視力の中心にある部分が正しく育っているかどうかがわかります。

遺伝子検査(Genetic Testing)
血液などからDNAを調べて、病気の原因となる変異があるかを調べます。診断を確定するためにとても大切な検査です。

遺伝子治療(Gene Therapy)
問題のある遺伝子の代わりに、正しく働く遺伝子を目の中に入れる治療法です。まだ研究中ですが、将来の治療として期待されています。

遮光レンズ(Tinted Lenses)
まぶしさをやわらげるために使う色付きのめがねやサングラスです。赤や茶色のレンズが使われることが多いです。

拡大鏡・補助機器(Visual Aids)
小さな文字や物を見やすくするための道具です。タブレットや拡大読書機なども含まれます。

経過観察(Regular Follow-up)
病気が進んでいないかを定期的にチェックすることです。特に治療や学習支援を受けるためにとても重要です。

引用文献|References

キーワード|Keywords

Achromatopsia, CNGB3, アクロマトプシア, Rod Monochromacy, 全色盲, 色覚異常, 錐体細胞, 眼振, 羞明, 視力低下, c.1148delC, 遺伝子治療, ERG, OCT, 網膜ジストロフィー, 遺伝性網膜疾患, 常染色体劣性遺伝, 網膜構造異常, 屈折異常, 幹細胞治療

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