NIPTでわかる染色体異常の種類

医者

はじめに

妊娠中の出生前診断として注目されているNIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、母体の血液から胎児のDNAを解析することで、さまざまな染色体異常を早期に確認できる画期的な検査方法です。従来の侵襲的検査である羊水検査絨毛検査に比べ、母体や胎児へのリスクが低く、精度も高いことから、多くの妊婦が選択するようになっています。

本記事では、NIPTで検出可能な染色体異常の種類、検査の仕組み、精度や限界、検査の選択における注意点などを詳しく解説します。

1. NIPTとは

NIPTは妊婦の血液中に微量に存在する**胎児由来の遊離DNA(cfDNA)**を解析することで、胎児の染色体数異常を推定する検査です。
母体血液中の胎児DNAは妊娠初期から検出可能であり、妊娠10週以降に検査するのが一般的です。侵襲的検査に比べて流産のリスクがほぼない点が大きな特徴です。

NIPTの検査方法

  1. 母体から血液を採取
  2. cfDNAの抽出
  3. 次世代シーケンス(NGS)などによる染色体解析
  4. 染色体数異常の有無を評価

2. NIPTでわかる染色体異常の種類

NIPTは主に胎児の数的染色体異常(トリソミーやモノソミー)を検出します。ここでは代表的な異常を紹介します。

2-1. 21トリソミー(ダウン症候群)

21トリソミーは最も頻度の高い染色体異常で、21番染色体が1本余分に存在することで発症します。
特徴的な身体的症状としては、低身長、平坦な顔貌、眼裂の異常、知的障害などがあります。
NIPTでは感度99%以上、特異度99%以上と非常に高精度で検出可能です。

参考文献: Bianchi DW et al., N Engl J Med, 2014;370:799-808. Link

2-2. 18トリソミー(エドワーズ症候群)

18トリソミーは18番染色体が1本多いことにより発症します。重篤な心奇形や腎奇形、発達遅滞などが生じることが多く、出生後の生存期間が短い場合が多いです。
NIPTによる検出精度も高く、感度約97〜99%、特異度約99%と報告されています。

参考文献: Palomaki GE et al., Genet Med, 2012;14:296-305.

2-3. 13トリソミー(パトウ症候群)

13トリソミーは13番染色体が1本多くなることで発症します。多くの先天異常を伴い、生存期間が短いことが特徴です。
NIPTでの検出精度も高く、感度は約90〜95%、特異度は99%程度とされています。

2-4. 性染色体異常

性染色体(X・Y染色体)の異常もNIPTで検出可能です。主な疾患には以下があります。

  • ターナー症候群(45,X):女性でX染色体が1本欠損。身長低下、卵巣機能不全などを呈します。
  • クラインフェルター症候群(47,XXY):男性でX染色体が1本多い。高身長、精子形成不全、学習障害のリスクがあります。
  • トリプルX症候群(47,XXX):女性でX染色体が1本多い。軽度の知的障害や生殖機能異常の可能性があります。
  • ジャコブ症候群(47,XYY):男性でY染色体が1本多い。身体的異常は軽度で、知能への影響は軽微とされています。

参考文献: Norton ME et al., N Engl J Med, 2015;372:1589-1597.

3. NIPTで検出可能な微細染色体異常

近年の技術進歩により、従来のトリソミーやモノソミーだけでなく、微細欠失・重複(マイクロデレットやマイクロデュプリケーション)も一部検出可能となっています。
例えば、22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)は心奇形や免疫異常、知的障害を伴う染色体微細欠失症で、NIPTでの検出が試みられています。

参考文献: Liang D et al., Prenat Diagn, 2018;38:789-797.

ただし、微細異常の検出は感度が低く、偽陽性のリスクが高いため、陽性結果が出た場合は羊水検査絨毛検査での確定診断が推奨されます。

4. NIPTの精度と限界

4-1. 精度

参考文献: Gil MM et al., Ultrasound Obstet Gynecol, 2015;45:530-539.

4-2. 限界

  1. 偽陽性・偽陰性
    cfDNAは母体由来も混在するため、母体の染色体異常や腫瘍による影響で結果が誤ることがあります。
  2. 微細染色体異常の検出限界
    5〜10Mb以下の微細欠失・重複は検出困難です。
  3. 確定診断には不可
    NIPTはスクリーニング検査であり、陽性結果が出た場合は羊水検査などでの確定診断が必要です。

5. NIPTを受けるタイミングと流れ

  1. 妊娠10週以降に妊婦健診で医師に相談
  2. 血液採取
  3. 検査機関に送付
  4. 結果報告(通常1〜2週間)
  5. 陽性の場合は医師と相談し、確定診断を検討
妊婦

6. 検査選択時の注意点

  • NIPTは高精度ですが、確定診断ではないことを理解する
  • 染色体異常や微細染色体異常は検出精度が低め
  • 検査対象となる染色体異常は施設や検査会社によって異なる
  • 結果により心理的影響が大きいため、遺伝カウンセリングを受けることが望ましい

7. ここまでのまとめ

NIPTは妊婦にとって母体や胎児のリスクが低く、21トリソミー、18トリソミー13トリソミーなどの主要な染色体異常を高精度で検出できる画期的な出生前診断です。近年は微細染色体異常の検出も可能となり、より幅広い異常をスクリーニングできるようになっています。

ただし、確定診断ではなくスクリーニング検査である点、微細異常や性染色体異常の精度には限界がある点を理解した上で検査を受けることが重要です。NIPTは医師や遺伝カウンセラーと相談しながら適切に活用することで、出生前診療の選択肢を広げ、安心した妊娠管理に寄与します。

8. NIPTの最新技術と多様化する検査範囲

近年の技術進歩により、NIPTは従来の主要なトリソミー検出に加え、以下のような幅広い異常も対象となりつつあります。

8-1. マイクロアレイ解析との併用

マイクロアレイ技術を応用することで、従来のNIPTでは検出困難だった微細欠失・重複(マイクロデレット/デュプリケーション)も一部検出可能です。
例:

ただし、これらは感度・特異度が低めで、陽性結果が出た場合は必ず羊水検査などで確定診断を行う必要があります。

8-2. 性染色体異常の精度向上

以前はX・Y染色体の数的異常検出精度が低めでしたが、最新のNGS技術を用いた解析により、ターナー症候群やクラインフェルター症候群の検出精度が向上しています。
それでも偽陽性リスクがあるため、性染色体異常陽性例ではカウンセリングと確定診断が必須です。

9. NIPTの統計と受検状況

  • 日本では2013年以降、NIPT導入施設が増加し、年間約10万件以上の妊婦が検査を受けています。
  • 高齢妊婦(35歳以上)での受検が中心ですが、近年は全年齢層での利用が拡大しています。
  • ダウン症リスクの陽性的中率(PPV:Positive Predictive Value)は、母体年齢や妊娠週数により変動します。
    • 35歳以上では約90%
    • 30歳前後では約60〜70%

参考文献: Akolekar R et al., Ultrasound Obstet Gynecol, 2015;45:530-539.

10. NIPTを受ける際の倫理的配慮

NIPTは高度な情報をもたらす一方で、心理的・倫理的配慮が重要です。

  • 陽性結果は胎児異常の可能性を示すもので、確定診断ではない
  • 出生前に得た情報が妊婦や家族に心理的負担を与える場合がある
  • 染色体異常の種類によっては軽度な障害で終わる場合もある
  • 染色体異常の情報は妊娠中の選択に影響する可能性がある

そのため、検査前後には遺伝カウンセリングの受診が推奨されます。カウンセリングでは、検査の限界や結果の解釈、今後の医療選択について十分な説明を受けることができます。

11. NIPTの費用と保険適用

  • 日本でのNIPT費用は15万円前後〜20万円前後が一般的です。
  • 現在、NIPTは原則として保険適用外であり、自費診療となります。
  • 高齢妊婦や染色体異常リスクが高い妊婦の場合でも、基本的に自費検査です。

注意:費用だけでなく、検査後の遺伝カウンセリングや確定診断費用も考慮する必要があります。

12. NIPTの検査選択のポイント

  1. 目的を明確にする
    • 主要なトリソミーのみ検出したい場合と、微細染色体異常まで知りたい場合で検査方法が異なる。
  2. 検査の精度を理解する
    • 21トリソミーは高精度、性染色体異常や微細欠失は精度が低い。
  3. カウンセリングを受ける
    • 検査前後の心理的負担や今後の医療選択に備える。
  4. 確定診断の準備

13. まとめ

NIPTは、母体や胎児にリスクをほとんど伴わず、主要な染色体異常を高精度でスクリーニングできる画期的な検査です。近年は性染色体異常や微細染色体異常も一部検出可能となり、出生前診断の選択肢が広がっています。

しかし、NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、陽性結果は確定診断ではありません。検査前後には遺伝カウンセリングを受け、検査の限界や今後の選択肢を十分に理解することが重要です。

正確な情報を基に検査を受けることで、妊娠管理や出生前診療の判断を安心して行うことができます。

参考文献

  1. Bianchi DW et al., N Engl J Med, 2014;370:799-808. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1311730
  2. Palomaki GE et al., Genet Med, 2012;14:296-305. https://www.nature.com/articles/gim2011185
  3. Norton ME et al., N Engl J Med, 2015;372:1589-1597. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1407349
  4. Gil MM et al., Ultrasound Obstet Gynecol, 2015;45:530-539. https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/uog.14803
  5. Liang D et al., Prenat Diagn, 2018;38:789-797. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pd.5326
  6. Akolekar R et al., Ultrasound Obstet Gynecol, 2015;45:530-539. https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/uog.14803
  7. Liang D et al., Prenat Diagn, 2018;38:789-797. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pd.5326
  8. Norton ME et al., N Engl J Med, 2015;372:1589-1597. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1407349

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