出生前診断と医療費控除の関係 対象となる条件と申請方法

医療費

妊娠中の安心を得るために選択されることの多い「新型出生前診断NIPT)」ですが、その検査費用は自由診療扱いのため、決して安価とはいえません。そのため、少しでも家計の負担を軽減する手段として「医療費控除」が適用できるかどうかを知ることは非常に重要です。

本記事では、NIPTにおける医療費控除の対象条件や、控除を受けるための具体的な申請方法について、専門的かつ実用的な観点から解説します。あわせて、参考となる法的根拠や国税庁の指針、判例等のエビデンスも紹介します。

NIPTとは?医療費控除との関係性を知る前に

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing)は、胎児の染色体異常の有無を母体から採取した血液検査のみで調べる先進的なスクリーニング検査です。対象となる染色体異常には、ダウン症候群(21トリソミー)や18トリソミー13トリソミーなどが含まれます。

このNIPTは、保険適用外の「自由診療」で提供されることが多く、費用相場は約10万円~20万円前後と高額です。こうした費用に対して医療費控除を利用できるかどうかは、多くの妊婦やその家族にとって大きな関心事となっています。

医療費控除の基本条件とNIPT適用の可否

医療費控除とは?

医療費控除とは、その年中に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税の一部が還付される制度です。対象となる金額は以下のように計算されます。

実際に支払った医療費の合計額 – 保険金等で補填される金額 – 10万円または所得の5%のいずれか少ない方

NIPTは医療費控除の対象になるのか?

結論から言うと、条件を満たせばNIPTも医療費控除の対象になります。

国税庁の公式見解では、「診断または治療を目的とした検査であれば医療費控除の対象となる」とされています(出典:国税庁|No.1122 医療費控除の対象となる医療費)。

NIPTは胎児の健康状態を確認し、必要な医学的対応を取るための検査であり、医師の判断や指導のもとで実施された場合には、医療費控除の対象となることが多いです。

NIPTの医療費控除に該当するケースと該当しないケース

控除の対象となる主なケース

  1. 医師が必要性を認めた検査
    • 出生前診断を必要とする医学的リスク(高齢妊娠や既往歴)がある場合。
    • 遺伝カウンセリングを含む医療機関で実施されたNIPT。
  2. 公的医療機関や認定施設で実施
    • 日本医学会認定の施設などで実施されるNIPT。
  3. 領収書が発行されていること
    • 明確に「診断目的」と記載された医療機関名の入った領収書。

控除の対象とならないケース

  • 美容目的や希望的選択による検査(医学的必要性が説明できない)。
  • 医師の関与がなく、個人の判断で受けた検査。
  • 海外で受けたNIPT(医療費控除は国内の医療機関に限定されることが多い)。

NIPT費用を医療費控除に申請する具体的方法

ここでは、実際にNIPTの費用を医療費控除として申請する際の手順を解説します。

1. 医療費の領収書を保存

  • 「NIPT検査代」「遺伝カウンセリング費用」「通院にかかる交通費(公共交通機関利用時)」なども含めて保存。
  • 領収書には医療機関名、検査項目、金額、支払日の記載があることを確認。

2. 医療費集計フォームに記入

  • 国税庁の「医療費集計フォーム(Excel)」に入力。
  • 医療費を支払った本人だけでなく、生計を一にする家族分もまとめて申告可能

3. e-Taxまたは確定申告書に添付して提出

  • e-Taxを利用する場合は、領収書の提出は不要(5年間の保存義務あり)。
  • 紙で申告する場合は、医療費明細書を添付し、領収書の提出が必要。

医療費控除の申請期間と注意点

  • 申告期間:医療費を支払った翌年の2月16日~3月15日まで。
  • 還付申告の場合は、5年間遡って申告可能。
  • 注意点:領収書の記載内容が曖昧な場合、NIPTが医療費控除の対象とみなされない可能性があるため、医療機関に相談して正確な記載を依頼するとよいでしょう。
注意

実際の適用例と専門家の意見

ある妊婦が高齢出産のために医師の紹介を受け、大学病院の遺伝診療部門でNIPTを受けたケースでは、明確に「医学的必要性」が認められたため、医療費控除が適用されました。国税庁の見解でも、こうした事例は「医師による診療の一環」として判断されやすい傾向があります。

また、公益社団法人日本産科婦人科学会も、医学的リスクに基づく出生前診断の意義を明確に述べており(参考:日本産科婦人科学会 倫理委員会報告書)、これらの背景は医療費控除申請時の根拠として活用可能です。

よくある質問(Q&A形式)

Q1:NIPTを個人の意思で受けた場合でも、医療費控除の対象になりますか?

A:原則として、医師の判断や紹介状なしに自主的に受けた場合は、対象外となる可能性が高いです。

医療費控除の判断基準として重要なのは「治療または診断目的の医療行為であるかどうか」です。自己判断で検査を受けた場合は、検査結果がどうであれ「治療の一環ではない」と判断される可能性があり、税務署から除外される場合があります。

Q2:交通費や宿泊費も医療費控除の対象になりますか?

A:公共交通機関を利用した通院にかかる交通費は対象になりますが、宿泊費は原則対象外です。

  • バス・電車・タクシーの料金は対象(自家用車のガソリン代や駐車料金は対象外)
  • 同伴者が必要と認められる場合、その同伴者の交通費も控除対象
  • ただし、遠方の施設で宿泊を伴う場合でも、宿泊費は医療費控除の対象外です(例外あり)

医師の診断書や紹介状の有無が判断基準に

医療費控除において、NIPTが医療行為として認められるためには、「医師の関与」が非常に重要な要素です。以下のような書類があれば、税務署に説明する際のエビデンスとなり、控除が認められる可能性が高まります。

有効な書類例

  • 医師の診断書(「NIPTが必要である」旨の記載があるもの)
  • 医療機関の紹介状や同意書
  • カウンセリング記録(検査目的やリスク説明が明記されているもの)
  • 医療機関が発行する明細書や請求書(検査の詳細と料金内訳)

医療費控除の申請ミスと否認されるパターン

実際に、申告者が意図せず医療費控除の対象外とされてしまうこともあります。ここでは、代表的な「否認されやすいミス」を紹介します。

よくある失敗例

  • 自由診療の検査=全て対象になると思い込んでいた
    → 美容外科や人間ドックなど、治療に直接関係しない検査は対象外です。
  • インターネット申込のNIPT検査
    → 医師の診察が伴わず、単なる業者との契約形式であった場合、医療費控除の対象とはならない可能性が高くなります。
  • 領収書に「NIPT」や「出生前診断」の記載がなかった
    → 検査の性質が曖昧だと、税務署で判断がつかず却下されることも。医療機関に明確な記載をお願いするのが重要です。

海外でのNIPTは医療費控除の対象になるのか?

海外でNIPTを受けた場合でも、一定の条件を満たせば医療費控除の対象となる可能性があります

対象となる条件

  • 渡航先が短期滞在であり、日本の医療制度では対応できない特別な事情がある場合
  • 医師の紹介状や診断書がある
  • 日本語訳付きの明細書・領収書があり、検査内容が明確である

ただし、税務署によって判断が分かれるケースが多く、事前に確認することを推奨します。

実際に申請する前にやっておくべきこと

1. 医療機関に相談しておく

NIPTの実施前に、医療機関へ「医療費控除の対象として申請予定である」旨を伝えておくと、領収書の記載が適切に準備されやすくなります。

2. 税務署に事前相談

不明点がある場合は、最寄りの税務署の「所得税相談窓口」にて、個別に相談するのが最も確実です。オンライン相談も可能です。

医療費控除とNIPTをめぐる社会的背景

NIPTが国内で導入された当初は「富裕層向けの検査」というイメージが先行し、自由診療であることが批判の対象になることもありました。しかし、近年は社会的ニーズの高まりを受けて検査の対象者も拡大傾向にあり、「経済的支援」の一つとして医療費控除を活用することが妥当な判断とされつつあります

特に、高齢妊娠や遺伝的リスクを抱える家庭では、NIPTは医学的な必要性が高く、経済的な負担の軽減は今後ますます重要な課題となるでしょう。

正しい「申請方法」を理解し、制度を有効活用しよう

NIPTは、検査費用が高額であるにも関わらず、公的保険の対象外となっていることから、経済的負担が大きいという現実があります。しかしながら、「医師の判断に基づく診断目的の検査」であれば、医療費控除を活用することが可能です。

NIPT 申請方法」を正しく理解し、事前に必要な書類や証明を揃えておくことで、確定申告時にスムーズに控除を受けることができます。領収書の管理、医師の証明、明細書の記録など、一つひとつの準備が申請成功への鍵です。

妊娠中の家計への配慮と、生まれてくる命への備え。その両立を図るために、医療費控除制度を最大限に活用していきましょう。

参考文献・リンク

  • 国税庁|No.1122 医療費控除の対象となる医療費
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
  • 日本産科婦人科学会 倫理委員会報告書
    https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/ethical_report.pdf
  • 厚生労働省 NIPTガイドライン(母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する指針)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000174007.html

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