ATP6V1B1関連 遠位型腎性尿細管性アシドーシスと感音性難聴

やさしいまとめ

このページでは、「ATP6V1B1関連の遠位型腎性尿細管性アシドーシスと感音性難聴」という、まれな遺伝性疾患について、やさしく・くわしくご説明しています。
腎臓が体の酸をうまく外に出せなくなることから、体液が酸性に傾き、成長や骨、腎臓に影響が出たり、子どものころから耳が聞こえにくくなったりします。
原因となる遺伝子、症状、診断方法、治療法、将来の見通しまで、患者さんやご家族、医療関係者の方にもわかりやすいようにまとめています。
お子さまの症状が気になる方、診断を受けたばかりの方にも安心して読んでいただける内容です。

遺伝子領域 | Implicated Genomic Region

ATP6V1B

ATP6V1B (ATP6V1B1)

ATP6V1B1(ATPase H+ Transporting V1 Subunit B1) は、ヒト第2染色体短腕の2p13.3領域に位置しています。この遺伝子は、細胞内外の酸性度(pH)を調節するために水素イオン(H⁺)を輸送するポンプである、液胞型H⁺ATPアーゼ(vacuolar-type H⁺-ATPase, V-ATPase)の一部、すなわちV1ドメインB1サブユニットをコードします。

このプロトンポンプは、特に腎臓の集合管にあるタイプA間在細胞と、内耳(ないじ)に存在し、尿の酸性化や内リンパ液のpH維持に重要な役割を担っています。

疾患名 | Disorder

この疾患は正式には

遠位型腎性尿細管性アシドーシス(Distal Renal Tubular Acidosis: dRTA)
感音性難聴(Sensorineural Hearing Loss: SNHL)

を合併するもので、一般には次のように呼ばれます

  • ATP6V1B1関連 遠位型腎性尿細管性アシドーシスと難聴
  • dRTAタイプ1またはタイプ2
  • 難聴を伴う腎性尿細管性アシドーシス

概要 | Overview

この病気は、腎臓の尿細管が酸を尿に適切に排出できないため、体液が酸性に傾いてしまう慢性的な代謝性アシドーシスを引き起こします。加えて、内耳のpH環境が保てなくなることにより感音性難聴が生じることが特徴です。

症状は乳児期または小児期に始まることが多く、放置すると成長障害、骨の異常、腎結石、慢性腎疾患(CKD)などを引き起こす可能性があります。

疫学 | Epidemiology

非常にまれな遺伝性疾患です。

  • 発症頻度(推定):約60万人に1人
  • 保因者の割合:約1万5千人に1人

特定の地域では、親族間の結婚などにより頻度が高くなることがあります。世界中で報告があり、特に小児期に診断されるケースが多く見られます。

病因 | Etiology

この疾患の主な原因は、ATP6V1B1遺伝子の両方のコピーに変異があること(常染色体劣性遺伝)です。

ATP6V1B1は、腎臓のタイプA間在細胞で働くV-ATPaseポンプのB1サブユニットを作る遺伝子であり、このポンプは尿中への酸の分泌を担います。変異によりポンプが正常に機能しなくなると、尿が適切に酸性化されず、体に酸がたまってしまいます。

また、内耳においてもこのポンプは内リンパ液の酸性度を調整するため、同じ変異が聴力低下にもつながります。

症状 | Symptoms

主に以下のような症状が見られます

  • 成長障害(体重が増えない、身長が伸びない)
  • 嘔吐(おうと)、脱水、多尿
  • 低カリウム血症(血液中のカリウム不足)による筋力低下、まれに麻痺
  • 骨の異常
    • 子どもではくる病(骨のやわらかさ、O脚)
    • 成人では骨軟化症(骨の痛み、骨折しやすい)
  • 腎結石・腎石灰沈着(ネフロカルシノーシス)
  • 感音性難聴(両耳に起こりやすく、小児期から進行する)
    • 前庭水管拡大(enlarged vestibular aqueduct, EVA)が多くの患者に認められます

検査・診断 | Testing & Diagnosis

血液・尿検査

  • 代謝性アシドーシス(血液が酸性に)
  • 低カリウム血症
  • 尿pHが高め(尿が十分に酸性化できていない)
  • 高カルシウム尿、低クエン酸尿

機能検査

  • フロセミド+フルドロコルチゾン負荷試験(尿酸性化能力を評価)
  • アンモニウム塩負荷試験(現在はあまり使用されません)

画像検査

  • 腎臓:エコーやCTで腎結石・石灰化の有無を確認
  • 耳:CTやMRIで前庭水管拡大(EVA)を確認

聴力検査

  • オージオグラム(純音聴力検査)
  • 聴性脳幹反応(ABR)など

遺伝子検査

  • ATP6V1B1遺伝子や関連遺伝子(ATP6V0A4、SLC4A1など)の変異を調べる
  • 診断の確定、家族への遺伝カウンセリングに有用です

治療法と管理 | Treatment & Management

治療の目的

  • 体内の酸塩基バランスを整える
  • 骨や成長の問題を予防
  • 腎機能を守る
  • 聴力や発達の支援を行う

主な治療

  • クエン酸カリウム(低カリウム血症がある場合に第一選択)
  • 重炭酸ナトリウム(必要に応じて併用)

用量の目安

  • 乳児・小児:1.9〜3.0 mEq/kg/日
  • 成人:1〜2 mEq/kg/日

その他の対策

  • 水分をしっかりとる
  • 補聴器や人工内耳、言語療法による聴力・発達の支援
  • 定期的な検査(血液、尿、画像検査、成長・聴力のフォロー)

予後 | Prognosis

  • 早期に診断し、適切に治療すれば良好な成長と骨の健康が見込めます
  • 治療を怠ると、慢性腎疾患(CKD)へ進行することがあり、
    • 25〜40%の患者さんが将来的にCKDステージIII〜IVに達する可能性があります
  • 難聴は進行性かつ不可逆的であり、早期の介入がとても大切です
  • 服薬や治療の継続が予後に大きな影響を与えます

引用文献|References

キーワード|Keywords

ATP6V1B1, ATPase H+ transporting V1 subunit B1, 腎性尿細管性アシドーシス, 遠位型RTA, 感音性難聴, 前庭水管拡大, 代謝性アシドーシス, 低カリウム血症, ネフロカルシノーシス, 腎結石, 骨軟化症, くる病, ATP6V0A4, SLC4A1, FOXI1, WDR72, AE1, タイプA間在細胞, V-ATPase, アルカリ療法, 成長障害, 多尿, 低クエン酸尿, 高カルシウム尿, 重炭酸再吸収, 尿酸性化, 内リンパ, 難聴, 内耳, 酸塩基平衡, 慢性腎疾患, アンモニウム塩負荷試験, フロセミド/フルドロコルチゾン試験, 遺伝子検査

関連記事

  1. NEW
  2. NEW
  3. NEW
  4. NEW
  5. NEW
  6. NEW

人気の記事

  1. 妊娠超初期症状はいつからはじまる?~受精から着床まで~ 受精 精子 画像
  2. 妊娠かな?と思ったら確認すべきこと
  3. 妊娠期間とは?週数と出産予定日の正しい計算方法 妊娠検査薬 写真